「一転」
足尾 松木沢 ウメコバ沢 中央岩峰 凹角ルート(3ピッチ目まで)

2004年5月15日(土)
メンバー:羽矢(山岳同人カルパッチョ)、神谷(記)
報告内の★マークは、写真へのリンクです。



<凹角ルート全景。●がビレイポイント>

ウメコバ沢に最初に来たのは、2001年10月のこと。そのときは、荒漠とした風景ではあるが、岩は硬く、快適な岩場であると言う印象を受けた。また、ウメコバ沢の出合には、広い河原があり、ここで焚き火&キャンプをして、毎日岩場へ向かうと言うのも、なかなか素晴らしい生活になるのではないかと思った。
今回、天気の都合で、焚き火の話はなくなったが、瀧島さん(ウメコバにはもう十回以上通っている)、木下(「きりぎりすvol.5」でウメコバを絶賛)、羽矢さん(山岳同人カルパッチョ)というメンバーで、ウメコバ沢に向かうことになった。

2パーティに分かれ、羽矢-神谷で凹角ルート+スーパーフレークというウメコバ2大メジャールートを登り、瀧島-木下でチャンピオン岩稜(古い記録はあるが、近年登ったという記録がない)を登ることにした。

足尾のアプローチは以前よりさらに遠くなっており、銅親水公園に車を止めて、そこから林道を延々と歩くことになった。採石場の手前にゲートができてしまっている。親水公園からウメコバ沢出合まで1時間半。沢はうまく飛び石で越えられそうな場所がなかったので、靴を脱いで渡渉。<★荒涼としたウメコバ沢へ>

中央岩峰の前まで来て、ギアの準備。凹角ルートとチャンピオン岩稜は、沢を挟んでちょうど真向かいにある。チャンピオン岩稜に向かう二人と別れて、我々は凹角ルートの取付へ向かう。<★見た目は美しい凹角ルート>

1ピッチ目【羽矢リード】
凹角から取付。取付には、古いスリングとビレイ点があり分かりやすい。
下から見ると、易しそうな凹角だが、実際には結構悪い。
特に、ピッチの最後にビレイ点まで登る部分は、5mほどランナウトする。右の凹角にカムをセットして、左のフェースに移ってからは全く支点がとれない。ホールドはあり、技術的には難しくないが、落ちたら一気に振られてしまうことを考えると、非常に緊張する部分。
ビレイ点は、残置のリングボルトとスリングで作られているが、かなり古く、完全には信用しきれない。<★1ピッチ目の凹角を登り出す>

2ピッチ目【神谷リード】
出だしのトラバースが怖い。「きりぎりす」の記録には、ここでアブミを出した、とある。ハーケンが1本残置されているが、浅打ちで、これを信用して全体重を預けてしまうのはためらわれる。
手前にピトンスカーがあったので、そこにナイフブレードを打ち込む。支点は自分でセットしたものの方が信用できる。
そこから右にトラバースして、ピナクルに乗り上がる、のだが、フリーではやはり怖かった。セットしたナイフブレードでA0して、何とかトラバース成功。しかし、ピナクルに乗りあがっても支点を取れる箇所はなく、緊張は続く。
一度カンテを右に回り込もうとしたが、そっちは間違いらしく行き詰まり、一旦戻る。今度は左上するように凹角へ。左上する部分に見るからに剥がれそうなフレークがあった。ためしに触れてみたら、その瞬間に30cm四方のフレークが崩れ落ちた。幸い一番大きな塊は、テラス状の部分に引っ掛かって止まった。真下に人がいないことを確かめて、放り投げる。ビレイ点がこの直下にあったら、惨事は免れないだろう。剥がれたフレークのすぐ左にも同じようなフレークがあったが、なるべく触らないようにして、登っていった。
「どんどん支点取ってってー」とビレイしている羽矢さんは言うが、支点を取れる場所がない。浮石ばかりで、どのホールドを信用していいのか見極めるのが大変だ。
凹角にようやく見つけたクラックも、ほとんど浮石で、カムをセットしてもグラグラして信用できない。単なる気休めだが、3つほど固め取りしてみる。
さらに凹角を登り、テラスの灌木を掴み、ビレイ点に到着。ハンガーボルトとリングボルトのビレイ点だが、リングボルトは腐食が激しく、使い物にならない。
(なお、トラバースで打ち込んだナイフブレードだが、岩の内部で曲がってしまったらしく、回収不可能で残置してしまった。)

3ピッチ目【羽矢リード】
この先、オリジナルラインは、右に回り込むのだが、このまま凹角をまっすぐ登る「ダイレクト」ルートの方がすっきりしている。当然、ここはダイレクトルートを登ることにした。しかし、リードの羽矢さんの動きが鈍い。なかなかロープが出て行かない。しばらくして、コールがかかった。
「ダイレクトは、岩が脆くて、もし落石したら、ビレイヤーに直撃しちゃうから、右のほうに行ってみる」
とのこと。確かに、私がいるここのビレイ点は、凹角の真ん中にあり、逃げ場はない。2ピッチ目も脆かったが、この上はさらに脆いのか。不安が頭をよぎる。
右に回り込もうとしたところで、対岸の「チャンピオン岩稜」を登攀中の木下からコールが。
「オリジナルラインは、最近誰も登っていない。とても危ないからやめたほうがいい」という。
とは言え、ダイレクトも脆くて危ないのは間違いない。羽矢さんの判断に任せることにした。
結局、オリジナルラインへ行ったようだが、苦労しているらしい。ガバホールドが多いが、どれも信用できない、とのこと。ついに「脆すぎて危ないから降りる」ということになった。
過去にも同じところで下降した人がいるのか、ちょうどうまい場所に残置ボルトがあったようだ。ここにカラビナとスリングを残置して、ロワーダウンで降りてきた。
技術的に難しいならともかく、岩が脆くて、しかも落石はビレイヤーに直撃する可能性があると言うのは、登る気力を失せさせるのには十分な要因だ。交代して私がリードする、という気にもなれず、潔く撤退を決める。<★始めの凹角は登ったものの>

-----補足(2004.5.27追加)-----
3ピッチ目をリードした羽矢さんから、上記の報告に関して、補足及び訂正がありましたので、以下に追記しておきます。
「3ピッチ目をスタートし5mくらい登ったあたりで、このままダイレクトルートを登り続けて、万が一、岩を剥がすことになればビレーヤーはよけられない危険な状況にいることに気づきました。ただし、その位置から凹角ルート上方を仰ぎ見てうかがえる範囲では、2ピッチ目のように脆そうとか、悪そうとかってほどではなく、比較的すっきりした凹角ではあったと記憶しています。だけど、ルート途中には、剥がれやしないかなって心配なフレークも幾つか見えて、その時点で、正直、敗退したいと言う気持ちも生まれてきていました。2ピッチ目のあまりの脆さに、気持ちの上で、脆い壁だから気をつけなければって気構えができあがっていたものだから、ここにきてナイーブに気持ちが膨らんだと思います。だから、その時点で安全策をとることに決めて、右上していくオリジナルルートに軌道修正しました。だけど結果は、こちらはあまりに脆く、というより浮いた岩の連続で、小さいのも大きいのも、手で叩いてみるともどれも浮いた音がする状況でした。暫く登ってはみたのですが、あまりに危険だと感じ、ちょうど左の方に2本ボルトが打ってあったことから、これを使ってロワーダウンしました。」
以上の通り、ダイレクトルートは、必ずしも脆くて登れない、というわけではないようです。ただ、オリジナルライン(ノーマルルート)が脆いのは間違いないようです。
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2ピッチ目ビレイ点に新たなスリングを残置して、そこから懸垂下降。
50mダブルロープで取付まで降りることができた。

順調に高度を上げていくチャンピオン岩稜パーティを見ながら、スーパーフレークルートの見学。1ピッチ目のフェースが悪そう。凹角ルートよりは脆くはないだろうが、今の心境では登る気にはならず、そのまま帰途に着く。<★チャンピオン岩稜。写真中央にロープがのびているのですが、この写真では小さすぎて見えないですね……。>



前回ウメコバの岩壁を登りに来たのは2001年の10月。そのときは、非常に快適な岩場であると言う印象を受けた。当時の記録から引用すると、
岩質は最高である。浮き石も少ないし、ホールド、スタンス共にカッチリしているので、思い切ったムーブも可能。岩の硬さと雰囲気は、なんとなく越沢バットレスを思い出す。ぐいぐい高度を稼ぐことができる。
はっきり言って、今回は、全くこれに当てはまらなかった。
浮石は多いし、ホールドは不安定だし、岩が信用できないので、ムーブも慎重にならざるを得ない。さらには、クラックがあっても浮石の間のクラックなので、カムをセットしてもちゃんと効いてくれているように思えない。
ともかく、脆さと悪さが印象に残った。

単にこのルートが悪いのか。いやしかし、ウメコバに何度も通っている瀧島さんは、このルートを5回も登っていて、一番のお勧めルートだと言っていた。だからこそ、今回、このルートを登ることにしたのだ。
では、何が違ったのか。
ひとつは、時季の違い。前回は秋で、今回は春。春は雪解けで岩が脆いのかもしれない。でも、じゃあ、このルートが秋になったら、岩がしっかりしてきて快適なルートになるのか、というと、何だかそれも信用できない話だ。
もうひとつは、この何年かで岩場の崩壊が進んだ、ということ。地震かなにかで急に岩質が変わったというのも考えられなくはない。
あとは、もともとこういうルートで、「脆い」という認識が違っている、ということ。谷川とか、本当に脆い岩場と比べれば、ここはまだマシ、という考え方もできる。技術的には難しくはないルートだから、あとは精神的な部分がモノを言うのかもしれない。脆さの基準は人それぞれなので、これくらいなら大丈夫、と言って、あまり気にせず登ってしまうのかもしれない。(でも、少なくとも、3年前の秋に登った右岩壁右ルートよりは悪いと感じたのは確かなのだが。)

チャンスがあれば、もう一度、秋に来てみて、それでも今回と同じ状況だったら、もうウメコバに岩登りには来ないだろうな、と思った。



この日は、植樹祭があったらしく、昔のゲート付近に、バスで乗り付けた多くの人たちが集まっていた。前回来たのが秋だったせいもあるが、今日は緑がとても多く鮮やかに見えた。足尾の緑化プロジェクトも着実に進んでいるのだろうか。
下山後、時間があったので、親水公園にある「足尾環境学習センター」をのぞいてみた。一人200円。建物自体は小さいが、意外に内容は充実しており、個人的にはとても興味深く、じっくりと楽しませてもらった。
特に目を引いたのは、松木村が廃村になっていく過程。あの松木沢付近に村があったとは今では考えられず、物悲しさを感じずにはいられない。ただ、足尾銅山発展の過程は結構詳しく書かれていたが、負の歴史の方の突っ込みが甘く感じられたのが残念。もう少し、深く掘り下げた展示がしてあればよかったと思う。
ちなみに、緑化プロジェクトについては、NHKスペシャル(2004年5月23日「足尾銅山 よみがえる森」)で放送された。なお、ウメコバ沢周辺(松木沢右岸)は、「自然破壊の実態を知ることのできる負の遺産」としてこのまま保存され、緑化プロジェクトからはずされているようだ。(足尾国有林に残った荒廃地の一部を現状保存、環境学習に活用へ




5月15日(土) 晴れ
6:50 銅親水公園出発
8:20 ウメコバ沢出合
9:00 取付
9:10 登攀開始
-9:40 1ピッチ目
-10:25 2ピッチ目
-11:15 3ピッチ目途中まで(下降開始)
11:30 取付
12:20 ウメコバ沢出合
14:00 銅親水公園着



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