「3年目にして、3回目で。」
明星山 P6南壁 フリー・スピリッツ

2003年9月15日(月)
メンバー:村野(同流山岳会) 、神谷(記)
報告内の★マークは、写真へのリンクです。


<パノラマトラバース>


フリー・スピリッツは、三回目の挑戦である。
一昨年は、6ピッチ目。うめぼし岩の先の、トラバースを間違えた。気付いて、引き返すときに滑落。再び登り返すも、余力がなく、そこから、懸垂下降。
昨年は、11ピッチ目。パノラマトラバースのバンドを間違えた。間違えた先に偶然あったボルトから、懸垂下降。他パーティの墜落、救助などあって、中央バンドから下降路へ。

そして、今回が3回目。

もう、間違える場所はないはずだ。
パノラマトラバースを間違えなければ、残すは実質2ピッチのみ。
外的なアクシデントさえなければ、今度は登れる、そう確信していた。
パートナーも過去2回と同じ村野さん。2回とも私のミスで下降を余儀なくされている部分があるので、どうしても、同じパートナーでなければならなかった。

本チャンは久しぶりだった。
5月にヨセミテには行ったが、その前となると、2月の唐沢岳幕岩大凹角ルート以来だった。しかし、不安はなかった。
前日、対岸からルートを確認したとき、1ピッチずつルートの状況のイメージを頭に浮かべることができた。
間違える場所はない。墜ちる場所もない。あとは繋げるだけだ。
取付、うめぼし岩、中央バンド、パノラマトラバース、そして終了点。
頭の中で全てが繋がり、一本のルートとなった。

三回目の挑戦。
登れる、という確信はあったが、逆にプレッシャーも感じていた。
これを越えなければ、次のステップには進めない。
これは、自分にとっての再スタートでもある。
そして、これほどまでに再スタートにふさわしいルートもないと思っていた。


9月15日(月)
余計なルートの事は考えず、今年は、ただフリー・スピリッツに集中しようと思っていた。三連休のうち二日を使い、前日中にキャンプ場入り。登る前から温泉に入り、ゆっくり休んで、朝を迎えた。(キャンプ場は、日暮れごろになると蚊が大量発生。蚊取り線香必須なので注意。)

数日前に台風が日本海を通過していたので、増水が心配だったが、それも問題ない。渡渉は、飛び石で十分わたれる程度であった。

去年と同じ時間に起床。去年と同じ時間に登攀開始した。
考えることは何もない。ただ、目の前の壁を登るだけだ。
三度目の取付。もう見慣れた場所だ。他パーティもいない。

1ピッチ目【村野リード】
去年とは、リードの順番を入れ替えた。つまり、一昨年と同じオーダーと言うわけだ。
III級程度の草付の左上。<★壁は遥かそびえたつ>
久々の本チャンなのだが、思った以上に身体は動く。

2ピッチ目【神谷リード】
出だし垂壁。あとはトラバース。
垂壁は、よく探せば、スタンスもホールドもあるので、思い切って行ける。登ったところにカムで支点を取る。その先はあまり支点が取れない。

3ピッチ目【村野リード】
クラックをアンダーで行く。大き目のカムが有効。キャメロット#3は、ここで使うが、これ以降使い途がないので、多少のランナウトを我慢できるなら、#3は不要かもしれない。<★アンダーで豪快に>

4ピッチ目【神谷リード】
少し登って、下りトラバース。去年あった、お助けスリングはなくなっていた。過去2回、ここのトラバースは怖かった記憶があるのだが、今回は、すんなりいけた。ワンポイント思い切って足を踏み出せば、あとは安定する。

5ピッチ目【村野リード】
前半部核心のうめぼし岩。出だしのトラバースは、なるべく下寄りに。上の壁に近づきすぎると、余計に怖くなる。<★うめぼし岩へ向かうトラバース>
うめぼし岩自体は意外にあっさり抜けたが、その先のトラバースが嫌だった。スタンスのない下り気味のトラバースは、特にフォローだと怖く感じた。

6ピッチ目【神谷リード】
カンテを越えるまでが悪くて、細かい。カンテを右に抜けると、あとはスラブの直上。前回通過したビレイ点で一旦ピッチを切る。

7ピッチ目【村野リード】
凹角からさらにスラブへ。傾斜は緩くなり、草付雑じり。
朝晴れていた空には雲が増え、少し雨さえ降ってきた。

8ピッチ目【神谷リード】
前回かなり怖かったピッチ。6ピッチ目を途中で切ったので、またリードすることになってしまった。出だしは右側の凹角を登ったほうが楽そう。左にも支点があるが、そっちのほうが脆い。とは言え、右の凹角だって、手を置くところも、足を置くところもみんなボロボロで、全部崩れそうな感じがしてくる。残置ハーケンも信用してよいのかどうか。カムをセットしてみるが、気休め程度。
ハングを越えて、バンド上の部分に出ると、ほとんど支点は取れない(というか、全く中間支点は取らなかった。)。傾斜は緩いが、足場が脆いので、落石に注意。ある程度バンドを登っていくと、左側にテラスがあり、ビレイ点はしっかりある。

9ピッチ目【村野リード】
中央バンドを横切って、一段上の上部壁の取付テラスまで登るピッチ。技術的には難しくないが、中間支点は、灌木で1-2箇所ようやく取れる程度。<★黒い垂壁が見える>
前回は、このピッチを登っている他パーティが墜落して、ヘリで救助された場所でもある。ビレイヤーも緊張する。

ここで9時30分。昨年と全く同じペースである。行動食と水を摂って、小休止。雲行きは怪しく、雨がたまにポツポツとくる。予報では晴れのはずだったのだが、雲は厚い。
昨日の日中は、異様に暑かったので、陽射しがないことは、幸運なのかもしれない。しかし、このまま本降りになったらどうしようかと思う。本格的に降り出したら、濡れると滑る石灰岩は怖い。下降するしかなくなるだろう。私は、そこまでこのルートに嫌われているのか。少し不安になる。

10ピッチ目【村野リード】
6ピッチ目を途中で切ったので、リードとフォローの順番が入れ替わってしまった。ここで、もう一度交替することにした。
ここは、ルートの取り方が資料によって違うところだ。スラブを登って行くと、ランペに到達。ランペには残置支点がある。そこから、階段状の凹角を登っていくが、途中にビレイ点となりそうな場所もなく、結局、前回と同じ場所でビレイ。

11ピッチ目【神谷リード】
「垂壁の左のカンテを越えクラックを登り、再び右に戻る(チャレンジ!アルパインクライミング・東京新聞出版局)」「垂壁左のカンテを登って左にトラヴァースし、右上するクラックを登る(日本のクラシックルート・山と溪谷社)」などと書いてあるが、よく分からない。
直上してくる「ACC-J」や「マニフェスト」の支点が紛らわしい。結局適当に登って、前回と同じテラスに着く。古いFIXロープは、まだあった。

12ピッチ目【村野リード】
ビレイ点から、左へ5mトラバース。3mの凹角から、さらに左に一旦下ってしまうと、前回間違えたトラバースルートに入る。一旦下ったテラスにビレイ点らしき残置支点があるのが、また嫌らしい。<★正面の岩を下に回りこんではだめなのです>
パノラマトラバースは、そこを下らずに、さらに垂壁を5mほど登る。そこに(ビレイ点からも見える)リングボルトがあり、本来のトラバースルートのスタートとなる。
トラバース中の高度感は、まさに圧巻。残置支点は多いが、頭を抑えられつつ、下り気味のトラバースになるところもある。これこそ確かにパノラマトラバースだ。<★パノラマトラバース前半><★パノラマトラバース後半>

13ピッチ目【神谷リード】
上部核心。真上のスラブから、フィンガリーな垂壁。一歩進めば、手が届くところに支点がある。その絶妙なさじ加減が、素晴らしい。しかし、リードするには、精神的にちょっと厳しかった。支点を取るときに、どうしてもA0になってしまった。ホールドもスタンスもあるのが分かっているのだけれど、気持ちがついてこない。こういうところは、外の岩場に半年触っていない、という弱みが出てきたのかもしれない。
核心を登ってしまうと、あとは緩傾斜帯。支点がないのか、見つからないのか、どこでも登れてしまうので、ルート取りに迷う。ビレイヤーと声も届かないので、どこまで行っていいのか分からず、適当なところで止まり、カムを使ってビレイ。<★対岸の道路がかなり下に見える>

14ピッチ目【村野リード】
南山稜の稜線目指して、緩傾斜帯から大岩を越える。

15ピッチ目【村野リード】
稜線に出たところで、懸垂下降用のものらしきスリングが、岩に巻きついているものを発見。スリングは古そうで使う気になれなかったので、ロープをつけて、1ピッチ分灌木帯をクライムダウン。

そこからロープをはずして、10mほど降りると、左岩稜の大岩の上に出る。下降路用の赤テープもあって、毎年歩いている既に見慣れた場所。
ギアをはずして、下降に入る。



ここまで、苦労してきた分だけ、登れた感激は大きい。
一撃で登ったって、いいルートには違いないだろうが、三回かけて登った、ということで、感慨もひとしお。
雨が、途中ポツポツと来たが、何とか最後まで本降りにはならず、登りきることができた。
思い入れもあるルートだし、忘れられないルートになると思う。

実際、このフリー・スピリッツは、脆いところも何箇所かあるが、弱点から弱点へと繋げていく、素晴らしいルートだと思った。対岸から、何度も壁を見ながら、研究を重ねて、登って行ったのではないだろうか。行き当たりばったりではない、計算されたルート取りだと感じた。

ようやく、一つ肩の荷が降りた気がした。
これでまた「次」を考えることが出来る。





9月15日(月) 曇り時々雨
4:00 起床
5:20 駐車場発
5:40 登攀開始(19.3℃)
〜6:05 1ピッチ目(20.2℃)
〜6:20 2ピッチ目(19.3℃)
〜6:45 3ピッチ目(20.4℃)
〜7:10 4ピッチ目(25.9℃)
〜7:55 5ピッチ目(うめぼし岩・31.1℃?)
〜8:20 6ピッチ目(28.6℃)
〜8:40 7ピッチ目(28.1℃)
〜9:10 8ピッチ目(24.8℃)
〜9:25 9ピッチ目(23.0℃)
〜9:40 小休止(中央バンド・23.9℃)
〜10:10 10ピッチ目(22.5℃)
〜10:45 11ピッチ目(22.6℃)
〜11:15 12ピッチ目(21.9℃)
〜12:05 13ピッチ目(23.6℃)
〜12:25 14ピッチ目(南山稜終了点・23.7℃)
〜12:50 15ピッチ目(クライムダウン・21.8℃)
13:00 大岩の上(下降路と合流)
14:05 駐車場(22.7℃)



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