「ドロは嫌」
谷川岳 幽ノ沢 中央壁 正面フェイス
2001年10月20日(土)
メンバー:石川、神谷(記)
<1ピッチ目(笹ヤブからのスタート)>
山行前にこれだけ緊張するのは久々だ。 今年夏の甲斐駒赤蜘蛛ルート以来だろうか。 有名ルートだけに、ネットを検索すると様々な報告が掲載されている。 それを一つ一つ読んでいく。 ほとんどの報告が、「前日雨で濡れていた」とか「途中で雨が降ってきた」 とかそう言う話ばかり。 核心部のハングで、非常に苦労している。 残置がない(信用できない)、乗越せない。 A0使ったり、A1になったり。 ハングを越えても、支点がないようだ・・・。 果たして、どうなのだろうか。 自分の力で、乗越えられるのだろうか。 不安と緊張。 行動時間もやたらに長くかかっている報告が多い。 一ノ倉の出合に戻ってくるまでに暗くなってしまった、という報告もいくつかある。 ルート図も、白山書房「日本の岩場」、山と渓谷社「日本のクラシックルート」、「アルパインクライミング」3冊がそれぞれが微妙に異なっている。 結局実際行ってみて判断するしかなさそうだ。 前情報が多いだけに、無駄に色々考えすぎている気もする。 とにかく岩が乾いていることを祈りつつ、ルート図、報告を何度も読み返す。 嫌なことに、前々日まで雨が降っていた。 果たして・・・。 アプローチは拍子抜けするほどに楽なものだった。前回(2000年7月30日)来たときには、まだ雪渓が残っており、その処理にとても手間取ったことを考えると、こんなに簡単にアプローチできてしまってよいものかとさえ思えてしまう。 沢づたいに、何の問題もなくスイスイと行ける。 濡れていることが心配された岩だが、全く乾いており、アプローチシューズでもフリクションばっちり。あっという間にカールボーデンだ。 これなら登れるかもしれない。 期待は高まる。 豆腐岩右下スラブの手前でギアの準備。取付テラスまではノーロープで行く。 幽ノ沢中央壁 正面フェイス 1ピッチ目【石川リード】 草付。右から登りだして、途中で左寄りにトラバース<笹ヤブからのスタート。空が青い>。赤テープが草に付けられているが(この赤テープは、ただ細い草に巻きつけてあるだけなので、冬を越したら無くなるだろう)、油断するとトラバースルートを見落として、直上してしまうかもしれない。 左側を良く見ながら進むと、ヤブの向こうにビレイ点がある。 2ピッチ目【神谷リード】 フェイスなのだが、支点がない。トラバース気味に左上する途中には残置がほとんどなく、15mくらいランナウト。難しくはない場所ではあるが、後ろを振り返って支点のなさを確認すると、ちょっと怖い<残置がないトラバース>。 3ピッチ目【石川リード】 このピッチは、残置支点が多い。このくらいあると、気持ちとしては安心できる。 左上気味に草付を登る<核心部を目指して>。ビレイ点に到着して目を上に向けると、核心の小ハングが見える。さて、ここが問題の場所だ。 4ピッチ目【神谷リード】 核心部。報告やルート図を見てイメージしていたものとは違っていた。逆層で、見た目がボロボロ。ハング具合はそれほどでもない様に見える。 迷っていても仕方がない。意を決して、登りだす。 予想外に残置支点は多い。A1で行けそうなくらいの間隔でハーケンが打たれている。IV+〜V級くらいのグレードでルート図には書かれているので、フリーで十分か、と思っていたが、意外に悪くて、最初からA0。足場がなく、A0の連続で4-5手すすんだところで、ハングを乗越そうとした。 さて、と思ったところで絶句。その先の支点がまるでない。 ハングを越えるところの最後のハーケンが浅打ちなのでちょっと怖いが、ヌンチャクをかけてぐっと掴んで乗りあがる。が、その先がない。こいつはきわどいな、そう思うと、すぐには勇気が出ない。何度か行きつ戻りつしつつ、覚悟を決めて思い切って乗りあがる。 ハングの上は、ドロドロの草付。潅木で支点を取る。ちょっと不安があったので、キャメロット#0.75をセットして保険をかける。その先、右か左かを考えるが、左の草付はかなり悪そう。右を見ると赤テープがあるので、そちらへ進む。 残置支点は全くないが、ところどころにある潅木で支点は取れる。 このあたりは、常に濡れている場所のようで、びしょびしょということはないが、ドロドロ。バケツ状の踏み跡は、やっぱり悪い。傾斜は緩いが、ホールドとなりそうなものがないので、泥の中に手を突っ込んで、岩っぽいところを掴む。その岩も脆くて、ボロボロ崩れる。緊張の連続。足元は泥なので、滑ったらおしまいだ。 突き当たったところで、左の笹ヤブ帯に入る。笹をまとめて掴んで身体を引き上げる。 とにかく慎重に慎重に。笹ヤブへ突入するところの乗越も結構勇気がいる。 笹ヤブを越えて、テラスに着いたときには、全身ぐったり状態。ザックを下ろして放心。 5ピッチ目【石川リード】 テラスの右端から、フェイスを右上。最初の支点までが遠いので、緊張する。右に回りこんだところに最初のピン。 6ピッチ目【神谷リード】 7ピッチ目【石川リード】 8ピッチ目【神谷リード】 難しくはないスラブを淡々と登る。赤テープが要所要所にある。 ビレイ点はしっかりしたものがあるが、よく見ていないと見過ごす。 6ピッチ目でロープをいっぱいまで伸ばすが、どうにもビレイ点がなく、残置ハーケン1本にナイフブレード1本を打ち足す。しかし、フォローをビレイしながら周りを見渡すと、実はすぐ右にハーケン3本のしっかりしたビレイ点があった。なんでもないような場所がビレイ点となっていたりするので、周りを注視する必要がある。 9ピッチ目【石川リード】 ドロドロの沼地のようなテラスから、草付を直上する。ほとんどヤブ。ところどころ赤テープがあるが、踏みあとがあるわけではなく、迷いやすい。 実際、トップの石川が左トラバースの赤テープを見落とし、悪い草付を直上してしまう。ロープもいっぱいになり行き詰まるが、当然ビレイ点はなく、ハーケンを2本打ってビレイ。 下から見ていると、そのビレイ点からヤブをさらに直上すれば、左の稜線に出られそうだ。クライムダウンは悪そうだったので、とりあえず、ビレイ点までフォローで進む。 10ピッチ目【神谷リード】 そもそもルートではない悪い草付を直上。ほとんどヤブこぎ。笹を掴んで身体を引き上げる。笹ヤブを左に進むと、広いテラスに出る。赤テープも見えて、正規ルートと合流したことが分かる<ルートではない笹ヤブ>。 11ピッチ目【石川リード】 潅木と露岩帯。大岩にシュリンゲを引っ掛けてビレイ。 12ピッチ目【神谷リード】 ほとんど歩き。ロープも不要なくらい。 で、終了点到着。 終了点から稜線までははっきりした踏み跡がある。 芝倉沢は、ペンキに沿って、沢の両岸を渡り歩けば、何の問題もない。 しかし、下降時、暗くなるなどして、ペンキが見えなくなると、沢をそのまま下るのは、かなり厳しいかもしれない。 今回は、状況に恵まれていたと思う。前々日雨が降っていたにもかかわらず、これ以上はないほど岩が乾いていたので、とても快適だった。あれで濡れていたら、(我々の実力では)とても登れないと思う。特に4ピッチ目。ハングまではA0で行けるとしても、その先の草付帯は、とても恐ろしそうだ。きっと、敗退を決めていたと思う。 事前にネット上で見た報告は、悪いことばかり書かれていた。登ってみて、悪いと感じたからこそ、報告として書いているともいえる。4ピッチ目が悪いというのは、確かにそのとおりだったが、条件によってその難しさも随分変わるものだと思う。今回は、その点とにかく良い条件だったといわざるを得ない。 全体的には、幽ノ沢の特徴どおり支点が少ない。要所にビレイ点があるので安心だが、中間支点は大体において少ない。したがって、ひとつでも見逃すと、ランナウトの距離も伸びて、怖いことになる。今回も6ピッチ目でビレイ点を見逃したり、9ピッチ目ではルートをはずしたりと、ルートファインディング能力も要求された。 ルート自体は、今回のように乾いていれば、とても快適で楽しめるものだと思った。 |
10月20日(土) 快晴
4:30 起床
5:20 出発(一ノ倉出合)
5:35 幽ノ沢出合
6:30〜6:50 登攀準備
7:00〜7:10 取付テラス
7:10 登攀開始【中央壁正面フェイス】
〜7:50 1P目
〜8:20 2P目
〜9:20 3P目
〜10:00 4P目(小休止)
〜13:30 12P目
〜14:45 終了点
15:00 稜線
16:10 幽ノ沢出合
17:00 一ノ倉出合
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