「チムニー好きにはたまらない・・・。」
瑞牆山 十一面岩正面壁 「翼ルート」

2002年4月14日(日)
メンバー:木下(JAC青年部)、神谷(記)
報告内の★マークは、写真へのリンクです。



<大岩の間を縫う 4ピッチ目>

ほぼ一年ぶりの瑞牆山。前回ベルジュエールを登りに来たときには、手痛い敗退を喫した。
あれ以降、クラックに対する自信がついたわけではないが、グレードを落として、再び挑戦しに来た。

 正面壁には、先行パーティが2パーティ。「ベルジュエール」と「南回帰線」にそれぞれ1パーティずつ取付いていた。我々は「右岩稜ルート」か「翼ルート」かと考えていたが、ピッチ数も短く、多少は情報を持っていた翼ルートを登ることにした。
 ザックは一つにして、食糧、水などを入れフォローが持つことにした。

1ピッチ目【神谷リード】IV+、A1
 「南回帰線」を苦労しながら登るパーティを右に見ながら、燕返しの大洞穴の左側のクラックからスタート。クラック沿いに直上する。朝一番で、まだ温まっていない身体を、人工で引きずりあげていく。基本的には単純なアブミのかけかえで、間隔もそれほど遠くはない。ルートの状況がよく分からなかったので、カムをジャラジャラぶら下げていったが、結局一つも使わなかった。最後の部分は、登りやすそうに見えた右のテラスに乗り上げるが、次のピッチとビレイ点のことを考えると、左に上がるのが正解のようだった。ちょっと怖いトラバースをして、左に移る。

2ピッチ目【木下リード】IV+
 ビレイ点のテラスから見ても大きく見えるチムニーが目の前に広がっている。まさに「大チムニー<★大チムニーに突入。木下リードで進むが、岩に隠れて、トップの動きはよく見えない。それでも苦労しているのは分かる。特に、チムニーの途中にルーフになっている部分があり、そこを乗越すのが大変そうだ<★ルーフの乗越し。時間はかかったが、A0したり、アブミを持ち出したりして、どうにかこうにか抜けて行ったようだ。
 ビレイ解除のコールが聞こえ、私がザックを背負ってチムニー内に突入。しかし、チムニーは予想以上に狭く、ザックが邪魔で、身動きが取れなくなってしまった。仕方なく、ザックを下ろし、シュリンゲでハーネスから吊り下げて登ろうとするが、あまりにもザックが重くて身体が持ち上がらず、作戦を断念する。バックロープを使っての荷揚げも考えたが、結局あきらめてそのまま登ることにした。バックアンドフットをすると、背中のザックが岩と擦れて悲鳴を上げている。ザックに対して申し訳ない気分になりながら、我慢して登る。
 ルーフの乗越しはA0で強引に身体を引き上げる。ホールド、スタンスは探せば見つかる程度にはあるので、空身ならフリーでも行けるかもしれない。
 ルーフを越えて、5mほど登るとハーケンがあって一安心。オールナチュプロの中に一つでも残置支点があると、気分的には随分楽だ。
 さらにクラックを登っていくが、大岩にぶつかって立ち往生。ザックが引っ掛かってにっちもさっちも行かなくなる。進退窮まってテンションをかけてしまう。A0&ゴボウ登りで強引に突破。大きなザックを背負ってこのピッチを登るのはかなり無茶だと思った。

3ピッチ目【神谷リード】IV+
 ビレイ点から一段上がり、右端のチムニーに入る。チムニーの幅は足の長さよりちょっと狭いくらいで、バックアンドフットにはちょうど良い。正面左右にクラックが走っており、どちらに支点をとってもカムは利きそうだ。見た目で右に支点を取ることを決め、左向きになってバックアンドフットをスタート。
 早いペースとはいえないまでも、確実に高度を上げていくが、10mほど登りキャメロット#0.5〜1.0位のカムを三つ極めたところで行き詰ってしまう。バックアンドフットしてきた壁が、両側ともなくなってしまうのだ。右はフェース、左はガレて傾斜が緩くなって見えるが、先が良く分からない。どっちにしてもこのバックアンドフットの体勢を変えなくてはならないのだが、この状態で安定してしまっているので、身体を動かせられない。クラックでジャミングして、と考えるが、足をはずす勇気が出ない。
 結局カムをもう一つ極めて、アブミをセット。アブミに体重を移してから、そのまま右のフェースに移動した<★チムニーからフェースへ乗り移る
 その先、フェースが15mほど。これがゲレンデにあって、ペツルボルトが並んでいれば、たぶんなんてことはないフェースだろうと思う。ホールドもスタンスも細かいけれどちゃんとあるし、傾斜もそれほどではない。IV級と言われればそのとおりだと思う。
 しかし、ナチュプロでチムニーを10m登ったあとの、さらにナチュプロが続くフェースとなると精神的な圧迫感が大きい。
 フェースの左にクラックがあり、カムが極まる。「小川山の『結晶に立ち込むようなスラブ』に比べたら、こんなフェースは簡単だ。落ちるはずはない。」と自分に言い聞かせてみるが、手足の震えが止まらない。5mくらいフリーで我慢したが、どうにも耐えられなくなってしまった。
 カムでA0。
 一度A0してしまうと、抑えが効かない。A0&A0の連続で、這々の体でもってテラスに乗り上がる。まだまだ精神的に修行が足りないと思った。

4ピッチ目【木下リード→神谷リード】IV
 まず木下リードで進む。
 右にリングボルトがあって、左がクラック。ジャミングだけだと結構厳しそう。ボルト+カムの人工で3mほど登って平らな部分に立つ。そこで、キャメロット#1が一個足りないことに気付く。回収忘れのようなので、取りに戻ることにする。木下はその場でセルフビレイ。私はロープの余りの部分をFIXして、懸垂で3ピッチ目を下降。果たして、チムニーからフェースに移る部分に残置されているカムを発見。回収後、タイブロックで戻る。結局30分ほどロスしてしまった。
 カムを補充して上部のクラックにチャレンジするが、どうにも登れないようだ。以前ひねった足首が痛いので、思い切ってクラックに足をつっこめないようである<★苦労したクラック
 選手交代して、私が登ることにする。よく見れば、案外ホールドもしっかりしているので、すんなり越える。
 その先は大岩の殿堂<★大岩の間を縫って進む。3mほどの三つのクラックがあり、好みに合わせて選択できる。登りやすそうな一番右のチムニーを選択して登る。さらにその先は、二つのクラック。やはり見た目で左を選ぶ。登り切ったところが、テラス状になっており、その先はシャクナゲのヤブになっていたのでピッチを切る。
 3ピッチ目終了点から40mほど伸ばして、しかもあちこちロープが屈曲しているので、ロープの流れが非常に悪かった。ルート図を見ると、25mで一回ピッチを切ることになっている。しかもルート自体、私が登ったものよりももっと右寄りを進んでいるように見える。自分では右端を登っているつもりだったが、ひょっとすると違うルートに紛れ込んでしまったのかもしれない。一応終了点には腐ったシュリンゲがあったのだが。


 そこから先は、単なるヤブ。ロープをしまって、歩いて登る。コルに降りて、正面に岩峰が見えたところから赤テープあり。テープに沿って岩峰を左から巻く。しかし、これが悪かった。残雪があって、フラットソールではつるつる滑る。ヤブを掴みながら、そろそろトラバースしていくと、十一面の頭の裏側に出た。ルート図では、十一面の頭の最後にA1があることになっていたので、ちょっとがっくり。さりとて、戻って登り返す気にもならない。せっかくだから、頂上まで行こうと、登れそうな場所を探る。岩を半周したあたり(つまり、翼ルートから登ってきた方向に逆戻り)から、III級程度で登れそうな箇所を発見。てっぺんまで登って、一休みしてから懸垂下降。先に取り付いていたベルジュエールパーティもちょうど登り終えたところらしい。
 頭からの下降は、新しめの赤テープがついているので、それをたどっていけば、問題ない。ただ、古いFIXロープで懸垂をする必要が出てくるので、ハーネスははずせない。そのFIXも懸垂するとロープがきしんで、キリキリと嫌な音を立てていたので、不安であるなら、ロープを出した方がよさそうだ。





 充実したルートだった。
 これでもか、というくらいチムニーが続くルート。
 「チムニーは身体が安定するから好き」とか思っていたけど、支点がナチュプロだというだけで、精神的な恐怖が倍増するような気がした。核心と思えたのは、2ピッチ目のルーフの乗越しと、3ピッチ目のチムニーからフェースに移る部分。ボルトだったら、大胆なムーブもできそうだが、やはりナチュプロという圧迫感で、どうしても身体が固くなってしまう。ナチュプロに対する自信と、精神的な強さを身につけなくちゃいけないと思った。(いつも同じことを思っているような……)

 各ピッチのビレイ点は、テラス状で、ザックをおいて快適に休める。テラスとテラスをチムニーでつなぐ、綺麗なルートだと思った。

 4ピッチ目は、あれで良かったのか、左に寄りすぎたのか、良く分からない。ルート図では、コルに直接乗り上げているので、左の「スコール(5.10c)」に入ってしまっていたのかもしれない。

 あと、このルートを行くなら、ザックはなるべく小さく軽く(できれば空身)で登るのがよさそうだ。チムニーでの大きなザックは邪魔すぎる。あのチムニーをザックを背負ってフリーで越えるのは、とても困難だし、そもそも快適ではない。

使用カムは、キャメロット#0.5〜3.0が2セットあれば十分。エイリアンはほとんど使わない。
キャメロット#4.0、5.0も1つずつ持っていったが、あれば安心、という程度だった。

朝は少し寒く、風も強かったのだが、登攀中はそれほど問題はなかった。チムニーの連続なので、クラックが濡れていたら、最悪だっただろうが、幸い乾いていて、快適であった。

瑞牆山は、昨年のベルジュエールで痛い目にあっているので、大丈夫だろうか、と思っていたのだが、意外と登れて一安心。しかし、IV級程度でA0してるようじゃ、デシマルグレードなんてほど遠い気がします。

4月13日(土) 
22:00 吉祥寺発

4月14日(日) 晴れ
1:00 駐車場着
6:00 起床
6:45 出発
7:50 取付き(9℃)
8:30 登攀開始
〜9:30 1ピッチ目
〜11:20 2ピッチ目
〜12:00 3ピッチ目
〜13:25 4ピッチ目
13:40 十一面の頭着
14:10 十一面の頭出発(12℃)
14:55 取付き発
15:55 駐車場着(19℃)


この記録に関するお問い合わせなどはこちらから。

[入口] [山記録]