起きたときから雪。
朝になったら止んでいるかもしれないという希望は、あっけなく崩れた。
空は暗く、降り止む気配はない。
気温が高いためか、歩道はドロドロ。雪が積もって締まる、という感じではない。
同宿の日本人グループは、カラ・パタールの予定だったが、チュクン往復に変更したようだ。その他、多くのグループが行動を開始した。ほとんどはあきらめて下山していくようだ。しかし、こちらは全く動く気になれず、今日は停滞(ステイ)と決める。
トレッキング前半はあれだけ天気が良かったのだが、悪天周期に入ってしまったのか。このあたりの天気の流れが分からないので、なんとも言えないが、22日マッチェルモでの巻雲は、この悪天を暗示していたのだろうか。
まあ、日程的には余裕があるので、二三日ここで停滞していても、それほど問題はない。ただ、五日以上雪が続くようなことになるなら、それはまた別だ。あまり積もると、行くも戻るもできなくなってしまう。
プラカスの話によると、去年も同じ時期に雪が降ったとか。そのときは、ナムチェにいて、降ったのは一日だけだったが、ひざ下のラッセルになったらしい。
一日中、食堂と外と自室を行ったり来たりしていた。
暇に任せて、宿帳をめくる。日本人も結構いるなあ、と思っていたら、見たことのある名前があった。「Shinji
Mitsubori」。アコンカグアにともに登った友人の名だ。おそらく彼が1998年にアイランド・ピークに登りに来たときにこのロッジに泊まったのだろう。ディンボチェに数あるロッジの中から、同じロッジを選ぶとは、何という偶然だろう。
午後になり、気温が上がると、湿り気のある雪になってきた。積もっている場所では10cmくらい。外を歩くと、服も靴もぐっしょり濡れる。
この調子だと、明日もここでステイかもしれない。明後日はどうなる。その次は……。考えてもどうしようもないが、天気のことは頭から離れない。
そして。
17時。
雪がやんだ!!
自室の小さな窓から青空が見えた。急いで外に飛び出す。<★夕方になって雲が切れる>
空が、山が見える。雲が切れた。
たくさんの人たちがもう外に出ていた。
みんな笑顔で空を見上げている。
現地の子どももうれしそうに空を見上げている。
アマ・ダブラムが、アイランド・ピーク(Island Peak・6189m)が、ローツェが、タウツェ(Tawetse・6501m)が、だんだん見え始めた。
そして、夕焼けだ!
凄い。燃える山、燃える雲。燃える空。<★夕暮れ>
全ては、このときのためにあったのではないか。今日の雪、今日のステイは、この素晴らしい世界のための舞台装置だったのではないか、そう思えるほどだ。
この場所が、こんなに山に囲まれていただなんて知らなかった。
こんなに世界が美しいだなんて知らなかった。
今日の夕景のことは、このトレッキングの中でも、忘れられない想い出になるだろう。
ロッジの人もみんな外に出て来て、この景色に圧倒されている。みんなの心はひとつ。
「世界はなんて美しいのだろう!」
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