「カクネ里脱出行」
鹿島槍ヶ岳北壁取付〜カクネ里下降
2002年4月20日(土)
メンバー:大野(風来坊)、廣川(JECC)、木下(JAC青年部)、神谷(記)
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<カクネ里をあとにする>
五竜か不帰かと考えていた。 車がないので、急行アルプスで出発して、朝から取り付いて……、と考えていた。 それが突然の急展開。 同じく北ア方面に向かうという車が見つかったという連絡が入り、出発当日にその話に乗ることに決定。大野さん@風来坊と廣川さん@JECCの二人が、ワンデイで鹿島槍北壁正面ルンゼに向かうという。 当初は、アプローチのみ一緒で、別パーティ別行動、と考えていたのだが、結局最後まで四人同一行動となった。 21時半、国立駅にて、拾ってもらう。 0時半、大町の大野さんの別荘到着。 出発準備等を整えていると、もう1時。 布団が用意されていて、快適な就寝。といっても2時半起床で、ほとんど寝られず。 車で移動して、3時10分大谷原発。 林道を黙々と歩く。 鹿島槍は初めてなので、過去の状況と比べられないのだが、他の人の意見では、例年よりもかなり積雪が少ないそうだ。ところどころ、雪ではなく地面を踏んでいく。 吊り橋の後の渡渉は、まだ暗いうちだった。ヘッドランプの明かりで見る水流はかなり急で、かつ深そうだ。こんなことも例年はないそうだ。大野さんが、ズボンを膝までまくって、渡渉にトライしてみるが、見た目よりさらに深く、このままでは進めないようだ。 「ここで敗退か?」という思いが一瞬心をよぎる。 続いて、木下が空身になり、ロープをつけ、下半身はパンツまで脱いでチャレンジ。なんとか向こう岸に到着。ロープをフィックス。<★最初はズボンをまくっただけでチャレンジしたが、その後…> この先の行動を考えると、濡れるわけには行かず、みんな下半身は全部脱いで渡渉。まあ、まだ暗いうちだし、ほかには誰もいないから良いか、という感じである。冷たい水流で、下半身の感覚が麻痺してくる。木下は戻って荷物を持ってもう一度渡る。 その後は渡渉もなく、アラ沢出合からスノーブリッジを渡って、天狗尾根の末端に取り付く。 天狗の鼻までずっとラッセルだとか、場合によっては二日かかるとか、そういう情報を聞いていたが、さすがにこの時期ではもう雪も締まっていて、順調に高度を上げていくことができる。<★天狗尾根を行く> 二つのクーロワールもロープなしで通過。 約5時間で天狗の鼻に到着(9時55分)。 道々、iモードで天気図を確認する。金曜日に出発する時点では、天気予報は曇りで、降水確率40%くらいだったのが、徐々に悪化。明日は完全に雨(または雪)になるようだ。 しかし、この時間で天狗の鼻なら、十分ワンデイで帰ってこられると考えていた。 ところが、この先のトラバースが予想以上に悪かった。出だしは傾斜強いが、気を付ければロープがいらないくらい<★トラバース>。その先、二本のダケカンバの場所からロープを付ける。 悪い雪壁を2ピッチ分。次が、草付と泥と薄い氷のへばりついた変な壁。ここが最悪だった。泥にアイゼン、氷にアックス。さらに岩。ユマールも使いつつ、震えながら通過。当然、途中で支点など取れるはずもなく。これ、リードするのはかなり怖そう(というか、現在の力でリードする自信なし)と思った。<★草泥薄氷の壁を登る> さらに1ピッチのばして、「氷のリボン」下をロープなしで一気にトラバース。 13時半、主稜取付きのスノーコルに到着。 正面ルンゼは、取り付いた時間が遅く、ブロック雪崩の危険がある。一か八かで取り付いて、運が良ければ抜けられるかな、という程度。 だったら、主稜かと思うが、取付きからほとんど雪が落ちていて、全くの岩稜。これでは、相当時間がかかりそうだ。<★雪がない主稜> 明日の好天が見込めるならばともかく、嵐になるのが分かっているのに、突っ込むことはできない。 そうこうしているうちに、周りでは雪崩の音が頻発している。氷のリボンにもでかい雪崩が、長時間降り続いた。登攀中にあれを喰らったらひとたまりもなさそうだ。<★氷のリボンに雪崩> 今回は、ここまでとして、引き返すしかなさそうだ。しかし、今来た道を戻るのは、ちょっと嫌すぎる。しばらく考えた後、カクネ里経由で下降することに。 傾斜が緩まるまではクライムダウン。尻セードもできそうだが、途中にシュルンドがある可能性もある。様子が分かるまでは、少しずつ下り、ある程度のところから尻セード開始。一気に下る。<★カクネ里からの黒い北壁><★カクネ里をあとにして> さくさく下って、大川沢の本流に合流。さて、という感じで地図を見てみてびっくり。アラ沢出合まで、沢沿いにまだ4km近くある。 時刻は15時半近くだったが、急げば間違いなく、明るいうちに車につけるだろうと思っていた。そのとおり、最初は雪渓を順調に歩いて行くが、徐々に雪渓の間から水流がのぞきはじめた。それでも、右岸左岸と雪渓伝いに下っていくことができた。 しかし……。 スノーブリッジもなく、沢を渡るしかない、という場所に出た。 最初の渡渉こそ、どうやって濡れないように飛び石で渡ろうか、と考えていたが、一回濡れてしまえば、後はもう同じこと。 靴を脱いだり、ズボンをまくったりなどと悠長なことをしている余裕はない。プラブーツのまま、ざぶざぶと沢を渡っていく。 沢に降りて、渡渉ができればいい方で、高巻いたり、ヤブを抜けたりと、まさにアルパイン。 視界の先に大きな尾根を見えるたび、あの尾根を越えれば、きっとアラ沢の出合に違いない、もうすぐ着くぞ、と何度思ったことだろうか。 そのたびに裏切られ、尾根の向こうにもまた同じような沢が続いているのだった。 疲労は徐々に蓄積され、身体をむしばんでいく。 残雪のちょっとした登り返しで息が切れる。 予想以上に水流の強い渡渉は、ともすると足を取られそうになる。 急流の渡渉では、木の枝を拾って杖にしてみたり、お互いのザックの腰の部分を持って二人一組で進んだりした。 途中、急な雪壁のトラバースでアイゼンを付ける。 その後は、アイゼンを付けたまま渡渉。 そんなとき、木下が渡渉中に倒木に足を取られて転倒。全身を濡らしていた。 幸い、大したことはなかったようだが、他人事ではないと思い、気持ちを引き締める。 7〜8回渡渉しただろうか。 5〜6回スノーブリッジを越えただろうか。 途中までは数えていたが、あとは分からなくなった。 タイムリミットは迫っていた。 18時が近くなり、夕闇が近づいているのが感じられた。 もうすぐそこ、と言うのは分かっていても、もし暗くなってしまったら行動はできないだろうと思っていた。先の見えないこの状況で、ヘッドランプで渡渉したり、スノーブリッジを渡ったりするのは危険すぎる。 そして、ようやく、アラ沢出合へ。 フィックスロープがあって、人の匂いがする。 朝苦労して越えた最後の渡渉は、プラブーツのままノーロープで渡る。 ここまで来れば、もう大丈夫だ。 ギアをはずして、一息ついていると、あたりは暗くなってきた。 早々に車目指して歩き出すが、30分もしないうちに暗闇が落ちてきた。 まさにギリギリであった。もう少し遅ければ、途中でビバークになっていたかもしれない。 はっきり言って、今回はルートに取り付いてもいない。 ただの見学コース。 鹿島槍初見参の私としては、偵察山行。 であったにもかかわらず、非常に充実した一日だった。 天狗尾根からのトラバースも、雪の状態が悪くて、かなり神経を使った。 カクネ里はとても綺麗な場所だったけど、そのあとが非常に厳しかった。 いわゆる「敗退」であったけれど、心に残る山行となった。 鹿島槍はまた来年来たいと思う。 雪が付いていたら、とても素晴らしそうな場所だ。 今度はちゃんと雪のある時期に。 |
4月20日(土) 晴れ
21:30 国立駅発
0:30 別荘着
2:30 起床
3:10 大谷原
3:55-4:35 渡渉点
5:00 天狗尾根取付き
9:55 天狗の鼻
13:25-14:00 北壁主稜取付き(スノーコル)
18:10 渡渉点
19:20 大谷原着
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