「マムシとコウモリ」
御坂 柄杓流川 コウモリ沢(アイスクライミング)

2001年1月20日(土)
メンバー:羽矢、碓井(以上山岳同人カルパッチョ)、原田、神谷(記)


 山岳同人カルパッチョのお二人(羽矢さん、碓井さん)は、同流山岳会の会友でもある。今回は、三つ峠にあるコウモリ沢にアイスクライミングをご一緒させてもらった。羽矢さん碓井さんとは錫杖岳以来2回目の本チャンとなる。また、私個人のアイスの本チャンは、一昨年の八ヶ岳広河原沢第三ルンゼ以来、2回目である。
 コウモリ沢は、三つ峠屏風岩に突き上げる沢である。屏風岩へは過去何度か行っているが、ここでアイスができるとは想像もつかないことだ。まず、三つ峠表登山道から達磨石を越え、林道に出る。山頂もしくは屏風岩への登山道は、ここで右に曲がるのだが、その先の「立ち入り禁止」となっている方向へ林道をさらに進む。ルート図(白山書房「アイスクライミング」)によると、1本目の「浅い沢状」の沢を越え、2本目の沢が「コウモリ沢」となっている。なので、正直に1本目の沢をパスして、2本目の沢に入っていった。4人して、「ここで間違いないよな」と確認して、沢を詰め始めた。
 積雪量はそれほどでもない。トレースはないが、さくさくと踏みしめて歩けるほどである。かなり大きな明るい沢で、入り口には堰堤がいくつかあった。最初は「河原歩き」となっていたので、氷が出てこなくてもそれほど気には留めなかった。が、30分経ち1時間が経っても滝の一つも出てこないところで、「おや?」と感じた。コースタイムでは10〜25分でF1(2段12m)に到達するはずである。もしかしたら、林道の工事か何かで、取付きの位置が変わり、F1はパスしてしまったのかもしれない。では、今は「ゴルジュ状の連瀑群」なのか?確かにゴルジュといわれればそうかもしれない。でも全く氷は出てこない。ここ数日冷え込んでいたのだが、それでも氷結していないのだろうか。
 と、沢が二股になっているところに出た。中央に赤テープがある。何か文字が書いてある。読んでみる。
「マムシ沢」
……!。
 愕然とした。マムシ沢……。コウモリ沢の1本隣の沢の名前だ。すでに出発から1時間15分が経っていた。かなり高いところまで登っており、ここから下ったら、再び沢に入る気力はでないだろう。地図を確認し、現在地を特定。トラバースしつつ、尾根を越えてコウモリ沢へ入ることにした。
 支尾根、枝沢を幾つか越えると、トラバースには厳しい深い谷に出た。ここがコウモリ沢だろう。ロープを出して懸垂下降する。降りはじめたときから、嫌な音はしていたのだ。沢の水が流れる音が。木を支点に、3ピッチ降りるとドウドウと流れる(!)滝の下部に出た<Photoドウドウと流れる滝>。形状からするとコウモリ沢F1「2段12m」と思われた。出発から2時間45分。長いアプローチになってしまった。
 これだけ勢いよく水が流れているのだから、もうやめようかと思った。さっきのマムシ沢みたいな感じで、ただの沢登りになってしまうかもしれない、という不安は拭えなかった。それでも、とにかくこの滝だけでも越えてみようということにした。直登は、全く不可能なので、左から高巻く。ハーケン、ボルトが1本ずつトラバースルートにあった。高巻きながら、明日はどうしようか、四十八滝に行く予定だけどこれじゃ凍っていないよなあ、思い切って八ヶ岳に行くか、それとも…と羽矢さんと話し合っていた。
 ところが、滝を越えるとわずかながら氷が出てきた。嬉々としてアイゼンを装着。多少はアイスクライミングが出来るかも。
 小さな氷瀑を幾つか越えると、15m滝に到着<Photo小さな氷瀑を越える原田くん>。立派に凍っている。ここで登らなきゃ、いつ登る!と、私がリードする。羽矢さんのアドバイスを受けつつ、5本のアイススクリューを捻じ込む。秘密兵器の「タービン」が非常に使いやすかった。「タービン」は、鉤状に曲がった針金。取っ手のないスクリューに針金を引っ掛けて、すばやく回転させるもの。スクリューそのものに回転軸がついているものもあるが、それよりも使いやすいし、スクリューの軽量化にもつながる。非常に便利に感じた。ただ、名前が覚えにくい。「ミヤザキホイホイ」「ミヤザキチョンチョン」に倣って、ひそかに「ミヤザキくるくる」と呼ぶことにした(べつに宮崎さんが作ったわけではないが)。
 さて、その「タービン」を使うにしても、スクリューを最初に捻じ込むのは、手作業になる。身体を安定させて、スクリューを掴んで、捻じ込んでいく、というのが非常に難しい。身体を支えるために、右手でバイルを掴んでいると、左手でスクリューを操作しなくてはならない。私は右利きなので、それが非常にやりにくい。手を逆にすると左手で身体を支えることになり、これもまた難しい。このあたり、安定した体勢を作り、素早くスクリューを捻じ込むというのは練習の必要があると感じた。中央部は水が滴っているところもあり、そういう所は余計に、手早く抜けてしまいたい。でも、なかなかうまくいかず、ずいぶん体をぬらしてしまった。
 この15m滝は、落ち口が非常に厄介な(岩と氷の)ミックスになっていた。チョックストーンとなる岩で頭を押さえられて、視界が利かない。氷が薄くへばりついていたが、あっさりと叩き割ってしまい、手がかりを失ってしまった。バイルを岩に引っ掛けつつ右から回り込む。極度の緊張感の中、ようやく脱出。右手奥にボルトが2本あったので、そこでビレイ。
 再び、小氷瀑を幾つか越え、次の15m滝。これは状態が非常に悪そうで、ボロボロに脆く崩れてしまいそうに見えたので、左から高巻く<Photo状態が悪い15m滝>。次なる12m滝では碓井さんが(練習のため)リードする<Photoリードする碓井さん>。が、上部に上手い支点がないことから、結局フォローする人はなく、他の3人はみんなノーロープ
 さて、いよいよ核心の20m大滝が見えてきた。下部10mくらいは傾斜のゆるいナメ状だが、そこから10mが立っている。下から見ても厳しそうに感じる。ルートを左寄りにとって、羽矢さんがリード。さくさく進むので、意外と簡単そうに見えるが、騙されてはいけない<Photo簡単そうに登る羽矢さん>。本当は結構難しい。2番目に原田くんが行く。彼は、アイスそのものが2回目。夏も含めて本チャンは初めて。クライミングも室内壁のみ。という状況だ。それでも、よくここまで登ってきたなあと感じる。大滝上部も半分くらいまでは順調だったが、傾斜が強くなってきたところで、たまらずテンションがかかる<Photoテンションの原田くん>。そういえば、先週の南沢大滝のときは、傾斜の強いところは登れず、諦めて降りてきてしまっていた。あの時はゲレンデでトップロープだったから降りることも出来たが、今日はそうはいかない。登るしかないのだ。本人もそれは分かっているのだろう。なんとか苦労しつつ、登りきった。見ているこちらも一安心。
 続いて私が登る。氷の状態がいいのか、バイルが刺さりすぎて、上手く抜けない。必死に上下に動かすが、それだけで疲れてしまう。全然刺さらないのも困るが、刺されば良いというものでもない。岳人2001年2月号「平成の登り方」にアイスクライミングのテクニックが出ていた。通常は、両手両足を広げた「Xバランス」で登るのだが、この体勢は片手を動かすときにバランスが直角三角形になってしまい、安定が悪いというのだ。そのため、傾斜が急になってきた場合には、片方のバイルを身体の中心線上に置き、「三角バランス」で登るのが良い、と書かれていた。なんだか非常に納得させられたので、この大滝で使ってみることにした。右手を打ちこむ。右手を頂点に二等辺三角形を作るように両足を蹴り込む。続いて、左手を左上に打ちこむ。振り子のように平行移動して、再び二等辺三角形。そう言われれば安定している気がするが、これはちょっと慣れが必要だ。感覚としては「Xバランス」のほうが、安心できるので、なかなか「三角バランス」の利点が掴めなかった。もうちょっとゲレンデなんかで練習する必要があると感じた。
 大滝に取付いた14:30頃から雪が降りだし、結構本格的な降りになってきた。時間も遅いので、コウモリ沢を最後まで詰めることなく、右にトラバース気味に登って、登山道に出る<Photo大雪の中、登山道と合流>。積もり始めた雪の中を駆け下り、暗くなる前になんとか駐車場に戻る。

 沢を登り始めたときは、あまりにも氷の雰囲気がなさ過ぎて、どうなることかと思った。ただの沢(状地形)歩きで終わってしまうかと思った。そこで「マムシ沢」の赤テープ。やっぱり地図はちゃんと見ないといかんなあと思った。この赤テープがなかったら、きっと源頭までつめてしまったと思う。「助かった」と言うべきか。
 その後、トラバースでコウモリ沢に入ったのだが、幸運にもF1の下部に到着した。なるべく標高を変えずにトラバースしたつもりだったので、ずいぶん上のほうに出るんじゃないかと思っていた。どちらにしろF1は登れなかったわけだが、最下部からトレースできたのはうれしいことだ。
 下山後に取り付きを見直してきた。確かにわれわれが登ったマムシ沢の堰堤の一本手前に沢があった。しかしそこは、取水口のフェンスに囲まれていた。たぶん、コウモリ沢はこのフェンス伝いにいくんだろう。パッと見ではわかりにくい場所である。
 今回は通算2回目のアイスのリードをやった。慣れないものだから、時間がかかって仕方がない。確実に安全を確保するためには、ある程度の数の支点(アイススクリュー)が必要だ。しかし、ゆっくりセットしているほど時間に余裕はない。以下に手早く、確実に支点を取っていくか。そのためにはやはり練習が必要だ。それと三角バランス。これも、マスターすれば、結構有用なテクニックではないかと思った。
 アイスの時期は短いけれど、その分、一つ一つの山で着実にステップアップしていかなければならない。

 その夜は大雪。かなりの積雪になった。四十八滝に行くには新雪雪崩が心配だ。天気は抜群によかったのだが、やむなくパンプ2へ転進。



1月19日(金)

22:00 国立 車発
23:30 達磨石下広場

1月20日(土) 曇りのち雪

2:00 消灯
6:00 起床
7:45 テント出発
8:00−8:10 R1(マムシ沢赤テープ。1210m地点)
9:50−10:00 R2(1280m)ここから懸垂下降
10:30−10:40 R3(コウモリ沢F1。1180m)
14:10 20m大滝下
15:30 20m大滝上
16:05 登山道合流
17:00 テント着


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