「唯一の雪稜」
八ヶ岳 赤岳東稜
2004年3月26日(土)〜27日(日)
メンバー:木下、神谷(記)
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<第二岩峰手前の雪稜>
4月2日で谷川岳危険地区の入山が禁止になると聞いていた。ということは、この週がラストチャンス。 なんとか登りたいと思っていたが、前日まで雪が降り続いており、3月25日の時点で天神平の積雪が520cm。どうしようもないので、谷川はあきらめた。 結局、今期は谷川に入ることができなかった。例年になく雪が多く、天気の状態も悪かった。一ノ倉出合まで行ったパーティも、多くが登れずに引き返してきたと聞いた。 去年は2月から3月にかけて5回も谷川周辺をうろうろしていたというのに。 (ちなみに、R50というサイトが天神平などの積雪量推移を記録されています。) 週末の予報は、日本海側は荒天で、太平洋側は晴天とのこと。それならば、ということで八ヶ岳に向かった。 赤岳東稜。 最初聞いたときは、赤岳の東稜というのを知らず、権現岳東稜か旭岳東稜の間違いか、と思った。が、記録も多くある、わりとメジャーなルートだった。 Rock&SnowBooks「アルパインクライミング」(山と溪谷社)によると、『八ヶ岳で雪稜登攀を楽しめる唯一の尾根ともいわれ』とも書いてある。 今年は雪が多そうなので、ラッセルに苦労するかも、と思いつつ、土曜の朝から車を走らせた。 3月26日 大泉清里スキー場の下の駐車場に車を置き、出発準備。スキー客もほどほどに来ている。このスキー場も来週でシーズン終了らしい。 10時前から駐車場を歩き出す。 上の駐車場まで林道を歩いて15分ほど。上に停めればよかったか、と少し思った。エアリアマップに『下の駐車場が満車時のみ開放』と書いてあったので、それに従ったが、そんなこともないようで続々と車が上ってくる。 林道から登山道に入っていくと、スキーの跡が着いていた。スキーでアプローチして登る登山者がいるのか、とトレースをたどっていったところ、程なく二人組のスキーヤーに追いついてしまった。 ちょっと様子を見に来ただけなのか、山スキーの雰囲気を楽しみに来ただけなのか、30分程度入ったところから引き返していった。 その先、薄いトレースがついていたが、それも県界尾根に登っていくもので、大門沢を詰めていくトレースは全くなかった。 ワカンでのラッセルは、時に膝くらいまで埋もれることもあるが、雪がサラサラしているので、それほど苦労はしない。大門沢の緩い傾斜をひたすら登っていく。 過去の記録を見ると、このあたりで支沢に間違えて入り込みやすいようだ。 確かに、沢を忠実に詰めているつもりが、だんだん沢なんだか台地なんだかよく分からない感じになってきた。樹林帯で視界も利かない。 予報では、土日とも晴天のはずだったのだが、なぜだか雪も降り出してきた。<★雪の中大門沢を詰める> コンパスを確かめると、方向は間違っていない。地図上では、大門沢本流とは別に県界尾根方面にも並行して走る沢があり、それがよけいに紛らわしい。 二俣はゴルジュ状で分かりやすいらしいので、そこまで行けば分かるか、と確証のない状態で、ひたすら歩き続けた。 そして、13時。明らかにゴルジュ状の二俣に到着。確かに分かりやすい。<★ゴルジュ状の二俣> ただ、二俣付近はデブリになっており、右俣は雪崩で大きく削られていた。 このあたりにテントを張るつもりだったが、場所の選定が難しい。まさかデブリの真ん中に張るわけにも行かないし。 結局、左側のちょっと上がったところを削ってテントサイトとした。<★テントサイト> このころには雪も止んでいたので、偵察をかねて、トレースを付けに行くことにした。ここまではワカンのみで登ってきたが、この先傾斜が強くなることを考えて、アイゼン+ワカンにして登り始る。 右俣側から回り込んで、適当な雪壁から取付く。 尾根までの雪壁登りは急で、雪も深くて苦労したが、一旦尾根に出てしまえば、ラッセル自体はそれほど苦ではなかった。 樹林帯をひたすら登るだけ。<★樹林帯をひたすらラッセル> 空身なので、スピードも速い。高度もぐんぐん上がる。 急な斜面をどんどん登っていくので、このまま稜線まで出てしまうのではないか、と思えるほど。隣の県界尾根の大天狗の高さも近づき、赤岳の頂上も間近に見える。 第一岩峰までは行こう、と決めていたが、なかなか着かない。 樹林帯を抜けたところで、突然目の前に岩峰が現れた。 これが第一岩峰か。<★第一岩峰> 二俣からかなり高度を上げてしまったので、本当に赤岳が目と鼻の先に見える。 前出「アルパインクライミング」では、『雪稜を5ピッチ登ると岩稜になる』と書いてあったのだが、ロープを出す必要があると思われる場所は全くなかった。ただひたすら樹林帯をラッセルしていただけだった。 雲が切れ、眼下に広がる大門沢を眺めながらしばし一息つく。 このあたりは広いので、テントを張ることもできるだろう。 このまま登ってしまいたい衝動に駆られるが、すでに15時。明日の楽しみとして取っておこう。 下降はあっという間だった。二俣から第一岩峰まで1時間半ほどかけて登ってきたのだが、下りは15分でテントに戻った。 雪崩に削られた右俣では、水流が表出していたので、水汲みすることができた。 この日の夜は非常に冷え込んだ。先週の鹿島槍も寒いと思ったが、標高は低いにもかかわらず、それ以上に寒く感じ、ほとんど眠ることができぬまま朝を迎えた。 3月27日 絶好の天気。 眠くて体が重たいが、昨日つけたトレースをたどって第一岩峰へ。 ここでワカンをしまって、アイゼンのみになり、ロープをつけ登攀開始。 1ピッチ目【神谷リード】 岩峰を左からトラバースしてしまえば、ロープは要らなさそうだが、ここはあえて、正面のルンゼの雪壁に突っ込む。木登りしつつ、灌木で支点を取っていくが、雪の状態が悪い。モナカ雪で、その下がすぐ岩。草付なら、ダブルアックスで一気に登れるところだが、スカスカの雪の下に岩がゴロゴロしていては、ちょっと登るのが怖い。しかも直登すると途中で支点が取れない。 仕方がないので、少し左にトラバース。なるべく尾根上を忠実に行くつもりで、強引に雪壁を登る。 尾根に上がったところで灌木を使ってビレイ。 2ピッチ目【木下リード】 膝上くらいのラッセルをしつつ、雪稜を登る。途中、支点を取れる場所もあまりなく、50mロープがいっぱいになってしまった。そのまま同時登攀に移行。しばらく行ったところで、灌木を使ってビレイ。<★雪稜へ><★ここで一旦ビレイ> 3ピッチ目【神谷リード】 ひたすら雪稜をラッセル。ところどころ灌木で支点を取りつつ、コンティニュアスで進む。 天気もよく、気持ちがいいところだ。赤岳東面の岩壁が目の前にそびえ立っており、この迫力はすばらしい。この角度で見る赤岳は初めてだ。<★赤岳の迫力><★この気持ちの良さが雪稜の真骨頂> 正面に第二岩峰が見えてきた。直登はさすがに無理。岩峰の直下で一旦ピッチを切ろうと思ったが、良い灌木がないので、そのまま左へトラバース。<★第二岩峰> このままトラバースして、岩峰を巻いてルンゼを登ってしまうこともできたが、そうすると、ロープの必要性がなく、ずっとコンテのままで、あっという間に登攀終了してしまいそうだったので、わざと右の雪壁に突入。 雪の下がすぐ岩になっていて、バイルがうまく決まらず、ちょっと苦労した。灌木はたくさんあるので、適宜支点を取りつつ、登っていく。 尾根に復帰したところに残置ピトンがあったので、そこでピッチを切る。<★岩峰を巻いて> 残置ピトンは二本あったが、一本は手で抜けてしまうほどだったため、灌木も使ってビレイ点とした。 4ピッチ目【木下リード】 このまま尾根を行こうとすると、かなり岩が露出しており、灌木も少なく、支点が取れない。雪稜のつもりでピトン類は持ってきていないので、結局左のルンゼと合流するようにトラバース。<★左のルンゼへ入る> このあたりで、後ろから単独行者が来ていることに気付いた。トレースはついているし、向こうはもちろんロープを出すこともないので、もうすぐにでも追いつかれそうだ。 もうあと少しで稜線だというのに、最後に追い抜かれてしまう、というのはなんだか悔しい。ここまでラッセルしてきて、最後だけ抜かれるのか。 そうは言っても、二人でロープを出している方が明らかに時間がかかるので、もし追いつかれたら、先を譲るしかないだろう。 気持ちが少し焦り始めた。 50mぎりぎりまでのばして、ルンゼの途中で、灌木を使ってピッチを切る。 5ピッチ目【神谷リード】 ルンゼを登り切ると、雪稜に出た。あとはロープが要らないくらい。コンテに切り替えて、一気に竜頭峰を目指す。<★竜頭峰は近い> さくさくと雪を踏みしめながら、頂上稜線に向かっていくのは気持ちがいい。<★最終部分> 後続の単独行者は、我々が登った3ピッチ目の雪壁は通らず、ルンゼを巻いてトラバースしてきているようだ。何とか追いつかれずにもすみそう。 頂上稜線が近づくにつれ、風が強くなってきた。西風だったので、ここまでは稜線に遮られていたのだが、それが一気に吹き付けてきた。 稜線に出ると、あまりの強風に身体が吹き飛ばされそうだ。 ロープをたたむ余裕もなく、そのまま赤岳頂上へ向かう。 頂上には西面から登ってきた登山者が数パーティいた。 頂上小屋の陰で風を避けて休むが、それでも完全には避けられず、早々に頂上を立ち去る。 単独行者は、頂上には登らず、そのまま真教寺尾根を下っていったようだ。 (なお、その方の記録もウェブで発見。→覆水盆に返らず 真教寺尾根にベースを張って、第一岩峰へトラバースして取り付いたらしい。 『トレースがありがたい』と書いてあり、追い抜かれまいと必死になっていた自分が恥ずかしい。) 真教寺尾根の下りは、先行していた彼のトレースが、今度は逆にこちらがありがたく感じた。結構急な雪壁が続き、ところどころクサリが出ているところもあるが、明確なルートははっきりせず、わかりにくくて怖い。<★真教寺尾根を下る> 途中、彼が真教寺尾根から赤岳東稜へトラバースして取り付いたと思われる箇所のあたりで大門沢へ下る。 雪崩が怖いので、間を空けつつ、慎重に、でも一気に下る。 再び、赤岳東稜の樹林帯に登り返し、朝のトレースをたどりつつ、テントに戻る。 テントサイトからスキー場まで、前日つけたトレースはほとんど消えていた。おそらく風のためだと思われる。ラッセルと言うほどではないが、ワカンはずっとはずせなかった。<★振り返ると、赤岳はもう遠い> 『八ヶ岳で雪稜登攀を楽しめる唯一の尾根』というのもあながち大げさな表現ではないと思った。下部はほとんど樹林帯だが、第一岩峰を越えて、尾根に出ると、きれいな雪稜となる。今回のように晴れていれば、ダイナミックな展望にも恵まれ、気持ちの良い登攀となるだろう。特に赤岳をこの角度から間近に見られる、というのは、このルートならではだと思った。 記録を見ると、今年は毎週のようにどこかのパーティが入っているようだ。 →2/11-12:平成山岳会 →3/5-6:千種アルパインクラブ →3/5-6あるまこ〜(廣川氏パーティ?) →3/20-21山梨アルパインクラブ これほどまでの人気ルートとは知らなかった。 ただ、こういうルートは、自分たちでトレースを作って登っていくところに醍醐味があるわけで、先行パーティのトレースをたどってしまったら、おそらく魅力は半減するのではないだろうか。 今回は、天気にも恵まれ、先行パーティもなく、充分満喫できた。 今回、あえて、雪壁を登ったりしたが、ひたすら尾根の左をトラバースして巻いていけば、ロープを出す箇所もほとんどないだろう。 朝から歩き始めれば、(雪の状態にもよるが)日帰りも十分可能だと思った。 八ヶ岳東面は、杣添尾根以来2回目だが、西面ほどの混雑もなく、静かに自分たちだけの山を楽しめる、なかなか味わい深い場所だと思う。 |
3月26日(土) 雪のち曇り
9:40 駐車場出発(8℃)
11:00 県界尾根との分岐(-2℃)
13:00 二俣着・テント設営(-3℃)
13:50 テント出発(-3℃)
15:15-30 第一岩峰(-6℃)
15:45 テント着
3月27日(日) 晴れ
3:30 起床
5:15 テント出発(-2℃)
6:25 第一岩峰(-5℃)
6:45 登攀開始(0℃)
-7:15 1ピッチ目(-1℃)
-7:30 2ピッチ目(-1℃)
-8:05 3ピッチ目(0℃)
-8:30 4ピッチ目(3℃)
-8:55 5ピッチ目・竜頭峰(-3℃)
9:25-35 赤岳頂上(-7℃)
9:40 真教寺尾根との分岐
10:10 赤岳東稜と合流(2℃)
10:50 テント着(4℃)
11:25 テント発(0℃)
12:35 スキー場上(16℃)
13:10 駐車場(17℃)
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