「冬壁。」
唐沢岳幕岩 大凹角ルート(4ピッチ目まで)

2000年12月2日(土)〜3日(日)
メンバー:菅原、神谷(記)、M氏(T山岳会)


◆本格的な冬壁はこれが初めて。出発前はずいぶん緊張した。ただ、ルート自体はつい先日秋に登ったばかりだったので、その分気は楽であった。
◆冬の壁はとにかく時間がかかると思った。いつもはすいすい進む菅原さんのザイルも、なかなか進まない。1ピッチに1時間も2時間もかかっているようでは、9ピッチある大凹角はとてもじゃないが完登できないと思った。それに伴って、待ち時間がとても長い。今回はそれほど寒さを感じなかったが、風が吹き付けて、吹雪になるような場所で1時間2時間ビレイしっぱなしと言うのはつらそうだと思う。
◆結局今回は、実質3ピッチ分しか進めなかった(全員が登ったのは2ピッチ分)。登ったなあと充実感を感じたのは、その中では洞穴テラスから空身で登った1ピッチ。A1、A0はもちろん、バイルで残置シュリンゲを引っ掛けて登ったり、強引に身体をひきつけたり、と何でもありだったが、夏と違いあまり罪悪感がなかった。さまざまな手段を労しつつ、ぐいぐいと高度を稼いでいくのはなかなかに面白い。ただ、やはりそこにはフォローの気安さもあった。冬もトップじゃないと面白さは半減なのかもしれない。しかし、アイゼンでトップをやるには、まだまだ練習不足。冬はボルトなんかが凍って使えなかったり、見つからなかったりでランナウトになりやすい。絶対に落ちられないとなると、そのプレッシャーは夏の比ではない。
◆軽量化のため、シュラフなしシュラフカバーのみのツエルビバークを行った。寒くて眠れないのでは、と思ったがそれほどでもなかった。今回は、洞穴の中で風の影響がなかったのが寒くなかった大きな原因だろう。もしも吹雪の中だったらどうだろうか。きっと耐えられないと思う。洞穴内で一応身体は横になれたが、斜面であり、セルフビレイがないとあっという間に身体がずり落ちる。足の裏は地面(壁)に着く事はなく、やたらに疲労する。お尻に体重がかかっている状態なので、そこがとても痛くなる。足を曲げれば、多少楽になるのだが、曲げつづけていると今度は膝が痛くなる。結局寝られない。でも、初めての経験だったし、良い体験だったと思う。この壁中ビバークこそが、私にとっては「岩壁登攀」のイメージそのものだったりする。
◆ユマールは非常にくたびれた。スラブならともかく、ハングしているところを越えるのには、どうしても腕の力を使ってしまう。きっと何か上手い方法があるのだろうが、どうにもならなかった。はっきり言って、まともに登ったほうがよほど速く登れるのではないかと思った。大いに練習が必要である。
◆冬は、夏に増してルートファインディング能力が問われる。スラブなど、夏なら適当にどこでも登れそうなところでも、冬はちゃんと先を読んで登り出さないと、途中で行き詰まってしまう。アイゼン、手袋で登れるようなルートは、探せばあるのだが、簡単には見つからない。見極めが必要だ。これも経験がものを言うのかもしれない。
◆今回はほとんど雪はなかった。他パーティの姿も全くなかった。もしかすると、もっと雪があり、氷が発達していれば、アイゼンバイルを駆使して、楽に登れるのかもしれない。ただ、雪が積もっていれば、当然アプローチはラッセルだろうし、車も七倉の手前、葛温泉までしか入れない。そうなると、壁に入る前にかなり疲労してしまうのは間違いないし、日数もさらに必要になる。難しいところだ。
◆課題が一つ増えた、ということだ。大凹角には、また来なくては。




12月1日(金)

22:00 立川駅

12月2日(土)

1:20 七倉着
4:45 起床
5:30 七倉発
6:05 高瀬ダム下。
6:55 金時の滝
8:50 大町の宿着
9:50 大町の宿発
10:35 取付き(1P目)
11:30 2P目
13:05 3P目(洞穴テラス)
13:45 4P目(空身で菅原スタート)
15:45 フォローで神谷着(ボサテラス上の凹角下まで)
16:00 フィックスロープセット、下降。
16:30―18:30 夕食、消灯準備
18:30 消灯

12月3日(日)

6:00 起床
6:00―7:30 朝食、出発準備
7:30 洞穴テラス出発(ユマール)
9:00 神谷上部着
10:20 洞穴テラスまで下降。
10:55 取付き
11:10 大町の宿着
12:00 大町の宿発
16:20 七倉着



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