「雪そして風、さらに」
北アルプス 遠見尾根〜五竜岳〜八方尾根
2005年1月3日(月)〜1月6日(木)
メンバー:神谷(記)
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<五竜岳に陽は落ちる>
計画では、遠見尾根〜五竜岳〜八峰キレット〜鹿島槍ヶ岳〜赤岩尾根、を考え、夏の間勤務していたキレット小屋の冬の様子を見に行ってみよう、と思っていた。また、年末に剱岳北方稜線(のごく一部)に行って、そこから後立山方面が見えたので、今度は逆に後立山から剱方面を望んでみたい、ということも考えていた。 1月4日の天気が悪そうなのは事前に分かっていたので、3泊4日予備1日の計画。一日停滞しても何とか行けるだろう、と考えていた。 今回は単独なので、テントやら生活用具やらを持ち、さらにキレットでの懸垂下降を考えてロープやハーネスなども持っているので、年末の12泊計画と同じくらいのボッカ量(26-27kg)となってしまった。 1月3日 8時15分発のテレキャビンの運行を待ち、エスカルプラザでプラブーツ、スパッツなど着用。周りは当然ながらスキー、スノボ客ばかりで、非常に場違い。身体を小さくしつつ、でもやたらに大きなザックを背負って、テレキャビンへ。さらに第一ペアリフトに乗り継ぐ。 リフトを降りたのはいいが、いきなり雪壁である。なんとなく踏み跡はあるが、除雪された雪が捨てられたような山を無理矢理登ると、地蔵ノ頭に出た。 そこから先はトレースがバッチリ付いていた。天気はよく、展望も素晴らしい。<★地蔵ノ頭からの展望> 幅1mほどのトレースがずっと続いているが、両側を見ると雪の深さは腰くらいまであって、これが完全にラッセルだったら、とても一人じゃ登れないだろうと思う。 小遠見山で単独のカメラマンとすれ違う。 中遠見山あたりでアイゼンとわかんを着用した。風が強いところでは、トレースが消えてしまって、ひざくらいのラッセルになる。途中でデポされたテントがあった。おそらく今朝五竜往復に出かけているものと思われるが、すでにそのトレースすら消えてしまっているようだ。<★五竜><★キレット方面><★鹿島槍北壁> その五竜アタックパーティと大遠見山辺りですれ違った。その後、単独の人と、唐松から五竜を登って下山してきた二人組とすれ違う。彼らは本当は鹿島槍まで足を伸ばす予定だったが、明日以降の天気が悪そうなので、途中で下山してきたとのこと。上部は全くトレースがなかったそうで、おそらく先ほどの五竜アタックパーティも時間切れか何かで、登頂はしていないものと思われた。 これだけ下ってくる人がいるのだから、この先は彼らのトレースが付いていて、楽々五竜山荘まで行けるだろうと思っていた。 しかし、標高が上がるにつれ、風は予想以上に強くなり、上部のトレースはほとんど残っておらず、当ては外れた。 西遠見山を越え、白岳までが非常に大変だった。一歩ごとにズブッと足が沈み込む感じで、10歩進んでは息をついて休む、という状態。主稜線はなかなか近づいてくれなかった。<★雪深い西遠見山へ> 明日は、日本海に低気圧が発生し、荒れることは分かっていた。だからこそ、今日中になんとか五竜山荘まで登って、ある程度安全の確保された場所で、嵐をやり過ごしたかった。いくら苦しくても、遠見尾根の中途半端な場所での幕営はしたくなかった。 なんとか西遠見山を越えたが、白岳の登りは最後の難関だった。明日の荒天を予感させるように、雲は増え、風がますます強まってきた。トレースは全くなく、腰くらいのラッセルになった。傾斜も強く、一人でいくらもがいてもさっぱり進まなかった。結局、ザックを置いて空身でラッセルし、また戻ってザックを背負って登り返し、を何度か行なった。 太陽は五竜の向こうに落ちかけている。明るいうちに小屋まで行けるか微妙になってきた。しかし、たとえ暗くなったとしても、今日中に小屋までは着いておきたい。 猛烈な風に吹き飛ばされそうになりながら、なんとか小屋に到着。陽は落ちたが、まだ夕暮れの残照の中で行動ができた。<★太陽は五竜岳に落ちていく><★五竜山荘> 小屋の陰で、四方が壁に囲まれ、雪もあまり積もっていないところを見つけたので、そこにテントを張った。 1月4日 夜、身体がテントごと浮かび上がるような強風が吹き荒れた。雪も相当降っているようだ。しかし、それをあえて無視するかのようにシュラフに潜り込み、朝を待った。 どっちにしろ、今日は一日行動できないのは分かっていたので、明るくなってからゆっくりシュラフを起き出す。起きてみてびっくり。テントが押し潰されそうなくらい雪が積もっていた。 この場所は、小屋の陰で雪が積もらないのかと思っていたのだが、実は風の通り道になっていて、雪を吹き飛ばしてしまうから積もっていないように見えただけのことだった。そんな場所にテントを張ったものだから、テントが障害となり、テント周りだけ吹きだまってしまっている。 四方を壁に囲まれているように見えたのだが、実際には右図のような状況で、西風が収束して一気に吹き込んでくるような場所だったのだ。<★テントサイト(写真が汚れています)> 慌てて外に出て除雪を行なう。 テントは、冬用外張りではなく、通常のフライを使っていたのだが、フライの下から(風で)雪が潜り込んできて、本体に直接雪が積もってしまっている。もともと、あまり雪の積もっていないコンクリートの上にテントを張っていたはずなのに、グラウンドシートの下にも容赦なく雪が入り込んで、テントの底は両側が持ち上がってしまっている。 多少除雪をしたところで、またすぐ雪が来るので、効果があまりない。 昼頃再び除雪。猛烈な風雪で、目出帽をしていても、10分外に出ているだけで、もうバリバリに凍ってしまう。まつげもあっという間に凍って視界をさえぎる。とても風上に顔を向けられない。 テントの場所を移動させたほうがいいか、と思ったが、外でテントを畳んだり、移動したりなどと行動できる状態ではなかった。 ラジオの天気予報と携帯の予想天気図を見ながら、明日以降のことを考える。 今日、低気圧が通過すれば、明日は一時的に冬型になるが、すぐに次の移動性高気圧が来て、天気は回復するようだ。明日行動できるなら、キレット小屋まではいけなくとも、少しでも先に進んでおきたかった。 寝る前にもう一度除雪。 1月5日 3時に起きてまた除雪。放っておくと、テントの両側から雪が押し寄せてくる。テントが潰れるのが怖い、というより、雪が身体に密着してくるので、非常に冷たいのが嫌。夜中、なんか足が冷たいなあと思ったら、雪が接近してきていて、シュラフとテントがほとんど密着しているような状態になっているときもあった。テントの中からパンチを繰り出して、雪を押しのけ、一時的にやり過ごす。 風はグオーグオーと物凄い音を立てて吹き荒れていた。ここは風の通り道ではあるけれど、小屋に一応守られている。その安心感がなかったら、いつテントごと飛ばされるかもしれない、という思いで落ち着いて寝ていられなかったかもしれない。 寝てても寒いので5時に起きて食事を作る。しかし、風はあいかわらずで動ける気配なし。雪はだいぶおさまったようだ。 9時になり、明るくなってきたので、外の様子をうかがうと、なんと青空が見える。ちょっと行ってみるか、と靴やらスパッツやらを着けて、出発準備。 10時30分、テントを出る。 ……が、五竜山荘から10mほど歩いて、あまりにも風が強く、歩けるような状態は出なかったので、敢え無く断念。視界はわりとあるし、雪も止んだので、あとは風だけの問題だ。 戻ってからテント撤収にかかる。既にテントは中も外もひどい状態になっている。床下に吹き込んでくる雪のために、自分が寝ていた中央部分だけ陥没して、両側が盛り上がっている。どこからか吹きこんでくる雪と霜のために、シュラフカバーを含め、テント内の装備はほとんどが真白になっている。 先ほど小屋周りを回ってみたところ、小屋前の方が風が弱そうに感じたので、そっちに引越す。 強風の中、なんとか引越完了。今までと比べれば天国のように静かな場所だった。 靴などは履いたままで、天気回復を待つ。風さえ止めば、せめて五竜岳往復だけでもしておきたい。 12時。再度テントを出て、様子を見る。 小屋が風をさえぎっている部分では、非常に穏やかで、太陽も出ているし、視界もさらに広がり100mほどは見える。これなら十分に行けそうだ、と思わせる。 しかし、小屋の陰から一歩踏み出すと、猛烈な風の中に出てしまい、それ以上全く進めない。一瞬でまつげも目出帽も凍りつき、身体は吹き飛ばされそうになる。 やはり行動できる状態ではなく、すごすごとテントに引き返す。 テント付近は、あいかわらず穏やかで暖かい陽射し。まさに一歩の差で天国と地獄を分けている。 13時30分。テント内にいると、やけに暖かく明るくなったように感じたので、外に出る。なんと五竜山頂まで展望が開けていた。雲も一気に切れて、全くの青空となった。 雪煙を吹き上げる頂上稜線、太陽に輝く五竜の頂。何もかもが素晴らしい。 一日半の停滞で、精神的に参っていたけれど、これで気分も晴れ渡るようだ。 このまま頂上まで駆け登りたい、と思うが、風はまだ強い。でも、徐々に弱まってきているのは確かだ。明日には登れるようになるだろう。きっと登ってやるから、この好天が明日も続いてくれよ、と祈る。 (強風は別として)こんな天気が、毎日続けば素晴らしいのだろうが、逆に毎日続かないからこそ、冬山の感動はまた格別なものなのだろうと思う。年末の剱のときも、ずっと天気が悪くて、ようやく晴れたからこそ、心に残る風景を見ることができたのだ。 誰もいないこの世界。こんな景色を見ているのは自分だけ。独り占めしている感じがする。<★青空になり頂上への道が開けた><★雪煙あげる頂上稜線> 天気予報を確認すると、明後日には、また次の気圧の谷が接近して、明日の午後から下り坂、とのこと。やはりこの時期、2日も3日も天気が良いなんてことは、ありえないのか。 キレット越えは絶望的。となると、五竜岳登頂後、このまま遠見尾根から下山するか、それとも唐松岳経由八方尾根下山にするか、の選択となる。 遠見尾根下山はなるべくなら避けたい。下りとは言え、相当のラッセルを覚悟しなければならないだろうと思われた。遠見尾根は、昨日今日の降雪で、当然それまでのトレースは消えているだろう。ひざから腰くらいのラッセルが続くことになるのではないか。しかも、単純な下りではなく、コブを何度か登らなくてはならない。そんなラッセルを一人で続けるのは、困難を極める。雪の量にもよるが、一日で下山できるか怪しいところだ。 しかし、八方尾根下山も楽ではなさそうだ。遠見尾根を登ってくるときにすれ違ったパーティは、唐松頂上山荘から五竜山荘まで一日行程だったそうだ。雪山ガイドブックにも「年末年始を含む厳冬期は天候、降雪などの条件が厳しく、強力なパーティ以外は無理である」などと書いてある。ひょっとしたら、一日では唐松頂上山荘までたどり着けないかもしれない。稜線上で幕営となったら、翌日は荒天で行動不能になってしまう。 だったらむしろ、ルートが分かっている遠見尾根のほうがまだましなのか……。 悩み続けるうちに夜は更けた。 1月6日 今日の行動をどうするか結論の出ないまま朝を迎えた。ともかく、五竜岳往復して、その状態を見て考えることにした。 朝暗いうちからヘッドランプで行動開始。G2付近で日の出を迎える。自分にとってはこれが今年の初日の出。しかし、雲が多く、一瞬姿を見せた太陽もすぐに隠れてしまった。風がないことだけが幸い。<★G2付近から見た日の出> ラッセルはほとんどなく、クラストした雪面をアイゼンを効かせて登っていく。このあたりは今年の夏に4-5回登った場所なので、大体の様子は分かっている。雪があって、アイゼンが使える分、夏よりむしろ登りやすい感じがする。 クサリ場は、右の雪面を登ることでパスした。最後の頂上稜線に出る部分だけ、雪庇が発達していて無雪期、残雪期とは異なる印象を受けた。キレット方面への分岐は雪で埋まっていたので、雪壁をトラバースして、一気に頂上稜線に出る。<★頂上稜線への雪壁> さすがに素晴らしい光景が広がっていた。 つい一週間前に苦戦した猫又山から剱岳への稜線がはっきり見える。<★剱岳> そして、キレットから鹿島槍ヶ岳、さらには、はるか先に槍ヶ岳も見える。<★キレットから鹿島槍ヶ岳> このまま歩いていきたいのは山々なれど、今回はあきらめるしかない。キレット方面には、次回必ず行ってやる、と誓いを立てつつ、5分ほどで頂上を後にする。 下りもあっという間だった。頂上往復は実質1時間くらいであった。 五竜頂上から見えた唐松方面は、雪がほとんどなく、ラッセルにはならなさそうだった。これなら行けるだろう、と思う。<★唐松方面> 遠見尾根下山は却下し、唐松岳方面へ向かうことにした。 主稜線上は、雪が少ない。ほとんどないような場所もある。この時期にここに来るのは初めてなので、これが普通なのか、今年は少ないのかは分からない。 新雪に動物の足跡が続いている。昨日「こんな景色を見ているのは自分だけ」と思ったのだが、そんなことはなかった。この厳しい世界にも生活している生物はいることに気付かされた。なんだか感動した。 この足跡は、主稜線上をずっと続いていた。人間のトレースはほとんどなかったけれど、この動物の足跡が続いていることに勇気づけられた。うまい具合に、夏道のトレースをたどるようについているのでありがたくもある。ちゃんと歩きやすい場所を知っているようだ。 この足跡、てっきりライチョウだと思っていたのだが、どうも違うみたいだ。よく見ると獣っぽい感じがする。キツネとかテンとか……。姿も鳴き声も一切しなかったので、確認はできなかった。 大黒岳への登りではだいぶ疲労した。下るためにここを歩いているのに、なぜ登らなくてはならないのか。そういえば、夏のときもそう思いながら歩いていたことを思い出す。 そして牛首へ下る。ここはクサリ場がある場所だが、クサリそのものより、牛首の鞍部への下降点が、雪壁になっていて、そっちのほうが緊張した。 朝は、まずまずの天気だったのだが、少しずつだが確実に雲は増えていった。 10時前頃、剱岳方面の頂上稜線が雲に隠れてきたな、と思っていると、10時15分にはこの後立山の稜線も急に風が強まり、雪も降り出した。風も雪も急速に強くなる。午前中は大丈夫だろうと思っていたのだが、天気の崩れが予想外に早かった。 疲れていて一息入れたいところだったが、ともかく唐松岳頂上山荘までは、とがんばって急いだ。 小屋に着いたのが10時40分。唐松岳往復はとてもできる状態ではないので、すぐに八方尾根を下る。 この小屋から尾根へ下る部分も、雪壁となっていて、牛首に下るときと同様怖かった。 丸山までは順調に下る。はっきりしたトレースはないが、うっすらと踏み跡が残っていて、真白な雪面に人一人分歩けるくらいの雪が締まった部分がある。そこだけクラストしているので目を凝らして、ルートを探しながら歩く。ショートカットしようとして、そのトレースを外すと、ひざまで埋もれてしまう。 丸山まで下って、ここまでくればもう大丈夫だろうと思い、少し休憩。雪も風もあるが、主稜線ほどではない。これなら今日中に余裕で下山できるだろう、と思った。 ……しかし、それが甘かった。 丸山から先、尾根はだだっ広くなり、トレースを追うことが困難になった。どこがトレースなのか、どっちがルートなのか判然としない。悪いことに風雪は強まり、視界が奪われていった。ラッセルがきつくなってきたので、ワカンをつける。 赤布や竹ざおに導かれながら下っていく。 時折開ける視界を頼りに、尾根を確認しながら降りている、つもりだった。 ところが、気付いたときには、何か違うな、という場所にいた。露出している岩にも赤ペンキなどの痕跡がないし、いくら降りても第三ケルンに着かない。雪が少ないのに、夏道らしき部分が見当たらない。 ふと、ホワイトアウトの合い間に視界が広がった。なぜか左手に尾根が見えた。しかもケルンらしきものまで見える! 慌てて地図とコンパスで確認する。どうやら途中で間違えて、下樺尾根を下降しているようだ。 こりゃいかん、と急いで登りかえす。 しかし、その頃には雪も風も強まり、暴風雪といえるほどになっていた。耐風姿勢をとっていないと、身体が飛ばされそうだ。風の周期を見て、弱まった瞬間に少しずつ動く、ということしかできない。しかもひざから腰のラッセルである。 強風で、体力が急速に奪われていく感じがする。間違えて下ってしまったのは、一体どれほどの距離なのだろう。視界は再び閉ざされてしまい、どこまで登ればいいのか、さっぱり分からない。 風のために行動が限られるので、遅々として進まない歩み。登っても登っても先が見えてこない。 これってもしかして遭難か、という思いが頭をよぎる。 このまま力尽きてしまったら、ルートから外れているし、発見まで時間がかかるかもしれない。 八方尾根では去年一昨年と2年連続で死亡事故が起きている。 (参考:2003年1月3日(三人死亡/東奥日報)、2004年1月12日(一人死亡/毎日新聞キャッシュ)) 落ち着いて行動しなくては。 時計を見ると、まだ12時を過ぎたところ。時間はある。ともかく、八方尾根復帰まではがんばろう、と自分に言い聞かせる。 30分後、何とか赤布つき竹ざおの地点に戻ってきた。そう、この竹ざおを確認したのは覚えているのだが。 すこし待って視界が晴れてくると、今下りた尾根とは別の尾根が左側に見えてきた。 そうか、これで分かった。 この尾根は、北寄り(下を向いて左側)に雪庇が発達しているので、雪庇を踏み抜かないように、なるべく尾根の南寄りを歩いていた。それが落とし穴で、南にのびる下樺尾根に迷い込んでしまったのだ。本来の八方尾根へは、雪庇を乗り越えて、急な雪壁を下るような形で降りていかなくてはならないのだ。 これは、視界が悪ければ間違っても仕方ないよな、と自分を納得させる。(しかし、そういう時は、ちゃんと地図とコンパスで尾根の方向を確認しながら降りるものだ。) 正規ルートに復帰して、しばらく下っていくと、雪も風も、またおさまってきた。今度こそもう間違えないように進もうと思った。 が、八方ケルンからまた分からなくなってしまった。 このあたりは一面の雪原で、視界はあっても、人工物がほとんど見えない。コンパスを見ても地図を見ても、ここが尾根に違いないのが分かるだけで、ではどっち方向に進めばよいのか、というのは分からない。 ひざくらいのラッセルになるので、とりあえずザックを置いて、あっちこっちにワカンで歩き回り、様子を探る。ところどころにある案内看板を目安に進んでは、またザックを置いて、空身で様子を見に行く、という繰り返し。 リフトまでもうすぐのはずなのに、非常に時間がかかった。 トレースさえあれば、もしくは、登りだったら、迷うような場所ではないのだろう。しかし、トレースのない下りでは、どっちに進めばいいのかさっぱり分からない。ホワイトアウトでなかったのは幸いで、これで視界がなかったら、リフト直前にしてビバーク、ということもありえるかもしれない。 そんなこんなで黒菱平到着は14時過ぎ。唐松頂上山荘に着いたときは、すぐにでも下山できるだろうと思っていたのだが、予想以上に時間がかかってしまった。 五竜山荘から八方尾根下山は、途中一泊は覚悟をしていたので、一気に下れてよかった。五竜岳そのものがほとんど夏と変わらないスピードで登れたし、主稜線上はラッセルがなかったのが良かった(一部、コブの登りを嫌って、トラバースで巻こうとしたら、はまってしまう箇所もあったが……)。思っていたより早く悪天になってしまったが、出発が早かったのも良かったのだろう。主稜線の真っ只中であの風雪に遭っていたら、身動きが取れなかったかもしれない。 八方尾根は意外に苦戦した。迷いやすいのは分かっていたが、少し甘く見ていた。ケルンを探しながら行けば大丈夫、と思っていたが、結局間違った尾根に入り込んでしまった。反省。 今回、遠見尾根を下降した場合にどれほどのラッセルを強いられたかは分からないが、総合的に見ると、八方尾根下山でよかったかな、と思う。 年末の剣岳も、今回の後立山も、天気にやられた、という感じだ。 雪の状態、体力、技術、食糧、燃料、装備、日程など、すべての状況に問題がなくても、天候が悪ければ、結局全く行動不能になってしまう、ということを思い知った。とくに今回は風の強さを感じた。青空が広がっているのに、主稜線上は強風によりまるで動けない状態になっていた。 そんな悪天の続く中、チャンスを見計らって、ようやく行動できたのであって、八方尾根まで縦走できただけでも運が良かったのかもしれない。 今回は単独行だったし、途中で、とくに主稜線上で何かあったら、悪天につかまり、何日も動けない、という状態も十分考えられた。 やはり、厳冬期の北アルプスは、様々な条件が相当うまく合わないと、なかなか予定通りに行動できるものではないな、と改めて思った。 |
1月3日(月) 晴れのち雪
8:50 第一ペアリフト下車 歩き出し
10:25 小遠見山(1℃)
10:55 中遠見山(0℃)
13:05 大遠見山(0℃)
15:35 五竜山荘(-8℃)
1月4日(火) 雪
終日停滞
朝、-15℃くらい。日中-5℃くらい。
1月5日(水) 雪のち晴れ
終日停滞
朝、-15℃くらい。日中-4℃くらい。
1月6日(木) 曇りのち一時雪
6:15 五竜山荘出発(-6℃)
6:55 日の出(-8℃)
7:05 五竜岳頂上(-9℃)
7:35 五竜山荘(-8℃)
7:45 五竜山荘発(-7℃)
10:40 唐松頂上山荘(-8℃)
14:05 黒菱平(-2℃)
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