「総合力」
週刊タニガワ日記〜積雪期編〜(第4回)
谷川岳 一ノ倉沢一ノ沢右壁左方ルンゼ

2004年3月10日(水)
メンバー:山田、木下(日本山岳会青年部) 、矢吹(東北大学山岳部)神谷(記)
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<F5チムニー滝へ>


3時には指導センターを出るつもりだったが、30分ほど遅れてしまった。
センターに出された計画を見ると、我々が行く予定の左方ルンゼに日本山岳会青年部宗像さんと龍鳳石田さんの先行パーティが入っているようだ。
ということは、同じルートに6人が集中することになる。
順番待ちになったら、予想外の時間がかかるかもしれない、と思うものの、今日の天気や雪の状態を考えると、このルートしか登る場所はありえない。追いかけるようにして、一ノ倉沢への道を急ぐ。

さすがにトレースがついているので早い。一ノ沢に入ったところでヘッドランプの灯りを捉え、一気に追いついてしまった。その後、ラッセルを交代しつつ、取付まで行く。一部膝を越える部分も出てくる。
仙台から車を走らせてきた矢吹は、ほとんど寝ていないためかペースが上がっていないようだ。
神谷-山田でロープを結び、ご好意により、先に取り付かせてもらう。
その後ろを宗像-石田、矢吹-木下の2パーティが続く。

1ピッチ目【山田リード】
F1-F2。
傾斜も緩く、易しいピッチ。
時間的に日の出を迎え、上部に陽が当たり始めてきた。
ロープも順調に流れ、そろそろビレイ解除か、というところで、ルンゼの上から黒いものが落ちてきた。
山田のザックだ。
ビレイ中の私は、手の届かないところを転がっていくザックを呆然と見送るしかなかった。
ザックは止まらない。
F1を滑り落ち、急傾斜の雪壁を見る間に転げ落ちていく。
幸い、東尾根を登る後続パーティが通りかかり、拾ってくれたが、もしそれがなければ、本谷くらいまで落ちていたかもしれない。そうなっていたら、どうしただろうか。時間を考えると、撤退したかもしれない。
ともかく、御礼を言って、ザックを受け取り、私が二つ背負って、フォローして登る。<★1ピッチ目ビレイ点から2ピッチ目>

2ピッチ目【神谷リード】
F3。
なだらかな階段状。ルートを選べば、傾斜が強いところもあるが、あえてそんなところには行かない。後続がいるので、どんどん登って、ロープを伸ばす。
ロープが一杯になったところで、スクリュー3本でビレイ。上部に陽が当たり始めているので、ときどきスノーシャワーが降るのが、嫌な感じ。<★緩い2ピッチ目>

3ピッチ目【山田リード】
F3-F4。
このルートの中では、この部分が一番傾斜は強かった。
しかし、幅が広いので、レベルに合わせて、ラインを選択することが可能。IV級程度のところを行く。<★スノーシャワー来る!>

4ピッチ目【神谷リード】
3ピッチ目をいっぱいまで伸ばしても、F4を抜けることはできなかった。
最後の5mほどの氷を抜けて、雪壁に出る。そこからラッセルしつつ、50mギリギリで灌木に届く。

5ピッチ目【山田リード】
雪壁をひたすらラッセル。膝くらいまであって苦しそう。
チムニー滝の下まで。ハーケンによるビレイ点がある。<★チムニー滝へ向かって雪壁を登る>

6ピッチ目【神谷リード】
F5チムニー滝。
見るからに悪い。一応氷はついているが、ベルグラ状で、おそろしい。
左から取り付き、凹角にスクリューを2本決める。
中間部に残置ハーケンがあり、スリングがぶら下がっている。
何とか残置ハーケンまではずり上がるが、そこから先は、スクリューを決められるほどの氷の厚さがなく、ランナウトするしかない。そこを行く勇気がなかなか湧かず、フィフィを使って、残置ハーケンでA0しつつレスト。
3-4m登れば、ベルグラは終わって、一段上の雪壁に出られるのは分かるのだが、「落ちたらどうなる」と思ってしまって、なかなか手を出せない。
しかし、よく見るとその残置ハーケンはグラグラと動いており、あまりここに長居もできない。仕方がない、と思い切って登り始めた。
氷は薄いが、バイルはちゃんと決まってくれる。フッキングにならずにすむのはありがたい。ベルグラを登り切っても、上部の雪壁に出るまでがまた嫌らしい。スカスカの雪で、身体を強引に伸ばしてトラバース。<★左側から中央へのラインを登る>
雪壁に出ても、支点が取れるわけではないので、油断はできない。
雪から少し出たスリングが見えたので、そこまで行くと、残置ハーケンがあったので、ビレイ点とする。

この先、一・二ノ沢中間稜と合流するまで、同時登攀で行く。
ラッセルは、かなり深く、一部クレバスが出ているところもあって、苦労させられる。


中間稜に出たところで、後続を待つ。
木下、矢吹ペアがなかなか来ないので、宗像、石田ペアに先に行ってもらう。

1時間待って、ようやく木下、矢吹が追いついてきた。チムニー滝でフォローの木下が雪崩をまともに食らってテンション。ユマーリングでようやく登るなど、だいぶ苦労したらしい。

中間稜に出て、3ピッチ雪壁を登ると、ナイフリッジに到着。<★この上がナイフリッジ>
高度感は抜群で、先行ペアも時間がかかっている。
スノーバーで支点を取りつつ、3ピッチのナイフリッジ。<★切れ落ちたナイフリッジ>
雪がグサグサで、かなり怖い。トレースがある分楽だが、トップだったら、もっと怖いだろう。
その先、雪壁でロープをはずす。

13時過ぎに東尾根に合流。東尾根には先行パーティ(1ピッチ目で山田のザックを拾ってくれたパーティ)のトレースがあった。
合流するまでの雪壁をラッセルしていると、足元から「ゴッ」という嫌な音がした。これは、雪面全体が崩れる前兆に間違いない。重さをかけないように、なるべく一人一人分散してするようにして登る。こちらは6人もいるので、密集したら一気に崩れるかもしれない。

先行パーティは、第一岩峰を直登しているようだったが、我々はトラバースして、右から巻いた。

頂上直下は、かなり傾斜があり、雪の状態も悪かったが、少しずつ削って足場を作りながら登る。
14時過ぎに頂上到着。<★東尾根最終部分>

一気に西黒尾根を下る。気温が上がり、雪が腐ってきていて、歩きにくかった。


左方ルンゼF3,F4の氷、F5のベルグラ状チムニー、中間稜のナイフリッジと様々な要素の詰まった一本だった。
かなり疲れたけれど、総合力の試される充実したルートだと思った。


3月10日(水) 晴れのち曇り(-2℃〜+3℃くらい)
3:25 指導センター発
4:25 一ノ倉沢出合
5:35 左方ルンゼ取付
5:45 登攀開始
-6:05 1ピッチ目
-6:40 2ピッチ目
-7:15 3ピッチ目
-7:35 4ピッチ目
-8:25 6ピッチ目
9:00 一・二の沢中間稜
-10:10 待機(後続待ち)
13:05 東尾根
14:05 オキの耳
15:55 (西黒尾根経由)指導センター着


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