「A.A.(AmericanAid)」
丸山東壁 南東壁「雨の日もパラダイス」

2002年9月14日(土)〜15日(日)
メンバー:石原(YCC) 、神谷(記)
報告内の★マークは、写真へのリンクです。



<赤線がルート。□がビレイポイント>

「アルパインクライミングにとって、プロテクションというのは、自分の身を守るものを自分で作ることだと思う。事前にプロテクションが残されているルートだけを登っていたのでは、どこか片手落ちとしか思えない。(「ヤマケイ登山学校18 アルパインクライミング(保科雅則著)」p106)」

現在、日本のいわゆるクラシックルートは、「ルート」として、ボルトやハーケンが残置されており、それらを支点として一つ一つたどっていくものが多い。
しかし、本来のクライミングとは、支点は自分たちでセットし、自分が打った支点は回収していくのが原則であろう。
「アメリカンエイド」とは、「残置支点を使わず自分で支点(ピトン、ナッツ、スカイフックなど)をセットして行く(「日本の岩場(白山書房)」より)」ものである。
残置支点を残さないため、岩を傷つけることなく自然のままに保つことができ、さらに常に初登時に近いスタイルで登ることができるというこのスタイルは、日本の岩場にも徐々に広まってきている。
アメリカンエイドでは、他人が打った支点を、無自覚にただたどっていくだけではない。その場その場に応じて、自分の持つ技術と経験、そして想像力を駆使し、あらゆる手段を講じて、前進していくことが求められる。そのため、通常の残置ルートを登るときとは比べ物にならない緊張感とプレッシャーがある。

今まで私が登ってきたルートは、基本的には残置のあるルートがほとんどだった。昨年登った甲斐駒のAフランケ赤蜘蛛ルートはカムの架け替えによる人工登攀を含んでいたが、本格的なアメリカンエイドルートは、今回が初めて。場所は丸山東壁。ルート名は「雨の日もパラダイス」。

9月14日(土)
朝一番のトロリーバスで扇沢駅を出る。夜中から降り続く霧雨がしとしとと身体をぬらし、登攀意欲があまり沸いてこない。しかし、天気予報では今日明日は曇りか晴れ、と言っている。予報を信じて、ともかく出かけることにする。それに今回登るルートは「雨の日もパラダイス」。雨が降ったって、きっとパラダイスになるに違いない(希望的観測)。

計画では、今日は取付から2ピッチ分延ばして、FIXロープを張り、明日はそこをユマーリングして上部に続けるつもりだ。
黒部ダムから歩いてくるクライマーらしきパーティが2つあったが、どちらも剱に入るようで、今日の丸山は我々の貸切。内蔵助谷出合の広場にテントを張って、取付へ。空に雲は多いが、朝の雨は上がり、何とか登れそうな気配となった。
よく目立つ取付の洞穴で準備を整え、いよいよスタート。と思ったら、石原さんがハンマーをテントに置いてきた、と言い出した。波乱の幕開け。

1ピッチ目【石原リード】
リードは、クラックを数手フリーで行って、すぐに人工に切り替える。岩が脆いのか支点がセットしづらいのか相当に時間がかかっている。特に「白い岩」の部分で迷っているようだ。白い岩を避けて直上してからトラバースするか、白い岩をそのままトラバースしてから直上するか。白い岩が非常に脆いので、何度か行ったり来たりを繰り返して、結局、白い岩の横断に決め、ビレイ点に到着。<★左上の白い岩目指して>
今回、フォローはユマーリングというシステムなので、私は後から回収に努める。ユマーリングしてしまうと、どこが難しいのかははっきり分からないが、見た目以上に岩が脆いのはよく分かる。はがれそうなフレーク、今にも落ちそうな浮石。そんな状態で支点をセットしながら人工していくのは相当な緊張感だと思う。
このピッチ使用したギアは、エイリアン2セット、アングル×2、アングル+ナイフブレードの重ね打ち。

2ピッチ目【石原リード】
1ピッチ目の終了点がハンギングビレイなので、ビレイヤーは相当苦しい。草付の多い凹角をエイリアン主体の人工で進む。アングルも2ヶ所使用。<★草付の凹角を行く>
回収中にアングルを一個落っことす(後で無事回収)。アングルはなかなか外れず、回収が難しい。
2ピッチ目終了点のテラスが、じゃりじゃりの場所で、そこからの落石はまともにビレイヤーを直撃する。ビレイしていると、ばらばらばらばらと降ってくる小石に閉口。

3ピッチ目【神谷リード】
計画では、今日は2ピッチで降りるつもりだったが、時間もあるし、4ピッチ目の登研ルートに合流したところでFIXを張ったほうが、翌日のユマーリングが楽そうだったので、そこまで進むことにする。
ハング下をリングボルトの左トラバース。1本目が遠くてなんか嫌らしい。灌木の上に乗っかって手を伸ばす。
ハングの切れ目がボルトの終わり。エイリアン2手の人工で、ボルト3本のビレイ点到着。その先が見えなかったのでピッチを切る。<★アブミトラバース>

4ピッチ目【神谷リード】
トポでは「振り子トラバース」となっている部分。リードは、テンションで左下に下ろしてもらい、カンテを回り込む。カンテ上にロストアローが1本。まずはこれで支点を取って、と近づいてみるが、それはぐらぐらで、手で引っぱっただけで抜けそう。全く役立たず。いかん、いかんとあわてて近くのリスにエイリアンをセット。
しかし、その先がよく分からない。ルート図ではカンテを一旦登り、さらに左下にトラバースして登研ルートに合流しているのだが、その登研ルートのラインが見えない。ロストアローのあったカンテを回り込み、左の草付の凹角部分を登ってみる。残置支点はないため、ちょっとしたフレークにエイリアンをセット。4-5mほど登ると残置ハーケンが1本見え、さらにその先にボルト3本のビレイ点があった。
フォローは、カラビナを残置し、自己ロアーダウンの方法で降りてきた。

今日はここまでとし、50mロープをFIXして、懸垂下降。カムやハーケンなどのギアもビレイ点に置いていく。

9月15日(日)
夜中2時ごろから雨。
朝には止んでくれ!との願いもむなしく、明るくなってもずっと雨。
たまに止んだと思ったら、すぐにまた雨。
「雨の日もパラダイス」とは言え、次のピッチは登研ルートのフリーピッチ。雨の中で登るのはちょっとつらい。
昼まで待ってこの状態なら、FIX回収して宴会モードかな、とほぼ諦めかけていた。
と、8時半ころになって雲間から青空が!
いそいそと準備を整え、早速岩場へと向かう。
その後、一気に雲は晴れ、陽射しも出てきて、岩もあっという間に乾いた。
急いでユマーリングして、昨日の4ピッチ終了点に合流。<★ユマールで高度を稼ぐ>


5ピッチ目【神谷リード】
残置支点で2-3手人工で上がり、あとはフリー。
このあたり、非常に岩が脆く、はがれそうなフレークの連続。慎重にホールドを探す(後続で登研ルートを登ってきたパーティがここで大きな落石を落とす)。
何とかリングボルト2本のビレイ点に到着後、それを通過し、さらにフリーで上へ。嫌らしい草付凹角を数手登ると、残置ハーケンが一本。そこから灌木をトラバース。<★草付の多い脆い壁>
いよいよ核心部のビレイ点に到着。

6ピッチ目【石原リード】
登研ルート(ダイレクトルート)の支点を2本使って登った後、右に別れ顕著なクラック(ビレイ点の真上)へ。<★頭上のクラック目指して>
下部はフレアしているが、チムニーというほど広くはない。奥に小さなクラックがあり、そこにエイリアンが決められる。フリーで5.10aらしいが、迷わず人工で。登研ルートとダイレクトが別れるあたりにペツルボルトが1本。その先のクラックが広い。登った人の記録を見ると、キャメロットの#4.5-5.0を駆使していくようなことが書いてあり、#3.5、#4.0が1本ずつしかない我々はどうなることかと、その点が登る前からずっと不安だった。ギアがなければないなりに、スカイフックなども使いつつ、何とか苦労しつつもそこをクリア。<★このあたりで大きいカムが必要>
核心部も過ぎ、登研ルートと合流し、あとは残置支点をたどって島テラスへ乗りあがるだけ、というところで、突然のフォール。残置の下向きアングルにアブミをかけたところで引っこ抜けたようだ。5-6mほど落ちるが、ハングしていたこともあり、幸運にも何事もなし。油断は禁物だと気を引き締める。
一旦ナイフブレードを別のリスに打ち込み、今抜けたアングルを打ち直す。打つごとにリスが広がっていくので、(しかも下向きだし)あまり信用できないとのこと。

その後は順調にテラスまで登り切り、フォローはユマーリングでクリーニング。下部のオフウィズスは、見るからにフリーじゃ行けそうもない。岩の脆い部分も多いし、リードはさぞかし大変だったろうと思う。

終了点から、懸垂3ピッチで登研ルートの取付へ。
初のアメリカンエイドも無事終了。
時間が余ったら右岩稜へという話だったが、そんな余裕もなく、また雨の降り出しそうな天気になったので、予定を早めてそのまま下山。

今回、丸山東壁自体が初めてだったのだが、全体に岩が脆くて、支点が信用できないという印象を受けた。フレークを持って、ぐっと立ち込もうとすると、今にもはがれそうで、ドキッとする。壁そのものは立派だし、アプローチも近いので、また別のルートも登ってみたいと思った。

結局、アメリカンエイド初挑戦とは言え、核心部分はユマーリングだったので、実際のリードはしていない。しかし、そのシステムや手順と言うのが少し見えてきた。今までのただ支点を追っていくだけの登り方とは、全然違い、新たに学ぶべきこと覚えるべきことが多いと思った。ユマーリングの仕方、タイオフの方法、回収のやり方など、経験を重ねて、練習していかなくてはならない。
今回の「雨の日もパラダイス」も次回はリードとしてまた登りに来たいと思った。

なお、「雨の日もパラダイス」については、山岳同人カルパッチョ2002年4月の記録が大変参考になった。

【ギア】

50mロープ(9.8mm(メイン)、9mm(サブ))
エイリアン2セット
キャメロット(〜#3.0)2セット、#3.5、#4.0各1個
ロストアロー、アングル、バカブー、ロックス各1セット。
スカイフック。



9月14日(土) 曇り時々雨
6:30 起床、出発
7:00 扇沢トロリーバス発
7:15 黒部ダム着
8:15 天場着
8:40 天場発
9:25 取付着
9:45 登攀開始(19.0℃)
9:45-12:15 1ピッチ目(15.2℃)
-14:20 2ピッチ目(16.9℃)
-15:20 3ピッチ目(15.3℃)
-16:30 4ピッチ目(下降開始)
16:50 取付着(13.5℃)

9月15日(日) 雨のち晴れ午後曇り
8:50 天場発
9:35 取付着
9:55 4ピッチ目終了点着(17.5℃)
-10:50 5ピッチ目(18.7℃)
-13:30 6ピッチ目(終了点)
14:15 取付着(21.8℃)
15:05 天場着
15:30 テント撤収、天場発
16:25 黒部ダム着


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