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北アルプス縦走(親不知〜後立山〜槍ヶ岳〜焼岳)

2005年8月7日〜19日(12泊13日)
神谷(記)
報告内の★マークは、写真へのリンクです。
写真のみの場合はこちら(縦走編花編)から


<行動概要>
8月7日 親不知〜尻高山手前(テントサイト以下TS)
8日 TS〜栂海山荘先(TS)
9日 TS〜朝日岳〜雪倉岳避難小屋
10日 小屋〜白馬岳〜天狗山荘(TS)
11日 TS〜不帰ノ嶮〜唐松岳〜五竜岳〜キレット小屋
12日 小屋〜八峰キレット〜鹿島槍ヶ岳〜爺ヶ岳〜針ノ木小屋(TS)
13日 TS〜七倉岳〜船窪テント場(TS)
14日 TS〜烏帽子岳〜烏帽子小屋(TS)
15日 TS〜野口五郎岳〜水晶岳〜鷲羽岳〜三俣山荘(TS)
16日 TS〜三俣蓮華岳〜双六岳〜槍岳山荘(TS)
17日 TS〜南岳〜大キレット〜北穂高岳〜穂高岳山荘(TS)
18日 TS〜奥穂高岳〜ジャンダルム〜西穂山荘(TS)
19日 TS〜焼岳〜中ノ湯


8月7日(日) 曇り夕方一時雨
<浄化>
鈍行にて親不知駅に降り立つ。何もない駅。背中のザックが重くのしかかる。
早速歩き出すが、駅から登山口までがいきなりの核心部。大型車が猛烈な勢いで走り抜けるトンネルで、歩道はほとんどない。重いザックでフラフラしているので、恐ろしいこと、このうえない。
登山口にザックを置き、いったん海岸に下る。ふと思いつき、小石を拾う。こいつに山を見せてやろう。
歩き出しからずっと急登が続く。暑い。汗が滝のように流れる。肩に掛けたタオルから絞れるほどの汗が滴るのもあっという間だ。
汗を流し、水を飲む。
これは、街で穢れた身体から悪いものを絞り出し、体内から山向きの身体へと浄化している過程なのだ、と思うことにする。
坂田峠を目指したが、途中で力尽き、尻高山手前の林道でテントを張る。林道付近の沢で水が取れたのがありがたい。
夕方、一時雨。南の方で、雷鳴が聞こえる。
<★日本海>

13:25 親不知駅
14:15-14:45 登山口
17:00 テントサイト


8月8日(月) 曇り
<邂逅>

坂田峠を越え、細くて汚い水場を通過。これがシキ割の水場か、と思ったが、そのすぐ先にきれいで水量豊富な水場が見えた。こちらが本当のシキ割のようだ。
白鳥小屋で少し休み、下りだしたところで、ワンゲルの同期と再会。彼は今、山岳ガイドの仕事をしており、お客さんを連れて歩いていた。向こうは仕事中なので、ゆっくり話もできずすれ違ったが、思わぬ場所での邂逅にお互い驚いた。
白鳥小屋の水場は、登山道から少し下ったところにあるようだ。シキ割で汲んだ水がまだ充分残っていたので、水場は確認することなく、先を急ぐ。
黄蓮の水場は、水量豊富。このあたり、ブナ林になっており、居心地が良く、柔らかい雰囲気の場所。
栂海山荘も通過。犬ヶ岳を越えたところで、ようやく稜線歩きらしくなってきた。ここまではひたすら登りで、標高も低く、暑くて苦しかったが、犬ヶ岳以降は、アップダウンもそれほどなくなり、風もさわやかで、気持ちよく歩けた。
<★ブナ林>

4:15 テントサイト発
7:30 白鳥小屋(20℃)
11:30 栂海山荘(21℃)
14:20 テントサイト着(21℃)


8月9日(火) 曇り 夜雨
<静寂>

黒岩山から長栂山は、素晴らしい場所。お花畑あり、池塘あり、湿原あり。なにより静かなのがよい。朝早い時間だったこともあり、誰もいない。心が洗われるような静寂に包まれた場所だった。
朝日岳に立ち、初めて先が見える場所に出た。白馬岳、剱岳も見える。
しかし、雪倉岳に着く頃には、ガスに包まれてしまった。天気予報では、明日から雨模様と言っている。
予報通り、夜中から激しい風雨。
<★アヤメ平>

4:15 テントサイト発
8:45 朝日岳(24℃)
12:45 雪倉岳(24℃)
13:30 雪倉岳避難小屋(27℃)


8月10日(水) 暴風雨・雷
<雷雲>
朝になっても風雨は治まらない。小屋から出ることができず、しばらく様子を見る。東北付近に前線が停滞しており、新潟は大雨になっているとのこと。
少し弱まってきたのを見計らって、出発。三国境までは、なんとか歩けた。
が、そこからが大変だった。
雷。
雨と風だけならともかく、雷はどうにもならない。はじめは遠くの方で聞こえていたのだが、雷雲は明らかに近づいてきている。馬ノ背を通過したあたりで、これ以上は動けなくなった。白馬岳頂上付近に行ったら、逃げる場所は全くないだろう。
その場でしゃがみ込み、雷が去るのを待つ。
岩稜帯の岩陰だったので、本当に落ちたら、側撃を食らう危険はある。しかし、もうここまで来たら、動きようがない。ザックを下に敷いて、テントのフライを頭からかぶって、ひたすら待機。
その間にも、白馬岳を越えてきたパーティがいくつも降りてきた。普通に歩いていたりして、見ているだけで怖い。
幸い、雷は真上までは来たようだが、そのまま過ぎ去ってくれた。
30分ほど待機の後、隙を見て、白馬岳を駆け抜ける。文字通り、身をかがめて走って通過。白馬山荘に逃げ込む。
逃げ込んだ途端、また雨風雷が強まった。しかし、小屋にいればとりあえず安心。小屋で話を聞くと、あと1-2時間でこの雷雲は通り過ぎるらしい。しばらく、小屋で休む。
10時になって、雨と雷が治まったので、出発。しかし、風はまだ強い。ルートはずっと稜線なので、まともに風を受ける。何度も吹き飛ばされそうになった。天狗山荘の自炊室に入ってようやくひと息つけた。
自炊室には、この天気の中、不帰ノ嶮を越え、さらに白馬まで行こうという20人ほどの中高年パーティがいた。なんだかもう信じられません。パーティのなかに止める人はいないのか。
強風の中、強引にテントを張る。案の定ポールにひびが入ってしまった。
<★この日は写真撮る余裕なし>

5:30 小屋発
7:55 白馬岳(12℃)
8:05-10:00 白馬山荘
12:15 天狗山荘(13℃)


8月11日(木) 曇りときどき晴れ 夕方雨
<帰還>
不帰ノ嶮は、多少怖いところもあるが、あっけなく通過。とくに、今日はガスっていて下が見えないので、よけいに恐怖を感じない。
唐松岳を越え、五竜山荘へ急ぐ。
山荘では、懐かしい顔に会えるか、と期待していたのだが、去年のバイトは誰もいない。支配人も下山中、ということで、知っている人は誰もいなかった。仕方がないので、差し入れの酒だけ置いていく。
気を取り直して、五竜岳からキレット小屋に向かう。
五竜頂上は全くガスの中。何も見えない。去年の夏、何度となく通ったこの稜線を歩き、キレット小屋到着。到着、というより、「帰ってきた」という印象が強い。
小屋には、去年のメンバーがほとんどそのままいた。懐かしく、ほっとした気分になる。
小屋の食事をごちそうになった。テント泊、貧相な食事から解放され、心身共にリフレッシュし、この先の行程への意欲が再びわいてきた。
ここで、白馬大雪渓崩落の事故の話を聞く。私が白馬岳を通過した翌日のこと。雷での被害はなかったらしいが、雪渓が崩落するとは。
<★キレット小屋への道>

4:25 天狗山荘発
7:20 唐松岳(11℃)
9:20 五竜山荘(17℃)
13:20 キレット小屋(22℃)


8月12日(金) 朝雨、のち曇り 夕方雨
<快調>
朝起きると大雨。出鼻をくじかれる。しばらく様子を見て、雨が弱まった頃に出発。
雨だったこともあるし、勝手知ったる稜線だったので、鹿島槍ヶ岳、冷池山荘は、ほとんど立ち止まることもなく通過。爺ヶ岳に着く頃には、雨も上がり、展望も広がってきたので、少し休憩。
キレット小屋で充分休息が取れたこともあり、快調に進む。種池を越え、12時には新越も通過。さすがに最後はバテたが、針ノ木まで。
<★新越山荘の先で猿>

6:30 キレット小屋発
7:40 鹿島槍ヶ岳南峰(16℃)
8:50 冷池山荘(17℃)
9:50 爺ヶ岳(14℃)
10:15 種池山荘(15℃)
12:00 新越山荘(17℃)
15:00 針ノ木小屋


8月13日(土) 雨のち曇り 夕方雨
<群生>
またしても朝から雨。夜いったん止んだように感じたが、朝になると雨だった。様子を見ていても変化がないので、出発する。
蓮華岳の登りは、コマクサだらけ。コマクサ畑か、と思えるほど。これほどの量のコマクサ群生を見るのは初めて。去年は、この時期にはもうすっかりコマクサは終わっていたのに、今年は今が盛り。そういえば、途中で会ったカメラマンも、今年の花は例年になく豊作だと言っていた。いつもはもっと時期がばらけて咲くはずの花が、みんな一気に咲いている。こんなのは珍しい、とのこと。
確かに、道々歩いていても、花の多さには驚かされた。天気が悪く、展望は望めなかったが、これだけ豊富な花を見られれば、それだけでも充分満足できる。
昼頃、天気が回復し始め、陽が差してきたので、テント場で物を乾かしつつ、のんびり読書などを楽しむ。
船窪の水場は遠くて危険。ガレ場をはしごで下りたところにある。水量は豊富なのだが、あまり何度も行きたくない場所だった。
夕方になり、また雨。
<★コマクサ群生(これは不動岳付近)>

6:00 針ノ木小屋発
11:00 七倉岳(18℃)
11:20 船窪テント場(20℃)


8月14日(日) 雨のち曇り 午後雨
<愕然>
今日は、野口五郎小屋までのロングコースを考えていた。予報によると午後から雨、ということもあり、早めに出発した。星空の下、ヘッドランプで行動開始。しかし、すぐに雲が増え、不動岳では雨。一時激しく降る。
不動岳付近は、崩壊が激しい。一度つけられた踏み跡がくずれて、別の場所に道が造り直されたりしている。こういうのを見ると、人間の罪深さを感じてしまう。人が歩くから草花は踏みつけられ、木々が切られて道ができる。そこが崩れれば、また新たな道を造る。そのうちまたそこも崩れて……。
ほとんど人が入らないような、静かでいい雰囲気の縦走路だったのだが、そんなことを考えながら歩いていていた。もちろん、そこを歩いている自分自身も加害者の一人であるわけだ。
四十八池は、栂海新道の長栂山付近に続いて、また素晴らしい場所だった。思いもかけぬ場所で出会う湿原には、圧倒され感動する。そこまで曇っていた天気が、ちょうどここに来たときに晴れてくれたのも運がいい。目の前に広がる草原、点在する池塘、二重山稜。ここまでの山の雰囲気と全く違っていることもあって、その開放感に心奪われる。
烏帽子岳を往復し、10時30分には烏帽子小屋到着。さて、ここから野口五郎小屋まであとひとがんばり、と思っていたのだが、「平成16年より野口五郎小屋はキャンプ禁止になりました」との看板が。
えーーーー。
自分の持っていた地図(エアリアマップ)は、去年買った物。野口五郎小屋には、キャンプ指定地マークが付いている。10年前の地図ならいず知らず、去年の物で、こんなことになるとは……。話を聞くと、野口五郎小屋のキャンプ地は、風が強く、石も飛んできて危険なので、禁止になったとか。
小屋泊まりする気は毛頭なく、そうなると、次のキャンプ地は、三俣山荘になる。コースタイムで約9時間。今から向かうのはさすがに無理だ。
愕然としたが、やむなく、今日はここで泊まることにした。天気もいいので、休養日、として割り切るか。
<★四十八池>

3:50 船窪テント場発
7:25 不動岳(15℃)
9:45 烏帽子岳(21℃)
10:25 烏帽子小屋(22℃)


8月15日(月) 雨
<希望>
予報では、今日の午後から雨とのことだったが、夜中から降り出していた。待っていても止むことは期待できないので、さっさと出発。
風強く、雨激しい。野口五郎小屋到着。小屋の前でも風が強く、ゆっくり休んでいられない。寒くて手がかじかんで、行動食の飴の袋も開けられない。
野口五郎岳手前で、猛烈な風になり、その場にうずくまって動けなくなる。風の様子を見ながら、少しずつ進んでは止まり、を繰り返す。
水晶小屋から水晶岳を空身でピストン。寒いし、ガスっているし、すぐ降りて、そのまま、鷲羽岳へ。
こんな天気でもすれ違うパーティは多い。中高年パーティとか、小さい子ども連れとか、目の焦点があっておらず、フラフラしているような人も混じっている。大丈夫かな。
鷲羽岳頂上もホワイトアウト。何もないので、そのまま通過。
水晶岳も鷲羽岳も百名山であるのだが、こんな天気のなか登ったのでは、なにが素晴らしいのか、全然分からない。雨の山が一概につまらない、とは思わないが、この状況では、どちらのピークもただの通過点でしかない。晴れていた朝日岳の方がよほど心に残るピークだったとも思える。
ずぶ濡れのままテントを立て、今回の縦走では最初で最後となる空焚きをして、衣服を乾かす。
午後になり、雨は止んだ。テントの中でのんびりしていると、「槍が見える」という声が外から聞こえてきた。
慌てて飛び出す。
確かに見えた。雲の切れ間から見える、今回初めての槍だ。随分遠くに感じるが、明日はあそこまで行く予定。濡れそぼった身体に、また新たな意欲と希望がわいてきた。
<★テントと槍>

3:55 烏帽子小屋発
6:05 野口五郎小屋(9℃)
8:15 水晶小屋(11℃)
8:45 水晶岳(10℃)
10:10 鷲羽岳(12℃)
10:55 三俣山荘(14℃)

8月16日(火) 曇りときどき晴れ
<絶景>
起きると星空。それ行け、という感じで急いで準備して出発。暗いうちから動き始めるパーティもいくつかあった。
三俣蓮華岳頂上で日の出を、と思っていたが、頂上に着くとガス。何も見えない。5時まで待つが、雲が多すぎるので、あきらめて双六方面へ向かう。
と、その途中−−。
陽が昇るのが見えた。今回初めての御来光だ。ガスが切れ、雲のあいだから美しい太陽が!

そして。
槍ヶ岳が見えた。草原の向こうにすっくと立っている槍。その光景はあまりにも美しく、言葉にならない。全身の力が抜けてしゃがみ込んでしまう。このときの感じをどう表現すればよいのだろうか。
その場の空気、温度、風、におい、音。
ここまでの10日分の疲労感。連日の雨。
それらすべてがひとつになり、この言葉にできない感情が、自分の中にあふれ出している。
なんでもない場所が、特別な場所になる、その瞬間だった。

いつまでもここにいて、この絶景を見ていたい、と思ったが、無情にも再び視界はガスに包まれた。今日は一日このままか、と思っていた。
しかし、その後、再び雲は切れた。西鎌尾根の先に、突如姿を現す巨大な槍ヶ岳。圧倒的な迫力。ここに来て、初めて「夏山縦走の醍醐味」を感じることができた。
槍に近づくにつれ、再びガスがあたりを覆う。山荘に着き、穂先に立つが、視界はない。しばらく待ってみても変わらない。
一旦、降りて、テントを張る。
小屋で様子を見ていると、少しずつ穂先が見えてきた。いてもたってもいられず、駆け上がるように頂上へ向かう。
しかし、登ってみるとやっぱりガス。
辛抱強く20分ほど待っていると、徐々に視界が広がってきた。まずは表銀座方面。そして、穂高方面。さらに北鎌尾根が見え、歩いてきた西鎌尾根も見え始めた。360度パノラマとは言えないが、少しずつガスが切れていく様子にわくわくさせられた。
<★夏山!>

4:05 三俣山荘発
4:40-5:00 三俣蓮華岳(12℃)
6:00 双六岳(11℃)
10:05 槍岳山荘(14℃)


8月17日(水) 晴れのち曇り 午後雨
<爽快>
槍穂先で御来光、というのは、同じことを考える人が多そうだったので、取りやめ。早々にテント場を後にする。
誰もいない大喰岳で日の出を待つ。雲間からの日の出であったが、美しく感動的。槍岳山荘の夜景もきれいだった。予想通り、穂先には大勢の人たちの姿が見える。
南岳小屋で大キレットに向けての準備をする。以前、逆ルートで歩いたとき、飛騨泣きがとても怖かった印象がある。多少の不安も心に抱きつつ、第一歩を踏み出す。
一気に下ってA沢のコル。水を少し飲んで、登り返し。
この登りがとても楽しかった。
ぐいぐい高度を上げて、どんどん登っていける!
高度感抜群で、楽しくて仕方がない。
クライミングだと、ロープスケールの50m以上は一気には進めないし、ランニングビレイも考えなければならない。でも、ここでは、そんなことお構いなし。とにかくぐんぐん登るだけ。振り向けば、A沢のコルがどんどん小さくなる。吹き抜ける風が爽快。
岩登りの根源的な楽しさをあらためて認識する。いつまでもいつまでも登り続けたかったのだが、あっけなく、登りは終わってしまった。
飛騨泣きのトラバースも「えっこれだけ」という感じだった。以前来たときは、秋の終わりで、岩もクサリも凍り付いていて、一歩滑ったら終わり、と思ったのだが、今見ると、人工足場もあって、全然怖くない。
北穂高小屋でしばらく足止め。話を聞くと、クライマーの事故があり、今ちょうどヘリを呼んでいるところなので、(ヘリポートになっている)北穂の頂上は現在立ち入り禁止なのだとか。
しかし、雲が多くて、ヘリはなかなか近づけない。すぐそこまで来ているのに、行ったり来たりを繰り返している。結局、燃料切れになって、一旦仕切り直し、ということでヘリは戻っていった。その隙をぬって、北穂の頂上を通り抜ける。
北穂付近には登山者が多かったが、奥穂方面の縦走路に入ると、ほとんどいなくなった。よほど、大キレットの方が、人が多かったくらいだ。
13時頃から小雨が降り出し、その後、本格的に雨になった。晴れていれば、奥穂の往復をしようと思ったが、おとなしく、テントで寝ていた。
<★大キレットでブロッケン>

4:05 槍岳山荘発
4:25-5:20 大喰岳(14℃)
6:30 南岳小屋(20℃)
8:25 北穂高小屋(20℃)
10:40 穂高岳山荘(21℃)


8月18日(木) 晴れのち曇り 午後雨
<虹晴>
今日も朝は天気がいい。ヘッドランプを付けて奥穂頂上を目指す。
背負う荷物が随分軽くなった。荷物の軽さが、ここまで歩いてきた日々の長さを思い起こさせる。
まだ誰もいない静かなピークで30分以上待って日の出を見る。眼下の涸沢辺りには低いガスがかかっているが、それ以外は360度の大展望。槍〜双六方面も見える。日本海まで見えれば最高だが、そこまでは無理か。
日の出の頃には、多くの人が登ってきていた。しかし、西穂方面に向かうのは自分一人のようだ。まずはジャンダルムを目指す。
馬の背の部分は、昨日の雨で濡れていて怖かった。ジャンダルムの頂上に立つと、穂高岳山荘で「あんな所に人がいるよ」と行っている声がここまで聞こえてきた。手を振っているので、こちらも振り返す。
天狗岳からの下りがまた怖い。さっき降ったにわか雨で濡れていて、ホールドも乏しく、足場はつるつる。クサリをゴボウでつかんで降りる。クサリがなかったら、懸垂下降をしたくなるくらいに感じた。
間ノ岳で虹が出た。
もう、とんでもなくきれいで、ずっと見とれていた。
はっきりくっきり七色が現われ、外側に二重の虹も見えていた。
よく見ると、虹の右端は笠ヶ岳の手前に落ちている。
「虹は山の向こうにできるもの」というイメージがあったので、山の手前から、まるで「生えて」いるかのように見える虹は、とても新鮮で不思議で面白い。
その虹の隙間を荷揚げヘリが飛んでいった。虹をすり抜けていくヘリは、幻想的ですらあった。
奥穂〜西穂は、大キレットよりずっと難しく感じた。荷物が重かったり、雨が降っていたらとても歩けないだろうと思える。クサリがなかったら、ほとんどクライミングの世界だろう。
西穂から独標まではまだ岩の世界だったが、そこからは別世界になった。登ってくる人から下界のにおいがぷんぷんする。携帯メールしながら、とか、ヘッドホンで音楽聴きながら、とか、ちょっとしたハイキング感覚で歩いている人がいる。上高地よりはましか、と思いながら、自分の場違いさを思う。
一番ショックだったのは、西穂山荘で水をもらうとき、「宿泊ですか、日帰りですか」と聞かれたこと。これまでは、「宿泊か、通過か」だったのだが、「日帰り」という言葉が妙に新鮮に響いた。
今日も昼過ぎから雨。
<★虹をすり抜けるヘリ>

4:05 穂高岳山荘発
4:30-5:25 奥穂高岳(14℃)
6:10 ジャンダルム(13℃)
8:35 西穂高岳(20℃)
10:15 西穂山荘(20℃)


8月19日(金) 晴れのち曇り
<生命>
雨は夜のうちに止んだが、まだ雲は多い。笹ヤブが濃いので、上下とも雨具を来て歩き出す。
焼岳小屋を通過する。小屋はひっそりと静まりかえっていた。
展望台から見える焼岳頂上は雲の中だった。なんか煙っぽいものが出てるな、と思ったら、火山性の蒸気であることに気づいた。焼岳が活火山で、噴煙が上がっているのは知っていたが、実際、こんな間近で蒸気が上がっているとは思わなかった。しかも、そういう穴があちこちにある。
焼岳がこの縦走最後のピーク。最後の登りとなる。一歩一歩かみしめながら行く。
北峰の分岐に到着。ものすごい勢いでガスを発している穴がある。硫黄のにおいが充満している。あっけにとられた。

大地の躍動。生命のパワー。息吹。勢い。生命力。地球という生命そのもの。大地は生きているということ。常に再生、新生を繰り返しながら。

焼岳なんて、最後のオマケ、みたいなものとして考えていたのだが、そんなのとんでもなかった。大いなる衝撃を受けた。
最後に焼岳に登れて良かったと思う。
頂上からの展望はなかったが、それ以上のものを見ることができた。
素晴らしい山だった。

急いで下るのはもったいない気がしたが、足は自然と速まる。
終わりは近い。
第二ベンチを過ぎ、第一ベンチを過ぎた。
もうすぐだ。

だんだん、車の音が大きくなってくる。
道路が近づいてくる。

そして、ゴール。
車道に出た。
バス停まで行き、日本海からつながった北アルプスの縦走は終わりを告げた。
<★噴煙口>

4:00 西穂山荘発
5:35 焼岳小屋(18℃)
6:35 焼岳(17℃)
7:15 分岐(17℃)
8:15 中ノ湯(20℃)



何よりも、無事、下山できたことが嬉しい。
ケガすることもなく、事故に遭うこともなく、病気になることもなく、転んで足をひねったり、岩場で滑落したり、ザックが壊れたり、食糧がなくなったり、バテて動けなくなったり、筋肉痛で歩けなくなったり、台風が来たり、土砂崩れになったり、不安要素はさまざまあったが、それらがほとんどなく、予定通り歩き通せたことが嬉しい。
それだけでもう十分だ。

今回のテーマは、「つなげる」。
今まで、北アルプスのいろいろな山に登ってきた。
それを今回つなげることができた。
昔来たことがある場所を通過するたびに、そのときのことを思った。
白馬岳は小学生の頃登ったことがある。また、大学2年の秋合宿でも登った。そして、春の主稜を2回登った。5回目の今回は、雷の中走り抜けた。
唐松から鹿島槍までは、去年のアルバイトで何度も歩き、今年の正月春のG5稜の登攀でも五竜岳に登った。
早朝、七倉岳に登る途中、唐沢岳幕岩の壁の中にぽつんと明かりが見えた。いつもは、あっち側の壁からこの稜線を眺めるばかりだった。その後雨になってしまったが、ビバークした彼ら(彼女ら)は、無事完登できたろうか。
槍ヶ岳は、学生のとき自分がリーダーで登りたかった山。計画を出したものの、表銀座から槍への稜線のハシゴ、クサリがネックになって槍を断念。燕岳から蝶ヶ岳へのコースに変更した。その後、一人で槍沢から槍を目指した。あのときは天気が悪く、テント場で浸水。小屋に逃げ込み、2-3泊した。そしてようやく立った槍の穂先。北鎌尾根は五月に登った。笠ヶ岳方面からは正月に来たことがある。今回が、5-6回目?でも、学生の時断念した東鎌尾根は未だ登れていない。
南岳小屋はワンゲル同期がバイトしていたときに行った。ゆで卵をもらったことが印象に残っている。
北穂を通るときは、初めての本番アルパインルート、ドーム西壁を思い出した。そういえば、このあたりから懸垂下降してアプローチしたんだっけ。
明神岳が見えれば、明神II峰を登ったときのことを思い出す。
涸沢岳では、滝谷でルートを間違えた今年の春のことが頭に浮かぶ。
さまざまな思いが詰まった山々が今回ひとつのラインとしてつながった。
三つのキレットをつなげる、というのも目標だった。不帰ノ嶮、八峰キレット、大キレット。それは学生のときに考えてきたこと。ようやく実現できた。
日本海で拾った石を3000mの高みに連れて行くこともできた。海と山がつながった。
思い出をつなげ、山をつなげ、ルートをつなげ、人をつないで、北アルプスの縦走は幕を下ろした。
でも、これは終わりではなく、すべての始まり。
次の山にさらにつながって、終わることなく、また新たなラインが引かれてゆく。



全体を通じた感想と反省
とにかく雨が多かった。ちゃんと晴れたのは最初と後半だけ。後半は晴れたと言っても朝だけで、午後はほとんど毎日雨だった。
日々の行動は、日の出前(4時頃)に歩き出し、昼頃にはテントサイトに入るというパターン。北アルプスでは、テント指定地が決められているので、「とりあえず行けるところまで」というのがやりにくい。あと2時間くらいなら歩けそうだが、と思っても、次の指定地が3-4時間先となると、躊躇してしまう。結果として、午後にはいつも雨になっていたので、その前にテントを張って落ち着けていたのは良かったとも言えるが。
雲が多く、遠くの景色は全然見えなかったので、今回は花の写真ばかり撮っていた。写真はこちらから。花の名前は詳しくないので、あえて記していない。写真はすべてデジカメ(Panasonic LumixDMC-FX8)を使用。マクロモードを使ったので、わりときれいに撮れている(と思う)。

軽量化を考えて、食糧は乾燥ものが中心。しかも、量が少なかったので、終盤はかなりひもじい思いをした。もちろん、お金を出せば、小屋で食事もできるたのだが、そういうのはなし、と一応決めていた(そうは言っても、キレット小屋では思う存分食べさせてもらったのだが)。食糧については、もう少し何か考える余地があったと思う。ちなみに、歩き出しのボッカ量は、26-7kgだったと思う(正確には計っていない)。

今回の縦走ルートには、北上するか、南下するか、という二つの考え方ができる。
北上ルートの最大のメリットは、最後に日本海に出られる、ということがあるだろう。これは感動的なラストとなるに違いない。
ただ、そうすると、最大の山場である、西穂〜奥穂、大キレットなどを重い荷物を持って歩かなくてはならない、というデメリットもある。実際に歩いた感触では、30kg近い荷物を背負って、西穂〜奥穂を行くのは、結構厳しそうに思えた(雨だったら、足を踏み出せず、いきなり足止めを食らう、ということもあるだろう)。
逆に南下ルートは、最初の栂海新道の登りが、重荷だとかなり苦しい。急登で、標高が低いために夏は非常に暑い。そう考えると、どっちもどっちかもしれない。
今回、南下ルートを取ったのは、「槍ヶ岳を目指しながら歩く」というのがやりたかったからだ。結果的には中盤ずっと雨だったので、槍は直前まで見えなかったが、計画としては、「あの槍に着くまで頑張ろう!」と思いながら歩きたい、というのがあった。
また、去年アルバイトした五竜山荘・キレット小屋に挨拶したい、ということもあり、南下コースにして、早めにそこを通過しておきたいというのもあった(北上だと、何らかのアクシデントでたどり着けない可能性もあったので)。
また、後半になると、食糧が足りなくなったり、疲労によるケガ(病気・事故)、装備の故障などがあるかもしれない。そういう場合、小屋がしっかりしている南部にいた方がいい、という考え方もできる。北上ルートの場合、朝日小屋から先、栂海新道には有人小屋がないし、エスケープもしにくい。
結局、問題は前半と後半をどうするか、ということにあって、中盤はどっちから行こうとあまり関係ないと思う。

今回の縦走で印象に残っている風景
・栂海新道黒岩平〜アヤメ平付近の湿原
・白馬岳での雷
・烏帽子岳四十八池付近の湿原
・三俣蓮華岳〜双六岳途中から見えた槍ヶ岳
・間ノ岳での虹
・焼岳の噴煙

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