「四日間--4days--」
剱尾根(小窓尾根から下山)
明星山P6南壁左岩稜、マニフェスト(事故)

2004年11月20日(土)〜23日(火)
神谷(記)


その後の状況、そして。(事故報告書からの抜粋)

●Tの症状
・左仙骨骨折(骨盤の後方、尾骨の上の方)
・両恥坐骨骨折(骨盤)
・左2,3肋骨骨折(左側の肋骨の上から2番目と3番目)
・左足2,3趾骨骨折(左足の人差し指と中指)
・頭部、内臓等には今のところ問題は見られない。
それぞれの骨の位置や形などは以下のサイトを参照。
http://web.sc.itc.keio.ac.jp/anatomy/osteologia/osteologia01.html
・頭部、内臓等には今のところ問題は見られない。

●治療
・安静、全身状態の管理、創の処置を行なう。
・手術の予定なし(安静にしておけば、そのうち骨がくっつく。後遺症も残らないだろう)。
・入院約3週間、通常の生活に戻るまでは1ヵ月半くらい。

●連絡、経過
・D(山行管理係)に電話するが、留守番電話だったので、メッセージを残し、かけ直してもらうようにする。
・TS(チーフリーダー)に電話。事情説明して、他の主要会員への連絡を依頼。
・Dからその後折り返しの電話あり。事情を説明。
・TSからRK、KNなどに連絡。
・最終的にKNに情報を集約することになる。
・病院に着いてから、Tの奥さんに連絡を取る。(明朝こちらに向かうとのこと)
・病院で医者から症状などの説明を受け、各所へ報告。
・Kは明け方帰宅。
・神谷は翌朝まで待機し、Tの奥さん到着を待って事情説明後、帰宅。

●予想される事故原因など
・リードした本人は、事故の瞬間のことを覚えていない。そのため、原因は状況から推測するしかない。
・下部城塞の核心部は越えており、緩傾斜帯に入っていたと思われる。
・本人が「ラク」と叫んでいるので(本人はそのことも覚えていない)、浮き石を掴んだか、足を乗せた場所がちょうど浮き石だったかで、足場の崩壊とともに身体のバランスを崩したと思われる(落ちてきた石は人間大のもので、かなりの大きさであった)。
・ただ、本人が墜落した時の落下の軌跡が、壁からだいぶ離れたところを、頭を下にして放物線を描いたようになっていたことから推測すると、安定していたと思われる大岩にテンションをかけたところ、全く予期せずその大岩が動き、バランスを失い、大岩とともに落下したと見るのが妥当と思われる。
・ロープに残っていた中間支点を見ると、カムが3つと残置ピトンが1つだった。これらすべてが外れてしまい、墜落係数2での墜落になった。
・墜落時に、左半身を壁に打ち付けたと思われ、左側の負傷の具合が大きかった。
・ヘルメットは墜落時に外れたものと思われるが、頭を打っていなかったのは不幸中の幸いである。
・また、ビレイ点が崩壊しなかったのも幸いだった。最悪のケースでは、三人とも引きずられて落ちてしまった可能性もある。

●今回の事故における教訓など
・救助訓練の重要性
偶然にも事故の前週に山岳会の救助訓練を行なっていた。そのときのケーススタディでは、フォローに落石が当たり動けなくなり、二人同時に懸垂下降させる、というものだった。
今回はリードが墜落したものだったが、結果として、ビレイヤーよりも下の地点に落ちたことで、非常に似通った状況となった。
マッシャーでバックアップを取って懸垂下降し、要救と急救を連結させて下降する方法は、救助訓練を行なっていたために、冷静に手順を思い出すことができた。懸垂中でも常に止まることができ、要救の荷重がかかっていても、ゆっくり降りられることができたので、非常に有用な技術であると再認識した。
ただ、要救の荷重がかかった状態でのロープ連結部の通過を、訓練で実際に体験しなかったので、頭でやり方はわかっていても、現場で多少の不安を感じていた。ただ、手間取ったときにはどうするか、という方法は事前に打ち合わせており、万一の場合にも備えていた(実際には連結部の通過は行なわなかった)。
・ビレイ用の手袋の必要性
今回、素手でビレイを行なっていたが、落下係数2の荷重がかかったため、とても素手で止められるような状態ではなかった。逆に、ビレイヤーの両掌に擦過による火傷(水泡)、裂傷、突き指を負ってしまうことになった。またロープも数メートル分流れてしまった。ここで皮手袋をしていれば、少なくともビレイヤーの負傷は軽減されたと思われる。
・ナイフの必要性
墜落者は、メインロープをエイトノットしており、墜落荷重がかかったため、ほどけなくなってしまった。そのためロープの切断を考えたが、ザックに入れていてすぐに取り出せなかったりした。ナイフはとっさの場合に使用することが多いので、首からスリングで掛けるなど、すぐに取り出せる場所に持っていることが必要である。
・ジャンピングセットの必要性
今回、ジャンピングセット(ボルトセット)を取付に置いてきてしまっていた。そもそもハンマーをテントに置いてきてしまったためにジャンピングも置いてきたのだが、メジャーなルートであるし、実際それほど必要性を感じていなかった。
しかし、今回のように、急いで下降しなければならない場合、不安を感じるビレイポイントであっても、ボルトを打ち足すことで補強できれば、もっと迅速な下降ができたかもしれない。
ルートの状況や軽量化との兼ね合いもあるが、緊急時を考えれば、なるべくジャンピングセットは持っていたほうがいいのかもしれない。

●今回の事故からのシミュレーション
・2人パーティだったらどうするか。
→要救の地点まで降りてから、もう一度登り返してマッシャーのフィックスを解除する必要がある。
→要救を連結したまま、下降点を探して、右へ左へ身体を振るのは、要救への負担も大きいし、懸垂支点への荷重も余計にかかってしまう(一旦、要救を安定した場所に移動させるべきか)。
・最初の懸垂で要救の場所まで届かなかったらどうするか。
→今回は要救のすぐ近くまで降りることができたが、全く届かない場合はどうするか(例えば、30m分ロープを伸ばして墜落した場合、手元には20m分しか残っておらず、要救の地点まで降りられない)。
→要救の容態を考えると、吊り上げシステムで要救を持ち上げるのは、大きな負担がかかり危険な場合もある。
→降りられるところまで降りて、そこに新たに懸垂支点を作り直し、少しずつ降りていくのが良いか(ただしジャンピングセットなどが必要)。
・トップの落石で、ビレイヤーも負傷。動けるのが1人だけだったらどうするか。

事故報告書


この記録に関するお問い合わせなどはこちらから。


[入口] [山記録]