雲の上の八十七日〜キレット小屋 前編2、番外編〜

”#”は日記につけられたコメント
<★>はデジカメ写真へのリンク



2004-07-14(41日目/水曜/曇りのち雨)
 朝、雨はあがるが雲は多く、風も強い。信州側の街は晴れているのが見える。
 スッキリしない天気とはいえ、久々に外に出られるだけで気分は違う。
 9時30分頃ヘリが来る。野菜、ジュース、冷食、ボンベなど2便。海の日を含めた今月いっぱいの食糧が届いた。野菜倉庫を確認すると、以前のヘリで届いたレタスやキュウリなどが、かなり痛んでいた。雨が続いて湿気が多いせいだろう。新しいものと入れ換える。
 午後になるとまた雨。梅雨全線、早く消えてくれないかな。

キレット小屋では、すべての物資は、ヘリによる荷揚げでまかなっている。歩荷で運ぶには、ちょっと遠すぎるから。
ヘリで荷揚げするにしても、地形的にヘリポートから離れた場所にあるため、ほかの小屋よりもヘリ料金がかさむ。キレット小屋は、周辺の小屋より物の値段が高いのには、その辺りにも理由がある。<★ヘリ1><★ヘリ2><★ヘリ3>
明日は、冷池山荘新装オープンの日。隣の小屋としては、どんな風に変わったのか気になるところ。

2004-07-15(42日目/木曜/曇りのち雨)
 昨夜から朝にかけては、雨もあがっていたのだが、8時頃からまた強風と霧雨。
 携帯で18日の予想天気図を見ると、まだまだ前線は消えそうにない。しかし、多少の悪天でも日曜は40人位の宿泊はあるだろう。雨で濡れて疲れた40人より、晴れて山をエンジョイする90人の方が、(混雑するにしても)小屋にとっても、宿泊する側にとっても、気分が良いと思うのだが…。さてどうなるか。
 一時下山していたスタッフがROCK&SNOWを買ってきてくれた。1ヵ月半遅れでやっと読める。グレーディングとマーズの話が面白かった。

テレビとネットがない生活だったので、情報は携帯に頼っていた。
天気関係は、日本気象協会(山と溪谷社協力・月額105円)と岳人(ウェザーニュース提供・月額262円)の有料サイトを見ていた。天気の情報を比較すると、次の通り。
気象協会:山頂の実況天気、山頂のポイント予報(この先24時間分の3時間ごとの天気、風向、風速)、山頂の週間予報(天気、最高最低気温)、雨雲気温予想、上空気温分布、日の出入月の出入り(以上は、登山ハイキング天気)
雨雲予報、アメダス、天気図(実況、24、48、72時間予想)、気象衛星画像、台風(以上は、本格気象メニュー)など。
岳人:山頂の天気(この先24時間分の6時間ごとの天気、最高最低気温)、山麓の天気(この先24時間分の3時間ごとの天気、気温)、天気図(実況、12、24、36時間予想)など。
その他の山小屋情報、ルート情報などはほとんど見なかったので省略。
「山」の情報が必要なら岳人のサイトで十分だが、「山の天気」の情報なら圧倒的に気象協会のサイトのほうがいい。天気図は両方で見られるが、岳人のものはあまりにも省略が激しくて概要しか分からない。
ただし、純粋に「天気」の情報を見るだけなら、また違ってくる。ウェザーニュースのサイト(月額105円)でも山頂周辺の予報、雨/雪雲の分布、予想、日の出入月の出入、月齢、高層観測、寒気予想、その他本格的な気象メニューを見ることができる。しかし、実際に使っていなかったのでそちらの詳細は良く分からず。
山の天気予報を見ていた感じでは、週間予報はあまり当てにならず、ポイント予報は参考程度にはなるか、といったところ。どう考えても2-3日雨が続くだろうと思い、実際雨だったのだが、週間予報はあくまでも「曇り時々晴れ」だったりする。所詮は山の天気なので、仕方がないか。
iモードの天気予報
→ケータイWatch「ウェザーニューズ、全国1,300カ所を対象にした山岳気象情報」

2004-07-16(43日目/金曜/雨)
 朝から雨。
 東京は11日連続で真夏日らしいが、こっちは10日間スッキリ晴れた日がなく、7日連続の雨である。しかも、この雨は日曜まで続きそう。
 水曜に一時の晴れ間を突いてヘリが飛べたのはラッキーだった。あれ以降ヘリのチャンスはなく、あの時飛べなかったら、連休以降の食糧を確保出来ていたかどうか…。
 週末の天気は明らかに悪そうです。宿泊予約数をもとに食事の仕込みなどを行うので、もし予約をキャンセルされる場合は、早めに事務所あてにご連絡下さい。

2004-07-17(44日目/土曜/雨)
 昨夜から強風と大雨。朝になっても変わらず。雨は降ったり止んだりだが、風が断続的に強い。小屋の前でも、まともに歩けないほど。
 約40人の予約が入っていたが、結局全員キャンセル。
 で、予約なしの宿泊客がちらほら。明日も雨だし、天気を見れば仕方ないかと思う。
 明日は20人近くの予約が入っているが、どうなるだろうか。
 8月31日までの山小屋生活も、今日で折り返し地点。しかし、本格的な勝負は、この海の日連休からお盆までの一ヵ月間。今一度気合いを入れ直したい。

山小屋の予約について。
尾瀬では、事前の予約が必須となっているが、それ以外の地域では、そんなことはない。縦走中、天候や体調の都合で、急に小屋に泊まることになるのもよくある話で、予約をしていないお客さんはお断り、ということは不可能だ。
冷池山荘などは、五名以上は要予約。少人数でもなるべく予約ください、と呼びかけている。キレット小屋では、そこまでのことは言っていないが、予約を入れてくれるお客さんは多い。小屋としては、予約をしてくれたほうが、食数や部屋割りが事前に分かってやりやすいのでありがたい。ただ、電話一本で予約ができてしまうため、無断キャンセルが多いのも事実。
今のところ、お客さんにとっては、予約をすると、混んでいる時期でも部屋を確保できる(廊下や食堂で寝ることはない)というくらいのメリットしかない。無断キャンセルが多いという現状では、それも仕方がないだろう。
しかし、予約時に前金をもらっておいて、キャンセルの連絡を徹底するようにできれば、小屋としての対応も変わってくる。例えば、食事の仕込みも時間をかけてできるので、予約をしておけば、特別メニューを出す、とか。
ともかく、予約が入っていたら、小屋としては「来るものだ」という前提で準備をしているので、行けなくなったら、当日でも構わないので、一言キャンセルの連絡をお願いします。

2004-07-18(45日目/日曜/ガス)
 朝からガス。雨ではないが、風が強いので、霧雨っぽい。
 海の日連休の中日。キレット小屋を利用するお客さんは、2泊3日または3泊4日の2泊目に宿泊することが多い。そのため、こういう3連休だと、2日目が一番混雑する。今日も、悪天の中、続々と通過客が来る。午後になると宿泊客も増え始め、最終的に38人。
 通過客を含めると、約100人の人がキレットに来たことになる。山小屋に入って以来、こんなに多くの人間を見たのは初めて。何だか、頭がクラクラしてきた。
 それにしても、この強風の中歩いている人が多いのには驚いた。

常駐隊が到着。
この日、福井豪雨。

2004-07-19(46日目/月曜/曇り時々雨)
 朝からガスだったが、午後、一時雨となる。
 連続10日も雨で、ほとんど外に出られない状態が続くと、身体もなまってくる。筋トレとか懸垂とかしてみるが、何か物足りない。今は、輝く太陽の下、思いっきり稜線を走り回りたい気分。それと、2週間以上干していない布団を、一気に処理したい。
 昨日はあれだけ多くの人がいたのに、朝6時には全員出発してしまい、今日は通過客さえほんのわずか。結局、また宿泊客数は一桁代に逆戻り。
 そういえば、五竜山荘は昨日250人近く泊まったそうだ。私がいた頃の数十倍。どんな状態か想像もつかない。

三連休で、三日とも天気が悪いのが明らかなのに、なぜ登ってくるのだろうか、と考えてしまう。地方から出てきたり、なかなか休みが取れなかったりするのだろうが、それにしてもこんな悪天の中、歩かなくてもよいのではなかろうか。自分だったら計画変更するか、途中で下山するだろうと思う。歩いていても楽しくないと思うから。もちろん、人それぞれ「楽しい」の基準は違うのだけど。

2004-07-20(47日目/火曜/雨のちガス)
 今日は霧雨ではなく、はっきり雨が降っている。
 連休前の予報だと日曜の午後には天気回復すると言っていたのに、今では回復は木曜以降という話になっている。太陽は一体いつ姿を見せてくれることやら。
 それにしても、明らかに全行程が悪天になると分かっているこんな日も、風雨の中、歩いている人がいるのはすごいと思う。視界も何もなく、身体は濡れながらも、歩き続けるあの意欲はどこから湧いてくるのだろうか。
 一昨日から常駐隊が、キレット小屋に滞在している。8月中旬までいて、登山者へのアドバイス、登山道の補修や遭難救助をする予定。

常駐隊結隊式のお知らせ(PDF書類)

2004-07-21(48日目/水曜/ガスのち雨)
 朝、ガス。午後から前線の通過により強い雨。これで12日連続の雨。
 小屋にこもっているのに限界を感じ、ガスの中、雨具を着て、口ノ沢ノコル付近迄、往復1時間程歩く。視界は全くないけれど、歩いて、汗をかいて、岩を掴んで登って、風に煽られて…。それが何だか心地よく感じられた。雨が続いてうんざりしていた気分も大分スッキリした。
 雨だ、雨だと小屋に閉じこもらず、雨の山を楽しむことを考えた方が有益であると、今頃気付いた。せっかく山にいるんだし。周りには山しかないんだし。
 …でも、明日は晴れて欲しい。(切実な願い)

こういう風に、実際雨の中歩いてみると、連休中登ってきた人たちの気持ちも分からなくもない、と思った。下界の仕事(など)に疲れていたら、たとえ雨でも山に来たくなるかも。
この日、甲府で40.4℃。

2004-07-22(49日目/木曜/晴れ)
 晴れたーーーーっ!
 実に7月6日以来の晴天の一日。
 午前中は布団干しで大忙し。午後から自由時間をもらって鹿島槍方面へ向かう。爽やかな風が吹き抜ける絶好の縦走日和。快調に飛ばして30分で鹿島槍南峰。そのまま冷池山荘まで行く。改装間もない冷池は、とてもきれいで居心地が良さそう。
 1泊していきたいところだが、15分程休憩して引き返す。それにしても、冷池付近は花は多いし、暖かいし、まるで楽園のよう。岩ばかりのキレットとは随分違うと思った。
 往復ほとんど走って3時間。今日は心地よい疲労感の中、ぐっすり眠れそう。
 キレット小屋前から毛勝三山方面へ沈む今日の夕日。雲海が素晴らしい。

16日ぶりの晴れである。北陸・東北で梅雨明け。普段は、梅雨で雨が続いても学校や会社には行っていた。しかし、ここでは、外に出る意味がないので、ほとんど室内に閉じこもっている状態。本当に梅雨が長く長く感じた。
その分、この日の晴れはうれしく、今までの鬱憤を晴らすかのように、冷池へ向かったのである。最初は、鹿島槍の頂上までで帰るつもりだった。戻る時間は決まっていたので、まさか冷池まで行けるとは思わなかった。しかし、あまりのうれしさで、ついついペースが上がり、先へ先へと進んでしまった。南峰から先が、そこまでとは段違いにしっかり整備された道で歩きやすかったのも原因の一つか。
でも、冷池山荘から鹿島槍に登り返すのは大変だった。一気に駆け下りてしまったが、下りなければ良かったと少し後悔。日帰りでは、もう二度と行くまい、と思った。

2004-07-23(50日目/金曜/晴れのち曇り)
 今日も朝から晴れ。ただし、午後から雲が出て、夕方には一面曇り。
 今日は某高校のワンゲルが宿泊。白馬岳から扇沢まで5泊6日だそうだが、その全てが小屋泊まり。しかも、夕食・朝食・弁当付き。なんと贅沢な…。ザックも小さく、元気一杯。高校ワンゲルと言うと、山岳競技のイメージがあるが、今はそうでもないのか?でも、ワンゲルだったら、せめて自炊くらいしろよ、と言いたい。
 晴れ始めたこともあり、お客さんは続々とやってくる。しかし、宿泊より通過が多いのは、やはり冷池目当ての人が多いからだろうか。

小屋から見える山の名前を良く聞かれるので、展望図を描いてみることにした。デジカメで写真を撮って、パソコンで加工すれば、たぶんきれいなものができるとは思うが、ここにはそんなものはない。すべて手作り。紙もカレンダーの裏を使う。あまり上手ではないが、何度か描き直して、下山までには完成させた。もともとは、自分(とスタッフ)が聞かれたときに間違えないように作ったのだが、結局そのままお客さんに見せるようにした。結構評判は良かったが、紙で手作りしたものなので、多分来シーズンには無くなっているだろう。<★展望図>

2004-07-24(51日目/土曜/晴れのち曇り一時雨)
 今日は朝から陽射しが強く、暑い。そんな中、小屋裏のヘリポートで、ごろりと横になる。鹿島槍と剱岳を間近に見ながら昼寝が出来る、この幸せと言ったら!
 しかし、午後になると雲が増え、14時頃には一時雨も降る。30分程で止んだが、この雨を境に気温はぐっと下がった。そういえば、長雨のときずっとつけてきたストーブも、ようやくしまうことが出来た。朝晩は多少冷えるが、以前ほどではない。やっと夏が来た感じ。
 夜になると雷雨。これもまた夏らしい。今考えると、朝の暑さはこの雷雨の前兆だったのかも。

雷雨は20時ごろから。信州側はかなり激しく光っていた。稲光も横にビシッと走るのが見えた。寝ようとしても、窓の外がピカピカ光ってまぶしくて、なかなか寝付けない。

2004-07-25(52日目/日曜/曇りのち雷雨)
 今日は梅雨明け後最初の日曜ということで、今期最高の宿泊数になることが予想された。そのため、朝から態勢を整えていた。通常、1畳に1人計算で50人態勢(7畳間×4室+5畳×2室+3畳×4室)だったのを、9-7-4シフトとした。つまり、7畳に9人分の布団をセットして、66人の宿泊用にした。さあ、来るなら来い!という気合いで待ち構えていたのだが…。
 結局、いつもと変わらない宿泊数で拍子抜け。これなら、布団の配置を変える必要はなかった…。
 通過客は多かったのだが、一体何故?
 15時頃から雷雨。かなり激しい雨と雷。後立山周辺でも落雷による負傷者が出た模様。

昨夜の雨は止んでいるが、朝からガスが多い。
落雷事故は、爺ヶ岳〜種池山荘間や不帰の嶮で起こった。後立山周辺で登山者13名が被雷。うち1名が死亡。
長野県警察航空隊活動記録
また、柏原新道最上部の“ガラ場”で登山道が大雨のため崩落。27日早朝まで通行止めとなった。

2004-07-26(53日目/月曜/曇り一時雨)
 一日曇り。ガスも多く、一時雨も降る。
 昨夜から体調の悪いお客さんがいた。今朝になっても回復せず、ここから歩いて下山するのは難しそうな状態。
 たまたま、今日はキレット小屋のヘリの日で、荷揚げのためにヘリが来る予定。各所との交渉の結果、そのヘリを使って、病人を降ろすことになった。
 7時過ぎに1便目が来て食糧等を降ろし、空ボンベ等を荷下げ。
 2便目は燃料が揚がってきて、その帰りに病人を降ろしてもらった。山で病気になったのは不幸だったけど、偶然ヘリが来る日に小屋にいたのは幸運だったと言えるかも。
 写真は、荷揚げヘリ(東邦航空)。

ちょうど、同じころ赤岩尾根で滑落事故が発生していた。県警ヘリはそちらに出動していたので、そういう意味でも東邦ヘリがたまたま使えたのは、幸運だったかもしれない。
昨日の雷雨のせいか、今日のお客さんは早めに小屋に入ってしまおう、という人が多かった。昼前であっても、ここから4時間半かけて冷池山荘まで向かうと、途中で雷にあってしまうだろうと考えているようだ。賢明な判断だろう。

2004-07-27(54日目/火曜/晴れのち曇り)
 朝は晴れるが、すぐ曇りとなる、最近のパターン。
 今日は信州側の雲が多く、南東風が吹き続けていた。台風10号の影響が出てきているのかもしれない。
 黒部側は雲少なく、久々の夕陽も見られた。
 毎日、お客さんのゴミが大量に出る。行動食や弁当のカスなど、いらなくなったものは何でも置いていく感じ。
 ここにはゴミ回収車は来ません。
 自分のゴミは持ち帰って下さい。
 あまりにもゴミが多いので、客室のゴミ箱を撤去し、従業員の目の届くところのものだけにした。とりあえず、試験的にやってみるが、どういう結果となるか。

年々、山小屋に対して下界の旅館並みのサービスを期待する人が増えてきているそうだ。
もちろん、山小屋側もある程度の努力をしていかなくてはならないが、それでもできないことある。特にゴミと水の問題は深刻。
ゴミ箱は、なるべく置かない、というのは、最近の多くの山小屋での傾向らしい。小屋で買ったジュースの空き缶などはもちろん引き取るが、下から持ってきたゴミをわざわざ山小屋に捨てていかなくてもいいだろう、と思う。小屋の弁当のカスは、その小屋では回収できず、次の小屋に持ち込まれることになるので、そのあたりは小屋同士で連携して、費用を負担していくとかいうのも考えなくてはならないかもしれない。
山の水は限りあるものなのだが、下界の感覚で使ってしまう人が多い。洗面の水を出しっぱなしとか、Tシャツを洗濯し始めるとか。稜線上でシャワーを要求してくる人もいる。明らかに感覚がずれていると思う。
今回、ゴミ箱を撤去したことで、登山道にゴミが捨てられるようになったらどうしようかと思ったが、そうはならなかった。そこまでモラルが低下しているわけではないと分かり、ほっとした。

2004-07-28(55日目/水曜/快晴のち曇り一時雨)
 朝は快晴だったが、信州側から黒い雲が増え、17時頃には一時夕立。南東風も強くなる。
 自由時間に五竜方面へ偵察。
 1時間15分で五竜岳到着。2時間半で小屋に戻って来た。
 キレット小屋に入って一月以上が経つが、ようやく五竜山荘から冷池山荘までのルートを繋げることが出来た。
 歩いて初めて分かったが、ここの稜線は面白い!(何を今更…)岩場は多いし、道が分かりにくい部分もあるので、初級者には厳しいと思うが、ある程度の経験者には楽しめるコースだと思う。単なる稜線漫歩ではなく、頭を使って考えながら歩けるコースだ。

今までは、口ノ沢のコルのあたりまでしか行ったことがなかった。小屋に登ってくるときもヘリを使ってしまったので、五竜岳〜キレット小屋のコースは、まだ一度も歩いたことがなかったのだ。片道4時間のコースタイムだったので、どこまで行けるか不安はあったが、なんとか五竜までつなぐことができた。
稜線を一本道には違いないのだが、岩がゴロゴロしていて、踏み跡が分かりにくく、ペンキマークをしっかり見ていないと、途中で違う道に迷い込みそうになる。特にガスで視界がないときには、少し怖いかもしれない、と感じた。
暑さには参った。五竜への最後の登りは汗だくになり、結構きつかった。
G5周辺には、硬そうな岩場があった。ボルダリングもできそうに思えたが、ちょっと小屋からは遠すぎる。

2004-07-29(56日目/木曜/曇り時々雨)
 早朝は晴れていたが、間もなく信州側から雲が増え、ガスに包まれた。風は強く、気温も低い。16時頃から雨も混じる。
 台風の速度が遅いので、しばらくこんな状態が続くだろう。
 今日、保健所が小屋の厨房などの衛生状態のチェックのためにやって来た。そのため、昨日から厨房の大掃除。床を磨いたり、ものを整理したり…。見違えるほどきれいになり、無事検査は終了した。
 強風の中、親子連れがキレット小屋宿泊。こどもは8歳。よくこの岩場の多い稜線を頑張って歩いて来たなあ、と思う。こどもは元気で、夜まで食堂でトランプ。ただ、お父さんはお疲れ気味のご様子。

保健所は、富山県の管轄で毎年来ているそうだ。ここはちょうど長野と富山の県境なので、モノによって長野の管轄になったり、富山の管轄になったりするらしい。
キレット小屋の厨房は、きれいなほうだと思う。シーズンが限られているとは言え、とても16年も使っているとは思えない。掃除に使える水は限られているが、工夫して再利用して、何とかやっている。
お天気ボード完成。コンパネを切って、そこに天気図と明日の天気を掲示できるようにした。色を塗るペイントとか、プラスティックボードなどあれば見栄えがするとは思うが、手元にあるのは廃材ばかりなので、ほとんどがゴミからの再利用。<★お天気ボード>

2004-07-30(57日目/金曜/曇り一時雨)
 台風の影響で朝から曇り。
 通常、天気が悪くなると、西寄りの風が強くなる(西から低気圧が近づく)のだが、今回は南から台風が来ているので、南東風が強い。信州側は曇っているが、黒部側は晴れ。ガスの切れ間に時折、陽が当たっている剱岳が見える。
歩けないほどの天気ではないのだが、通過を含めて、訪れる人が少ない。台風を警戒して、家を出ることを控えているのだろうか。
 今日、新しいバイトが到着。去年もこの小屋で働いていたらしい。これで従業員は5人となった。人が増えて、多少仕事の負担が減るかな。

台風10号は、八丈島付近でゆっくりと動いていて動きが遅い。
小屋の食事をほめられることが多い。今までで一番だとか、ほかと比べてどう、とか。もちろん、お世辞も含まれるとは思うが、それでもうれしい。しかし、大したものを出しているつもりがないので、ちょっと恐縮してしまう。
支配人も言っていたが、キレット小屋の食事のメインは、「野菜」。ハンバーグもついてくるが、あくまでメインは、キャベツの千切りやトマトなどの野菜。たしかに、山では野菜を取れないから、おいしく感じるのかも。
なお、付け合わせ(?)のハンバーグは、宿泊客数によって、エビフライになることもある。また、シーズンはじめや終わりの極端に人の少ないときには、従業員用食事の刺身なんかがついてくるときも……(それを期待して小屋に泊まらないでください。出てこないからといって文句を言わないでください。刺身が出るかどうかは運次第ですから……)。

2004-07-31(58日目/土曜/曇り一時晴れ)
 昨日よりは青空がのぞく時間が多いが、基本的に今日も雲の多い一日。
 冷池山荘、五竜山荘からキレット小屋までは、どちらからも4-5時間程度かかる。そのため、9時から11時くらいまでが通過客のピークとなる。しかし、12時を過ぎると客足はぱったりと途絶え、今度は14時くらいから来始める宿泊客を待つことになる。
 今日は通過客が多かったので、宿泊客も相当数になるだろうと思われた。
 が、予想外に数は伸びず。また、素泊まりが多かったため、食数が少なく、食事を作る方としては何か物足りなく感じた。

台風10号は、16時過ぎに四国に上陸。それにしては、天気が良い。
夕方、剱方面で事故があった模様。常駐隊の持つ遭対無線がなりっぱなし。結局、今日中のピックアップはできなかったようで、ビバークして明日仕切りなおしとのこと。

2004-08-01(59日目/日曜/晴れのち曇り)
 久々のすっきり爽やかな朝。
 喜んで布団を干すが、9時頃にはガスが増えてきて、慌てて取り込む。その後は、晴れたりガスったり。
今日の通過客には水が良く売れた。
 日によって、水が売れる日、お茶やコーヒーが売れる日、ジュースが売れる日、と変わってくる。たぶん、天気や気温に何か因果関係があるんだろうな、と思う。
 7月の天気を調べてみた。一時雨も併せると、31日の内19日で雨が降った。晴天は7日。やはり、全体的に雨が多い月だったようだ。通過客は昨日より少なかったが宿泊数は伸び、今期最高となった。

《小屋周辺で今見られる花-5-》
・トウヤクリンドウ
長雨の後、一気に咲き始めた。本来、夏に終わりを告げる初秋の花なのだが。今年は花の移り変りが早いらしい。

昨日の事故は、無事ヘリでピックアップして収容。キレット小屋からもヘリの飛んでいる様子が見えた。
トウヤクリンドウは、全体を乾燥させて煎じて飲むとおなかの薬になると言う。実際、平成元年のキレット小屋改築の際、大工さんがおなかを壊して飲んでいたらしい。
7月の天気。
晴天7日、曇天12日(うち7日は一時雨)、雨天12日。
→一時雨を含めると、雨の日が61%。

2004-08-02(60日目/月曜/晴れのち曇り)
 昨日よりさらに天気が良く、朝から暑いくらい。
 天気が良いので、鹿島槍南峰へ行く。
 「ちょっと散歩してきます。」と言って、1.5時間くらいで鹿島槍の頂上まで往復出来てしまうという、この素晴らしさは山小屋ならでは!
 縦走路は、まさに夏山、といった感じ。頂上まですっきり伸びた稜線をのんびり歩いていると、心の底からいい知れぬ喜びが沸き上がってくる。ただただ山を歩くことが純粋に楽しいのだ。
 本当に自分自身、山が好きなんだなあ、と改めて思う。何かもう、無性にうれしくなってしまうのだ。
 午後からは、またガスとなる。

# フジタ 『いいなあ。感動が伝わってきます。』(2004/08/03 11:52)
# カミヤ 『一時下山して,松本にいます。携帯で送っていた文章を初めてPCで見ています。ああ、こういう風だったのか,という感じ。
コメントありがとう。町に降りてはみたけれど,一日で山が恋しくなってきました。だって、下界は暑いし,息苦しいんだもの。』(2004/08/05 16:54)

散歩してきます!とは言うものの、一応、登山道の状況確認、ゴミ拾い、キレット小屋に泊まりそうな登山者の人数確認、などはおこなっているので、ただ遊びに行ってるわけじゃない(と言い訳しておく)。
しかし、上記のように浮かれ切っているので、あまり説得力はないな。<★鹿島槍から爺ヶ岳方面><★小さいけど富士山>

2004-08-03(61日目/火曜/晴れ時々曇り)
 朝から天気が良いが、昨日とは違い、秋空の様相。風も冷たく感じる。
 午後、一時曇ったが、夕方には雲が切れ、夕陽が見られた。
 ここ数日、お客さんが増えてきている。今日はようやく50人を越えた。しかし、例年と比べれば、まだまだ。
最近、パンに飢えている。普段はあまり意識していなかったが、山小屋に来て全くパンのない生活をしていると、何故か無性に食べたくなってくる。特にお客さんが行動食で食べていることが多く、見ているとうらやましくなってくる。
 パンのために(じゃないけど)、明日から3日間一時下山。

G5付近で滑落事故。昨日、キレット小屋に泊まったお客さん。常駐隊が出動して、ヘリを呼んでピックアップ。大事には至らなかったとのこと。
明日から下山だが、街に出て何かしたい、という気分が強いわけではない。それより、仕事を離れて山を歩きたい、という気が大きくなってきたので、下山することにした。そのため、扇沢に降りて、遠見尾根を登ってくるというコースにした。本当は、そのまま針ノ木くらいまで行きたかったのだが、一旦下山しなくてはならないというルールがあるので、そこは仕方がない。



2004-08-04(水曜/番外編)
 朝4時に起きると小雨が降っていたが、6時頃には止む。
 朝食出し、客室掃除など一通りの仕事をして、7時35分に小屋を出た。鹿島槍、爺ガ岳を越え、扇沢に11時45分下山。
 天気は回復し、快適な稜線歩き。雲海の向こうには富士山や南アが見えていた。鹿島槍から冷池付近は花が多いが、爺ガ岳のコマクサはすでに終わっていた。全体的に爺ガ岳周辺は花が少なく感じた。種池周辺に来ると急に花が増えるのだが。
先日の雨で、一時通行止めになった柏原新道は、完全に復旧していた。ただ崩壊のあった上部の2ヶ所は見ればすぐ分かる状態だった。
 62日ぶりの下界。

種池山荘までは調子が良かったのだが、そこから扇沢までが長かった。登山道から駐車場が見えているのだが、なかなか近づかない。さらに、下まで降りたと思ったら、バスターミナルまでまた登り返し。暑かった。
下界に降りたら、さっそく食べたかったパンを食べにマクドナルドへ。2ヶ月ぶりのパンなのだけど、食べてみるとこんなものか、という感じ。

2004-08-05(木曜/番外編)
 2ヵ月ぶりに街(松本)に出てみるが、とりたててやることもなし。
 本屋をざっと見回るが、山に関しては、大きな(本の)動きはなさそう。「続・生と死の分岐点」は購入。山に持っていって読むつもり。小説現代の真保裕一の山小説「灰色の北壁」もチェック。「天空の回廊」文庫版はハードカバーを持っているので、今回はスルー。
 台風11号が通過していったが、松本は雨降らず。山はどうだっただろうか?
8月3日から、今まで無制限だった宿泊客に対する無料の水提供を、1人1リットルまでに制限した。雨が降って、水が補給出来ていれば良いのだが。

この水制限は、結局8月3日のみのことだったらしい。基本的に、キレット小屋では、宿泊客には水を何リットルでも無料で配布している(ただし、従業員に言って厨房の水を分けてもらうかたち)。通過客には、有料(1リットル200円)で、量の制限はなし。お湯とお茶は宿泊客、通過客ともに1リットル300円になる。


2004-08-06(金曜/番外編)
 7月23日にオープンしたカモシカ松本店に行ってみた。
 松本店というから、松本駅近くかと思ったが、松本電鉄に乗り換えて新村駅下車。さらに2.5km先。炎天下の中、早足で30分。これは、とても歩いて行く場所じゃない。
 建物は大きくて、スペースがゆったりしている。特に目新しいものはないが、だいたいのものは揃ってる。個人的には、本のコーナーが充実していたのでうれしかった。車で通るなら、一度寄ってみる価値はあると思った。

*山小説  小説現代2004年8月号「灰色の北壁」 〜感想〜
 真保裕一が、またやってくれた。「黒部の羆」に続く山小説の登場。小説家を主人公とし、ヒマラヤの架空の山をめぐるノンフィクションと、現在を織り交ぜて描く手法は見事。山岳ミステリでまだこんなやり方があったんだ、と驚かされた。殺人事件を持ち出さなくても、ミステリ的要素を山で用いることが出来るのを証明した。黒部〜、灰色〜、そしてまた別の山小説を追加して短篇集が編まれた時、日本の山岳小説界に新たな1ページが刻まれることになるのは間違いない。

山関係で購入した本
・ICIカタログ、ヤマケイJOY(2004年夏増刊)、垂直の記憶(カモシカにて、サイン入り)(以上は小屋に寄贈)
・高山植物図鑑、続生と死の分岐点(再び持って下山)
ということで、キレット小屋に行くと、「垂直の記憶」(山と溪谷社/山野井泰史著)を読むことができる。しかも本人のサイン入り。山野井氏が寄贈したわけではないのでお間違いなく。


雲の上の八十七日〜キレット小屋 後編〜へつづく
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