雲の上の八十七日〜キレット小屋 前編1〜

”#”は日記につけられたコメント
<★>はデジカメ写真へのリンク


2004-06-22(19日目/火曜/曇り)
 朝、まだ霧雨が残っていたのだが、10時ごろになると青空がのぞくようになる。
 夕方、突然連絡が入り、ヘリでキレットに移動することになった。本当は明日、歩いて行く予定だったのだが。慌てて準備を整え、18時頃ヘリにて一気にキレットへ。歩いてキレットを越えるのを楽しみにしていた部分もあったが、ヘリも滅多にできない貴重な体験だ。
 真っ暗な小屋の雨戸を一つずつ開け、部屋に光を入れていくと、徐々に小屋が生き返っていくようである。とても気持ちが良い瞬間だった。その後、形だけ整理して、とりあえず食事。慌ただしい一日だった。本格的な活動は明日から。

当初の予定では、昨日のうちにキレット小屋支配人が五竜山荘まで登ってきて、今日キレット小屋に移動する、ということになっていた。しかし、昨日は台風のため動きがとれず、支配人が五竜に入るのが今日になったため、こういう慌しいことになった。
まさか、ヘリでキレット小屋に移動することになるとは思っていなかったので、かなりびっくりした。五竜山荘からキレット小屋までほんの5分か10分のフライト。後立山の稜線を空から(横から)眺めるというのは、貴重な体験だった。
我々を小屋に下ろしてから、ヘリはいったん戻り、キレット用の荷を持って再び上がって来た。
食糧やシーツなどの荷を小屋の中に入れ、水の準備や発電機の起動、補強のハリをはずす。
その後、簡単に夕食準備をして、ようやく落ち着く。
そういえば、五竜では既に夕食を作り終わっていたんだった、と思いつつ。
キレット小屋は、社員1名、バイト3名の4人体制でスタート。

2004-06-23(20日目/水曜/曇り)

 時折晴れ間ものぞくが、一日雲が多い天気。小屋開け準備でフル活動。
・雨水タンクのセット
・小屋周りコンパネ外し
・布団干し
・野菜貯蔵庫整理
・厨房掃除
・食器総洗いなどなど。
 五竜では待機時間が多かっただけに、久々のハードな一日にぐったり。6月いっぱいはこんな感じがつづくのだろう。でも、少しずつ態勢が整っていくのは、やっていて楽しくもある。

朝起きると、今まで見慣れた五竜の景色と違うので、新鮮な感じがした。剱岳が近く見え、周りには岩が多い。咲いている草花も五竜とは違う。
明るくなって、改めて小屋を眺めると、この八峰キレット小屋の特異な立地に驚くばかり。本当に崖っぷちに立っているなあと思う。<★キレット小屋>

2004-06-24(21日目/木曜/晴れ一時曇り)

 少し雲あるがおおむね晴れ。午後一時ガス。
 今日の仕事
・布団干し、布団カバーセット
・客室掃除
・焼却炉セット
・ガスボンベ交換
 天気が良かったので、布団はだいぶ乾いた。客室も片付いて、寝る場所はなんとかできた。着々と準備は整っていく。
 小屋裏でボルダリングに具合のいい壁を見つけた。それを見込んで、シューズも持ってきている。トラバース課題など、いろいろとバリエーションが考えられそう。時間を見てやっていきたい。

五竜山荘周辺には、ボルダリングのできそうな岩はなかったので、その点ではキレット小屋のほうが恵まれていた。最終的に3箇所のボルダリングエリアを開拓し、晴れているときはなるべく登るようにしていた。
しかし、基本的に岩の脆い地域なので、あまり良い条件の場所はなかった。

2004-06-25(22日目/金曜/雨)
 一日、雨。週末も雨になりそう。これで3週連続週末の雨だ。雨にけぶる山の姿も小屋の中から見ている分には情緒があって良いのだが、外に出る気にはならない。そんな中、一人の通過客が雨宿りのために小屋を訪れた。冷池から五竜に向かうらしい。頑張るなあ。
 雨なので外仕事はできない。1階(食堂、自炊室、乾燥室、受付、トイレ)の壁、天井の拭き掃除を行う。カビだらけで大変。喉やら鼻に入ってきて気分が悪くなる。でも一日掃除してだいぶきれいになった。
 八峰キレット小屋、明日オープン。

2004-06-26(23日目/土曜/雨)
 今日も雨。キレット小屋オープンの日なのだが、通過客すらいない。
 今日は受付部分の片付けと2階の掃除(カビ落とし)を行う。晴れていれば、布団干しをしたいところだが、この天気では無理。まだ半分以上の布団が湿ったままの状態である。

この雨で、水のタンクはだいぶたまった。しかし、最近雨が多い。

2004-06-27(24日目/日曜/曇りのち雨)
 雨は止んだものの、雲が多い朝。布団が干せるほど晴れてくれないのが残念。午後からはまた雨となった。
 午前中、2日間降った雨水のタンク移動を行い、その後鹿島槍側へ偵察および浮き石落としに向かう。小屋から15分くらいはクサリとハシゴの連続。ザレている場所もあって結構恐い。実際、去年もここで滑落して亡くなった人がいたそうだ。
 キレット核心の断崖のコルに降りるところは絶景。両側が切れ落ちていて、正面に岩壁がそびえている。陽も射さないような陰欝な雰囲気が素晴らしい。登山道は右から巻くのだが、この岩壁を登った人はいるのだろうか。ボロそうで、取り付くのも大変そうだけど。そこを回り込むと、あとは快適な稜線歩き。ガスの切れ間から見える谷間や、目前に迫る鹿島槍が美しい。雨上がりのこんな風景が見られるのも、小屋にいるからに他ならない。また、明日への活力を山からもらった。

雨水のタンク移動について。
雨水(天水)は、小屋の屋根に取り付けられている雨樋に落ちる水をタンクに集めている。雨樋から直接水が入るタンク(集積タンク)は、1本につき2t分くらいしかない。そこからまた別のタンク(貯水タンク)にポンプで水を移動させる。キレット小屋では、すべてのタンクを満タンにすると約16tの水を溜めることができる。
ちなみに、水の使用量は、食事や食器洗いなども含めて、1人1日10リットル計算くらいとのこと。

2004-06-28(25日目/月曜/曇り時々雨)
 午前中、降ったり止んだりの天気。
 寒気が入っていて、昨日から冷え込んでいる。日中も要ストーブ。下界は30度を越えているらしいが。
夕方になり晴れてきた。今期初の宿泊客2名来る。
 今日は五竜方面の偵察に“口ノ沢ノコル”手前まで行く。鹿島槍側はクサリ・ハシゴの連続だったが、こちらはそれほどでもない。ただ、ザレている箇所が多く、浮き石も多い。直登下降する場所もあり、先行者がいる場合には注意が必要。
 比較すると…
 鹿島側:切れているのが恐い。(まさにキレット)
 五竜側:ザレているのが恐い。
 鹿島側:落ちたら即死。
 五竜側:滑って大怪我。(他人を巻き込む可能性もあり)
 小屋を挟んで対称的な地形だと思った。

2004-06-29(26日目/火曜/曇り)

 雨は降らないものの、雲が多くはっきりしない天気。夕方、雷となる。
 2階客室に湿気が集中し、一部畳が腐りかけている。そのため、今日畳屋が登って来て、状態確認と交換のための採寸を行なった(畳屋も大変だ)。畳屋によると、ほぼ全ての畳を交換する必要があるらしい。
 50枚の畳をヘリで揚げて、古い畳を下ろさなくてはならない。古い畳は水を吸って30kg近くある。それを50枚、ヘリポートまで移動させるのは、考えただけで嫌になる…。実際どうするかは本社の意向次第だが。
 小屋裏にある“ヘリポートボルダー”の「イワカガミトラバース」(6級)完成。

結局、今シーズン畳を交換したのは、一番傷みのひどい一区画(7畳)のみだった。それ以外は、来年以降に交換。
イワカガミトラバースは、高山植物のイワカガミがスタート地点に咲いていたところからの命名。その後、「イワカガミリバース」(5-6級)も完成。単なる逆コースだが、こっちのほうが難しい。トラバース&リバースの連続で5級くらい。このルートは、この先下山するまで暇さえあれば、何度もトレーニングに使った。写真がそのヘリポートボルダーエリア。左からスタートして、右壁までトラバース。下に落ちているのは、古くなったパイプで、クッション代わりになった。

2004-06-30(27日目/水曜/曇りのち雨)
 午前中からはっきりしない天気。午後になると、突然雨が降ったり、陽が射したり、と目まぐるしく変化。雲の流れも早く、変な天気だった。
 キレット小屋では、電波の都合と支配人の主義により、テレビを置いていない。そのため、ラジオの気象通報で天気図を取って、掲示している。私が天気図係に任命されたのだが、久々に天気図を取ると、“セベロクリニスク?”“ルドノヤクリスタニ?”などと聞き取れないような地名が出てきて驚く。やはり、定期的に取る必要があるな、と思った次第。

ラジオ天気図の変更点(2001年12月3日〜)
・ポロナイスクの副通報地点はアレクサンドロフスク(50°54′142°10′)。エストルは使わない。
・ウルップ島、シムシル島は使わない。
・マツア島をやめ、セベロクリリスク(50°41′156°08′パラムシル島付近)を使用する。副通報地点は、オゼルナヤ(51°41′156°29′)とする。
・テチューヘは、名称をルドナヤプリスタニとする。
・ウラジオは、名称をウラジオストクとする。
・漢口は、名称を武漢とする。
・南鳥島を追加する。ただし、天気の通報はなし。
ちなみに、2004年8月26日から富士山の情報は気温のみとなった。
その他ラジオ天気図については、ラジオNIKKEIのサイトを参考に。
通報地点の変遷(2004年6月1日の発言)も面白い。
WeatherChartEditorという気象通報の情報を入力すると、天気図を作成してくれるソフトもある。

2004-07-01(28日目/木曜/晴れのち曇り)
 約一週間ぶりに快晴の朝。一気に布団を干すが、午後にはガスが出た。
 小屋の前にちょっとした岩壁がある。古いボルトやハーケンがあり、1本だけルートになっている。見た感じ5.8くらいか。でも高さがあるので、フリーソロする勇気はない。こんなところで怪我するわけにもいかないし。
 その裏側は、残置はないがハングした面白そうなルート。ただし岩が堅ければ、の話。近づくのもためらわれる脆さのため、とても登れない。この辺の岩は全体的に脆すぎる。その間を縫って岩尾根っぽいところを登ってみる。30mIII+級くらい。1回登れば十分な感じ。

最近は、一週間に1日くらいしかすっきり晴れる日はない。梅雨なので仕方がないのだが。
このボルトルートは、結局登れなかった(登らなかった)。せっかく残置があるのだから、一度くらいは登ってみたかったのだが、チャンスがなかった。
写真が布団を干しているときの小屋の様子。
東側の屋根に一面に並べる。天気が良ければ、約一時間したら叩いて裏返し、反対側も一時間干して叩いてから取り込む。<★布団干し(奥は剱岳)>

2004-07-02(29日目/金曜/晴れ)
 昨日のようにガスが出ることもなく、一日おおむね晴れ。昨日今日で、布団を一気に干すことができた。これで、部屋数分(50畳に50枚)の掛け・敷き布団をセットし終わった。予備用がまだ残っているが一応区切りがついた。

《小屋周辺で今見られる花-3-》
・イワカガミ
 大きさによって3種類に分けられる。ここで咲いているものはおそらくコイワカガミ。紫色のボサボサの花は小さいけれど目にとまる。

2004-07-03(30日目/土曜/曇りのち晴れ)
 明け方雨が降る。午前中は雲が多かったが、午後から晴れ。ただし風が強い。燕が猛烈なスピードで舞っている。天気の良い土曜だというのに通過客すらいない。
 今日はヘリの日。朝から4便の荷が届いた。食糧や燃料がメイン。畳も7枚だけ届き、古いのは荷下げした。新しい畳は5-6kgで、今までのものの4分の1以下。圧倒的に軽い。一部屋だけ交換したが、新しい畳の匂いが2階中に広がっている。畳の色も十数年たった他の畳とは全然違い、明らかにその部屋だけ浮いている。他の部屋も交換して欲しいが、どうなるかは未定。

この畳の匂いもしばらくするとなくなった。色の違いも2ヶ月もしたらあまり目立たなくなり、ここだけ今年替えました、というのは分からなくなった。すぐ傷がついてしまったし。まあそんなものかもしれない。

2004-07-04(31日目/日曜/晴れのち曇り)
 元台風7号が接近しているが、日中は晴れ。真夏のように暑い。16時頃急に風向き変わり、ガスと強風。
 今日で山小屋生活も1ヵ月となった。まだお客さんも少なく、それほど忙しくはない。不便なことも、大変なこともあるけれど、ただ山にいられる、ということだけで十分である。
 毎朝目を覚ますと、周りは山ばかりであることに気付く。聞こえるのは鳥の声と風の音だけ。夜になれば月が輝き、星は瞬く。これ以上何を望むべきだというのだろうか。

元台風7号は低気圧になり、前線を伴って日本海に入ってきた。

2004-07-05(32日目/月曜/晴れのち曇り一時雨)
 予想外に天気が良い。午前中は晴れて暑い。午後になって急に雲が増え、一時雨が降るが2時間程で止む。
 五竜側のクサリが外れている、という情報が入ったので補修にゆく。小屋から20分くらい行ったところ。確かにクサリを留めているボルトが2本、岩ごと剥がれている。ハーケンを打って応急処置。このあたり、全体的に岩が脆いので、ドリルで穴を空けるぐらいの処置をしないと間に合わない。周辺のボルトやクサリもかなり古く、本格的な修繕が必要に思える。
 7月中旬には常駐隊が来るので、彼らに頼んで直してもらうことにする。

常駐隊は、キレット方面の補修を中心に行ったので、ここはいまだにハーケンでとまっている。
下山するときに確認したが、このハーケンはすぐには抜けることはなさそうなので大丈夫だと思う。しかし、この新しいハーケンよりも不安な古いハーケン、ボルトがこの周辺には多い。鎖だけを掴み、完全に頼って、体重を預けて登るような場所ではないが、通過は慎重にお願いしたい。

2004-07-06(33日目/火曜/晴れ)
 一日晴れ。陽なたは暑く、日陰は寒い。この温度差が逆につらい。
 布団を干してから、小屋周辺を歩き回る。たくさんの花が咲いていたので、一つずつチェック。五竜周辺とはまた違った花が見られた。
 キレット小屋周辺に今咲いている花(現時点で全27種)。
《白系》ハクサンイチゲ、シコタンソウ、ハクサンボウフウ、ミヤマゼンゴ、タカネツメクサ、イワツメクサ、ミヤマハタザオ、ツマトリソウ、コケモモ、イワヒゲ、イワウメ、オオツガザクラ、イワオウギ、ハクサンシャクナゲ
《黄系》ミヤマキンバイ、ミヤマダイコンソウ、キバナコマノツメ、イワベンケイ
《紫系》ミヤマシオガマ、ヨツバシオガマ、ミヤマオダマキ、チシマギキョウ、ムシトリスミレ、ヤマルリトラノオ
《赤系》コイワカガミ、タカネスイバ、ハイマツ(花)

花については、付録の「小屋周辺で見られる花」を参照のこと。

2004-07-07(34日目/水曜/曇り)
 早朝は晴れていたが、8時頃になり、ガスが出てきた。その後はずっと曇り。
 今日新たにゴゼンタチバナとミヤマアカバナが咲いているのを見つけた。他にも、もうすぐ咲きそう、という花は多数ある。昨日のリストだが、ヤマルリトラノオとなっているのはミヤマクワガタ(北ア型)かもしれない。本の説明を読んでもよくわからず、どうも区別が難しい…。

《小屋周辺で今見られる花-4-》
・ハクサンイチゲ
 今一番勢いがある白い花。群生しているのでよく目立つ。葉っぱはヨモギのようで、大きな花を天に向かって開いている。

花は、図鑑(の写真)によって、見え方が全然違うので、なかなか分かりづらい。しかも、何種類かの本を見ると、掲載されているのとされていないのがあって、比較が余計に難しかったりする。
しかし、ヤマルリトラノオとミヤマクワガタは全く異なる植物。ここで言っているのは、明らかにミヤマクワガタである、とあとで分かった。

2004-07-08(35日目/木曜/曇り)
 早朝は晴れ、8時頃から曇り、という昨日と同じパターン。時折陽も射す。
 ニュースを聞くと、下界では大変な暑さらしい。38度を越えたところもあるようだ。ここも陽なたは暑いけど、クーラーなんかとは無縁の世界。下山するのが恐ろしくなってくる。
 増改築工事中の冷池小屋が7月15日オープンに決まった。今年は冷池目当てのお客さんがたくさん来そうな予感。でも、冷池小屋泊まりの計画を考えると、キレット小屋は通過となる(キレット←→冷池は4時間30分程)。通過客がどれだけジュース、ビールなどを買ってくれるかが勝負か。

# 朝岡 『YCC朝岡です。こちらは毎日暑いです。相変わらずマメだねぇ。どうやってHPに書き込んでいるんですか?』(2004/07/09 12:52)
# カミヤ 『わざわざこんなところまでチェックしてもらい、ありがとうございます。これは、携帯から更新してます。だから、携帯の文字数制限以上の量は書けない、というのがネックなのです。』(2004/07/09 20:41)

6時から7時くらいの陽なたが一番暑い。その後、剱方面にかかっているガスがこちらに向かってきて、布団を干そうという8時30分ころには日が隠れてしまう。

2004-07-09(36日目/金曜/曇り一時雨)
 今日は信州側からガスが湧いた。いつもとは逆である。夕方一時雨。
 昨夜、空が明滅を繰り返していた。
 何事かと思えば、長野の方に雷雲。音はないが、絶え間なく空全体がフラッシュして、まるでテレビで見る空爆の映像のようだ。雷雲を上から見るのは初めての経験。稲妻が縦横に走っている。下界で見ると、ピカッゴロゴロ、という感じだが、ここからだとそんな生易しいものではない。
 猛烈な自然のパワーに圧倒された。もし、あれに山で直撃されたら、ひとたまりもないだろう。凄まじい光景に、夜空の下立ちすくみ、見とれてしまった。

常駐隊2名が偵察のため昨日から宿泊。今回は一泊だけして、キレット方面のクサリの補修をして下山。本格的に常駐するのは、7月下旬から。
常駐隊の方から聞いた話〜長野と富山の山岳警備の考え方の違いについて。
長野:天気は山の方から悪くなる。だから、山に対して恐れの気持ちを持っていた。でも、生活のため、狩猟で山に入らなくてはならない。そのため、民間主導で山の踏破が行われた。現在でも、警察の補助機関として、地元の人が常駐隊として夏山の警備を行っている。
富山:城を守るための天然の要塞として山が存在していた。山の調査は国(藩)の防衛に関わるため、藩がお金を出して調査隊を派遣していた。そのため、現在でも警察が主導で山岳警備を行っている。

ちなみに、長野は山が多いので警察だけでは手が回らない。かといって警察の人数を増やしても夏山シーズン以外はそれほど入山者が多くない。だから、シーズン中だけ地元の人で組織される常駐隊(正式名称:長野県山岳遭難防止対策協会遭難防止常駐隊)が存在する。
富山は、黒部立山アルペンルートがあるので、ほぼ一年を通して入山者があり、山岳警備の専門家が仕事として成り立つ、とのこと。

2004-07-10(37日目/土曜/曇りのち雨)
 朝は晴れていたが、午後から雨。久しぶりのまとまった雨。これで7月中の水の必要量は、ほぼ確保出来た。
 昨夜の雷はまた凄かった。夜なのにまるで昼間のような明るさ。目が眩む程のまぶしさ。黒部側から白馬岳方面に雷雲が移動していくのが分かった。
 一昨日の雷は、遠くの下の方だったのだが、今度はほとんど目の前に感じる。小屋の外に出るのはかなり恐い。玄関先で眺めていると、動物的本能からか、震えが止まらない。小屋に守られていなかったら、気が気じゃないだろう。過ぎ去るまで身動きが取れない。
 雷がこんなに恐いとは知らなかった。

2004-07-11(38日目/日曜/雨)
 昨夜から今朝にかけて激しい風雨となる。雨は8時頃一旦止み、雲が切れるが、再び降りだした。
 稜線上は、相当な強風だと思われる。そんな中でも、小屋を出ていく人はいるし、五竜から縦走してくる人もいる。話によると、五竜頂上付近は這って歩かないといけない状態だったとか。
 小屋の中は寒くて一日中ストーブを焚いていた。夕方になると雨、風ともにだいぶおさまってきた。

この雨は、前線と寒気の流入が原因。梅雨前線がこの後も中途半端な位置に停滞し続け、ぐずついた天気が続いた。

2004-07-12(39日目/月曜/曇りのち雨)
 朝はすっきり晴れたのだが、徐々に雲が増えて、午後からまた雨。
 今週末は、海の日の連休である。これまでは一日一桁台の宿泊客だったのが、この連休には一気に増えて、一日50人以上の客が宿泊することになる(例年60-90人の宿泊)。
 客室は50畳分しかないので、当然すし詰め状態。80人までは、無理にも客室に入れられるが、それ以上になると、食堂や乾燥室、廊下に寝てもらわざるを得ない。今年もすでに40人以上の予約が入っている。予約客を優先的に部屋に割り振るので、場所を確保したいなら、事前予約しておいた方が無難です。

キレット小屋三大繁忙期は、「海の日」「7月末〜8月頭」「お盆」。この三つの時期をいかに乗り切るかが大きなポイント(泊まる側から考えると、その時期をいかにはずすかがポイントとなる)。今まで一畳につき一人分の布団をセットしておいたのだが、80人体制に移行。着々と準備を整えるが、南海上に熱帯低気圧が発生しているのが、少し気になる。

2004-07-13(40日目/火曜/雨)

 昨夜は、雨風の音があまりにも大きくて、よく眠れなかった。
 朝になっても、相変わらず暴風雨。特に風が強い。しかも寒く、朝から一日中ストーブ。
 関東甲信は梅雨明けで、真夏日なんて考えられない。ここも一応長野のはずなのだが。
 一方向から強く吹き付ける雨だと、風下側の雨樋にセットしたタンクに水が溜まらない。どうせ降るなら万遍無く降ってほしいものだ。外には出られず、お客さんも来ないので、取り立ててやることもない。ほとんど軟禁状態の一日。

雨樋は、東西に面した屋根の両側にセットしてある。風(雨)は、主に西から吹き付けてくる。このときもそうだった。そうすると、西側の雨樋から落ちるタンクでは水が溢れるが、反対側のタンクにはほとんど水が入らない、という状態になる。
写真は、台風16号により、破壊された雨樋。
この日、新潟・福島豪雨。


雲の上の八十七日〜キレット小屋 前編2〜へつづく
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