「巨人の右足〜右足は灌木とヤブで出来ている」
丸山東壁 左岩稜

2004年10月24日(日)
メンバー:青山、神谷(記)
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〈“黒部の巨人”の右足〉


丸山東壁をじっくり登ることにした。寒くなるのは覚悟していたが、人のいない静かな岩壁を、紅葉のなか登るのなら、この時期が一番かと思った。

朝東京を出て、昼からトロリーバスに乗り、出合にテントを張る。出合に着いた途端に雨。明日は一日雨の予報だが、今日のうちに左岩稜の取付を確認しておくことにした。
1ルンゼを南東壁基部まで一旦登ってから、壁沿いに下って行くと、何箇所か左岩稜に取り付けそうな場所があった。その中でも、もっとも末端寄りの凹角を木登りしてテラスまで上がってみると、垂壁に残置ピトンを発見。当日は、ここから登り出すことに決めた。
左岩稜末端から1ルンゼ押し出しの途中に出るガレ沢も下りながら確認した。1ルンゼ側の入口はスリングの巻かれたケルンが目印になっていた。
翌日は予報どおりの雨で停滞。この日の夕方、18時前の天気予報を聞くためにラジオの電源をいれていると、緊急ニュースが入ってきた。新潟県中越地震だ。東北から近畿にかけての広い範囲で揺れたらしい。比較的新潟に近いこの場所だが、テントの中で横になっていても、本震、余震ともに全く揺れを感じることはなかった。

10月24日
朝からラジオは地震のニュースばかりだ。天気予報が聞きたいのに……。現地は大変そうだが、こちらは地震とは無関係に登攀に向かう。
暗いうちにテントを出て、末端でギアの準備をする。初日に見ておいた凹角から木登りし、テラス状の部分から6時25分登攀開始。

1ピッチ目【神谷リード】

傾斜の強いフェースにぽつんとピトンがあったが、そこから登るといきなり人工になってしまうので、右の凹角の木登りから始めた。このピトンは、冬期登攀用のものだろうか。
凹角の木登りも傾斜が強く決して楽ではない。パワーで強引に身体を引き上げる。支点が取れるのは安心だが、ザックが引っ掛かり鬱陶しい。
木登りから始まった左岩稜だが、この先、こんな木登りが何度となく繰り返されることになるのをこのときはまだ知らなかった。
その後ヤブをこぎつつロープを40m伸ばしてテラスに到達。垂壁にビレイポイントがあった。
川の音がうるさくて声が届かないので笛を使ってコールする。<★出だしの垂壁を右の凹角から>

2ピッチ目【青山リード】
灌木の凹角から登り始める。ヤブっぽいフェースを抜けテラスへ。<★灌木の凹角>

3ピッチ目【神谷リード】
カンテを人工で右に回りこんでから、あらためて左のフェースに出る。ちょっとボルトの間隔が遠いかと戸惑う部分もあったが、ホールドは十分で一瞬フリーっぽくなるも不安はない。
カンテを登ったところに残置スリングによる下降点あり<★人工でフェースを>。そこから、A0のかけかえでバンドを左にトラバース。ホールドの細かいところもあるが、たぶんフリーでも問題ないだろう。<★バンドのトラバース>
松の木の根元まで行ってビレイ。

4ピッチ目【青山リード】
右のフェースにボルトがあるが、ビレイ点からは非常に遠い。木登りを5m位してからボルトに乗り移らないと届かない。2-3手の木登りではなく、結構高いところまで登るのが何だか面白い。<★木登りからフェースへ>
フェースを人工で登るとテラスに出る。

5ピッチ目【神谷リード】
カンテを左から回って灌木帯に出る。視界が広がり上部壁が見えてきた。見下ろせば、赤や黄色に染まった木々が目に眩しい。<★灌木帯へ><★上部壁>
内蔵助谷沿いの低い位置にヘリが飛んできた。沢のほとんどすれすれを飛んでいるようだが、何か探してでもいるのだろうか。

6ピッチ目【青山リード】
灌木や草付の簡単なリッジを適当に登って広場まで。
今日は雲ひとつない快晴。陽が当たる場所では、暑いくらいにさえ感じる。日なたに置いた温度計は30度を越えている。

7ピッチ目【神谷リード】
簡単なヤブから、露出感のあるフェースに出て、人工。傾斜はそれほどないが距離が長いピッチ。<★フェースに出る>

8ピッチ目【青山リード】
灌木のヤブから凹角へ。木登りを交えながら登ると洞穴の前に出る。洞穴のビバークはあまり居心地がよくなさそうに見える。<★ヤブに突入>

9ピッチ目【神谷リード】
洞穴の上を右の凹角を人工で越える。一手目が遠く、ピトンの穴にカラビナが入らないので、スリングを通して使い、一旦空中に出る感じになる。その先も微妙な人工。10mと短いピッチで洞穴上のテラスに出るが、内容は濃い。

10ピッチ目【青山リード】
脆いチムニー状の凹角を登る。手をかけると動く大岩があったので、はがしてしまう。ルート図には出だしがA1となっているが、残置支点は見当たらず、人工のやりようもないが、フリーで十分登れる。最初の一本はカムで支点を取り、7mほど登ると残置ピトンがある。凹角を抜けても脆い部分があり、ビレイしていると落石がたくさん降ってきた。<★脆い凹角>

11ピッチ目【神谷リード】
垂壁を人工で登って、凹角を木登り。このあたりは何だか木登りばかりしている気がする。<★灌木をすり抜けて>

12ピッチ目【青山リード】
広いバンドを右にトラバース。終わりが見えてきたので、ここにザックを一つ置いて、行動食だけ持って登ることにする。<★広いバンド>

13ピッチ目【神谷リード】
木登りして一段上のテラスへ。そこから凹角を人工交じりで登る。灌木が多く、支点はたくさん取れる。前方にチムニーが見えてきたので、その基部まで行きたかったが、ロープが足りず、左上バンドの途中の灌木でピッチを切る。

14ピッチ目【青山リード】
バンドを通ってチムニーに向かう。チムニー内部にも残置ボルトなどあったが、右側の壁を登る。
右上から垂れ下がってきている枝にスリングがかかっており、フェースのボルトからそっちに乗り移れ、ということらしい。しかし、ボルトからスリングまでは結構遠いし、枝はしなるし、とても怖い。
投げ縄でスリングを枝に引っ掛けつつ、強引に登る。枝のスリングからスリングへアブミのかけかえ。これは一体クライミングなのか、という気にさせられる。<★バンドからチムニーへ><★枝に乗り移る>

木の根元まで登り、くぼ地でビレイするが、特にそこに何かあるわけではなかった。下降用の残置スリングもない。もう少し上まで登り、テラスのようなバンドのようなヤブに出ても、やはり何もない。同ルート下降の予定なので、これ以上登っても意味はなさそうに思い、チムニーの上に回りこみ、そこにあった残置スリングで懸垂下降を開始する。

下降は11ピッチ。しかし、ロープの流れが悪く、2回も登り返しを食らった。登り返したのは、洞穴の下のフェースと3ピッチ目のフェース。どちらも途中の灌木にロープが引っ掛かった。
下降を開始したのは15時前で、時間的には余裕で降りられるだろうと思っていたが、登り返しに手間取って、最後の懸垂では暗くなりヘッドランプを使用した。


木登りやヤブの多いルートではあったが、それはそれで個人的には楽しめた。
最初から木登りだったが、最後まで木登りのルートだった。木登りをしてからフェースの人工に取り付く、とか、フェースの人工から、しなる枝に乗り移る、など他ではあまり味わえないクライミングだと思った。純粋なクライミングとは違うだろうが、登攀要素の強い山登り、としては面白いと感じた。
ただ終了点がパッとしなかったのは残念だった。なんとなく終わってしまったという感じ。やはり、登るのであれば上部に抜けた方が充実するのだろう。

赤や黄色に彩られた木々を眼下にしながらのクライミングは、とても気持ちよく、他には誰もいないというのが非常に贅沢に感じられた。天気もよく、予想以上に暖かい一日だった。

この時期、日も短いのでビバークも考えて装備を担いだが、結局ワンデイで終わらせることが出来てよかった。懸垂の登り返しで手間取ったが、何とかギリギリ取付まで降りてくることが出来た。





10月22日(金) 曇りのち雨
13:45 ダム
14:40 内蔵助谷出合(テント)
その後取付の偵察。

10月23日(土) 雨のち曇り
雨のため停滞。昼ごろダム往復。

10月24日(日) 快晴
5:25 テント発
6:00 取付着(6℃)
6:25 登攀開始(8℃)
-6:55 1ピッチ目(5℃)
-7:25 2ピッチ目(5℃)
-8:15 3ピッチ目(9℃)
-8:55 4ピッチ目(13℃)
-9:20 5ピッチ目(14℃)
-9:30 6ピッチ目(15℃)
-10:25 7ピッチ目(20℃)
-10:45 8ピッチ目(24℃)
-11:15 9ピッチ目(27℃)
-12:05 10ピッチ目(23℃)
-13:15 11ピッチ目(20℃)
-13:25 12ピッチ目(22℃)
-13:50 13ピッチ目(19℃)
-14:35 14ピッチ目・終了点(18℃)
14:45 下降開始(18℃)
17:35 取付着(16℃)
18:15 テント着(10℃)


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