「急な草付慎重に越せば」
谷川岳 一ノ倉沢 2ルンゼ〜Aルンゼ、中央稜

2002年10月5日(土)〜6日(日)
メンバー:2ルンゼ 村野、Z塔(以上、同流山岳会) 、神谷(記)
中央稜 石川、中村(以上、同流山岳会)、神谷(記)
報告内の★マークは、写真へのリンクです。



正面の陰になっている部分が2ルンゼ

急な草付慎重に越せば、
やっと飛び出す国境稜線
固い握手に心も霧も、
晴れて見えるはオキの耳
ドコズンドコズンドコ
(「谷川小唄(一の倉ズンドコ節)」  六番)

一ノ倉沢の2ルンゼは、1933年に開かれた大クラシックルート。
当時不可能視されていた滝沢下部(滝沢本谷F1)を避け、滝沢上部に入るために開かれたルートである。
報告を見ると、いつも濡れているという印象があり、雨でも降ったらとても登れる場所ではなさそうだが、ザッテルを越えて、オキの耳付近まで一気に突き上げるというダイナミックなルートは、以前から気にかかっていた。

10月5日(土)一ノ倉沢2ルンゼ〜Aルンゼ
ここ数日は晴れが続き、予報では今日も快晴。
悪天なら別のルートにしようとも考えていたのだが、これなら大丈夫だろうと、念願の2ルンゼ登攀にかかる。

が、歩き出した途端にパラパラと雨が降り出した。
本降りになるはずはない、と信じて歩き続けると、テールリッジあたりではもう雨は上がり、青空が広がりだした。
絶好のルンゼ日和(?)になりそうだ。

取付は非常に明確。<★2ルンゼ取付>
ルンゼに入ってしまえば、一本道でどうにもルートの間違えようがない。
しかし、ルートのところどころに赤ペンキで○や↑なんかが書いてある。
こんなの要らないよなあ。

2ルンゼ自体は全部で8ピッチかかった。
「日本の岩場」や「Rock&Snow013」のルート図は、どう照らし合わせてよいのかよく分からない。
ルンゼとかフェースとか書いてあるが、どこがどこなのやら。

ビレイポイントは各所にあるが、ピッチを切るタイミングを間違えると、次のポイントまでたどり着けなくなる場合もある。
例えば、本来40m延ばすピッチの途中20mにあるビレイポイントで切り、20m後にある次のビレイポイントを通過すると、次のビレイポイントに届かなかったりする。

ピッチの切り方がルート図と違ってくるので、余計に分からない。
ただひたすらルンゼを詰めて行くだけなので、違うルートに迷い込むということはあり得ないのだが、今はルート図でいうどの辺にいるのか、というのが判然としなくなる。<★2ルンゼ登攀1>

全体に支点の腐食は激しく、どのハーケン、ボルトも錆び付いている。
今すぐボロボロと崩れると言うほどではないが、実際に墜落があったときに、どこまで止めてくれるのか甚だ疑問。

ピッチによってはほとんど残置支点がないようなところもあるが、ある程度難しい部分では探せばピンが見つかる。

晴れが続いたはずなのに、ルンゼ内部はやはり濡れていた
それでも、このルンゼにしては乾いていた方なのかもしれない。
技術的に難しい箇所は特にないが、濡れているので、悪いと感じるところは多い。<★2ルンゼ登攀2>

「日本の岩場」でIV+級と書かれている場所(たぶん)は、濡れていたが、カチホールドの連続だったので、わりと楽だった。
ただ、出口の最後のハーケンがグラグラで用を為さず、その先ランナウトになるのがちょっと怖いと感じた。

カムはエイリアン〜キャメロット#1のサイズを1セット。
2ルンゼでは3-4回くらい使用。
ハーケン類も持参したが、使うことはなかった。

今回はなるべくルンゼ通しに登ることを心がけたが、
要所要所ではルンゼの右を巻くこともできそうだ。


暗いルンゼを越え、石門をくぐり抜けたところでようやく太陽の光を浴びられた。
そして、ザッテルにたったときの感動。
一気に視界が開け、世界が広がる。
暗黒の底から、光の世界へ。
眼前に広がる岩と紅葉、緑のコントラスト
それはまるで、人の目から隠された秘境のようにも思われた。

そして、この場にいるのは我々のパーティだけ。
背筋が震え、その場に立ちすくんでしまう。
それは、劇的なクライマックスというのにふさわしいものであった。


と、感動するのと同時に、国境稜線が遙か彼方に見えることに愕然としていた。
今まで登ってきた2ルンゼと同等、もしくはそれ以上の長さがあるのではないだろうか。
しかも、Aルンゼはかなり峻険に見える。<★Aルンゼは遥かに続く>

このとき11時。
Bルンゼなら、わりと早い時間に終われるだろうが、ここまで来たら、やはりAルンゼを選択したいと思った。
そう何度も来られる場所でもないし。

ザッテルで一休みしてから、草付のバンドを歩いて降りる。
10mくらいのところにボルトがあって、そこから懸垂下降で取付まで進む。

広河原」と呼ばれる小カールから、一番左側のルンゼを詰めていく。
ルンゼの入り口にボロボロになったシュラフの残骸があって、嫌な気分にさせられる。
稜線から飛ばされてきたのだろうか。
Aルンゼに入るが、出だしの滝が嫌らしそうだったので、右から巻く。
巻きながら、登りやすそうな箇所を探していくと、いつの間にか右に寄りすぎ、Aルンゼからかなり離れてしまった。

滑りやすい草付を無理矢理トラバースしてようやくAルンゼに復帰すると、
ちょうど核心部のゴルジュ内部10m滝であった。

当然のように水は流れているし、極小の虫々が舞っている。
巻くこともできそうだったが、直登することにする。

残置ハーケンも3-4個あるがカムも使いつつ、支点を取る。
出口の乗越のチムニーが核心部。
ヌルヌルだし、スタンス細かいし、とても悪い。
お助けスリングがぶら下がっていたので、(古かったけど)ちょっと助けてもらう。<★ゴルジュ内部滝の登攀>

更に1ピッチロープを延ばして、とりあえずロープはしまう。

あとはひたすら歩くだけかな、と思っていたが、それほど甘くはなかった。

角を曲がるたび、まだ稜線じゃないのか、と思い、岩を乗越すたび、まだルンゼが続くのか、と思わされながら、ひたすらルンゼを詰めていく。

ロープを出すような厳しいピッチもあり、結局後半4-5ピッチくらいはロープをつなぎっぱなしだった。
A0が混じるようなピッチもあったりして、結構難しい。

そうこうしているうちに、途中で凹角が二本に分かれている場所に着いた。

ルンゼ通しに行くのなら右ルートだが、左の方が登りやすそうだ。
ただ、左は出口付近に大きなチョックストーンが見え、上からスリングがたれているのが分かる。
あの乗越は厳しそうだし、せっかくだから、最後までこのルンゼを詰めていこう、と決め、右のルートを登る。
トップが登りだしたあとで、左ルートの方にかすかに赤ペンキで↑がついていることに気付いたが、右ルートにもビレイポイントがあったので、どっちを登っても間違いというわけではないだろう。

ビレイ中、トップのロープの流れで落石を誘発し、人頭大の石が目の前50cm位のところに降ってきたのには驚いた。
浮き石が多く、ルンゼだけに、落石とビレイする場所には要注意。

左右に分かれたところから1ピッチで最後の壁と思われる場所に出た。
左の凹角から草付に入り、草付からリッジに出たところに立派なビレイ点があった。
それでもまだ国境稜線は更に遠くに見える。
そこから懸垂下降で、反対側の草付に降り、国境稜線目指して、草付と岩稜を詰めていく。
支点もないので、懸垂で降りたところからはロープをしまう。<★国境稜線は近い>

40分後。
ようやく国境稜線到着。
すでに17時近い。
長かった。

午前中は晴れていたのだが、
午後になり、ガスも出てきて、視界が悪くなっていた。
見渡すと鳥居があるので、オキの耳が近いことだけは分かる。

おつかれさま、と握手を交わし、少し休んでいると、
徐々に霧が晴れてきて、オキの耳が見えてきた。

まさに唄の通り。

急な草付慎重に越せば、
やっと飛び出す国境稜線
固い握手に心も霧も、
晴れて見えるはオキの耳
ドコズンドコズンドコ


(本来は、
嫌な草付慎重に越せば、
やっと飛び出す国境稜線
固い握手に心も霧も
晴れて見えるオキの耳」
らしいが、私が学生のころ覚えた歌詞は上記のとおりであった。)


厳剛新道に出たあたりでヘッドランプが必要になった。
道路についたのは19時半。
有り難いことに、すでに中央カンテを登り終えた仲間が車で迎えに来てくれていた。


2ルンゼのルート図を見ると(当然ながら)2ルンゼ自体がメインで、ザッテルを越えたあとのAルンゼは、おまけのような扱いになっていることが多い。
図としても、2ルンゼの長さに対して、その先はほんのちょっと。
ちょこちょこっと歩いていけば、すぐにでも国境稜線に出るのかと思っていた。
しかし、そんなのとんでもない、という感じ。
ボロいし、支点がないし、濡れているし、と2ルンゼよりも悪いと感じる場所も多かった
しかも、先が見えず、ルート図もないのでとても長く感じる。

岩を越えても越えても更にルンゼが続き、稜線は全く見えてこない。

このルートの核心は実はAルンゼの方にあるんじゃないかとさえ思える。

確かに苦労はしたが、その分充実した山行となった。
とくに、ザッテルを越えたときのあの風景は、それを見るためだけに2ルンゼを詰めたっていい、と思えるほどだ。
その先は、時間と状況次第だが、苦労したいならAルンゼはおすすめできる。

2ルンゼはかつて南稜に続く人気ルートだったらしいが、今ではそれほど登る人はいない。
この日も我々のパーティのみだった。
南稜や烏帽子奥壁を登るクライマーを横目に見ながら、静かな山を感じられる。
味わい深い一本だと思った。

(2ルンゼは全て神谷リード。Aルンゼは全て村野リード)


10月6日(日)衝立岩中央稜
人気ルートだけに、どれほど順番待ちになるか、と不安であったが、トップで登れて、待つ必要はなかった(そのかわり後続を待たせてしまったが)。
ヒョングリの滝からテールリッジまではうんざりするほど人がいたのだが、ほとんどが南稜に行き、あとは各ルートに散らばる感じで、中央稜は3-4パーティくらいであった。

ルート自体は特に問題となる部分はない。<★1ピッチ目>
谷川だけに浮き石やはがれそうなフレークも多いが、よく見ていけば硬い岩でホールドになるものがちゃんとある。

ビレイ点もわりとしっかりしているが、浅撃ちのボルトなども多く、タイオフした方が無難に感じた。

「日本の岩場」のルート図でいう二つのピナクルのうち、下のピナクルから40m延ばしても、ビレイ点にピナクルはなく、更に40mくらい延ばしたところでようやくピナクルのビレイ点となった。
つまり、ルート図では40m1ピッチとなっている部分に2ピッチ分かかっていると言うこと。
何か変。
まあ、ピナクル違いかもしれないが。

一日曇天で、風が冷たかったが、快適なクライミングを楽しめた。<★紅葉の中に懸垂下降>



10月5日(土) 晴れのち曇り
5:05 出合発(18.1℃)
6:20 中央稜取付(17.3℃)
6:55 2ルンゼ取付(18.1℃)
7:10 登攀開始【2ルンゼ】20.6℃
7:36 1ピッチ目(16.3℃)
8:10 2ピッチ目(17.3℃)
8;40 3ピッチ目(14.7℃)
9:10 4ピッチ目(15.3℃)
9:30 5ピッチ目(14.6℃)
9:50 6ピッチ目(15.0℃)
10:15 7ピッチ目(15.3℃)
10:45 8ピッチ目(14.4℃)
11:10 ザッテル着(16.0℃)
11:40 ザッテル発(20.2℃)
16:00 Aルンゼ経由リッジ着(15.3℃)
16:40 終了点(15.4℃)
17:00 終了点発
19:25 車道(18.5℃)

10月6日(日) 曇り
5:15 出合発(18.8℃)
7:10 中央稜取付(19.1℃)
7:30 登攀開始【中央稜】19.0℃
11:50 終了点(16.1℃)
16:00 出合着(17.3℃)


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