韓国・仁寿峰(インスボン)報告 その1
シュイナードB & ウジョンB

2002年6月29日(土)、30日(日)
報告内の<★>マークは、写真へのリンクです。



<シュイナードBのルート>

6月29日(土)
 成田空港は厳しくて、ザックの中身を4人とも全部空けさせられた。登攀具しか入っていないというのに。
 仁川空港に着くと、崔(チェ)さんが出迎えに来ていた。挨拶を済ませて、登山口のトソンサまでタクシーで一気に入る。
 今日は、サッカーワールドカップの韓国・トルコ(三位決定)戦が行われる日。そのせいかソウル市内で渋滞に巻き込まれる。
 途中コンビニ(セブンイレブン)で、家庭用カセットガスボンベと軽く行動食を購入。日本から持ち込んだガスヘッドとアダプタで、コーヒーなどを山荘で沸かすつもり。

 3時間近くかかってトソンサ到着。陽射しが強く暑い。トソンサで食事。太巻、ラーメン、うどんを食べる。インスタントに卵を入れて煮込んだラーメンはちょっと辛目。<★トソンサから歩き出し>

 入山口で入園料一人1,300wを支払う。整備された登山道を歩いていく<★整備された登山道>。想像以上の暑さで、汗が額から絶え間なく滴り落ちる。途中、山岳警察救助隊駐在所で隊長の朴(パク)さんを紹介してもらったりしならがら、何度か休憩を入れてゆっくり進む。峠の先では仁寿峰の岩峰がはっきり見えた。思っていたよりずっと大きい。わくわくとどきどきの入り混じった気持ちで足を進める。<★朴隊長と駐在所>
 1時間ちょっとで白雲山荘(ペグンサンジャン)到着。山荘の近くの展望台から岩を見ていると無性に登りたくなってきてしまう。すでに17時近かったが、「1時間だけ」と、とにかくギアだけ用意して、岩場へ行く。<★白雲山荘到着>
 大スラブ到着。スラブの感触が心地よい。この岩を触るために、はるばる韓国の地までやってきたのだ。話に聞いていたとおり、花崗岩の目は粗い。これならフリクションが良く効きそうだ。白く輝く巨大な岩は本当に美しい。
 目を閉じて、深呼吸をしてから、この喜びを抑えつつ、早速登りだす。

 最初のテラスまではスラブをトコトコと歩いて行け、ということらしいが、このなんでもないスラブだって結構嫌だ。10mほどだが、滑ったら20mくらいは落ちて、ただじゃすまなさそうな場所だし。
 時間もないので、テラスから2パーティに分かれる。村野・石川パーティが右の5.7へ行ったので、私は左の5.10bの方へ行ってみる。出だしは何とかなるものの、その先が非常に悪い、というか怖い。次のピンが見えるものの、果てしなく遠く感じる。足が震えてきて、どうにも一歩を踏み出せない。しかもピンのない中間部分で行き詰ってしまい、行くも戻るもできない。落ちるのを覚悟して、さらに左の5.10aルートにA0でトラバース。エイリアン青、黄を使いつつ、上部ビレイポイントまで進み、フォローを迎えて、そこから下降する。<★スラブの感触は?>

 いきなり、手荒い洗礼を受けてしまった。恐ろしいスラブだった。二進も三進も行かなくてどうしようかと思ったが、無事でよかった。明日の登攀に一抹の不安を感じつつ山荘に戻るが、豪華な夕食を前に満足し、なんとかなるだろ、と今日のことは忘れることにした。
 夕食は、焼肉、キムチ、ホウレン草、ポテトフライ、豆腐、豆ご飯、オクラはさみなどが小皿に出てくる。とてもじゃないけど、全部食べきることはできない量だ。<★豪華な夕食(正面が崔さん)>
 夕食後、山荘のテレビでワールドカップを見る。終了間際の一点は大盛り上がり。残念ながら韓国は負けてしまったが、山荘の人たちも選手たちに暖かい拍手を送っていた。


6月30日(日)
 休日は岩場が混みあうという話を聞いていたので、早めに朝食を出してもらう。山荘前でギア類はすべて身につけて岩場へ向かう。朝ご飯も昨日の夕食とそれほど変わりはない。小皿に山ほど出てくる。さすがに朝から焼肉はなかったが。

 7時40分山荘出発。昨日の大スラブをさらに右から回り込んで、石碑の前からスタート。取付には先行パーティがいたが、オアシステラスのほうに向かって行ったので、ルートが重なることはなかった。

<<シュイナードB>>5ピッチ、180m、5.8(大西・神谷/村野・石川)
※以下、グレードはヤマケイの記事をそのまま使用しています。純粋に岩登りの技術的なグレーディングなら、こんなものかな、と思いますが、ランナウトするスラブは、精神的にはプラス1-2くらいのグレードで感じました。なおクラックのグレードは日本と同じくらいだと思いました
日本人には人気ルートのシュイナードB。グレードもお手ごろなので、インスボンのクライミングをこのルートから始めることにする。

1ピッチ目【大西リード】5.7
右上クラックをアンダー、レイバックで進む。易しいが、長くて疲れる。クラックの終わりに支点があって、そこでピッチを切ることもできる。我々はさらにその先のスラブを直上して、レリーフがあるところでビレイ。ビレイポイントはしっかりしたハンガーボルト。<★いよいよ登り出し>

2ピッチ目【神谷リード】5.8
アンダークリングとトポに書いてあったので、フレーク状になっていて、支点はどこでも取れるのかと思っていたが、実際にはそうでもなかった。要所要所に指がかかるポケット状のところがあるが、最初はそれが分からないのでちょっと怖い。
思い切って一歩踏み出すと、次の手が見つかる、という感じ。
エイリアンなど、小さめのカムを多用した。結局一部A0になってしまった。最後の右上フレークは途中で止まると怖そうなので、一気に進む。<★アンダークリング>

3ピッチ目【大西リード】5.6

ビレイポイントの木のところから直上してから右にトラバースしようとするが、怖いのでやめる。
ビレイ点からそのまま右にトラバースして、クラックに乗り移るが、ここも一歩が怖い。そこから先はホールドもしっかりしているし、カムも良く決まるので余裕を持って登れる。

4ピッチ目【神谷リード】5.7
今回の仁寿峰のなかではここが一番楽しかった。豪快なムーブで大胆に登ることができる。手がグイグイかかるし、カムもばっちり決まる。とても気持ちの良いピッチだった。<★洞穴チムニー>
ただ、洞穴チムニーを終了したところでビレイ点にだまされてしまった。チムニーを終わったところで、左手にしっかりしたビレイ点が見えたので、てっきりそこでピッチをきるのかと思ったが、実はそれはフェイクだった。
チムニーのクラックから、ビレイ点までは3mくらいのトラバース。スタンスがあるのは分かるのだが、手がない。思い切って進もうとするが、どうしても踏ん切りがつかない。諦めて、カムを使って、クラック上にビレイ点を作成。「何で一歩が出ないんだ」とふがいない気持ちで空を仰ぐと、クラック上部にビレイ点が見えた。
やられた。
本来のビレイ点はそっちが正解に違いない。カムを片付けて、ダブルクラックを登り、本来のビレイ点まで進む。<★ダブルクラック>

5ピッチ目【神谷リード】5.5
大西さんリードで登りだすが、チムニーを前に戻ってきてしまった。支点が取れないので怖いというので、交代して登りだす。
確かに支点は取れずランナウトするが、身体は安定しているので不安はない。”耳岩”下の下降点まで伸ばす。

6ピッチ目【大西リード】5.10d[A0]
ここは、ウィディキルの最終ピッチのスラブ。このピッチを登らずに下降もできるが、10dに挑戦することにした。
最初の一歩が非常に怖い。膝上くらいの高さにある、幅5cmのスタンスに乗り込むのが核心か。乗り込んで、手を思いっきり伸ばしてようやく最初のボルトに支点をセットできる。トラバース気味なので、そこで落ちたらグランドフォール。
大西さんは嬉々としてチョンボ棒を使っていた。確かにチョンボ棒があれば余裕だろう。しかし、最初の一歩はどちらにしろ届かないので、やっぱり怖い。A0が可能、という話だが、A0するためにはフリーで2-3歩進まなくてはならない。
フォローだって怖かった。<★必殺チョンボ棒><★上部から見た10dスラブ>

 しかし、今日も暑い。じりじりと首筋と腕が焼けていくのが分かる。こんなに暑いとは思わなかった。500ml持ってきた水は飲んでしまい、干されそうになる。
 少し休憩して、耳岩頂上から15mの懸垂で、本峰とのコルに出る。
 5.7のやさしい岩場をロープをつけて登り返して、”タヌキの腹”へ。見た目にはホールドとなりそうな箇所がたくさんあるが、つるつるで良く滑る。ここでもロープを出す。現地の人はロープなしですいすい行くのかと思ったが、やっぱりロープを出していた。見た目にだまされないように注意が必要だ。
 大岩を回りこんで、懸垂下降点へ。トラバース部分には真新しいFIXチェーンが張ってあったが、そこから先のスラブは何もない。支点は全部で5つ。一番右のものには楽に行けるが、いつも人がいるし、空中懸垂になる。真ん中が空いていたので、そこへ。<★懸垂下降点>
 ここのスラブの下降がいやらしい。韓国人クライマーは、サンダルジョギングシューズプラ靴(!)ですたすた歩いているが信じられない。滑ったら60m下まで一直線だ。ここでロープ操作に手間取り、時間がかかる。50m2回で下部に到着。
 白雲山荘にいったん戻る。井戸が混んでいたので、ミネラルウォーターを飲んだりして、ちょっと休んで再び岩場へ向かう。

<<ウジョン(友情)B>>
4ピッチ、115m、5.8/5.9(石川・神谷/大西・村野)
ウジョンBの取付はオアシステラスなので、そこまでは大スラブを登ってのアプローチ。
大スラブはアプローチとは言え、結構難しい。
このルートのハイライトは、3ピッチ目の40m続く5.5のチムニーか。

大スラブ1ピッチ目【神谷リード】5.7
昨日は登らなかった右ルートから大スラブを登る。テラスにキャメロット#3.0を決めて、ビレイ点とする。出だしのクラックはやさしいので、歩いていける。クラックの一番上部にカムで支点を取って、その先がスラブ。
ダイクに思い切って乗り込んで、立ち上がると、ボルトが一本。その先10mくらいは支点なし。細かいスラブで、かなりきつい。かつてボルトがあった痕跡はあるが、今は何もない。フリクションを信じて進むのみ。

大スラブ2ピッチ目【石川リード】5.7
45mの間、残置支点は全くなく、オアシステラスまで。出だしのポケットにキャメロット#3.0が決まるが、その先は、20m以上ランナウト。その先のクラックでようやくエイリアンが決まる。傾斜は緩いので、難しくはないのだけれど、やっぱり緊張する。<★支点の取れないスラブ>

オアシステラスまで登って、ようやく”ウジョンB”のスタート。
1ピッチ目【神谷リード】5.7
右上するクラック沿いに進みたくなるが、そうすると行き詰る。どっちにしろスラブ上で支点は取れない。ある程度下のほうから、直上した方が楽。途中で落ちたらグランドフォール間違いなしの10mランナウトスラブ。2箇所ほど核心がある。精神集中、心頭滅却。ただ無心でスラブの結晶を拾っていく。ビレイ点に付いたときは脱力。<★下から、手前に見えるヌンチャクまで支点が取れないのです>

2ピッチ目【神谷リード】5.8
このピッチはスラブ(5.9)とクラック(5.8)のどちらかを選択できる。スラブがまたあんなランナウトだったら嫌なので、クラックを選ぶ。ビレイ点から直上するクラックがあって、濡れてるしかなり怖いな、と思ったら、実はそれはルート違い。クモの巣も張ってたので、さすがにそっちを登っている人はいなさそう。本来のルートは、いったん左に回り込んだところにあるすっきりしたクラック。レイバックが良く決まる。純粋なクラックは仁寿峰ではここが初めてだ。カムも良く決まるが、途中で疲れてテンション。

3ピッチ目【神谷リード】5.5
長ーいチムニー。本当に長い。40mくらい延々とチムニー。途中2箇所ほど休めるところがあるが、基本的にバックアンドフットでひたすらズリズリ。こういうのは日本にあまりないと思う。疲れた身体を無理やり持ち上げ、渾身の力で登りきる。困憊。<★長い長いチムニー>

 残り1ピッチのダブルクラックがあったが、すでに18時も過ぎてしまっているので、今回はここで下降とする。
 同ルートを4ピッチ懸垂下降して、大スラブの取付に降り立つ。白雲山荘に着いたのが20時前。まだ暗くはなっていなかったが、山荘の人を心配させてしまった。

 長い一日の終わり。ワールドカップの決勝を見ていたが、途中で眠くなっきた。
 22時ころ、同じく山荘に泊まっていた金(キム)氏がごそごそと準備を始めた。「明日はどこに行くのか」と聞くと、「今から登る」との答え。韓国では暗い中登る”夜登(ヤドゥン)”がよく行われるのだという。日本人の感覚では全く理解できないが、冬壁と同じく困難を求めるためにそういうことをするのだろうか。昼間は混むから、夜登るというのもあるのかもしれない。しかも、マッコリ(酒)を持っていって、頂上で飲むのだとか。唖然としてしまう。
 彼らは23時ころ出かけていき、2時過ぎに帰ってきた。

……続く


6月29日(土)快晴
※日本と韓国の時差はない


7:30 成田空港集合
9:30 成田空港発(大韓航空KE706便)
11:50 仁川空港着
12:35 ジャンボタクシー乗車
14:25 トソンサ着
14:25-15:20 昼食(太巻、ラーメン、うどん)
15:20 トソンサ発(歩き出し)
16:00 山岳警察救助隊駐在所
16:15 峠
16:35 白雲山荘(ペグンサンジャン)着(27℃)
17:05 白雲山荘発
17:15 オージースラブ取付(26℃)
17:15-18:05 1ピッチ試登
18:05 取付発
18:20 白雲山荘着
19:00ころ 夕食
23:00 消灯

6月30日(日) 快晴
5:30 起床
6:40ころ 朝食
7:40 白雲山荘発
8:10 シュイナードB取付(22.6℃)
8:30 登攀開始【シュイナードB】
11:05 耳岩下部(シュイナードB終了・26.6℃)
11:25 耳岩頂上着(25.6℃)
11:25-12:15 Rest
12:15 耳岩頂上発
13:05 懸垂下降点着下降開始(28℃)
14:05 下降終了(27.5℃)
14:15 白雲山荘着(26.4℃)
14:15-15:00 Rest
15:00 白雲山荘発
15:30 オージースラブ取付
16:25 オアシステラス(26.5℃)
16:25 登攀開始【ウジョンB
18:20 3P目終了(下降開始・懸垂50m4P)
19:30 オージースラブ取付(22℃)
19:55 白雲山荘着(21.9℃)
20:15ころ 夕食
22:30 消灯



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