「3年ぶりの舞姫」
戸台周辺 アイスクライミング

2002年1月12日(土)〜14日(月)
メンバー:柴田、森廣(秀峰登高会)、神谷(記)
報告内の<★>マークは、写真へのリンクです。



<歌姫の宿>

戸台へは3年前に一度来たことがある。
クライミングを始めて間もないころだ。
八ヶ岳ジョーゴ沢の次が戸台だった。
訳も分からず登った舞姫の滝。
その巨大さだけが印象的で、登っているときは無我夢中だった。
でも、そこから私のアイスクライミングは始まったといってもいいだろう。

そして、3年が経ち、
アイスクライミングの楽しさがようやく分かり始めた今日、再び戸台へ到着。

1月12日(土)

年末年始の各地の大雪を考え、アプローチがラッセルだったらどうしようかと思っていたが、まったくそんなことはなかった。雪は少なく、トレースもしっかりついているので、何の問題もない。少し凍っているが、ジョギングシューズでも十分歩ける。
2時間弱で上ニゴリ沢の出合到着。

電車+タクシーでは、ほとんど寝る間がなかった。伊那北のバス待ちで少しは寝れるかと思ったが、待合所が夜間は閉まっており、寒空の下で、2時間以上立ち続けてはいられないので、思わずタクシーに乗り込む。戸台口に着いたらそろそろ夜明け。休む間もなく歩き出し。
歩きながらも、ふと油断すると意識が飛びそうになる。

出合にテントを張って、上ニゴリ沢を目指す。
なんとなくトレースを追っていくと、左手に立派な氷。喜んでそっちに向かうが、どう見てもこれはトポの写真にある「上ニゴリ沢のF1」ではない。地図と照らし合わせると、小百合沢のF1らしい。右の沢の様子を見るが、上部まで行っても何もない。
上ニゴリは凍ってないのか、と思いつつ、仕方ないので小百合沢を登る。

小百合沢F1(柴田リード)
トップロープを引いて、残る二人が登る。
見た目からしてそれほど難しくはない。左のほうは、少し水流がある。氷がもろいため、力強く打ち込むとばらばらと崩壊してしまう。手首のスナップで、コツンと打ち込んで、軽く引っ掛けながら登っていく。トップロープだったので、いろいろ試しながら登った。<★トレースにつられて小百合沢へ

そうこうしているうちに、下から何人か登ってきた。ここまで来るのか、と見ていると、みんな左のほうに消えていく。嫌な予感。上ニゴリ沢本流は、そっちか?
小百合沢は早々に撤収して、トレースを追う。
あったあった。確かに写真どおりの滝がある。
しかし、すでに2パーティ5人が取り付いている。横幅は広いが、3パーティ同時は難しそう。やむなく待機。
……朝一番で来てたのに。<★先行パーティは、思い思いのルートを

上ニゴリ沢F1(神谷リード)
1ピッチ目
先行2パーティは、右寄りにルートを取っていたが、あえて斜度の強い左端から取り付く。
直上約30m。
最初の10mくらいで、すでにパンプしてきた。下から見る以上に傾斜が大きく、とても苦しい。腕が言うことを聞かなくなりながらも、何とかバイルを振るう。
3段くらいに分かれており、下2段は何とかクリアしたが、最上段でダウン。登れば面白そうだというのは分かるのだが、これ以上行ったら、途中で力尽きそう。思わず右手の凹角に逃げる。悔しいが、やむなし。もっと力をつけなくては。
2ピッチ目
そのまま直上するとただのラッセルでスーパー林道に到達してしまうので、右へトラバース。林道に出るところで、左手の氷を登る。安定した氷で、疲れた腕、眠い身体でも楽に登れる。ロープいっぱい伸ばした所で切る。

F2(森廣リード)
林道から、ちょっと薄めの氷を登る。傾斜はゆるいが、支点を取れる場所があまりない。氷のすぐ下の岩が見えているので、あまり大胆に打ち込むと、岩を叩いてしまう。慎重に引っ掛けながら進む。<★ちょっと薄めのF2

F3
なんてことない氷で、ロープなしフリーで。

F4(柴田リード)
一番上にこんな大きな氷があるとは驚き。
左は、傾斜がゆるくて初心者向き。ナメ滝のようで、長いけれど、ロープなしでも行けそう。そこは避けて、せっかく登るのならば難しいところ、ということで、短いけれど立っている右の方から取り付く。
この先はないので、トップロープにして二人が登る。
激しい眠気に襲われつつも、何とか無難にクリア。
2段目は左に岩が露出していて、ミックスぽくって面白かった。
<★F4全景><★右のほうから取り付く

F4終了時点ですでに16:30。懸垂を交えて、F1まで下ると真っ暗だった。
やはり、小百合沢にだまされたのがきつかったか。
ヘッドランプを使いつつ、テントまで下る。

1月13日(日)

上ニゴリ沢にテントを置いたまま、赤河原を経由して、舞姫ノ滝へ。
先行パーティが2人いたので、しばらく待機して取り付き。
<★取り付きから見た舞姫

舞姫ノ滝
F1、F2(柴田リード)
ウォーミングアップにはちょうどよいか。氷質、氷結状態ともに良し。快適に氷を越える。

F3(神谷リード)
核心部。
見た瞬間、これは登らなくては!と思った。どうしても登らなくては!と思った。
3年前は「こんなの登れるのか?」とフォローでさえ登れるのか疑問だったのに、今は「ぜひリードしてみたい」と思うようになっていた。それは進歩なのか、それとも危ない道へ突き進んでいるということのか。

リードしたいのは、みんな同じだと思うが、そこを何とかお願いして、リードさせてもらうことになった。
とりあえず先行パーティの様子を拝見。下部に2本のスクリューをセットするが、その先の垂直部では、なかなかスクリューが入らない様子。何度か試みるが、結局ランナウトで上に抜けていった。当然落ちたらグランドフォールだが、下手にセットに失敗して力尽きるよりも、さっさと抜けてしまったほうがよいと判断したようだ。
私は、そんな勇気はないので、たとえフィフィを使うことになったとしても、中間で支点をとろうと思った。

先行のフォローも登りきったところで、第一撃を打ち込む。
バイルがよく効いてくれる。うれしいことだ。
緊張と興奮で、力がみなぎってくるようだ。
この瞬間、これは登れるぞ、という確信が持てた。
下部を越え、垂直部へ。
昨日の上ニゴリ沢F1より腕の疲労は少ない。
慎重に一歩ずつ決める。
できればフィフィを使いたくなかったが、左腕は、かなりパンプしてきて厳しい状況だ。
そこで、右手でぶら下がって、左手でスクリューセットをする。
通常は常に右でセットをしていたので、やはりやりにくい。
何度かスクリューを落としそうになりながらも、何とかセットできた。
これからは、左でのセットも練習しなくては、と思う。
垂直部で一つ支点が取れたので、気持ちにも余裕ができた。
慎重に、確かめるように、一手一手を進める。
そして、落ち口。
傾斜が落ちて、これで終わりかと思ったが、ビレイ点はまだ先だった。
ここで油断しちゃいけないと思い、やさしいところだけれど、支点は多めに取る。
<★ようやく落ち口付近まで来た

ようやくビレイ点到達。
フィフィなしで抜けられた。
この疲労感、この充実感。
そして、終わったという虚脱感。
すばらしいと思う。
これこそアイスクライミングだ。

二人を迎え、さらに上部へ進む。
F6でロープを出して、あとはロープなし。
タッチの氷柱まで。
F4以降は、たいした氷はないものの、最上部まで行くと充実度は格段にアップする。
取り付きまで下降すると、15時近かったので、今日はここまでとして、テントに戻る。


1月14日(月)

歌宿沢の入り口が分かりにくいが、それらしきトレースが着いている。それを信じて進むと、大滝への分岐を無視して、右の沢を直上してトレースがついていた。違う違うと思いつつも、もしやと思いながら登るが、やはり何もない。戻って、沢の分岐からは10-20cm程度のラッセル。F1の小滝を巻こうかと思うと、胸までもぐるラッセルになってしまうので、素直にアイゼンをつけて、ロープなしで登る。<★F1下から歌姫

歌姫の宿(柴田リード)
思わず、呻いてしまうくらいでっかい氷。近づくほどにその大きさが身にしみる。
口を開けて呆けたように上部を眺める。
「登ってみたい」と思ったものの、昨日舞姫を登らせてもらっているので、今回は譲る。2ピッチに分けて、二人で登ることになった。
右方から取り付く。左へ斜上気味にゆるい氷を登り、そこからが立っていて、本格的なスタート。
リードが登りだして、実際に氷と人との大きさが対比できるようになると、ますますその巨大さが身にしみる。リードした柴田さんも下から見た感じで、スクリューを7本持って出発したが、途中で不安になり、3本を補給した。
フィフィを使いながら、慎重にリードは登っていく。<★下部から徐々に立ってくる><★一つの核心部
とにかく長いので、あせっても仕方がない。50mぎりぎりまで伸ばして、フォローを迎える。
フォローで登っても、この長さは厳しいものがある。終わりはまだか終わりはまだか、という感じ。要所要所に平らで足をおいて休めるところがあるので、そこをいかに有効に使うかがポイントだと思った。リードだったら、フィフィを使ってしまうかもしれないな、と思いつつも、フォローの気安さで、ガンガン進んだ。
2ピッチあると思っていたが、ビレイ点についてみたら、林道のガードレールがすぐそばで、もうおしまいだった。2ピッチで切るときは左の潅木を使用するとトポには書いてあったが、どこに潅木があったのだろうか、ちょっと気づかなかった。
右の尾根から歩いて取り付きまで戻る。
今度はぜひリードしたい。


1月12日(土) 快晴 一日中0℃前後
0:19 立川発 急行アルプス号(4150円)
3:49 辰野着
4:54 伊那北着
6:25 戸台口着(タクシー7650円)
6:45 出発
8:30 上ニゴリ沢出合 テント設営
8:55 テント発
10:10 小百合沢F1
12:25 上ニゴリ沢F1
14:30 上ニゴリ沢F2
15:40 上ニゴリ沢F4
16:30 下降開始
18:10 テント着

1月13日(日) 快晴 一日中3-4℃程度
5:30 起床
7:50 出発
9:00 丹渓山荘
9:15 舞姫ノ滝取り付き
10:15 登攀開始
11:00-12:15 F3
13:30 終了点(タッチの氷柱)
14:50 舞姫ノ滝取り付き
15:20 取り付き発
16:15 テント着

1月14日(月) 快晴 2-3℃程度 
5:00 起床
7:25 出発
9:25 F1取り付き
10:15 歌姫の宿(大滝)取り付き
12:45 終了点
13:35 出合
13:50 テント着 テント撤収
14:30 テント発
15:25 戸台口着(タクシー9000円)



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