「暑き雪の稜」
白馬岳 主稜

2001年4月28日(土)〜29日(日)
メンバー:石川、三堀、原田、神谷(記)


テントサイト
<白馬主稜のテントサイト>

小宮は白馬岳山頂に最後の石を下ろした。待っていた新聞社や公園協会や地元民や登山者があらゆる賛辞を彼に投げかけても、小宮は絶望の表情で背負子から、肩を抜かずに、目を閉じていた。土色に皮ばった顔は勝利の色ではなかった。痩せ落ちた頬の線から頭にかけて、ぶつぶつ吹き出て凝結している汗の結晶は、敗北に投げかけられた白い砂のようであった。
(「強力伝」新田次郎 新潮文庫)



「もう、二度と来ないだろう」と思っていた。
 果てしなき下り。足の痛み。
 白馬主稜に前回来たのは、2年前(1999年4月17日、18日)。
 その時は、プラ靴が足に合わず、ひたすら苦痛にあえぎながらの下山だった。
 そのときも快晴。頂上に立ったときは、主稜の美しいラインに感動して、「このルートは素晴らしい」と単純に思っていた。その時は、後に待ち受ける苦しみを知らなかった。
 靴で足の甲が両側から圧迫され、下りでは特に痛んだ。いっそのこと靴を脱いで、素足で歩きたかった。
 ただ、無心で苦痛に耐え、ようやくの事で車についたとき、心に誓った。
「もう、二度と来ないだろう」と。

 でも、また来てしまった。
 インナーと靴下を調整したので、前回のようなことにはならないだろう。
 ルート自体は、素晴らしいと思っていたので、下りさえ問題がなければ、快適な山行になるはずだった。天気もよさそうだ。連休のスタートを飾るのにふさわしいルートだ。

4月28日(土)
 3:30二股着。ゲートは無情にも閉じている。5/1になれば、このゲートが開いて、猿倉まで車が入れる。たった3日の違いなのだが、仕方がない。
 ほんの1時間ほど仮眠をとって、歩き出す。
 猿倉までは、アスファルトの林道。あと3日で車が入るのだから、問題なく除雪されている。猿倉から、雪道。快晴で暑いくらいの天気の中、もくもくと高度を上げる。白馬尻手前から主稜を望む
 大雪渓は、周りの沢からいつ雪崩が着てもおかしくないように見える。たくさんの人が登っているが、遠くから見ているとちょっと怖い。
 先行パーティの姿は見えないが、主稜のトレースもばっちりついている。八峰までは、単純な登行に終始。2週間前に主稜に入ったパーティの報告では、クレバスの処理に苦労した、というようなことが書かれていたが、トレースをたどっていけば、クレバスも難なく迂回できる。2週間もたつと、雪の状態もルートの状況もだいぶ変わってしまっているのだろう。
 八峰から雪稜の始まり。急なアップ、両側が切れ落ちたナイフリッジのトラバース、大きなクレバスを通るところ、いくつか怖い部分もあるが、トレースがほぼ階段状についているので、ロープを出すほどのこともない。トレースは続く
 あとわずかで、頂上か、と思われたが、メンバーの疲労具合を見て、三峰(二峰?)でテントを張る。この辺りは、幕営可能地が散在している。テントサイト
 昨晩はほとんど寝ていないので、早めに就寝。

4月29日(日)
 翌朝、日の出前は少しガスがかかっていたが、一気に晴れて視界は良好。
ハーネス、アイゼンをつけて、テントを撤収。頂上直下の急登が一番の核心かと思っていたが、ここも階段状。確かに急ではあるが、足を一歩一歩踏みあとに乗せていけば、全く問題なし。ロープを出す必要性も感じなかった。頂上直下の急登
 結局幕営地から30分で登頂。
 登りきったところで、前方の視界が開けるのは、前回も体験しているのではあるが、やはり感動的だ。振り返ると、我々が歩いてきた雪稜が見える。八峰もはっきり分かり、あそこから来たんだ、と思うと感動もひとしお。遥かな雪稜
 しばらく頂に留まり、下山開始。
 大雪渓を下る。靴の痛みがないので、前回よりは全然楽だ。シリセードを交えながら、一気に下る。
 が、白馬尻まで下ったところで、石川さんのアイゼンが片方ないことに気づく。大雪渓の途中でアイゼンをはずし、ザックにくくりつけておいたのだが、知らないうちに落としてしまったようだ。どこで落としたのかは分からないが、とりあえず空身で登り返すことにする。全員で行くこともないので、石川さんと三堀くんが登る。
 登りの時は、リーダーとして私が一番ラストを歩いていたのだが、下降に入って、「もう下るだけだし」とちょっと先行して降りてしまったところにひとつの原因が考えられる。リーダーが最後から歩いていれば、アイゼンが落ちたらすぐ気づいたろう。もちろん、すぐ落っこちるようなところにアイゼンをつけてしまった本人の責任もあるが、たとえ落ちたとしても、拾うことが出来れば、わざわざ登り返す必要はなかったのだ。やはり油断は禁物だ。今回はひとつ勉強をした。
 登りに1時間、下り10分の探索の末、アイゼンは無事に見つかったようだ。ほっと一息。
そこからは一気に下って、10:50に車到着。

 条件に恵まれた、というのだろうか。天気はよい、トレースはばっちり。何の問題もなく、頂上までついてしまった。これならば、日帰りも十分可能だ。幕営装備を持った今回でさえ、あとわずか30分で頂上のところまで来ていた。
 もちろん、天候が急変したり、直前に降雪があって、ラッセルになったとしたら、こんなにうまくはいかないだろう。今回に限って言えば、かなり余裕があった。
 しかし、個人的には、せめてトレースがなければ、もっともっと楽しめるのだろうなあ、と感じた。人気ルートだし、この時期では仕方のないことだが、これで、全編ラッセルだったとしたら、その充実度は如何ほどだろうか。
 次回があるなら、シーズン初めに、ラッセルラッセルで苦労しながらの白馬主稜に登ってみたいと思う。


4月27日(金)

23:50 立川車発。

4月28日(土) 快晴

3:30 二股着
4:30 起床
5:30 出発
6:40−6:50 R1(猿倉)
7:50−8:05 R2(白馬尻)
9:15−9:35 R3(1785m。アイゼン、ハーネス着)
10:25−10:40 R4(八峰)
11:30−11:50 R5(六峰)
12:45−13:00 R6(四峰)
14:10 テント設営(三峰)
18:15 消灯

4月29日(日) 快晴

4:00 起床
5:40 出発
6:05−6:30 R1(白馬岳頂上)
7:35−9:05 R2(白馬尻)
  7:45−8:55(アイゼン探索)
9:30−9:50 R3(猿倉)
10:50 二股着


この記録に関するお問い合わせはこちらから。

[入口] [山記録]