「スピード命。」
唐沢岳幕岩 正面壁 「山嶺第一ルート」

2002年8月3日(土)〜4日(日)
メンバー:船山(YCC) 、神谷(記)
報告内の★マークは、写真へのリンクです。



<3ピッチ目から上部壁へ>

真夏の本チャンは場所選びが難しい。
標高が低くて、直射日光が当たるようなところは、暑くてやっていられない。
とは言え、標高が高いところはアプローチも遠いわけで、そこは悩みどころ。

今夏は本チャンにあまり行けておらず、先々週の屏風が初の完登となった。
行きたいルートはたくさんあるけど、タイミングが悪くてなかなか実現しない。
まあ、これはいつものことなのだけど。

そんなわけで、今週は唐沢岳幕岩に行くことになった。夏の唐沢岳幕岩は、二度目である。最初は、大凹角ルートと畠山ルートを登った。二年前の秋のことだ。
今回は、山嶺第一ルートを登ることにした。幕岩正面壁の初登ルートであり、一度は登ってみたいと考えていたルートでもあった。

8月3日(土)
大町の宿の手前で迷ってしまい、15分ほどロスして、ヤブを漕いでいた。
何か、最近どこの山に行っても道を間違えている気がする。基本的に方向音痴なのかも、と今更ながらに思う。
こういうのは、生まれつきのものなのだろうか。センスの問題なのか。

大町の宿で身支度を整えて、いざ取付へ。沢をちょっと登ったところから、大洞穴ハングを目印にして強引にトラバース。
リングボルトが二本ある小さな凹角が取付となる。

1ピッチ目【船山リード】IV

凹角の後を左トラバースするところを(間違えて)直上。しかし、直上してから左トラバースをして復帰。本来のルートはA1となるようだが、こちらのルートでは結局アブミを使わなかった。凹角には残置支点があるが、その先の草付帯は何もないので、分かりにくい。<★取付の凹角>

2ピッチ目【神谷リード】A1
トラバース気味の人工。身体がまだ慣れていないのか、やけに時間がかかる。手順も悪くて、途中でフィフィを落っことす。奈落の底に落ちていくフィフィは回収不能。さようなら。

3ピッチ目【船山リード】A0
ルート図ではA1となっているが、どこでアブミを使えばいいのだろう?という感じのスラブ。がんばればフリーでも行けそうな感じがしたが、そこで時間をかけている場合でもなかったので、A0で突破。<★眼前に広がる上部壁>

4ピッチ目【神谷リード】A1、III
左上して、ハングを越えるのは分かるのだが、中間支点が見あたらず、どこから越えて良いのか分からない。途中まで二本のボルトがあったのだが、その先がない。
灌木を登って、ハングを乗越そうと思ったが、見た目より被っていて、とても登れない。左の方に支点が見えたが、それは京都ルートのようだ。
どうしようもないと思い、引き返す途中で草付の中に踏み跡発見。ハングの切れ目を右から草付づたいに登るのが正解らしい。A1は最初の二手分だけ。
乗越した後は、左上バンドをビレイポイント目指してひたすら登る。中間支点は全くなく、カムも効かせづらいスラブだが、III級程度なので、ランナウトしても怖くはない。

5ピッチ目【船山リード】IV、A0

カンテ状スラブ。特に問題なし。フリーだとちょっと厳しい。迷わずA0。
4ピッチ目のハングを越えた辺りから、陽が当たりだす。暑くなるか、と思ったが、意外に風が涼しく、それほど干されない。この先、中央バンドまで登ると、また陽が岩陰に隠れる。<★陽が当たりだす5ピッチ目>

6ピッチ目【神谷リード】III+
どこでも登って行けそうなスラブだが、ボルトが真っ直ぐ続いている。
他のピッチと比べて、やけにボルトの数が多い気がするが、フリクションの効かない冬のために、支点がたくさんあるのかもしれない。
III級と言うことだが、それよりは難しいと感じた。少なくとも手を使わないと登れないのでIII+〜-IVくらいはあるのでは?(どっちにしろそんなに変わらないのだけども)

7ピッチ目、8ピッチ目【船山リード】III
スラブから草付へ。III級程度で、中間支点は全くなし。50mロープをいっぱい延ばしても足りないので、コンテのような感じで、同時に登る。
とりあえず壁の末端(中央バンド)まで進んで、そこから壁際をトラバース。9ピッチ目の顕著なクラックまで進む。

9ピッチ目【神谷リード】V+
出だしからクラック。中間部分に立木があって、更にクラック。
最初のところにボルトがあるが、その先残置支点はなし。
カムがなければ、立木までランナウトとなる。4-5mくらい。
下部クラックは、易しい。岩もしっかりしていて、豪快にレイバックできて気持ちいい。中間にキャメロット#2を極める。
立木部分から直上するクラックがあったが、左の凹角の方が易しそうだったので、そっちに逃げてみる。しかし、結局最後はトラバースして、クラックの終点に移らねばならないので、やめて戻る。
上部は、下部よりは少し難しい程度。ジャミングがよく効く。デシマルなら5.8くらいか。
エイリアン赤とキャメロット#1で抜ける。
右に抜けたところに支点があってピッチを切る。
ルート図を見ると、このピッチは更に先に進むようだが、この先もクラックで、しかも、カムが残り1個しかないので、ここで切る。<★出だしのクラック>

10ピッチ目【船山リード】A1、IV
人工で直上して、クラックを左上。
出だしはボルト連打の人工。最後にレイバック気味のクラックがあるが、それほど難しくなく、カムを使うことなく抜けられる。
ラストは左にトラバース。

11ピッチ目【神谷リード】A1
ひたすらトラバースの人工ピッチ。
人工トラバースといえば、瑞牆山の「微笑み返し」を思い出すが、今回は足が壁に着くので、全然楽。
出だしの部分、最初のピンが3mくらい先。手前の木で木登りして取り付くのだろうが、一本目が遠いのはちょっと怖い。チョンボ棒を取り出して、一本目はそれでクリア。
その先2-3本も支点間隔が遠めだが、そこから先は、いきなり間隔が狭くなる。
フィフィを使うまでもなく、すぐ次の支点に届く感じ(そう言いながらも、フィフィは頻繁に使ったのだが)。
支点は近くて、空中アブミでもなく、確かに楽ちんなのだが、高度感は満点で、しかもボルトが浅撃ちのものも多く、緊張を強いられる。
トラバースが終わったときには一安心。
ルート図を見ると、このピッチはトラバース後右上して、ハングの下でビレイをするように書いてある。
それに従い、右上してみるが、ビレイ点直前のクラックが非常に悪く、とても難しい。残置支点はなく、カムの人工をしようと考えるが、一本目をエイリアン赤で取った後、その先が続かない。フレア気味のクラックで、カムが極めにくいのだ。ここが、「草付がごっそり剥げ落ち」て、ルートが消滅したと言う場所か?
いろいろと考えてみるが、どうにもならず、一旦退却。アブミトラバースが終わったところでも、ピッチを切れる様になっているので、そこで切って、船山さんを迎える。<★短い間隔でリングボルトが連なる>

12ピッチ目【船山リード】A1
船山さんは、私が苦労したクラックをいとも簡単にカムセットの人工で抜けていった。
何が違ったのだろうか?おそらく、一本目のエイリアン赤のセットする位置がもっと先だったのではないかと思う。あんなに苦労したのが馬鹿みたいに思えた。
そこから直上のハング越えだが、船山さんはあっさりとチョンボ棒を取り出した。
チョンボ棒の力は偉大だ。
フォローで登ってみるが、ここのハングはどうにもならなさそうに見える。
ハング下のビレイポイントからハングを越えたボルトまで中間支点がない。リードのお助けスリングがなければ、とてもじゃないが、登れなかっただろう。
その先は左上気味のトラバース。かなり古そうなハーケンなどあって緊張する。
最後は灌木でビレイ。<★チョンボ棒の威力>

13ピッチ目【神谷リード】A1
ビレイポイントから左上する凹角にボルトが並んでいる。更にその上にあやしげな残置スリングと残置カラビナ。
素直に進むのなら、ビレイポイントから左にトラバースなのだが、パッと見た感じ、非常に悪いスラブのトラバースで、支点も見あたらず、こっちではなさそうに見えた。
しかし、左上ルートのカラビナは、明らかに下降用のもので、間違えて登って降りるために使ったとしか思えない。
ともかく、少なくとも支点は左上しているので、そっちを登ることにする。
カラビナのぶら下がっている灌木を乗り越えると垂壁になる。
5-6m左にボルトが見えるが、そこまでのトラバースには支点がなく、ちょっと怖すぎる。ここも草付が剥げたのだろうか。
やむなく、残置カラビナを利用して結局下降。
やっぱり左トラバースしかないようだ。
もう一度トラバースルートをよく見てみると、5-6m先にハーケンが見えた。
その中間に残置スリングも発見。
しかし、そのスリングが掛かっている灌木は、ほとんど抜けかけていて、全く信用できない。
ここはやはりチョンボ棒の出番だ。
チョンボ棒様々である。
トラバースを終えると、先ほど左上ルートから見えたリングボルトに届いた。そこからハングを直上。最後の力を振り絞るような感じで、強引に乗越す。
実質的には、ここで終了。
ロープが屈曲してきたので、あまり延ばさずに、短めで切る。

14ピッチ目【船山リード】III
スラブからブッシュ・灌木帯を歩いて、踏み跡まで。

結局、終了点まで9時間かかってしまった。
時間かかりすぎ。
行ったり来たり、進んだり止まったり戻ったり。
ルートファインディング能力が足りないと、こういうルートは厳しい。
並んでいるボルトをただ追っていけばいいのではなく、広く周りを見渡して、どこを登るべきか、この先はどうなっているのか、をよく考えながら行かないと、途中ではまってしまう。もっとスピーディにもっとスマートに行く必要がある。スピードが生死を分ける場合もある。経験を増やして、ルートを見る目を養わなくては。

懸垂は、それほど引っかかることもなく、1時間半。
大町の宿着が、19時20分。
ヘッドライトなしでギリギリの到着だった。

この日、唐幕にいたのは、我々含めて3パーティ。うち2パーティは、畠山ルートであった。
夏でも意外に涼しいし、快適な岩小屋もあるし、唐幕は、もっと登られてもいいように思う。
確かに、支点は古いものが多いし、ルートファインディングも難しい部分が多いのだが。

山嶺第一ルートは、オーソドックスなクラシックルートと言え、弱点を巧みにつきながらも、9ピッチ目にはクラックが出てきたりと、充実し、かつ楽しめるものだった。

壁の中は、日陰になることが多く、陽が当たっても風が涼しくて、とても爽快だった。
ただ、虫が多いのがちょっと……。腕をボコボコに刺されてしまった。

カムは軽量化のため厳選し、エイリアン青赤、キャメロット#1、2の4つだけだったが、それで十分足りた(もちろん、多いほうが安心だろうが)。
ハーケンも持っていったが、使用せず。

ところどころボルト間隔の遠いところもあり、チョンボ棒を多用した。チョンボ棒は所詮チョンボであり、ズルな訳で、これを使ったら、本当に登ったことにならないのかもしれない。遠いとは言っても、完全に途中のボルトが抜けていると言うわけではなく、がんばればチョンボなしで行けると思われる距離だった。
もともとフリーで登るところはフリーで、ボルト間隔が多少遠いところもギリギリのバランスで乗り切る、と言うのが本来のあり方だと思うし、初登者の意思を汲むのなら、そうすべきなのだろう。
しかし、場合によっては、そういったこだわりよりもスピードを優先させ、なんでもありになったとしても、とにかく登らなくてはならないこともあるだろう。今回がそこまで切羽詰った状況だったとは言えないが、チョンボなしで時間をかけて登っていたら、間違いなく途中でビバークを強いられていただろう。
今回はこういう形だったが、次回また登る機会があれば、もっとスマートに登りたい。すべてにおいて完璧を求めるのではなく、どんな形であれ、一つずつ経験を増やして、自分の中で糧にしていきたい。今はそれで良いと思っている。






8月3日(土) 晴れのち曇り

3:20 起床
4:00 七倉発
6:45 大町の宿(岩小屋)
7:05 大町の宿発
7:40 取付
8:10 登攀開始【山嶺第一ルート】(18.1℃)
-8:50 1ピッチ目(18.3℃)
-10:05 2ピッチ目(18.2℃)
-12:00 3〜8ピッチ目(中央バンド)
-12:50 9ピッチ目(20.8℃)
-13:50 10ピッチ目(21.1℃)
-15:40 11ピッチ目(23.9℃)
-16:15 12ピッチ目(21.9℃)
-17:10 13ピッチ目(22.4℃)
-17:20 14ピッチ目(終了点)
17:50 懸垂下降開始(21.7℃)
19:20 大町の宿着(23.1℃)


8月4日(日) 曇り
8:45 大町の宿発
11:20 七倉着


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