「四日間--4days--」
剱尾根(小窓尾根から下山)
明星山P6南壁左岩稜、マニフェスト(事故)
2004年11月20日(土)〜23日(火)
T、K、神谷(記)
※内容を鑑みて匿名としてあります。
報告内の★マークは、写真へのリンクです。
●行動概要 11月20日(土) 〜馬場島から小窓尾根1800mまで。 11月21日(日) 〜小窓尾根1800m地点から小窓乗越経由、馬場島へ下山。 11月22日(月) 〜明星山P6南壁左岩稜 11月23日(火) 〜明星山P6南壁マニフェスト(事故発生) その後の状況(事故報告書からの抜粋) ◆参考:明星山事故報告書---添付写真 第一日目--The first day-- 11月20日(土) もともとの計画は、初冬の剱尾根を登ってやろう、というものだった。12月1日以降だと富山県登山届出条例の対象になってしまうので、それ以前に雪の剱を満喫しようと思っていた。ただ、この時期は雪の状態の変動が大きく、降ったらフカフカ、降らなければヤブこぎ、という非常に微妙な状況だろうとはわかっていた。 剱方面の天気を注意深く観察していると、つい一週間前まではほとんど積雪がなかったのだが、ここ数日で寒気が入り、連日の雪となっていた。11月19日時点の情報では室堂の積雪が70cmとのことだった。 土曜日の天気はまずまず、日曜は荒れるかもしれない。月火は快晴、という予報を見て、ともかく現地に行ってみることにした。 〈山行計画〉 20日:馬場島→小窓尾根1600m 21日:→池ノ谷→剱尾根R10/コルE→コルC 22日:→ドーム→剱尾根ノ頭→長次郎ノ頭 23日:→本峰→早月尾根→馬場島 24日:(予備日) しかし、思えば、最初から何かおかしかったような気がする。運気の周期が悪かったのか、星のめぐり合わせの問題なのか、なんだかよくわからないが、何かにつけ順調に進まないことが多かった。 21時30分に東京を出る予定だったのが、23時過ぎになってしまった。 インターを出てカーナビの通りに走ったら、山道に突っ込んでしまった。 ようやく復帰したと思ったら、ガソリンが残り少ないことに気付き、再びインターまで逆戻り。 この頃になり、土砂降りの大雨に見舞われる。 結局、馬場島に着いたのは、朝5時過ぎのことだった。 今日の行動はそれほど長くないはずなので、8時起床として仮眠を取った。 9時半、馬場島出発。雨は上がっていたが、空にはまだ雲が残っていた。 取水口までは順調に進む。ずっと林道歩きだったので、車でここまで入れば良かったと思った。ここから高巻くルートと、渡渉しつつ沢沿いに行くルートに分かれる。高巻きらしい踏み跡と赤ペンキ矢印があったが、高巻きはかなり高くまで登って行きそうな感じだったので、沢沿いに進むことにした。 飛び石の渡渉を4−5回。靴を脱いでの渡渉を1回した。池ノ谷出合で少し休憩。〈★靴を脱いで渡渉〉 剱尾根へは、小窓尾根の1614m台地(小窓乗越)を目指して北側斜面を登り、そこから池ノ谷に降りていく方法が一般的。この小窓尾根への取付は、たいていのガイドブックには「雷岩から登り」としか書いておらず、何も考えなくても登れるものだろう、と思っていた。 出合から白萩川の右岸を進んでいくと、ペンキで矢印がついていた。途中残置ピトンと残置ロープのある岩場をへつるようにして越える。左岸に赤布が見えたので渡り返すが、“雷岩”はまだ先だ、という意識があったので、そのまま通過してしまった(これが大きな間違いだったと後で気付く)。 何しろ、エアリアマップ(2004年版)では“雷岩”は右岸の1250m付近にあり、東大谷の出合近くに書いてあった(1999年版では“雷岩屋”)。また、さらに古いエアリアマップには、小窓乗越経由で池ノ谷を登るルートそのものが「熟練者用」として明示されており、それによると、やはり取付は1200m付近。池ノ谷出合が1050mなので、まだまだ先だ、と思ったのも無理はない。 高度計を確認しながら、1200m付近まで登り、右手の小窓尾根を注意して見ていた。 しかし、何が雷岩なのかさっぱりわからない。1200mを明らかに越えたあたりに来ても全くそれらしき踏み跡はなく、「登ろうと思えば登れるけど……」というルンゼが見つかるだけだった。雪があれば雪壁になって登りやすいが、雪のない時期は何もないのだろうか、といぶかしく思う。TさんとKさんは5月の残雪期に池ノ谷からの小窓尾根越えを下降ルートとして使っていたが、そのときは雪があって、適当な雪壁を懸垂下降したらしい。かつてあった踏み跡も今ではもう消滅してしまったのだろうか。無雪期にはルート不明瞭になってしまうのだろうか、と思っていた。 1時間ほどルートを探るが、はっきりした踏み跡はどこにもない。ともかく、登っていけば、小窓尾根には到達するだろう、と“雷岩”らしき顕著な大岩があるルンゼから登り始めた。〈★このルンゼを登りだしたのだが〉 最初はジャリジャリながら何とか登れるような感じだったが、すぐにヤブに突入。木登りと笹の猛烈なヤブ。なるべく尾根筋を進んでいくが、雪山装備の詰まった大きなザックが枝に引っかかってもう大変。〈★ヤブに突入〉 2年前の5月連休に行った、別山北尾根のヤブ漕ぎを思い出した。剱と言えばヤブ漕ぎなのか? 木登りは全身のパワーを使うため、消耗が激しい。Tさんのペースが落ち、休憩も多くなった。 1400m以上からは雪が出てきた。足が滑ってますます歩きにくい。 Tさんのペースが上がらず、このままでは明るいうちに尾根に上がれないと判断、Tさんの荷を二人で分配して持つことにした。 高度計を見ると1600mは近いはずなのに、急傾斜はまだまだ続いている。 雪も増え、暗くなってきた。アイゼン、ヘッドランプ、アックスを使用する。 軽くなったTさんのペースは戻り、T、K、神谷の順でそれぞれ30mくらいずつ離れて登高していた。もう真っ暗で、ヘッドランプで照らされた周辺しか見えない。雪に残る先行者のトレースをひたすら追いながら登っていく。 と、突然ガラガラと大きな音が上から迫ってきた。何も見えないが、大きなものが眼の前を落ちていったようだ。まさか人が落ちたのか? 「Kさーん。大丈夫ですかー」 声を掛けると上から返事が戻ってきた。ただの落石だったらしい。先頭のTさんが落石をおこしてしまったとか。この真っ暗な中、滑落したらどうしようもないだろう。人が落ちたのではなくてよかったと一安心。 しかし、この落石、人には当たらなかったが、Kさんのザックに直撃していた。それもTさんからもらい受けたガス缶に当たってしまっていた。缶には穴が開き、ガスが漏れ、ザックは気化熱で凍りつく始末。このまま持っていたら、その他の装備にも被害が出てしまう。やむなくガス缶はその場に残置することにした。 その後も、暗くて状況のわからないまま、ひたすら登り続ける。視界がないので、ここは小窓尾根に乗り上げているのか、まだ側稜なのかもわからない。しかし、ともかく平坦地を探してテントを張ることを目指し、登り続けるだけだ。 そのうち雪が降り出してきた。最悪の状況の中、1800m付近でようやくテントを張れそうな場所を見つけた。広くて平らとはいえないが、笹を押し倒して、何とか場所を確保する。その頃には、雪はかなり激しくなってきていた。 テントに入り、食事などして落ち着くが、予想外のヤブ漕ぎにみんな疲労気味。 天気予報によると、今降っている雪は明日も続きそうだ。ここまでのヤブを考えると、明日どう動くにしても相当苦労しそうだった。しかも、ガスを一缶失ってしまったというのが致命的だ(全部で四缶のうちの一缶)。この時点で明日の下山を決めた。 ただ、下山するなら、小窓乗越をきちんと見極め、本来のルートがどこだったのかを確認しながら下ろう、と思っていた。 第二日目--The second day-- 11月21日(日) 夜中雪は降り続いたが、朝には青空となっていた。 明るくなって、周りの様子を見てみると、我々は完全に小窓尾根の上にいることがわかった。地形から見ても小窓尾根上の1800m付近だろう。トラバースを繰り返しているうちに、いつの間にかこんなところまで登ってきてしまったようだ。 天気はよく、このまま下山してしまうには惜しいような気もしたが、剱本峰方面には雲がかかっていて、天気予報どおり稜線上は荒天となっていると思われた。 あいかわらずのヤブをひたすら下って1614m台地(小窓乗越)到着。〈★雪の付いたヤブ下り〉 そこには、あまりにも立派な踏み跡と、赤布がついていた。白萩川からの登行路も、池ノ谷への下降路も、一般登山道と変わらぬ位のしっかりしたものだった。これだったら、昨日のうちに十分ここまで登れただろうし、むしろ、池ノ谷に下りて二股まで行けていたかもしれない。 青空の下、そんなことを思うが、いまさら仕方がない。すでに11時近く、これから剱尾根に向かうことはできない。そもそも燃料が足りないのだ。〈★剱尾根はまだ遠い〉 赤布がしっかりついた踏み跡(というより登山道)を一気に下り白萩川に出る。 出たところは、池ノ谷出合からほんのすぐのところだった。右岸をへつった場所の対岸。赤布があるな、と目の横のほうでちらっとだけ確認した場所だ。あのとき、ちゃんと赤布の場所まで見に行っていれば、雷岩がわかったはずなのだ。 何しろその大岩には「雷岩」とペイントされているのだから。〈★これが雷岩〉 一応、絶対間違えない雷岩チェックポイントを書いておく。積雪期なら適当に雪壁を登っても問題ないかもしれないが、無雪期は、この踏み跡をたどらないと大変な目に遭う。 ・池ノ谷出合から10分くらいで、標高1100m付近。出合から雷岩自体は見えないが、その手前の大岩は見えている。 ・右岸に↑(赤ペンキ)がついている。その通り進むと、岩場に残置ピトンなどが見つかるが、手前で対岸に渡渉したほうが分かりやすい。 ・岩場を登った先でも渡渉できる。対岸に転がっているボルダリングできそうな大岩が雷岩である。 ・岩の下流側に「雷岩」とペイントしてあるが、位置が低いので、積雪期は隠れてしまうだろう。 ・雷岩から踏み跡をたどっていくと、「池ノ谷↑」と書かれた立派な道標がある。〈★立派な道標〉 なお、10月に小窓尾根を登った記録を見つけたので、リンクしておく。 取水口から高巻きすると、池ノ谷出合の手前に出るらしい。 http://kfn.ksp.or.jp/~yuuko/climbing/report/tsurugi2.html 取水口にザックを置いて、Tさんのみ車を取りに戻った。待っている間に雨が降り出した。結構強い降りとなり、やはり剱尾根に行かなくて良かったかもしれないな、と思った。 さて、初冬の剱尾根計画は、全く剱尾根に手を触れることなく2日で終了してしまった。 山行予定はまだ2日を残している。 だったら、近場の明星山に転進しよう、ということになった。 しかし問題は、フラットソールとルート図がないということ。でも左岩稜くらいなら登れるだろう。フリーがダメでも人工で。と一路ヒスイ峡を目指して移動開始。 途中、金太郎温泉で風呂に入り、寿司を食べてリフレッシュする。 第三日目--The third day-- 11月22日(月) 直上ルートを登るパーティが1つあるだけで静かなP6南壁。いつもは大混雑の左岩稜も今日は我々の独占となりそうだ。 左岩稜は2年前に登っているが、人工部分のボルトがリングなしで大変だった、という記憶しか残っておらず、そのほかがどんなルートだったかあまり覚えていない。 8ピッチくらいだから、3人が3ピッチ分くらいずつリードする、ということにして、ジャンケンでオーダーを決める。 一番勝ったが、靴が何しろ運動靴なので、様子を見るために二番目に登ることにした。 9時35分登攀開始。 1ピッチ目【Kリード】 取付に新しいリングボルトが二本打ってあった。確かこんなものは2年前にはなかったはずだが。 そこから灌木などで支点を取りながら壁へ向かう。 しかしこの出だしの岩が核心だった。運動靴では、フリクションも細かいフットホールドもあったものではない。トップも何度か行ったり来たりしながら、苦労して抜けて行った。 フォローで登っても、つるつる滑って足が決まらず、結局テンションをかけつつ、A0になってしまった。フラットソールだったら、あっさり登れてしまうだろう。靴の力は偉大だ、と改めて思う。 2ピッチ目【Kリード】 凹角からスラブ。これくらいだったら運動靴でも登れる。 3ピッチ目【Kリード】 2年前、リングなしボルトにタイオフしながら登っていった場所は、すべて残置スリングがかかっていた。しかも、すぐ横に新たにペツルボルトのボルトラダーができていた。フリーウィル用のペツルボルトとは別に、である。タイオフしながら登るのは大変だな、と感じたのは確かだが、ここまでやるのはやりすぎじゃないかという気もする。 何の不安もなく、ボルトラダーをクリアする。人工になってしまえば、運動靴でも関係ない。 4ピッチ目【Kリード】 まだ10mほど人工部分が残っていたので、そこを登りテラスへ。 5-8ピッチ目【神谷リード】 バンドから松ノ木テラスへ。ルート図がないので、なんとなく覚えている記憶を頼りに登る。運動靴なので、易しいところでもなるべく支点を取るようにする。 9-11ピッチ目【Tリード】 リッジ伝いに大岩を越えて、終了点へ。暖かくて(むしろ暑いくらいで)気持ちがよい。 13時15分登攀終了。 1ピッチ目(のワンムーブ)だけは苦労したが、あとは運動靴でも問題なかった。 3ピッチ目のボルトラダーがペツルになってしまっているのはびっくり。色とりどりの残置スリングが垂れ下がっているのもあまり美しくない。ペツルとボルトの両方が並んで続いている意味はあるのだろうか。いっそどちらにしてしまえばよいのに、と思う。 第四日目--The forth day-- につづく |
11月20日(土) 曇りのち雪
9:35 馬場島発(14℃)
13:30 小窓尾根取付(8℃)
18:05 テント設営1800m付近(8℃)
11月21日(日) 曇りのち雨
9:50 テントサイト発
10:45 1600地点・小窓乗越(3℃)
12:00 白萩川・雷岩(6℃)
13:05 取水口(6℃)
11月22日(月) 晴れ
8:45 駐車場
9:05 取付着
9:35 登攀開始【左岩稜】
-10:00 1ピッチ目(21℃)
-10:50 2ピッチ目(17℃)
-11:15 3ピッチ目(18℃)
-11:40 4ピッチ目(19℃)
-11:55 5ピッチ目(19℃)
-12:45 8ピッチ目(17℃)
-13:15 11ピッチ目(終了点)
14:05 駐車場
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