「ふたつめの門?」
剱岳 赤谷尾根〜三ノ窓〜剱尾根下部〜剱岳〜早月尾根

2005年4月30日(土)〜5月4日(水)
メンバー:佐野、畑、朝岡、飯泉、神谷(記)
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<三ノ窓から富山湾>

昨年末に剱に入った。
計画では、東芦見尾根支稜から入り、猫又山、赤谷山を越えて、剱岳、早月尾根を下るつもりだった。
しかし、連日の降雪で、行動の進みは遅く、さらに年末から年明けにかけてさらなる大雪が予想されたため、赤谷山までもたどり着けず、ブナクラ谷を下降した。
今回は、そのときのルートの続き(正確には、ブナクラ乗越〜赤谷山間が抜けてしまうことになるが)を歩き、来るべき次の機会に備えようという偵察の意味も含んでいる。


4月29日(金)
夜中、馬場島到着。
朝起きてみると、テントの外はぽつぽつと雨。
そのうち止むだろうと、テントを撤収して出発準備をする。
しかし、雨脚は強まるばかり。こんな雨の中、歩き出す気にはならず、馬場島荘の中に入り、しばらく様子を見る。
登山者も10−20人ほどおり、皆、今日の行動を思案しているようだ。
雨は、ときに猛烈に激しくなることもあったが、天気予報によると、今日の午後からは回復するらしい。
ともかく、この状況で歩き出したとしても、大して進めないし、濡れた装備を乾かすのがまた大変だ。しばらく車で仮眠を取りつつ様子を見る。

10時頃、いったん雨はおさまった。それを見て、多くのパーティが出発していったようだ。しかし、その後またすぐに雨。午前中いっぱい降り続いたため、今日の行動は断念した。
もともと4泊5日予備2日という余裕のある日程だったので、ここで一日使ったとしても、それほど大きな影響はない。
のんびり、装備の振り分けをしている間にも雨はかなり強く降っていた。出発していったパーティは大変だろうと同情する。時間が余ったので、上市の温泉へ行き、明日の出発に向けて英気を養う。

4月30日(土)
明けて30日。昨日の分を取り戻すべく、早めに出発する。昨晩、寝るときには、周りにほとんどテントはなかったのだが、朝になってみると、多くのテントが張られていた。今日から歩き出し、というパーティも多いようだ。
今日は赤谷尾根の1800m付近にテントを張る計画だが、できれば山頂まで一気に登ってしまいたいところだ。<★取付に向かう>

尾根には正面のルンゼから取り付く。雪の斜面をアイゼンをつけて一気に高度を上げる。朝で気温が低いため、アイゼンはよく利き、さくさく登ることができる。歩いているときは半袖でも暑いくらい。ただ、雪の上だけあって、止まっていると寒いので、休憩中だけ上着を羽織る。<★ルンゼを詰める>
雪のルンゼを抜けるとヤブこぎとなった。背中のザックがじゃまくさい。<★ヤブこぎ>
ヤブと雪を繰り返しながら着実に頂上へ向かっていく。
遅れ気味のメンバーがいたため、登っては休み、登っては休み、の繰り返しとなった。<★暑い>
10時頃には予定の1800m地点を通過。これなら、今日中に余裕を持って赤谷山頂上までは到達できそうだ。<★1800m付近>

昨日のものなのか、薄いトレースはずっとついていた。ところどころとぎれたりもしたが、昨日の雨で消えてしまったのかもしれない。赤谷尾根上には要所にテントを張れそうな箇所がある。平らで広い場所も多く、厳冬期に来ることを考えて、よく場所を確認しておく。
小窓付近の谷では、何度も大きな雪崩が起き、轟音が響いていた。さすがにこれだけ気温が上がると、雪も一気に融け出すか。

取付からずっとダブルストックで登ってきたが、頂上直下の急雪壁は、ストックでは歯が立たず、バイルを取り出す。かなり急な雪壁をつづら折りに登る。このころにはだいぶ雪が腐ってきて、蹴りこむと足が雪に埋まるようになった。
頂上到着12時40分。<★頂上から剣岳方面を望む>
頂上には、単独の人のテントが一つ。それと、かなり大きめのテントサイト跡が一つ。
この時間なら、赤谷山を越えて、さらに先に進めそうだったが、遅れ気味のメンバーはだいぶお疲れのようだったので、テントサイト跡を利用させてもらい、今日は、ここにとどまることにした。<★テントサイト>
幸運なことに、頂上から赤谷尾根側に少し下ったところに、雪融けの水が流れている場所があった。水量も豊富で、この水場のおかげ出水作りの手間と燃料がだいぶ節約できた。
しばらくすると、別のパーティも赤谷尾根から登ってきた。(そのパーティの記録がネットにありました。http://www.ksky.ne.jp/~sonoh/05GW_Turugi.htm
今日はほぼ一日晴れていたが、遠くの山は何となくけぶっているような感じで、展望がよいわけではなかった。
しかし、赤谷山に登ると、昨年末に登った東芦見尾根から猫又山が見えた。ずいぶん遠くに感じた。

5月1日(日)
赤谷山山頂では、iモードが通じ、天気予報と天気図を見ることができた。それによると、前線の通過により、今日(1日)の夜から明日(2日)にかけて雨になることが分かっていた。それを考えると、明日は一日動けなくなる可能性もある。できれば今日中に三ノ窓まで行っておきたいと思った。コースタイムを考えると時間的には厳しいが、順調に進めれば問題ないだろう。ただ、今日の雨の振り出しがいつになるかが気がかりではある。iモードの予報によると剱岳山頂で15時から雨、となっているが。果たして、どこまで正確なのか。

3時起床。起きたのは隣のパーティよりも早かったのだが、準備に手間取り、出発は先行されてしまった。昨日、少し話をしたところでは、今日中にできれば剱岳まで行きたい、と言っていたので、彼らはそれなりのスピードで進むものだと思っていたのだが……。

まずは、先行パーティのトレースを追いつつ、白萩山を目指す。ラッセルと言うほどではないが、急な雪壁になると、先行パーティのペースは落ち、あっという間に追いついてしまった。<★白萩山へ登る先行パーティ>
白萩山付近はボロボロの土壁を登る。ここで先行パーティが詰まり、しばらく順番待ち。ほんの4-5mなのだが、浮き石だらけでとても怖い。落ちたら大変そうな場所だ。<★ボロボロの土壁>

大窓への下りは右の雪壁からガレたルンゼを下る。ここで先行パーティのトップが稜線通しに行こうとしていたので、その脇をすり抜け、白萩川から谷に降り、先に大窓に降り立つ。(結局、先行パーティも稜線通しには進まず、戻って我々と同じルートから降りてきた)<★大窓への下り>
しばらく休んだ後、大窓ノ頭までの急登に取りかかる。稜線通しは雪があったりなかったりで、アイゼンがいるかどうか微妙なところ。夏道のトレースが出ている箇所もかなりある。<★大窓から見上げる>
ヤブをこいだり、雪壁をダブルアックスで登ったり(こういうところではアイゼンが欲しい)しながら、ひたすら上を目指す。
池ノ平山は、左の雪壁から頂上を巻くように越える。南峰と北峰があるので紛らわしい。今回は、視界があったので、左の雪壁から回り込んで、歩きやすそうな場所を行くことができたが、これがホワイトアウトしていたらどうだろうか。直登は大変そうなので、どっちに行くか迷ってしまうかもしれない。<★池ノ平山付近>
トレースは、ところどころ薄いものがあったりなかったり。昨日、赤谷山に着いたとき、白萩山方面に向かっているパーティを見かけたのだが、彼らはどうしてしまったのだろうか。途中のルンゼから降りたか、池ノ平山から下ったか。結局、小窓尾根との合流点までほとんどトレースはないようなものだった。

小窓まで1ピッチの懸垂下降。下降点にはちゃんと残置スリングが残っていた。下まで行くなら、50m2ピッチ分必要だが、1ピッチ降りて、そこからは雪壁のクライムダウンとした。<★小窓へ下る>
小窓に降りる直下のところで大きくシュルンドが開いており、その処理が厄介。思い切ってジャンプするしかないが、5人のうち2人がシュルンドに落ちてしまった。それほど深いものではなかったので、自力で脱出できたのだが、下から見ていて、いきなり(シュルンドに落ちて)姿が見えなくなったときは、肝を冷やした。
小窓到着が12時。雲は増え、天気はだいぶ怪しくなってきた。もう、いつ雨か雪が降り出してもおかしくはない状態だ。なるべく早く三ノ窓まで行ってしまいたい。

小窓からは左側の雪壁を登る。だいぶ雪が腐ってきているので、トップは苦労している。ただでさえ急な斜面なのに、アイゼンに雪が着いて足が重い。<★小窓からの登り>
小窓尾根と合流するとしっかりとして踏み跡があり、歩くのは楽になった。しかし、このころからちらほら雪が舞い始め、14時10分頃から雨となった。<★小窓の王>
小窓の王基部から1ピッチ懸垂下降。あとはトラバースして三ノ窓へ。<★懸垂下降>
連休のことだから、さぞかし多くのテントがひしめいているのだろう、と思っていたが、なんと一つもテントはない。
整地し始める頃には雨は本降りとなった。雨具を来ても、びしょびしょになるような降りのなか、何とか整地して、テントを設営する。

後続パーティはだいぶ遅くになって三ノ窓に着いたようだ。雨の中の行動は大変だっただろう。

5月2日(月)
夜中、猛烈な雨と風。
剱の雨は、2002年の黒部横断を思い出す。あの、悪夢のような真砂沢での一夜。あの時は、テントにフライもなく、雨は直接本体をぬらし、シュラフの中にまで入り込んできた。
ゴールデンウィークの剱は、私にとっては、いつも雨……。
幸い、今回は、ほぼ新品のテントでフライもちゃんと付いている。昨晩、雨の中、ブロックも積んだので風除けも万全。3年前は、ダウンシュラフで一度濡れたらほとんど乾かないような状態だったが、今回は、それを考慮して、多少重いが化繊のシュラフを持ってきている。
叩きつけるような風雨であったが、テント内はほぼ快適な状態に保たれた。

朝になっても雨は止まず、予報では昼頃から晴れるだろう、とのことだった。
今後の予定は、剱尾根を登って、早月尾根を下山するだけ。
予備日もまだ残っているので、今日は一日停滞と決めた。

朝からうだうだして過ごす。
10時頃になると、雲はまだ残っていて、風は強いものの、雨は止んだようだ。その隙をつくように、隣のパーティは、剱岳本峰方面に登っていった。

午後になると少しずつ雲が切れてきた。今まで見れなかった景色が広がる。
後立山も、富山湾もきれいに見えてきた。
昨夏のキレット小屋生活を思い出す。あの時は、キレット小屋から三ノ窓を見、その先の富山湾を眺めていた。なんだか不思議な気分になる。<★テントサイトと後立山方面>

能登半島がくっきり見える。陸地が輝いているのは、水田が多いためか。とても美しい。<★日本海に陽が沈む>
三ノ窓には我々のパーティのテントしかない。
雨上がりの空。雲。太陽。のんびりとそれらを楽しむ。

午後から晴れてくれたおかげで、装備は一気に乾いた。これで今日も快適に寝られる。

5月3日(火)
一日の休養を挟み、気力体力ともに充分。今日は剱尾根の登攀。R10から登って、下部と上部をつなげて主稜線まで出るのが目標。
飯泉さんは、所用によりここでパーティを離れ、ひとり下山した。
残った4人で、2パーティに分かれ、取付に向かう。

まだ暗い4時にテントを出る。
三ノ窓から取付まで約1時間とのことだったので、急斜面を一気に下っていった。
R10は尾根のだいぶ末端の方にある、という認識があったため、左手に尾根を見ながら、ぐんぐん高度を下げる。まだ30分ほどしか下っていないが、そろそろ末端(二俣)が見えてきたので、右上するルンゼらしき箇所から登り出すことを決める。<★このルンゼから取り付くが>

出だしはロープなしでも行けたのだが、支尾根を一つ回り込むと急斜面の雪壁となっており、主稜はもう一つ先の尾根のようだ。
この時点で、このルンゼ(?)がR10ではなさそうだ、というのは分かった。R10なら、ロープは不要で、すぐに尾根に出るはずなのだから。しかし、このままでも主稜に出てしまえば、あとはどうとでもなるだろうと思っていた。尾根の末端は、まだ下の方に見えていたので、おそらく、R10からR8の間のどこかのルンゼを適当に登ってしまったのだろうと考えた。ともかく、主稜に出ることが先決だ、と思った。

ところが、この取付地点は、実際には、R10よりもさらにずっと下の方だった。それに気付くのは、もっとあとになってからのこと。

ロープをつけて、雪壁と灌木のヤブを抜けていく。中間支点は灌木で適当に取る。3ピッチ分ロープを出し、その後はコンテで登る。途中、ヤブでロープが引っかかり、じゃまになってきたので、アンザイレンを解く。<★ヤブを抜けて><★ロープをはずす>

が、ほんの20mくらい行くと、ナイフリッジになっており、ロープなしでは怖い場所に出た。結局またアンザイレン。
2−3ピッチ登るとコルに出た。<★ナイフリッジを越える>
ここで、昨日隣にテントを張っていたパーティが、ルンゼから登ってきて、先行する形になった。
我々はR10よりも上部のあたりから登っているつもりだったので、ここは、コルDで彼らはR8から登ってきたのだろうと思った。(実は違う)
雪はなく、岩とヤブの尾根を右から巻くように登る。ロープはつけない。<★このコルで別パーティと合流>

ロープスケールで3−4ピッチで次のコルに到着。
目の前には岩壁。ここがコルCだと思った。(実は違う)
先行パーティは、4人で、登攀準備をしていた。順番待ちになったら、結構時間がかかるだろうが、まあ仕方がないか、と思っていたが、ありがたいことに、先に行ってください、と言ってくれた。
遠慮なく、申し出を受け、朝岡さんがトップで登り出す。
残置ピンは各所にあるようだ。ルート図によると、コルCからは、フェースを5mほど直上して、人工で右のカンテを回り込む、と書いてある。
しかし、人工を使うような場所もなく、右に回り込めるような場所もない。結局直上して、尾根の左をトラバース気味に登る。
アイゼンはつけているものの、手袋は脱いで素手で登る。<★岩壁が出てきた>
さらに1ピッチハイマツと岩のヤブを登り、ロープははずす。ここからひたすらハイマツのヤブ登り。一応踏み跡らしきものがあるので、それをたどっていく。<★コルを見下ろす><★ハイマツのヤブ><★さらに岩場>

ハイマツが終わるとコルに出て、稜線直上は岩場となっていた。
ここはロープ無しでは行けなさそう。
ルート図には、『左俣側をトラバースしR6のコルへ出る』とあるので、左俣側をのぞいてみるが、結局岩場を登らなくてはならないようだ。
カムなども使いつつ、稜線を直上。さらにもう1ピッチヤブを登ると正面に岩壁が見えてきた。
これこそが核心部の“門”に違いない、と思う。(実は違う)<★門……だと思った>
正面には、古いスリングがいくつも垂れている。しかし、ルート図にあるような『クラックを登る』という感じではない。ここを行くなら完全に人工登攀になる。しかも、スリングも支点も古そうで、あまり登りたくはない。
そこで、岩壁を左から回り込み、クラックがあるか探してみることにした。

コルの部分にビレイ点を取り、神谷リードでバンドを左にトラバース。
バンド上には要所に残置ピトンやボルトがあった。しかし、回り込んでみてもクラックはなく、あるのは、ボロボロのルンゼだけ。これ以上回り込んでもただのヤブになってしまうので、このルンゼを行くことにする。
ボロボロの浮き石だらけのルンゼで、全然クラックではない。それでも、ところどころに残置ピトンがあり、一応ここはルートなのか、と思わせる。
ロープがいっぱいになったので、太めの灌木を使ってビレイ点とする。
もう1ピッチ灌木と岩を登ると、視界が開けた。<★灌木と岩登り>

フォローで登っていってみると、そこにあったのは……。
なんと、“門”だった。<★これが本当の門>

だったらさっきのは何だったんだ、と思うが、今、目の前にあるのは間違いなく“門”。写真で見たことのある岩壁とクラック。
愕然として一気に力が抜けてきた。
核心を抜けて、あとは、III級程度の岩と尾根をさくさく登っていけば、上半分までも行けるだろう、と思っていたのに。
さっきのルンゼも、別に技術的に難しかったわけではないが、それなりに気合いを入れて登ったのに。
あれはいったい何だったんだ……。

クラックの取付まで行くが、なんだか急にどっと疲れが出てしまった。しばらく休憩することにして、佐野=畑パーティに先行してもらう。
行動食と水を補給して、もう一度気合いを入れ直し、クラックに挑戦する。
人工登攀となるのは、ほんの一手分だけ。そこを越えれば、あとは、バンドのようで、傾斜もそれほどない。残置支点もそれなりにある。<★出だしの人工><★バンドは傾斜がない>
思ったほど難しい箇所ではなかった。
ビレイは、大岩を使って行う。
その先が、またボロいルンゼ。<★この先ボロいルンゼ>
先行パーティも何度も落石を起こしていた。
ロープがちょっと引っかかっただけでも岩がゴロゴロ動くような場所だった。
そこを慎重に抜ける。
もう1ピッチロープを延ばすと、視界が一気に開け、主稜線まで見えるようになった。

しかし、それははるか遠くであった……。<★ドームから上部を見上げる><★三ノ窓が見える>
ドームでロープをはずす。この時点ですでに16時。上半分を登るには、あまりにも時間がない。個人的には、ビバークも覚悟していた。
一応ツエルトは持ってきている。しかし、ガスも食料もシュラフも何もない。辛い一夜になるだろうが、それもまた一つの経験か。上半分は、技術的に難しいところはなさそうなので、明日の朝から一気に登ってしまえばいい、と思っていた。
ドームから、コルBに降りると、先行の二人は、当然のように懸垂下降の準備に入っていた。
ビバークなんて一切想定外、という感じだ。
まあ、そりゃあそうだよな。一応、ここで下半分は終わりな訳だし、ここで降りれば、三ノ窓のテントで快適に眠れる。上半分が、あえて辛いビバークをしてまで登るほどの価値があるかどうかは確かに疑問ではあるし。
ここは素直に従って、懸垂2ピッチで池ノ沢に降り立った。懸垂用の支点は、残置ピトンがちゃんと打ってあった。<★コルBから下降><★いったん下って三ノ窓に登り返す>

今日の三ノ窓は、昨日とはうってかわって大盛況。6−7張りくらいのテントがあった。昨日の静けさが懐かしく感じられるほど。<★今日も夕陽が美しい>
それにしても、途中で追い越した隣のテントのパーティはどうしただろうか。暗くなっても一向に返ってくる気配がない。途中でビバークになったのか。
と思っていると、ずいぶん遅い時間に戻ってくる音がした。
まあ、無事で何より。

5月4日(水)
剱岳から早月尾根を下山。<★北方稜線を振り返る><★剱岳頂上へ><★山頂にて>
今日は、人が多い。早月尾根も団体が何パーティも登ってきていた。<★早月尾根の下降><★早月尾根><★昨日登った剱尾根>
松尾平付近では、トレースも赤布も錯綜していて迷う。最初にトレースをつけた人のあとをみんな追いかけるから、最初の人が間違うと、みんな間違う。何度もヤブこぎになった。


剱尾根は、そもそもの取付が間違っていた。
R10は、「三ノ窓から1時間下降」「尾根の末端に近い」という情報を信用しすぎて、随分下まで降りてしまっていたようだ。
別パーティが登ってきたところが、本来のR10だったようだ。
しかし、そこで気付けばよいものを、結局、本来の“門”に着くまで、自分の間違いに全く気付いていなかったのが、恥ずかしい。
「ふたつめの“門”」を見たときは、へなへなと腰が砕けそうになった。
核心部が終わって、ほっとしたところに、さらに強力な核心部が、まさに“門”のごとく立ちはだかっていたのだ。
実際には、技術的にそれほど難しいわけではなかったが、精神的なショックは大きく、取付でしばらく動けなくなってしまった。

結局、剱尾根の完全踏破はできなかった。下半分だけで時間切れになった。
R10を間違えなければ、余裕で上半分も登れたと思う。
でも、それは今更言ってもしかたがないこと。

赤谷尾根から剱尾根を登って、早月尾根まで行けた、という全体を見れば、充実していたと言えるだろう。
今度は厳冬期。
ラッセル、大雪、ナイフリッジ……。今から緊張してしまう。


4月29日(金) 雨のち曇り
朝から雨のため停滞。
4月30日(土) 晴れ
4:50 馬場島発(8℃)
5:50 赤谷尾根取付(17℃)
12:40 赤谷山頂上着(17℃)
5月1日(日) 曇りのち雨
5:00 テントサイト発(6℃)
5:45 赤ハゲ(9℃)
6:50 白ハゲ(11℃)
7:45 大窓(14℃)
9:00 大窓ノ頭(13℃)
11:10 池ノ平山(15℃)
12:10 小窓(11℃)
13:30 小窓尾根と合流(12℃)
13:45 小窓ノ頭(10℃)
14:45 三ノ窓着(6℃)
5月2日(月) 雨のち曇り
朝から雨のため停滞。
5月3日(火) 晴れ
4:00 テントサイト発(0℃)
4:40 剱尾根取付(2℃)
5:15 アンザイレン(4℃)
9:05 コルE(12℃)
9:40 コルD(9℃)
12:05 コルC(13℃)
12:20 ルンゼを登ったところ(10℃)
13:40 門の手前(9℃)
14:45 門(10℃)
15:30 門終了(30℃)
15:55 ドーム(20℃)
16:25 コルB下降開始(14℃)
16:45 池ノ沢左俣(8℃)
17:10 三ノ窓テントサイト着(15℃)
5月4日(水) 晴れ
5:45 テントサイト発(2℃)
6:15 長治郎の頭(0℃)
7:15 剱岳山頂(3℃)
9:05 早月小屋(7℃)
13:00 馬場島着(25℃)

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