山行短信
東京YCC 救助訓練 (榛名/黒岩 および 裏妙義/ロックガーデン)

2004年11月13日(土)〜14日(日)
神谷(記)


榛名の黒岩および裏妙義のロックガーデンで行なわれた東京ヤングクライマーズクラブの救助訓練の概要です。ほぼ実践形式で、ケーススタディとして救助訓練が行なわました。
講師は長岡健一氏(東京YCC所属)

〈ご注意〉
以下、救助訓練で行なったケーススタディの状況説明を、文章で説明していますが、絵も写真もないため、これだけ読んでも非常に分かりにくいと思います。行動のすべてを記述しているわけではなく、省略されている部分もあり、これは、あくまで自分のためのメモということを主眼において書いてあることをお断りしておきます。
また、内容に間違っている点などもあるかもしれませんので、実際に行なう場合は自己責任でお願いします。
詳しいテクニックについては、 「Self-Rescue」(David.J.Fasulo)→【amazon】(洋書)を一読されることをお勧めします。適宜、同書における参照ページを示しておきました。



【シチュエーション】
全5ピッチのマルチルート。トップが4ピッチを登りきった時、フォローが落石により前頭部に出血、声をかけたが応答が無い。動きはあるが、かなり出血はひどいようだ。
(40才 男性 晴れ)


〜ケース1〜
岩壁のすぐ下が登山道(または平らな地点)となっている。また、近くに救助してくれるパーティがなく、自分たちだけで処理を行なわなくてはならない場合。


◆基本方針

フォローの様子を確認するために、トップはビレイから自己脱出して、フォローの地点まで下降する。
フォローは自力で動けないので、取付まで降ろすことにする。

◆概要
フォローに何らかの異変が起こったことはわかるが、詳細は不明な状況。応答がないため、ともかく、一旦トップはフォローの近くまで行って、様子を確認しなくてはならない。
ダブルロープで登っているので、一本のロープをフォローがそれ以上落ちないようにそのままフィックスする。
もう一本は、末端をフィックスし、それを使ってトップがフォローの地点まで懸垂下降する。
(確認すると、前頭部の出血があり、自力で動くことは不可能であることが判明した。)
登攀終了まで残り1ピッチではあるが、フォローは自力で動けないため、吊り上げるよりも下降させたほうが良さそうだと判断する。
フォローの応急処置を施した後、3ピッチ目のビレイ点まで二人同時に懸垂下降する。
フォローを3ピッチ目のビレイ点に残して、トップは4ピッチ目ビレイ点まで登り返す。
フィックスを解除して、懸垂下降で3ピッチ目のビレイ点へ。
そこから取付まで3ピッチ分あるが、懸垂下降で直線的に降りれば、100m以内で降りられるだろう。
したがって、50mロープ2本を連結して、二人同時に懸垂で降りる。(ロープは残置)

◆実践
以下は、トップ(急救)の動きを示す。フォローは“要救”と呼称する。
ちなみに、「要救(ようきゅう)」とは要・救助者、つまり「事故者」を指す。また、「急救(きゅうきゅう)」とは急・救助者つまり今すぐにその技術を持って、救助に向かえる事のできる人、つまり「救助隊員」を指す。(レスキュー、消防用語)

---自己脱出---
○事故発生。声をかけるが応答なし。異常事態と判断。
○ルベルソで支点ビレイをしていたため、オートロックで両手が離せる状態である。
○メインロープ(9mm×50m×2本のダブルロープ)のうちの一本にマッシャーをとり、確保支点のカラビナとマリナーノットで連結。(このロープを仮にAとする)
○バックアップのため、マッシャーの20-30cm先をエイトノット(など)で確保支点のカラビナと連結しておく。
○ビレイを解除し、ルベルソを支点から外す。

なお、ATCなどでボディビレイをしていた場合、ミュールノットで仮固定した後、エイトノットでバックアップ。さらにマッシャーで荷重を移してから、ビレイを解除する。

→「Self-Rescue」 p24-27参照(この図では、マッシャーとエイトノットの間をムンターミュールで連結し、ムンターミュールに荷重を移している)

---要救の地点までの下降---
○メインロープ以外で改めてセルフビレイを取り直す。
○自分のハーネスに結んであるメインロープを2本とも外す。
○ロープA(要救の荷重がかかっている)の末端はエイトノットなどで、確保支点にかけておく。
○もう一方のロープ(Bとする)の末端をフィックスする。フィックスは、ラビット(またはバタフライ)など加重がかかっても解除しやすい方法で行なう。また、バックアップも必ず取る。
○中間支点などを回収しながら、要救の地点までロープBで懸垂下降する。
○懸垂下降は、いつでも両手が離せるように、下降器の下にマッシャーをセットしておく。下降器は、デイジーチェーンなどを使って、体から離すようにする。マッシャー部分を握れば下降するし、手を離してもマッシャーで止まることが出来る。

→「Self-Rescue」 p31-32参照

---要救の処置および3ピッチ目ビレイ点までの下降---
○自分のハーネスと要救のハーネスをスリングなどで連結する。
○その後、状況確認、適切な応急処置を行なう。頭部を負傷しているので、首が動かないようにフリースなどを巻きつけて固定する。
○二人同時懸垂(カウンターウェイトラッペル)で3ピッチ目ビレイ点まで下降する。
○ロープBにセットしてある自分の下降器をフォローにも連結する。一つの下降器に、自分と要救の二人が分岐して連結されている状態となる。
○このとき、要救の荷重が、その下降器に完全にかかるように、下降器と要救の距離を調整する。この調整は、デイジーチェーンだと楽に出来る。下降器からの距離は、自分よりも要救のほうが短くなるように。目安としては、下降器と自分はデイジーチェーンの5-6個分。要救は2-3個分。
○ロープAを要救から解除する。現状では、ロープAに要救の荷重がかかっているため、マッシャーとカラビナによる吊り上げで、荷重を抜かないと、ロープの解除が出来ない。吊り上げがどうしても不可能な場合は、ロープを切ることも考えるが、そのときも、いきなり切ってしまうと、要救に強い衝撃がかかってしまうので、マッシャーなどで別途連結して衝撃を和らげる。
○要救を背負うために、要救の身体にスリングをかけ簡易チェストハーネスとする。長めのスリングを使うかガースヒッチで2本を連結する。そのほか、アブミなども利用できる。スリングの場合、要救の両腕にリングを通してしまうと、背負ったときに要救の首が絞まってしまうので、通すのは片腕だけにする。
○背負うときは、下降器から要救へのスリング(デイジー)が自分の肩の上に来るように注意する。下降器と要救の距離が適切ならば、自分への荷重はほとんどかからないはずである。逆に要救の荷重が完全に下降器にかかっていないと、自分が非常に辛い状態になる。
○要救が背負っていたザックなどはその場に残置しておく。
○なるべくゆっくり、要救に負担をかけないように下降する。

→「Self-Rescue」 p51参照(この図と上記の説明はちょっと異なる)

---3ピッチ目ビレイ点到着---
○要救のセルフビレイを取り、なるべく身体を冷やさず安定させた状態で、横たえておく。
○自分は、懸垂してきたロープBをユマールまたはマッシャーにより、4ピッチ目ビレイ点まで登り返す。
○ビレイ点でフィックスの解除などを行ない、ロープAとBを連結させてダブルロープで懸垂下降し、要救の地点に戻る。
○3ピッチ目ビレイ点で、ロープAとBを引き抜く。

---取付までの下降---
○ロープAとBが連結された状態で、片方の末端をフィックスする。
○50mロープ2本が連結されているので、直線距離約100m分となり、ロープの末端は取付まで届く。(ロープは、ここに残置するのが前提)
○フィックスロープを懸垂下降するが、この懸垂は、連結部分のコブの通過がポイント。
○コブの通過がある場合は、下降器の上部にマッシャーを作り、さらにマリナーノットで自分のハーネスと連結しておく。
○コブが近づいたら(あまり近づきすぎないこと)、コブの下にマッシャーを作る。それを自分のハーネスのレッグループに連結する。
○コブの上のマッシャーを引き寄せて、荷重を下のマッシャーに移す。
○荷重が移ったら、下降器を一旦ロープから外して、コブの下に付け替える。
○その後、上のマリナーおよびマッシャーを回収する。
※ただし、この作業を要救を背負った状態で行なうのは非常に困難である。そのあたりは、まだ考慮の余地があると思った。

→「Self-Rescue」 p48参照(この図と上記の説明はちょっと異なる)


〜ケース2〜
岩壁のすぐ下に川などがあり、渡渉が必要。また、事故者パーティ以外に2人の救助パーティがその場におり、現場に登ってきてくれることができる。


◆基本方針
4ピッチ目ビレイ点から対岸までフィックスロープを張り、張り込み救助を行なう。
要救に急救が一人付くのではなく、単独で下降させる方法を考える。

◆実践
---準備---
○事故者は動けない。トップは4ピッチ目ビレイ点にいる。ロープは事故パーティと救助パーティの各2本ずつ、計4本使うことができる。
○救助パーティが下から要救の場所まで登っていく。
○一人は、そこでセルフビレイを取り、要救に対して応急処置を行なう。また、要救にスリングで作った簡易チェストハーネスをセットする。このスリングにはかなりの荷重がかかるので、なるべくありったけのスリングを使い、何重にも巻きつけるのがポイント。
○もう一人は、4ピッチ目ビレイ点まで登る。そこにフィックスを張り、要救の地点まで懸垂下降。(このフィックスしたロープをAとする)
○要救の地点を通過して、取付まで降り、さらに渡渉して対岸のある程度高い位置にロープAをフィックス。同時に別の1本のロープを要救と連結しておく。(対岸から要救に連結されたロープをBとする)
○フィックスを張る場合は、三分の一システムを使うなどして、なるべくロープがたるまないようにする。
○事故パーティのトップは、自己脱出などして、シチュエーション1と同様にダブルロープのうちの1本をフリーにする。(要救の荷重がかかっているロープをC、フリーになったロープをDとする)
○ロープDは、要救を上からビレイするために使用する。

この時点で、4ピッチ目ビレイ点に一人(上からビレイする人)。要救の地点に一人(要救の処置を行なう人)。下降して対岸に一人(下からビレイする人)。という状況になっている。

---張り込み救助---
○要救の荷重がかかっているロープCを解除して、ロープDに荷重を移す。ロープDは上からビレイされている。
○上からのビレイで少しずつ要救を降ろしていく。要救は、フィックスされたロープAにハーネスと環付カラビナで連結されている。(下降するのは要救のみ)
○徐々に降りてきたら、下の人が声をかけながら、ゆっくりロープBを引っぱり、要救を引き寄せる形になる。
○ある程度降りてくると、要救の重みで、ロープがたるんでくる。そのままでは、川に落ちてしまうので、フィックスした位置よりもさらに高い地点にもう一つ支点を作り、マッシャーで引き上げるようにする。


●必要な技術
・エイトノット(フィギュアエイト、8の字結び)
・クローブヒッチ(インクノット)
・ムンターヒッチ(半マスト)
・マッシャー(オートブロック)
・マリナーノット
・ミュールノット(仮固定に使用)
・オーバーハンド(結びのバックアップに)
・ムンターミュール
・ガースヒッチ
・ガルダーヒッチ
・ラビット、変形ラビット、バタフライ(加重がかかってもほどけやすい)


その他、1/3システム、1/5システム、1/9システム、シート梱包および搬送を行なったが、詳細は省略。

●参考資料
山岳遭難の防止(富山県山岳連盟 遭難対策委員長)
→登山用語集に結び方などの説明あり。
雷鳥シアタア
→QuickTimeによる結び方のムービーあり。
張り込み(消防・防災最前線 救助活動編:張り込み式救助訓練)(舞鶴市消防本部)
→消防による張り込み式救助。要救に一人急救がついています。

・「Self-Rescue」(David.J.Fasulo)→【amazon】(洋書)
→マリナーノットの図が違うので注意。正しくは、「全図解〜」を参照。
それ以外は、非常に詳しくて参考になる。
・「全図解クライミングテクニック」(山と溪谷社/堤信夫)→【bk1】/【amazon】
→図解が分かりやすい。セルフレスキューもわりと詳しい。



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