「バットレスは今日も雨だった。」
北岳バットレス第四尾根(敗退)
(Taem24第5回訓練山行)

2000年8月15日(火)
メンバー:三堀、神谷(記)

「何でやねん」
思わず関西弁で叫びたくなってしまった。夜半過ぎの雨。雨は降らないのではなかったのか。しばらく降ったりやんだりを繰り返していた。まあ、朝になったらやむだろう、と再び眠りにつくが・・・。
「どないなっとるねん」
明方になり、また雨。今度は本格的。予定通り2時半に起床するが、絶望的な目覚めである。外を見てもやむ気配はない。仕方がないので、ラジオの天気予報を聞くことにする。
2時58分。「東北地方の太平洋側は雨ですが、その他の地方は、今日は全国的に晴天で、厳しい残暑になるでしょう。」
いつから、北岳は「東北地方の太平洋側」になったのだ。
すっかりふてくされて、再びシュラフに潜り込む。バットレスはまた雨なのか・・・。

 思い起こせばちょうど一年前、初めてバットレスに来た時も雨だった。あの時は、ピラミッドフェース〜第四尾根〜中央稜の継続を計画していたが、先行パーティの順番待ちと、雨と、寒さで、第四尾根を抜けたところで断念。『ルートとしては、北岳のピークに直に抜ける美しいラインのはずなので、天気の良いときにもう一度来て、中央稜ともども、びしっと決めたい、と思う。』と報告書を結んだ。
 本来なら、今年の夏は剱岳に行く予定だった。しかし、迷走する台風9号の影響で、止む無く中止。台風が行ってしまったのを確認して、前年の復讐戦として、北岳バットレスに来たのだが・・・。

 午前4時。とりあえず朝食だけ摂ることに。外は相変わらず雨。でも、空は明るいようだ。
午前6時。テントに打ちつける雨音が消えた。慌てて外に出ると、雲間から青空が!時間的にはちょっと遅いけど、なんとか登れるかもしれない。第四尾根だけでも、行こう。
 10分で支度して、テントを出発。D沢を遡り、下部岩壁の取り付きへ。
 しかし、天気はすっきりしない。からっと晴れてくれれば、一気に壁も乾いてくれるのだろうが、雲が取れる気配はない。おまけにガスまで出てきた。視界が悪く、岩壁を見渡すどころか、数メートル先もわからない。嫌な感じだ。
 ともかく、第五尾根支稜から下部岩壁を抜ける。午前9時。第四尾根の取付きに到着。先行パーティがいた。しかもトロトロと登っている。登っているというよりも、ラストの一人はシロート同然で、何度もスリップして、テンションをかけつづけている。下から見ていても怖い。もしもザイルが切れたらこっちに降って来そうだ。嫌な予感がする。「遅い先行パーティ」「悪い天気」、まだ雨は降り出していないが、これは一年前の再来か。あの時は身体が冷え切って、身動きも取れず、半分死にそうだった。またああなるのはごめんだ。
 壁も濡れているし、ここで降りようか、と話し合うが、とりあえず1ピッチでも進んでみることにする。私がトップで登り始めるが、この滑りやすい岩肌には閉口した。せめて岩が乾いていれば、フリクションで登れるのだろうが、濡れた岩では摩擦はまったく効かない。A0を使って、何とか1ピッチ。その先の凹角も、非常に悪い。ヒーコラ言いつつ必死で登り、2ピッチ。と、ここまでで限界だった。こんな調子では、上までたどり着けそうにもない。そろそろ雨も降り出しそうだ。きっぱりあきらめて、下降に入る。
 5ピッチほど懸垂下降。下降中には、予想通り、ぽつぽつと降り出してきた。ガスで視界は閉ざされ、周囲はよくわからない。ただ、先ほどのパーティのコールだけが聞こえる。彼らは大丈夫なのだろうか。あのままでは、絶対第四尾根を登りきることはできないだろう。早くそれに気づいて下降してほしいものだと思う。非常に心配だ。
 というわけで、なんともならぬまま、下山してしまった。あのまま登っていたら、まったく一年前と同じ状況になっていただろう。むしろ今回は、出発時間が遅いぶん、岩の途中で真っ暗、という事態も考えられた。下降自体は当然の判断だが、なにか心残りな山行だった。
 今度こそ、今度こそは、『ルートとしては、北岳のピークに直に抜ける美しいラインのはずなので、天気の良いときにもう一度来て、中央稜ともども、びしっと決めたい、と思う。』


8月14日(月)曇り

9:17 国分寺発
11:36 甲府着
12:00 甲府バス発
14:10 広河原バス着
14:10 広河原出発
16:30 白根御池小屋着
18:30 消灯

8月15日(火)曇り時々雨

2:30 起床
6:10 出発
6:55 CD沢出合
7:15−7:40 R1(下部岩壁取付き)
7:40−9:05 6ピッチ(下部岩壁)
9:05−9:15 R2(第四尾根取付き)
9:15−10:00 2ピッチ(第四尾根)
10:00−11:30 懸垂下降(5ピッチ)
11:30−11:45 R3(下部岩壁取付き)
12:55 白根御池小屋着
12:55−13:20 テント撤収
15:05 広河原ロッヂ
15:40 バス発


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