「恐怖心からの第一歩」
丹沢 玄倉川 同角沢(沢登り)
2002年5月19日(日)
メンバー:木下(JAC青年部)、神谷(記)
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<遺言棚>
当分行くことはないと思っていた、沢登り。 3年前に本格的に始めて、翌年のシーズン初めに登った「三郎ノ岩道窪」で滑落。 それに懲りて、このシーズンはそれ以外の沢に行かなかった。 翌年、新たな気分で始めようと「キギノ沢」に行くも、私がビレイしていた人が、目の前で滑落するのを見て、意気消沈。 「沢は怖い」と言うイメージが自分の中で出来上がった。 濡れた岩。滑るホールド。(止まるのか)確信の持てない支点。 すべての要素が、沢への恐怖感を増加させていた。 それに、沢に行かなくても、やりたいことはたくさんあった。 乾いた岩登り。夏は、それに集中しようと思っていた。 そして、昨シーズンもキギノ沢以外の沢に行くことはなかった。 今回も沢に行くつもりは全くなかった。 まるで梅雨のような日々が続き、週末の天気もぐずつき気味。 本チャンの計画は中止。でも、日曜一日なら、何とか天気がもちそうな予報になった。 じゃあ、ゲレンデか?でも、前日降っているから(濡れていて)登れないかも。 室内壁くらいしかないかな。 と思っていた。 「沢」と言う選択肢は、全く頭に浮かばなかった。 でも、よく考えると、こういう日は、まさに「沢登りしかありえない」のではないだろうか。 増水は気になるが、多少濡れていても関係なく、日帰りで充実できて、時期的にもちょうど良い。 条件はそろっている。 行かない理由がない。 沢への、形のない恐怖心だけがそこに横たわっているだけだ。 いつまでも、過去の記憶を引きずっていても仕方がない。 また一からやり直す気分でやってみよう、と心を決めた。 目を覚ますと、前日の雨は上がり、雲間から青空がのぞいていた。 いい傾向だ。 下山を東沢経由と決め、小川谷出合に車を止め、歩き出す。 約1時間ほどで、同角沢の出合到着。 「安全登山四原則」が書いてある。<★安全登山四原則> 第二条「キケンなことはしない」と言うのが心に沁みる。 沢登りも岩登りも雪山も恐ろしいほどキケンだ。しないほうが良いに決まっている。 そりゃあ、分かっているのだけれど……。 出合には3人パーティが先に着いていた。さがみ山遊会のパーティ。 我々も、足回りからギアまでの準備を整え、7時55分遡行開始。 出合の滝が、パッと見どこを登っていいか分からず、いきなり手間取る。 濡れていて嫌だったが、右側の壁を登る。<★出合の滝> 三重の滝 20m【木下リード】 右側に鎖がある。出だしの一手が悪く、岩が濡れているし、鎖がないとかなり怖い。 ロープをつけて、鎖をゴボウ登り。 不動の滝 20m【神谷リード】<★不動の滝> 左から登って、滝の水流を横切って、右にトラバース。 トラバースするバンドとなる部分が、2箇所くらいある。 上部のバンドまで登ったのだが、そこに登るまでに、ほとんど腐っているようなシュリンゲでA0しなければならず、緊張した。 下部のバンドからトラバースするのが一般的なのか? シャワーを浴びて、全身ずぶ濡れ。陽が出てきて、それほど寒くないのが救い。 しばらく河原歩き。新緑が目にまぶしい。 吸い込む空気が新鮮に感じる。 久々の沢の雰囲気を満喫する。<★緑溢れる沢歩き> 行水の滝 2m<★行水の滝> フリーで登れるかな、と思ったが、手がつるつるで、つかみ所がない。 足場もあまりよくない。木下の肩を借りて(ふんずけて)登る。 上からシュリンゲで木下を引き上げる。 名無しの滝 25m【神谷リード】<★名無しの滝> 遺言棚より、こっちのほうが核心だった。 左から登りだすと、残置ハーケンが二つくらいある。そこまで登ると、右上方に残置シュリンゲが垂れ下がっているのが見える。 滝の向こう側だ。ほんとにここを突っ込むのか、と思えるぐらい、水流が激しく感じる。 「戻って、(リードを)交代してもらおうかな」と言う気持ちが頭をよぎる。しかし、ここで恐怖心を出して引き下がったら、もう二度と沢が登れなくなってしまうかもしれない。 覚悟を決めて、水流に飛び込む。 激しく叩きつける滝の水で、視界がさえぎられる。足をどこに置けばいいのか分からない。袖口から首筋から身体の中に水が入ってくる。一気に身体が冷える。水流は、容赦なく頭に打ち付ける。一瞬息ができなくなり、おぼれそうになった。 何がなんだか分からない。とにかく先に進まなくては、とだけ思う。 水流の彼方にかすかに見えるシュリンゲ目掛けて、じりじり進む。気を抜くと流されそうだ。 そして、ようやく水流を抜けた。シュリンゲをつかんで一安心。 あまりの衝撃に、思わずうめき声が喉からもれる。 そこから右壁を登るのだが、これがまた悪い。クラックのようなフレークのようなホールドがあるのだが、カッチリとはつかめず、苦労する。なんだか残置支点も少なく、非常に怖い。 足の置き場だけはしっかりと確保して、少しずつ登る。とにかく、一歩一歩を確実に。 ようやくビレイ点についたときには、全身の力が抜けるようだった。 フォローの木下の話では、水流中にハーケンがあったそうだ。全く気づかなかった。たとえ気づいていたとしても、そこで支点を取る余裕はなかったのだが。 遺言棚 2段45m【木下リード】<★遺言棚> 下部は右から取付くが、それほど難しくない。中間支点も一つしかない。 その先が、テラスになっているのだが、ビレイ点があるわけではなく、中間支点としてのハーケンが一つあって、そこでいったんピッチを切る。 上部は、脆くて、ザレてて、滑りやすいのが核心か。ムーブが悪いと言うより、総合的に難しいという感じだった。残置支点はあるので、A0をしたり、木登りをしたりすれば、一気に登れる。 そのまま上部に抜けて、東沢乗越から東沢を下降。(遡行時間3時間半) 東沢の下降中、沢靴から登山靴に履き替えてしまったのだが、 下降路が滑りやすく、二度三度となく、ドボンと水流に落ちてしまった。 沢靴で下ればよかったと少し後悔。 小川谷廊下との出合くらいまでは沢靴のほうがよさそうに感じた。 また、下降路には赤黄テープが付いているのだが、ルートが分かりにくく、何度も道を間違えた。 これが、3年ぶりに何事もなく遡行を終える沢登りとなった。 久しぶりの沢だが、なかなか楽しめた。 同角沢は、滝が次々に出てきて、その一つ一つが、わりあい手ごたえがある。 また、人気ルートだけに、残置支点も多く、気持ちとして安心できるのも良い。 フリーだなんだとこだわることなく、躊躇なくA0を使ってしまったが、それでいいと思う。 (もちろん、支点の強度はチェックする必要があるが) 「名無しの滝」は怖くて緊張したが、その分充実度も増した。 今までは、ただ恐怖感だけが、先行していたのだが、沢登りは滝の直登による登攀要素だけが魅力なのではない。 自然の懐に抱かれ、緑に包まれながら、水流と戯れていると、気持ちが安らいでくる。 殺伐とした岩登りの緊張感とは全く別の世界が、沢にはある。 そんな、かつて経験していたにもかかわらず、忘れていた感覚を少し思い出したような気がする。 この先、沢登りだけを中心にやって行こうとは思えないが、一般的に登られている沢で、少しずつ経験を積んでいくくらいなら、やっても良いかな、と思えるようにはなった。 少しずつ少しずつ身体を慣らしていけば、かつてのあの恐怖感も、時間とともに和らいでくるのではないかと思う。 まずはこれが第一歩。 |
5月18日(土)
11:00 四ツ谷発
5月19日(日) 晴れのち曇り
1:30 玄倉着
5:30 起床
6:20 出発
7:25 同角沢出合
7:55 遡行開始
10:05 名無しの滝
10:35 遺言棚
11:25 東沢乗越
13:15 小川谷林道
13:50 車着
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