「穏やかな冬壁」
甲斐駒ケ岳 Bフランケ 赤蜘蛛ルート

2003年1月11日(土)〜2003年1月12日(日)
メンバー:道家(YCC) 、神谷(記)
報告内の★マークは、写真へのリンクです。



<Bフランケ赤蜘蛛ルート2ピッチ目>


そもそもは、Aフランケ白稜会ルートに取り付く予定であった。

前日、長い黒戸尾根をひたすら登り、ようやく八合目の鳥居に到着。
尾根の左手にあるはずの岩小屋を気にかけながら歩いていたが、15分くらい登って、いくら何でも登りすぎだと気付く。

慌てて戻り、一昨年の夏に来たときの記憶をたどりつつ探してみるが、やはり、岩小屋の姿は見あたらない。岩小屋があるべきはずの場所は、すっかり雪に埋もれている

すでに薄暗くなっており、小屋を掘り出す余力もなく、適当に雪を踏み固めて、ツエルトを張る。今年は雪が多いというのを、こんなところにも感じる。

翌日、朝食を摂っているときに、昨晩は七条で泊まったYCCの別パーティが登ってきた。彼らが奥壁左ルンゼに行くのを見ながら、我々も出発準備。

黒戸尾根上は、甲斐駒ヶ岳頂上へのトレースがしっかり付いていたのだが、赤石沢奥壁へ降りるトレースは全くなし。夏の踏み跡など分かるわけもなく、膝くらいのラッセルで適当に下降。夏は、左手の八丈沢を降りるのだが、かなり右寄りに下降してしまう。
一箇所懸垂を交えて、あとは雪壁を歩いて降りていくと、見慣れない場所に到着。雪があるとは言え、どうもAフランケとは思えない。よくよく見れば、ここはBフランケ。間違えて、Bバンドを降りてきてしまったようで、目的としていたAフランケ白稜会ルートの取付は遙かに下の方。<★Bバンドの雪壁を歩いて下る>

ここから、さらにラッセルで下降して取り付くのもなんだか馬鹿馬鹿しい。ルート図を見ると、目の前にあるのが、Bフランケ赤蜘蛛ルートの取付点。特に白稜会ルートにこだわっていたわけでもないので、あっさりルート変更。Bフランケ赤蜘蛛ルートを登ることにする。幸い、手元には必要なギアもルート図もある。

1ピッチ目【神谷リード】
「冬期クライミング」1ピッチ目のIII級の雪壁は、ロープなしで登り、2ピッチ目から実質的に登攀開始。雪壁の突き当たりにビレイ点があった。
人工登攀でスタート。なのだが、1本目のボルトのあと、2本目が遠すぎる。クラックにエイリアンを2-3個連続で使って、次の支点へ。手持ちのカムが、エイリアン(赤、黄、緑)、キャメロット#0.5と、全部で4つしかないので、中間支点として残置はせず、全て回収していく。
その先もカムを何度か使いながら、人工で越えていく。残置ハーケンなど、手で抜けてしまうほど古いものもあり、油断ならない。

全体的に、ボルトの間隔が遠く、アブミの最上段でなんとか届くということが多かった。最後のハングを越えて、ビレイ点までが雪壁。雪の下に支点があるのかもしれないが、ほとんど凍っていて、掘り出すのには、時間がかかりすぎる。傾斜はそれほどないので、ランナウトしつつ、ダブルアックスで5mほど登る。

以下、全ピッチでセカンドはユマーリング。
二人とも空身でザックは荷揚げ。(荷揚げにはペツルのMINI TRAXIONを使用。非常に楽であった)

2ピッチ目【道家リード】
直上するのではなく、左手の凹角から登る。出だしは人工。そして草付ダブルアックス。結構悪そうに見える。トラバース気味に左上。50mギリギリまでのばして、灌木でビレイ。<★青空の下冬壁を行く>

3ピッチ目【神谷リード】
傾斜はあるが、ロープも要らないような雪壁を膝下程度のラッセル。中間支点は灌木で二箇所取る。注意深く壁を見ながら登ると、残置ハーケン二本を発見。ビレイ点はここで間違いないだろうと、ピッチを切る。

4ピッチ目【道家リード】
二本のハーケンの左側に広がる凹角をフリーで登る。
しかし、その凹角には、残置支点らしきものは全くなく、15mほど草付を登ったあと、その先は、スラブとなり、かなり厳しそう。道家さんも素手になってチャレンジしようとしたが、いくら何でもそんなに難しいルートのはずはない。灌木を使って、一旦懸垂下降する。
ビレイ点から、さらに雪壁を岩壁沿いに登っていくと、15mほど行ったところにボルトラダーがあった。
じゃあ、このビレイ点らしきハーケン二つは何なんだ、とだまされた気分。ボルトラダーの下部には、ビレイ点らしきものはなさそうなので、このままでビレイする。
A1だが、ボルトの間隔は遠く、アブミ最上段の連続だったそうだ。ボルトラダーが終わったところの灌木でビレイ。<★遠目のA1で>

今回、ロープは、メイン(9.9mm×60m)と荷揚げ用(9mm×50m)を使用。
このピッチは、60mのメインロープは余裕があったが、荷揚げ用が3mほど足りなかったので、その分、セカンドはザックを背負って登った。

5ピッチ目【神谷リード】
2手人工で登ったあと、フリー。
暖かかったので、素手になる。ホールドは十分なので、それほど不安はないが、支点が取れないので緊張する。右手にスリングのぶら下がったビレイ点のようなものが見えたので、そっちを目指す。
が、そのビレイ点の先が分からず、だったら、左の凹角沿いの方が、階段状で余程登りやすそう。よく見ると、1本だけ残置ハーケンがある。そこで中間支点を取って、あとは、草付ダブルアックス。程良く、草付が凍っていて、アックスが気持ちよく決まる。かなりランナウトするが、階段状ということもあり、それほど不安を感じない。それよりも、残置支点がないので、ルートが正しいのか、ということの方が気になる。

最後の灌木の右手にポツンと残置ハンガーボルトがあり、ルートが正しいことが分かり少し安心。灌木を乗り越えて、その先の樹でビレイ。

6ピッチ目【道家リード】
やはり支点がない。
ルート自体が不明瞭で、どこから登って良いのか分かりにくい。結局一旦カンテを回り込み、草付の凹角をひたすら左上。残置支点は全くなし。<★弱点を突いて草付を>
灌木でビレイ。

7ピッチ目【神谷リード】
残置支点がないのが不安ながらも、灌木で支点を取りながら草付ダブルアックスで左上。ちょっとしたハングが見えるが、支点なしであれを越えられるのか分からない。ともかくも行ってみる。
近寄ると、フリーでは結構厳しそうなハング。ハング下のクラックにカムを決めて、一気に乗越すか、と覚悟を決めるが、カムの大きさが合わず、戸惑う。
どうしようかと、ふとハング上を見ると、リングボルトを発見!
その先もボルトラダーが続いている。何かほっとした感じで、アブミを取り出す。

ボルトラダーは、4-5本で終わり、木に乗り移ってからバンド状の部分へ。そこから左上にスリングが見えるが、そこまでは完全にスラブのフリーでトラバース。カムを決められるような場所もなく、かなりランナウトしそう。夏ならともかく、アイゼン手袋では、ちょっと躊躇する。

一旦、ピッチを切って、トップを交代。

8ピッチ目【道家リード】
直接トラバースするのではなく、テンションで一度左下に下降してから、草付を利用して、登り返す。それでも、スリングの掛かった支点には届かず、最後は、アックスを支点に引っかけて、それで登る。

その先のカンテを越えるトラバースも悪そう。ランナウトなのはもちろん、岩がもろくて、ボロボロ崩れる。何とかトラバースを終えて、そのままバンド状の部分をさらにトラバース。<★核心のトラバース!>

セカンドで、ユマーリングしようとしても、中間支点が少ないトラバースなので、支点を外すたびに思いきり振られてしまう。少しずつユマーリングしながら、ダブルアックスを使って、自分でも登っていく。
荷揚げするザックは壁にボコボコとぶつかっている。

実質的には、このピッチで終了。

あとは雪壁のみ。<★最後の雪壁>
一応ロープを引きずるように1ピッチ分登ると、朝、奥壁に向かったパーティのアプローチのトレースと合流。そのYCCパーティは、未だ壁の中。随分苦労しているようだ。
コールを送ると、まだがんばって登るとのこと。今晩は壁中ビバークになりそうな彼らの健闘を祈りつつ、トレースを逆にたどって、八合目まで戻る。

稜線到着が17時過ぎ。
間もなく暗くなる中、ヘッドランプで下る。五合目小屋で泊まろうか、と思ったが、ここまで来たらあと2-3時間なので、駐車場まで一気に下ってしまう。
駐車場着21時。非常に疲れた。



とても充実した一本だった。
天気に恵まれ、条件が良かったことが大きいが、技術的にも、自身に相応のレベルだったと思う。

ほぼ"つるべ"で登れたことも、充実した要因。
セカンドで登った箇所は、ユマーリングだったので、実際の難しさは分からないが、最後のトラバース(V級程度?)以外は、何とかリードできそうに感じた。あのトラバースも何とかがんばれば……。

草付ダブルアックスは、今まであまりやってこなかったことだが、ちゃんと決まれば、意外に安心できることが分かった。
フリーでIV級とかIV+級とか書いてあるルート図を見ると、登れるのだろうか、と不安に思っていたが、草付が使えたので、大分楽に感じた。
これが、完全に岩壁の登攀だったり、ベルグラ登攀だったりしたら、同じグレードでもまた随分違った感じになっただろう。

ビバーク箇所は随所にある。雪を削れば、どこでもビバークできそうで、その点は安心。でも、できればビバークはしたくなかったので、一気に抜けられて良かった。

天気のおかげで、登攀中は快適でさえあった。陽が当たっているときは、暖かく、景色を楽しむ余裕もあった。陽が陰れば、急速に寒くなったが、震えるほどではない。冬壁が、いつも、こんなに穏やかだったらよいのに、と思う。
しかし、そうはいかず、いつ山が牙を剥いて襲ってくるか分からないのが、冬山の怖さでもあるわけだが。

こういう壁(条件)だったら、また行ってみたいと思う。甲斐駒はアプローチさえもっと短ければ良いのに、とそれが残念。

なお、この週の甲斐駒赤石沢は、YCCの2パーティ(4名)のみしかいなかった。



1月11日(土) 晴れ
8:10 駐車場発
13:35 五合目小屋着
16:35 八合目テント設営

1月12日(日) 晴れ
5:00 起床
7:05 八合目出発(-4.4℃)
8:20 取付着(-0.9℃)
8:40 登攀開始【Bフランケ赤蜘蛛ルート】
-10:25 1ピッチ目(0.1℃)
-11:25 2ピッチ目(0.6℃)
-11:50 3ピッチ目(3.1℃)
-13:25 4ピッチ目(0.3℃)
-14:05 5ピッチ目(-2.6℃)
-14:45 6ピッチ目(-3.9℃)
-15:40 7ピッチ目(-4.1℃)
-16:30 8ピッチ目(終了点、-5.1℃)
17:10 稜線(-7.6℃)
21:00 駐車場


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