「荒漠」
足尾 松木沢 ウメコバ沢 中央岩峰右岩壁 右ルート

2001年10月28日(日)
メンバー:木下(日本山岳会青年部)、神谷(記)



<5ピッチ目(ここから右の凹角へ)>

松木沢へは、今年の2月にアイスクライミングに来た。そのときは、氷の印象しかなく、岩としてその壁を見ることはなかった。松木沢ジャンダルムが脆いという話だけは聞いており、このあたりで岩をやるということは考えられなかった。
しかし、9月末に学生登山者メーリングリストに出た木下氏の記録に☆☆☆☆がついており、本人からも「何度も行きたくなる場所」との話を聞き、非常に興味はわいていた(そうは言っても半信半疑ではあったのだが)。
本来ならこの日は、幽ノ沢中央ルンゼへ行く予定だったが、西から雨が近づいているとの予報で、急遽予定変更。足尾に向かった。

午後からは確実に雨になることが予想されたので、睡眠もそこそこにゲートで車を降りて6時から歩き出す。空には雲が多いが、すぐに降り出すという感じではない。
2月に来たときには、もっと奥まで車が入ったのだが、現在はゲートからすぐのところで沢で道が寸断されており、車は入れない。この状況では、道の復旧は当分無理だろう(永久に無理かも)。
30分ほど歩いて林道が途切れたところで、沢に降りる。左手に見えるのがウメコバ沢<ウメコバ沢出合>
取付まで2箇所滝を越えるが、どちらも右にフィックスロープがある<フィックスのある最初の滝>。乾いていれば、ロープはなくても十分登れるが、濡れていたらちょっと怖いかもしれない。
さらに30分ほど沢沿いに進んで、右手に現れるのが、中央岩峰右岩壁。
ちなみに左手がチャンピオン岩稜。さらに奥に進むと、左岩稜フランケのスーパーフレークが顕著に見える(瑞牆山ベルジュエールの大フレークのようだ)<スーパーフレーク>
なお、ウメコバ沢には、ずっと水流があるが、この水が飲めるのかどうかは分からない。鉱毒が今も残るのかは分からないが、飲むのには躊躇してしまう。

中央岩峰 右岩壁 右ルート
1ピッチ目【木下リード】40m
取付に目印となる何かがあるわけではない。トポと照らし合わせて、凹角を目印に、登り出す場所を決める。一段上がったところにハーケンが2本。そこから先は、残置支点はほとんどない<1ピッチ目の登り出し>
岩が硬く、ホールドがカッチリ決まるのがうれしい。岩角にシュリンゲを巻き付けたり、カムをセットしたりして、支点を取る。III級程度とはいえ、必然的にランナウトが長くなる。出だしは、カムを決められそうな場所も少なく、嫌らしいムーブも出てくるので、ちょっと怖い。
40mほど登ると、広いテラス。ビレイ点はちゃんとある。

2ピッチ目【神谷リード】30m
どこでも登れそうだが、右から登る。やっぱり残置はないので、カムを決めていく。
II〜III級くらいか。登れそうなところをぐんぐん登っていく。
難しくないからといって、油断するとランナウトが非常に長くなる。ごくたまにハーケンがあって、一応ルートとしては正しいことが知られる。30mほど伸ばすと、錆び付いていて、しかも半分しか入っていないボルトがあり、隣のリスには、根本だけが残ったハーケンの残骸があった。
ビレイ点と判断するが、ボルト1本だけではあまりにも不安なので、カム(キャメロット#0.75)と灌木からも支点を取る。

3ピッチ目【木下リード】50m
ビレイ点としたボルトから5mほど登ったところに、太めの木があって、そこに懸垂用と思われるシュリンゲがかかっていた。ビレイも実はこっちの木でやった方が良かったのかもしれない。
さらに5mすすむと、3mほどの小垂壁<ここから小垂壁>
トポでは、I〜II級となっているが、ここのムーブを考えると、少なくともIII級はあるように思える。歩いて行けるほど易しくはない。小垂壁はフレーク状なので、カムがよく決まる。ロープをいっぱいにのばすと、「お父さんがんばってルート」の取り付きと思われるペツルボルト(1本)が見える場所まで届く(ボルトまで5mほど手前の地点の木でビレイ)。
ここからルートが3つ考えられる。右から、
1)お父さんがんばってルート
2)右ルートの派生ルート
3)右ルート正規ルート
ビレイした木から、10mほど左に下ったところにビレイ点があるが、腐りきっているので、使う気にならない。正規ルートを登るのであれば、そのビレイ点を使うのだろうか。トポを見ると、一旦クライムダウンしてから、登るような感じで書かれている。
結局、真ん中の派生ルートが、灌木が多く支点が取れそうで、また、カムもよく決まりそうだったので、そこを登ることにする。
ペツルまで少しビレイ点を移動する。

4ピッチ目【神谷リード】30m
今回のルートの中では核心といえる部分。
1本目の支点を灌木で取ると、その上にハーケンがあり、ルートとして正しいことが分かってほっとする。15mほど登ったところで、凹角から左のフェイスに出るところが、ちょっと難しい。(IV+〜V-くらいか)
凹角にハーケンを打ち込み、支点を取ってから左に出る。ホールドはあいかわらずしっかりしており、浮き石などはないので、思い切っていけるが、フェイス上では、支点が取れないので、落ちたらかなり振られそうで怖い。高度感もあって、下の様子がよく見える。
上部はテラスになっていて、ハーケン2本と灌木で支点が取れる。この支点には、懸垂用のシュリンゲも大量にぶら下がっている。

5ピッチ目【木下リード】30m
このピッチも灌木が多く、支点は十分取れる。
チムニー状の凹角のムーブは、第二の核心とも言え、難しいところもあるが、やはりホールドはあるので、問題ない。快適なクライミング<ホールドと灌木がいっぱい>
直上したあとで、左にトラバースする。
すぐ向こうに凹角ルートの終了点が見え、ルートとしては、ここでほとんど終わり。
このピッチの途中から、雨が降ってきた。

6ピッチ目【神谷リード】15m
III級程度の岩場をロープ一杯にのばそうかと思っていたが、15mほどでしっかりしたビレイ点に到達した。ハーケンが3本並んでいる。
5ピッチ目でトラバースするのではなく、直上すると、このビレイ点に出るのだろうか。
とりあえずここでピッチを切る。

7ピッチ目【木下リード】50m
ビレイ点から5mほどフェイスを登ると、あとは単なる歩き。
枯れた大木。荒涼とした風景。
爽快感というより、寂寥感を感じる。


[下降]
最高地点より、少し戻ってフィックスロープを辿る。
このあたりは浮き石がゴロゴロしており、落石、スリップに注意が必要。ここで落ちたら、サヨウナラである。
だんだん雨足も強くなってきたので、急いで下る。
フィックスの最後は、悪いクライムダウン。フィックスロープの状態は、あまり良いとは言えないが、ゴボウで下った方が楽ではある。

その後、フィックスを離れて、右方面へ。
ウメコバ沢F8、F9(?)がよく見える。
大木から、右下へ再びフィックスがある。ここのクライムダウンもかなり悪い。一段降りて、フィックスロープでの懸垂下降。しかし、このロープもそろそろ芯が見えてきているので、自分でロープをセットして懸垂した方が無難だろう<フィックスでの懸垂下降>
あとはクライムダウンで、沢まで降りる。
右の壁沿いにガレを降りていくと、取り付きまで戻ることができる。

取付からウメコバ沢出合までは、フィックスロープのあった2箇所の滝で懸垂。今回は、フィックスをそのまま使わせてもらったが、こちらも自分でセットした方が無難ではある。


岩質は最高である。浮き石も少ないし、ホールド、スタンス共にカッチリしているので、思い切ったムーブも可能。
岩の硬さと雰囲気は、なんとなく越沢バットレスを思い出す。ぐいぐい高度を稼ぐことができる。
ただ、残置支点は少なく、あったとしても腐っているものが多いので、その見極めには注意が必要。ビレイ点は、ハーケンと灌木でちゃんと取れる。ボルトはほとんどなかった。中間支点は、基本的にはナチュラルプロテクションが中心となる。しかし、カムもナッツもよく決まるので、その点は安心。今回のルートは灌木が多く、そこでも支点を多く取れた。
ルート自体は短く、あっという間に終わってしまったが、今回は、午後雨が降ることが分かっていたので、早めに終われて幸いだった。
濡れてしまうと、明らかに滑りそうな岩質なので、ちょっと登る気にはならない。
あと、難があるとすると、見えるの光景ががあまりにも殺風景で、全く緑がなく、登っても爽快感よりも、何か一抹の寂しさを感じる。
空気もなんだか死んでいるような感じがする。
紅葉は紅く染まっているのだが、何か気持ちの悪い紅さだ。
その中でやるクライミングという行為は、息苦しさを感じてしまうのは私だけだろうか。
とはいえ、集中して何本か登りたくなることも確かである。
周り中が岩だらけなだけに、可能性は大きいように思える。発表されているルートは数少ないが、未発表のものも多いのだろう。なにしろ、いくらでもルートが取れそうなほど岩壁が続いている。

来年もう一度来たいと思う。

参考:岩と雪87号(「足尾・松木沢の岩場」平田謙一)
(グレード、距離などはずいぶん違うような感じがする。)

持参ギア
キャメロット#0.5-#2.0
(意外と大きいクラックもあるので、#3.0もあると便利かもしれない)
エイリアン1セット
ナッツ1セット(使用せず)
カラビナ20枚
シュリンゲ多数
(ヌンチャクは使いにくいので、カラビナ+シュリンゲの方が便利)
ハーケン各種10枚
ボルトセット(使用せず)




10月28日(日) 曇りのち雨 
23:00 大塚駅発
2:30 足尾着
5:20 起床
6:00 歩き出し
6:30 ウメコバ沢出合
7:00 取付着
7:40 登攀開始
〜7:50 P1
〜8:15 P2
〜9:15 P4
〜9:45 P5
〜9:55 P6
〜10:10 終了点
〜10:55 取付着
11:55 車到着



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