2001年5月28日20:00−22:24 TV朝日
「ネイチァリングスペシャル 風雪の聖地アンデス縦断4000キロ」
俳優西田敏行が南北米最高峰アコンカグア(6962m)に挑むドキュメンタリー。
ルートは異なるが、つい1年半前に登ったばかりの山だったので、期待して番組を待ち望んでいた。
とは言え、タイトルは「アンデス縦断」。
そのことがすでに登山の結末を表しているとも言えなくもない。
前半1時間は、まさに「アンデス縦断」の旅。ティティカカ湖からウオニ塩湖、ラパス鉱山を西田敏行が行く。そこに、500年前に聖なる生贄としてアコンカグアに捧げられた、7歳の少年の物語が挿入される。直接登山とは関係がないが、旅を通して、西田の温厚な人柄が良く出ていると思った。
そして後半、いよいよ登山が開始される。
計画では、ノーマルルートを使い、およそ30日をかけて、頂上アタックを目指すとのこと。ベースキャンプまで5日。ベースキャンプで7日。さらに何日もかけて高所順応。やはり、53歳という年齢を考えた上でのタクティクスなのだろう。
1年半前の自分のことを考えると、そこまで時間をかけるのか、とちょっと驚きもある。それの半分くらいで登れそうにも思えるのだが、53歳という年齢は、そこまで体力、順応力を落としてしまうのだろうか。自分が53歳になったときのことは、全く想像できないが、それはとても恐ろしいことのように思えてきた。
ベースキャンプに到着し、高所順応のための登下降が始まる。
もどかしいほどゆっくりしか進めない西田。その苦しさがわかるだけに「がんばれ、がんばれ!」と応援したくなってくる。
ゆっくりだが確実に歩を進める西田の姿は、たとえその歩みが遅くとも、見るものを惹きつけるものがある。たとえ53歳でも、たとえ山男じゃなくても、がんばればここまで来れるんだ、そんなメッセージがひしひしと伝わってくる。
途中のキャンプでの、最年少隊員24歳の砂川君との会話は印象的だった。砂川君のお父さんは、全く山を知らなかったけど、息子が山をはじめたと知って、「山男の歌」を覚えてカラオケで歌ってくれたという。その話に西田は感動して、何度も何度も涙していた。私はその西田の姿を見て感動してしまった。俳優としてではない、人間としての西田の姿がそこにあった。
酸素を使い、フィックスロープを伝い、周りのスタッフのサポートを受けながら歩く西田。いくらサポートがあると言っても、結局登るのは自分の足を使わなくてはならない。そこにこそ登山の苦しさがあり、喜びがあるものだ。見ているこちらも苦しくなってくる。
一年半前、私も5500m付近で苦しんだなあと思う。一歩一歩を踏み出すだけで苦しかった。
いよいよ頂上アタック。てっきり登頂するものだと思っていた。というよりもぜひ登頂して欲しいと思っていた。山田昇との約束を果たして欲しかったし、アタック途中で下山した山崎カメラマン(60歳)の意思を継いで欲しかった。
しかし、そこはドラマじゃない。筋書き通りに話は進まない。
アタック断念。あと標高差130m。ほんの130mだが、今の西田には3時間以上かかる道のり。登頂しても無事下山できる保障はない。隊長の小西浩文が下山を宣言する。
その言葉を聞いて、西田はうなだれる。酸素マスクで表情は見えないが、西田の苦しみ、悔しさが身体全体からあふれている。
そして西田の言葉。
「みんなごめんねえ」
心に突き刺さる言葉。真っ先に周りのスタッフのことを気遣うなんて、そうそうできることではない。その西田の優しさに目頭が熱くなる。
良いドキュメンタリーでした。
西田敏行を使ったというのが成功の要因かと思う。
欲を言うなら、前半のアンデス旅行は不要だったかな、とも思う。
純粋に山だけでも十分番組としては成立しただろう。
途中にはさまれる登山家と西田とのやり取りはなかなか面白かった。そのへんをもっと掘り下げて欲しかったなあ。隊員一人一人に何故山をやっているのか、インタビューするとか。とくに60歳のカメラマン山崎氏については、もう少し話が欲しかった。
まあ、そうなると平日のゴールデンタイムでの放送は難しいのかもしれないが。
登頂の成否はともかく、登山シーンとしての番組は良くできていたと思う。
山を知らない人でも楽しめる構成になっていたのではないだろうか。
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