「或る秋の日の登攀」
谷川岳 幽ノ沢 左俣 中央ルンゼ

2004年10月7日(木)
メンバー:青山、神谷(記)
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〈色づきつつある幽ノ沢〉


秋雨前線の合い間を縫って再び谷川へ向かう。今回は幽ノ沢に入る。

前回谷川に来てから一週間も経っていないのだが、山の雰囲気は変わっていた。一ノ倉の出合に立つと、赤や黄色が目立つように感じる。気温も下がり、寒くなった。
秋はクライミングにとてもよい季節だが、あっという間に過ぎてしまう。暑い夏山と雪の冬山に挟まれた期間。木々は少しずつ色づき始め、空気はぴりりと肌を刺すようになる。
秋は長雨とともに静かに深まり、そして、冬はいつの間にかすぐそこまで来ている。


昨日までの雨も上がり、幽ノ沢の水位も下がっていた。
5時、まだ暗いが、早速アプローチを開始する。
二俣まで意外に手間取った。草を掴みながら微妙なバランスでへつったりする箇所が多く、結構大変。やはり降雨直後で水流が普段より多いせいだろうか。〈★明け方の二股
二俣から出合の滝の右側を登って左俣に入るが、水流沿いには進めない。僅かな踏み跡を頼りに左手(右岸)のヤブを漕いで行った。少しずつ近づく滝沢大滝と中央ルンゼ。濡れていることもなく、遠目にはすっきりしているように見える。〈★滝沢大滝と中央ルンゼ(右)
下部のスラブも適当に歩き、小垂壁下でロープをつけて登攀準備。

1ピッチ目【青山リード】
垂壁を水流の左から越える。残置ピトンに最初の支点を取った直後、リードが足を滑らせて滑落。ちょっとドキッとするが、支障はないようだ。ハングを越えるワンムーブがちょっと悪いか。しかし、ホールドは大きいので大胆にいきたい。〈★小垂壁を越えて
ハングを越えてもしっかりしたビレイポイントはなかった。40mくらい伸ばす。

2ピッチ目【神谷リード】
易しいスラブ。残置支点はたまにある程度。ビレイポイントとして、ちゃんと二本以上の残置支点があるような場所はない。50mギリギリ伸ばし、ナイフブレードを打ってビレイする。〈★スラブが続く

3ピッチ目【青山リード】
大ハングを目指して、さらにスラブを登る。カムなど使いながら中間支点を取っていく。〈★大ハングを目指して

4ピッチ目【神谷リード】
A1のピッチというのは、てっきりあの大ハングを越えるためにあるのかと思った。しかし、何のことはない、右からカンテに出てしまうらしい。ちょっと拍子抜けだが、ハングからは水が滴っており、とても登りたい気分ではなかったので、良しとする。
右上気味にハングの下部へ。ビレイポイントがあるのだが、上のハングからひっきりなしに水滴が落ちてくる。寒さに震えながらビレイする。〈★水滴落ちる大ハング〉〈★大ハング下のスラブ

5ピッチ目【青山リード】
右のカンテに出る。このカンテに出たところでピッチを切るのが本来なのかもしれない。そうすれば、寒い思いをしなくてすむ。カンテから10m登ったところにビレイポイントがあったので、そこで一旦切る。4ピッチ目のビレイ点から20mほど。

6ピッチ目【神谷リード】
通常はIV+、A1。フリーで行ったらV+ということだったので、あわよくばフリーで、と考えていた。しかし、結局アブミを出してしまった。
ビレイ点から2本はボルトが並んでいる。しかしそのボルトもかなり古く、チップが見えているような状態。ボルトからの次の一手が問題なのだが、先の支点が見えず、どこまで行けば良いのか分からない。ホールドは大きく豊富なので、技術的には問題ないが、落ちたらこのボルトで止まる保証はなく、どれだけランナウトするのか、さらにはルートがここで正しいのか、それすら分からず非常に緊張した。実際には、凹角に入って2mも登れば岩に隠れて残置ピトンがあったのだが、それを見つけるまでが(精神的に)大変だった。
その支点を取ってしまえば、あとは問題ない。その先もランナウトするが、徐々に傾斜も落ちてくるので、気分的に楽になる。20mほど行ったところにビレイポイントがある。〈★カンテの上のスラブ

7ピッチ目【青山リード】
実質的には、先ほどの6ピッチ目で終了。あとは草付スラブを登るのみ。〈★草付スラブ

8ピッチ目【神谷リード】
ゴツゴツしたスラブを登っていく。中間支点はほとんどないが、傾斜もない。50mいっぱいまで伸ばしてもビレイ点になりそうな場所もない。コンティニュアスにして、ロープをさらに伸ばす。
しばらくそのまま登ると、広場になり、登攀終了。靴を履き替える。

振り返れば、紅葉に染まりつつある幽ノ沢の雄大な姿が広がっている。心地良い瞬間だ。

広場から、スラブ沿いに右へトラバース。尾根状の場所から明瞭な踏み跡をたどり堅炭尾根の登山道へ。〈★中央壁の頭付近〉〈★もうすぐ登山道
赤と黄色に染まる登山道をのんびり下っていく。

幽ノ沢にはこの日、我々の独占だった。
爽やかな風。染まる木々。千切れ行く雲。秋の快適な登攀を満喫した。
難しいルートで自分の限界に挑戦するクライミングにももちろん意味があるが、こういう移りゆく季節を感じながら、日本の四季を味わえるクライミングと言うのも十二分に価値があると思う。

一ノ倉沢出合に戻ると、大勢の観光客と小学生、中学生の団体が!あまりの人の多さに圧倒されそう。〈★一ノ倉沢出合







10月7日(木) 晴れ
5:00 一ノ倉沢出合発(17℃)
5:15 幽ノ沢出合(11℃)
7:05 中央ルンゼ取付(14℃)
7:20 登攀開始(16℃)
-7:45 1ピッチ目(16℃)
-8:05 2ピッチ目(18℃)
-8:35 3ピッチ目(18℃)
-8:50 4ピッチ目(17℃)
-9:05 5ピッチ目(17℃)
-9:40 6ピッチ目(18℃)
-9:50 7ピッチ目(19℃)
-9:55 8ピッチ目(18℃)
10:05 終了点(19℃)
10:35-55 堅炭尾根(20℃)
11:55 芝倉沢出合(19℃)
12:35 一ノ倉沢出合(19℃)


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