「天ニ昇ル」
錫杖岳前衛フェース北沢フェース
1999年10月2日(土)夜行日帰り
メンバー:佐藤、羽矢、碓井、石川、神谷(記)
空は蒼く澄み切っていた。 岩壁が太陽に輝いていた。 秋の風は頬に優しい。 羽矢さんがリードしていく、扇ハングのルート。 岩はハング気味で下から見ると上部が見えない。 まるであの蒼い空に向かってザイルがのびていくようだ。 美しい。 これが岩壁登攀なのか。 無性に感動を覚えた。 槍見温泉から2時間ほどのアプローチ。錫杖岳は悠然とそこに立っていた。 佐藤さん、石川さんは、左方カンテルートへ。 羽矢さん、碓井さん、神谷は、北沢フェースを目指した。 羽矢さんは錫杖岳には何度か来ているようだが、今回の北沢フェースは初めてという。 まず、取り付きがよく分からなかった。1ルンゼは明らかに分かったので、その1本手前のルンゼと見当をつけ登ることにする。 白山書房「日本の岩場(下)」によると、1ピッチ目がIV級のルンゼ。2ピッチ目がII級草付。3ピッチ目がII級バンドとなっている。しかし、歩いてみた感じではどうも違う。最初のルンゼはIV級もなさそうな感じだし、次の草付はせめてIII級はあるのではないかと思った。ピナクルバンドと言われるバンドもバンドと言うよりはチムニーで、トラバース部分もII級というには結構難しいところがあった。 本当にここが北沢フェースなのかという不安があったが、ピナクルに着くとボルトラダーが始まり、この段階でたぶん間違いないだろうと確信した。 そして、このボルトラダーから北沢フェースの本当の登攀が始まった。 ほとんどのピッチは、羽矢さんがリード、そして碓井さん、神谷がフォローで続いた。 核心は扇ハングの上。A2。 この北沢フェースはあまり登られていないのか、ボルトの疲労度がとても大きい。 リングがのびきっているもの、切れていてシュリンゲが結んであるもの、浅打ちのもの。 本当に安心して体重を預けられるものは、5本に1本くらいしかない。 また、完全に折れてしまっているものもあり、どう腕を伸ばしても次のボルトにあぶみが届かない箇所もある。したがってエイリアンは必須であった。 しかし、このエイリアンも回収することを前提にしてあるわけで、いくらちゃんとセットしてあると分かっていても不安は隠せない。 一歩一歩慎重に進む。でもあまり時間もかけられない。 先ほど下から眺めていた、天に昇らんばかりの美しい羽矢さんのリード姿をイメージしながら登るが、思うようには体は動かない。えっちらおっちらと強引に身体を引きずり挙げていく。 あの「蒼い空に向かって昇っている」んだと意識する余裕もなく、ただひたすらボルトが抜けないことを祈りつつ、あぶみを掛け替えていく。 フォローだったから良かったが、これをリードするのは並大抵の神経じゃできないと思った。 とはいえ、本格的な人工ルートは、夏合宿にて滝谷ドーム北壁と屏風岩雲稜ルートで経験していたので、以前よりは多少スムーズに進んだ(と思う)。 ただ、難しいのはエイリアンの回収。体勢も安定しないし、早くはずさなければいけないと焦るほどに深みにはまる。これは慣れが必要だと思った。 結局ほとんどのルートを羽矢さんがリードした。 最終ピッチから2つ目(洞穴を左に越す)を碓井さんがリード、最終ピッチ(草付)は神谷がリードした。 終了点に着くと、槍ヶ岳〜穂高の稜線がきれいに見えた。 心配された天気も無事持ちこたえ、さわやかな秋を満喫した。 下降は左方カンテを懸垂下降。 同ルートを登攀終了後、同じく懸垂下降していた佐藤、石川組と途中で合流し、5人1組となって下降した。あちらのパーティも無事完登を遂げたようで、満足そうな顔を浮かべていた。 今回、人工登攀のおもしろさが少し分かったような気がする。 人が全く登れないような垂直の壁も、あぶみを使うことで乗り越えられる。すごいことだと思う。 いつかは天に昇るような華麗なクライミングしてみたいと思った。 |
10月2日(土)
5:00起床
5:40-55車にて移動
6:00駐車場発
6:40-50R1(クリヤ谷徒渉地点)
7:20笠ヶ岳への一般登山道との分岐
7:25-35R2
8:00前衛フェース取り付き点
8:40登攀開始
11:00ピナクル地点
13:30終了点
15:20前衛フェース取り付き点
15:40取り付き点出発
17:00駐車場着
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