「巨人の背骨〜背骨はリングボルトで出来ている」
丸山東壁 中央壁 緑ルート

2004年10月27日(水)〜28日(木)
メンバー:青山、神谷(記)
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〈“黒部の巨人”の背骨〉


寒気を伴った低気圧の通過により、急激に気温が下がった。26日は雨だったものが、27日朝には、はっきり白く形のあるものになっていた。
テントサイトから丸山東壁付近はまだ標高が低いので、「雪っぽい雨」くらいだが、剱岳方面は完全に雪となっているだろう。そろそろ秋のクライミングシーズンも終わりとなりそうな気配。登るのならあと一本。速攻で終わらせてしまうのが得策だろう。

10月27日
今日の天気予報は、午前中は雨が残るが、午後には止む、というものだった。明日は確実に晴れるらしい。だったら、今日のうちに3-4ピッチ分はフィックスを張っておいて、明日は軽い装備で一気に登ってしまおうと思った。
12時出発と決め、午前中はテントにこもる。雨も降っているし外に出る気になれない。シュラフに入ってダウンジャケットを着ていても非常に寒い。暇に任せて、ラジオを聴いていると、ひたすら地震のニュースをやっている。避難所生活のことを思うと、自ら望んで味わっているこれくらいの寒さは我慢しなくては、という気になる。

12時なっても、まだ雨、というか雪が降っていたが、今日はフィックスだけだから、ということで雨具を着て、取付に向かう。
昼には止むはずの雪は、取付に付く頃にはかえって強くなっていた。当然ながら壁も濡れている。ボルトラダーになってしまえば、アブミのかけかえだけなので、壁が濡れていても関係ないが、序盤はフリーの交じるピッチもある。
非常にやる気の出ない天気と状況だが、今日フィックスしておかないと、明日が大変になる。それを考えれば、ここでひと踏ん張りしておくほうがいい。<★水の流れる中央壁>

1ピッチ目【神谷リード】
出だしフリーで、最初のピンが非常に遠い。壁が乾いていれば、全く問題ないと思うが、これだけ濡れていると、足を滑らせてグラウンドフォールの可能性がある。怖いので、一本ピトンを打って、支点を取っていく。幸いピトンスカーが開いていた。その一本を取ることでようやく最初のピンまで手を伸ばすことが出来た。
その後、2-3箇所ちょっとしたフリーが交じる部分があり、怖い思いをしたが、10mも行くと、ボルト連打の人工となり安心して登れるようになる。<★雪降る登り出し>

2ピッチ目【神谷リード】
フリーIV級が交じるピッチだが、その部分には古いお助けスリングが垂れ下がっていて、それを掴めば、ほとんどフリーの感覚なしで登れる。岩が乾いるときなら、あまりつかみたくないほどボロいスリングだったが、この際贅沢は言っていられない。<★雪の中の人工>

3ピッチ目【青山リード】
雪はあいかわらず降り続き、ビレイが非常に寒い。寒すぎる。懸垂下降用の皮手袋をはめているが、濡れると乾かず、指先が凍りつきそうに冷たくなる。フォローで登りだしても、手足の震えが止まらない。ホールドが持てないほどだ。<★三日月ハングの手前まで>

三日月ハングを越えるのが目標だったが、時間切れだし、あまりにも寒いので、ここからフィックスして降りる。明日もこんな状態だったら、フィックスをはずして早々に撤収しようと考えていた。<★黒部別山は白い>

10月28日
天気は快晴。寒くはあるが、昨日ほどではない。壁もだいぶ乾いている。これなら登れるだろう。
今日ビバークするつもりは毛頭ないので、二人でザック一つという軽装で一気に登ることにした。1ルンゼから中央壁へのガレ沢も今回で五往復目。歩きなれたものだ。
正面の黒部別山は上部がかなり白くなっている。丸山自体は幸い積もることはなかったようだ。

まずは昨日フィックスした3ピッチ分をユマーリングで登る。朝からユマーリングは結構疲れる。<★フィックスをユマーリング>

4ピッチ目【神谷リード】
三日月ハングを越える。ボルト間隔は近いし、空中に出るのも少しだけ。ピッチ自体も短いので、すぐ終わる。<★ハングを越えたあたり>

5ピッチ目【青山リード】
ボルトを直上。長いのでギアの残りに気をつけながら登る。<★見事なボルト連打>

6ピッチ目【神谷リード】
ここまでは単純なかけかえばかりだったのだが、急にルートが分かりにくくなる。真上にボルトはなく、右上のほうにピトンが続く。しかも陰に隠れたところに多いので、探すのが大変。でも、ルートを見ながら、次の残置を探して登るのは、逆になかなか面白くもある。
後半は、傾斜も落ちてほぼA0で登れる。<★この先が分かりにくい>

7ピッチ目【青山リード】
簡単なフリーで中央バンドに登り、そのまま左へトラバース。ハング下の取付までロープを伸ばす。
ここで少し休憩し、この先はザックを置いて空身で登る。<★白いあの山は爺ヶ岳?>

8ピッチ目【神谷リード】
さあA2だ。核心部だ、と緊張気味に取り付いたが、最初は、普通のA1。少し悪いところがある程度でボルトの間隔も近い。用心して支点を多めに取っていくと、核心部手前でギアが足りなくなってしまった。幸いビレイポイントがあったので、ハング直下でピッチを切る。<★大ハング直下付近>

9ピッチ目【神谷リード】
今度こそ核心部のA2。ここではイージーデイジー(メトリウス)が大活躍。最近になって購入し、ここまでの普通の人工登攀でもいつもより楽だ、と感じていたのだが、ハングになると差は歴然。フィフィを引っ掛けて、あっちこっちに体重移動する手間が全く要らない。これは素晴らしい。グレード一つ分とまではいかないが、半分くらいは易しく感じる。すいすい登れるので、ハングがむしろ楽しいくらいだ。
悪い支点もあったが、ハング部分も意外にすんなり終えることが出来た。むしろ、ビレイポイントに上がるところにあった抜けそうなピトン(タイオフスリング付)の方が恐ろしく感じた。<★大ハングを真下から><★大ハングを越えて><★大ハングの上>

10ピッチ目【青山リード】
人工、木登り、人工。
途中、支点を見失いやすいが、凹角沿いに忠実に登ると古いスリングなどがたくさん並んでいる。<★人工から木登り>

11ピッチ目【神谷リード】
人工、木登り、人工、木登り。
9ピッチ目までは人工の連続で、すっきりしたルートだったのに、終盤2ピッチはまたしても木登り。左岩稜のようで、結局こうなるのか、と思ってしまう。
下降用スリングがぶら下がる終了点らしき場所につくが、視界が開けるわけでもなく、なんともパッとしない。<★人工から凹角へ><★一応終了点か>

これなら、ハングの終わった9ピッチ目で降りてしまっても構わないと思った。もしくは、北峰まで登った方がいい。同ルート下降するなら、あえて、この2ピッチを登る意味は薄いように感じた。

順調なペースで登っていたつもりでいたが、下降を開始したときには、14時半になっていて、意外に時間がかかっていたことに気付いた。<★大ハングからの懸垂下降>
同ルート下降するが、なぜか中央バンドからの最初のピッチでロープが引っ掛かってしまう。引っ掛かるようなものは何もないはずなのに。仕方がないのでプルージックで登り返し。


全9ピッチの懸垂下降を終え、取付に戻ってきたのは、16時15分。今日もまた丸一日かかってしまった。「チャレンジ!アルパインクライミング」では、所要時間4〜8時間となっている。4時間というのは相当早いと思うが、今日はユマールからスタートして終了点まで約9時間かかっており、やはりそれは遅すぎると思う。中央バンドから上が時間がかかりすぎ。もっとスピードを考えて行動をしなくてはならない、と反省。

緑ルートは、ボルトメインの人工ルートで、単なるアブミのかけかえに終始するのかと思っていたが、意外に楽しめた。
ぐいぐい高度を稼いでいける下部。
ピリリとしびれる大ハングの登攀。
そして最後はおなじみの木登り。
と、変化もあり、人気ルートといわれるだけのことはあった。下部はすっきりしていて展望も抜群。

今回登った丸山東壁の他のルートでもそうだったが、浅打ちなのか抜けかけなのか、ボルトのチップが見えているようなものが数多く見られた。静加重なら大丈夫だが、墜落荷重がかかれば飛んでしまいそうだ。しかし、ボルト連打の人工においては、それらを信用する以外に登る方法はない。スリングのタイオフを多用して切り抜けた。

我々が三本登っている間、丸山東壁を登るクライマーは全くおらず、独占状態だった。
下の廊下方面に行く人は毎日10人くらいはいるのだが、内蔵助谷、しかも丸山を登るような人は皆無である。
陽が当たれば、意外に寒くないし、紅葉もきれいだし、穴場の時期なのかも、と思う。ただ、山に囲まれているため、陽が当たる時間はとても短く、陰ってしまうと一気に冷え込んできて、朝晩非常に寒かった。

この緑ルートを無事終了したことで、丸山東壁三部作(勝手に命名)が完結した。
“黒部の巨人”と称される丸山東壁だが、その両足にたとえられているのが、左岩稜右岩稜だ。そしてその真ん中、中央壁を走る緑ルートは、さしずめ背骨といったところか。

これで、丸山東壁の概念を掴むことが出来たと言えるだろう。しかし、まだこれは入り口に過ぎない。丸山東壁は、岩も硬く、比較的安心して登れる。アメリカン・エイドや、さらに困難なルートなど、ここにはまだまだ多くの好ルートがある。積雪期登攀というのも大きな課題だ。
それを考えれば、これからようやく丸山の真髄に入っていけるのか、と思う。





10月26日(火) 雨
昼ごろダム往復。

10月27日(水) 雨時々雪のち曇り
12:00 テント発(15℃)
12:25 取付着(8℃)
12:40 登攀開始(8℃)
-13:55 1ピッチ目(4℃)
-14:55 2ピッチ目(3℃)
-16:10 3ピッチ目・下降(3℃)
16:40 取付着(3℃)
17:10 テント着(5℃)

10月28日(木) 晴れ
5:15 テント発(18℃)
5:35 取付着(6℃)
5:50 ユマーリング開始(6℃)
6:25 3ピッチ目到着(3℃)
6:40 4ピッチ目登攀開始(3℃)
-7:35 4ピッチ目(3℃)
-8:45 5ピッチ目(7℃)
-9:30 6ピッチ目(14℃)
-9:45 7ピッチ目(14℃)
-10:55 8ピッチ目(12℃)
-12:10 9ピッチ目(10℃)
-13:20 10ピッチ目(12℃)
-14:25 11ピッチ目・終了点(15℃)
16:15 取付着(11℃)
16:50 テント着(9℃)

10月29日(金) 晴れ
下山




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