＜サマーコレクション２ピッチ目＞
| 大台ヶ原は遠い。東京から行くとほとんど遠征のような気分だ。東京駅２２時発のぞみ最終で名古屋まで。そこから岡崎在住の山田（がっちー）さんの車で大台ヶ原へ。駐車場についたのは３時であった。 この日、５時起床でサマーコレクションをさくっと終わらせ、西の滝に取付き、その中段テラスでビバーク。翌日は、テラスから上部ゴルジュを越え、さらに取付きまで戻り、中の滝の中段テラスまで。３日目に中の滝上部をやっつけて、帰途に着こうという強行スケジュール。 が、５時に起床した時点で、身体が凍りつこうかというあまりの寒さに、気持ちが一気に萎える。これで滝のそばでツエルトビバーク？翌朝泳ぎ混じりの登攀？そんなこと考えられない。３人の意見が一致して、西の滝上部ゴルジュはキャンセル。初日サマコレのみ。２日目西の滝登攀（上部ゴルジュを除く）。３日目中の滝登攀。これなら、毎日駐車場に戻ってきて、夜はちゃんとテントで泊まれる。 ほとんど寝てないが、周りの車の騒々しさに目を覚まし、行動を開始する。サマコレだけなら、パーティでヌンチャク２０本あれば足りる。あとはスリング少々。最初の予定よりザックは随分軽い。 １０月６日 大台ヶ原 千石嵓（グラ） サマーコレクション 大台ヶ原駐車場から、シオカラ谷方面へのハイキング道を行く。山の家への道を左に見て右へ下る。長い石段を下りきった所に「ここは国立公園だから、キャンプをしてはいけません云々」という大きな看板があるので、そこからハイキング道と分かれて、トラバースの踏み跡へ進む。途中で水流のある小さな沢を越え、最初の赤テープを見ながらさらに進み、たくさんテープのついたルンゼで下降を開始する。浮石の多いゴロゴロ岩のルンゼをどんどん下る。しばらく下ると、右手に千石嵓の岩場が見えてくるが、あまり早い段階で岩場に近づいても、下りられなくなるので、じっと我慢してルンゼを行く。シオカラ谷の水音が大きく聞こえてくるくらいまで下ると、右手に踏み跡らしきものがなんとなく見える。それに沿って進むと、白いビニールがくくりつけられている木がある。そこから岩場をトラバース。一番左まで行くと、フィックスロープが垂れ下がっている場所があり、左上している凹角が、サマコレの１ピッチ目である。取付は非常に分かりやすい。＜取付の凹角＞ １ピッチ目【神谷リード】5.5（III級） ノーロープでも行けそうな易しい凹角。支点もない。本来の取付きまでの繋ぎみたいなものか。初めての岩場、初めてのルートに期待を膨らませるためのピッチ。 ２ピッチ目【神谷リード】5.10 ここからサマーコレクションの本当の始まり。"1995 summer cllection 1995.8.20"と初登者のプレートがある。 なるべくフリーで行こうと思っていたが、出だしからいきなりA0でスタートしてしまう。フェース、クラック、スラブと様々な要素が絡み合う面白いピッチ。なのだが、ことごとくA0。気持ちだけはフリーで行こうとしているのだが、スタンスもホールドも小さいため、気づくとヌンチャクを掴んでいる。情けない。 最後はペツル沿いに右上の支点に行くはずが、気づくと左の凹角に入っていた。左ルートはペツルではなくハーケン。右ルートは最後に乗越部分があって、そこはピンが遠いので、ちょっと怖い。 ３ピッチ目【山田リード】5.10- ロープを一番伸ばすピッチ。トポには５０mと書いてあったので、どうなるかと思ったが、５０mロープでも十分足りたので４０－４５ｍくらいなのではないか。２ピッチ目よりは易しく感じるフェース。フォローだし、楽な気分で登れた。 出だしのトラバースで、肩からかけていたカメラの紐をペツルボルトに引っ掛けて、紐がちぎれてしまう。時計も一緒にくっつけていたので、二つとも壁を転げ落ちていった。何もできず眺めていると、２ピッチ目の取付で止まったようだ。あそこならあとから取りにいけるか。しかし、参ったなあ。＜３ピッチ目の出だし。サマコレ最後の写真＞ ４ピッチ目【山田リード】5.10+ 核心である。だいたい、ゲレンデでも5.10bが登れるかどうかだというのに、5.10+（c/d）なんて、A0でも難しいのではないか、と思っていた。腰にはひそかにアブミをぶら下げてチャレンジ。リードは、苦しみながらもフリーで越えて行った。さすがだなあ、と感心している場合ではなく、自分の番が回ってくる。核心はちょっとかぶり気味。フォローなんだし、なるべくフリーでがんばろうと、うーむうーむと唸ってみるが、結局ヌンチャクを掴んでしまう。A0を使ってしまうと、あっさり登れてしまう。アブミの出番はない。でも、全然登れそうにないってことはない。登れそうで登れないのが、逆に悔しさを増させる。 ５ピッチ目【木下リード】5.9 出だしだけ立っているが、あとは緩いフェース。中央バンドの部分まで進む。ビレイ点はボルトもあるが、立ち木の方がビレイは楽かもしれない。 ６ピッチ目【木下リード】5.7（IV級） ある意味ではもうひとつの核心かも。ゲレンデのようなピッチが続くサマースピリッツにおいて、「やっぱり本チャンなんだ」と意識させられるピッチ。トゲトゲのブッシュと、落ちられないトラバース、そして木登り。特にバンドのトラバースは、足元が切れ落ちており、かなり悪い。 ７ピッチ目【神谷リード】5.9 凹角をそのまま左に進むと、カンテを越えて、テラスに出てしまう。ここは、ビレイ点のペツル２本から直上。支点が少ない中、右上すると、「ノースタンストラバース」に出る。想像していたよりは、支点の間隔が近い。しかし、ここまでのピッチで腕の力を消費しているとつらいかもしれない。トラバースの手前でじっくり休んで一気に進む。 ノースタンスとは言うものの、スタンスは結構ある。手は完全にガバホールドばかりなので、何か室内壁で登っているような感じだ。でもとても爽快。単純に楽しい。私は、ガバをグイグイ掴んで登ったのだが、ハンドからフィストのジャムも効くようだ。ジャミングで進めば、腕の力の消費は少ないだろう。 私はこのピッチが一番楽しかった。 ８ピッチ目【神谷リード】5.8 快適なカンテ。グイグイ進める。とても楽しい。最後のワンムーブで迷ってしまって、A0となるが、実はカチホールドが見えなかっただけ。高度感もあり、展望も良い。 ９ピッチ目【山田リード】5.9 出だしで、カンテの右に出る場所は、すっぱり切れ落ちていて、かなりの高度感。ビレイ点からそのままカンテの左に行けば、あっさり登れてしまいそうだが、そこはあえて、右に出て、楽しませようという初登者の意図なのだろう。 そして、「鯛焼きのシッポ」。最後まであんこが詰まっている、というこの場所のことは詳述しない方がいいのだろう。最後の最後まで楽しませてくれます。 なんて快適なんだろう！と純粋にクライミングを楽しめるルート。ゲレンデのマルチピッチをつなげたルート、とも見えるが、途中の６ピッチ目はまさに本チャン。甘く見ていると怪我をする。 支点は、ビレイ点を含めてほぼペツルでとても安心感がある。ピンが抜けるかもしれない、という本チャンの緊張感はないものの、そういうものはここでは求められていない。 グレードとしても、最高5.10＋（5.10c/d）で、私にとってはお手ごろ。A0を使ってしまうとあっさり登れてしまうところばかりなので、なるべくフリーでがんばろう、という気にもなる。今回は、結局A0に次ぐA0となってしまったが、次回はもっとフリーで登れるようになろうと思える。そう、このルートは、何度も何度も登りたくなるルートなのだ。いくら快適でも、同じルートを２回登ろうとはあまり考えない私にとっては、これは珍しいことだ。次回はなるべくフリーで、その次は全ピッチをフリーで、と登るたびに課題を与えてくれそうなルート。 難点は、東京からではちと遠いこと。そう気軽には来られないのが、悔しいこと限りない。それでも、最低あと１回は登りに来たいと思っている。 [参考：サマーコレクション報告WEBページ] ●BE FREE！の2000年9月27日の記録（ルート図あり） ●チームいちびりーオフィスの1998年10月11日、11月7日の記録（ルート図あり） ● ●アウトドアーズクラブ風来坊の2000年5月4日の記録（「Rock＆Snow012」とほぼ同じ記録） ● ●Niuchiのホームページの1999年11月7日（写真のみ） 終了点から踏み跡をたどって、登山道に出る。ほとんどアップダウンのない道だ。登山道に出れば、駐車場までは１０分くらいなのだが、私は一人サマーコレクションの取付きまで戻る。そう、３ピッチ目の出だしで落っことしたカメラと時計を救出に行かなくてはならないのだ。幸い１３時を回ったばかりで、時間はまだある。 一人石段を駆け下り、ゴロゴロルンゼを慎重に下る。ルンゼからトラバースするところが分かりにくく、朝来たときより早く岩場に近づきすぎた。 なんとか取付き到着。ロープを持ってきたが、ソロシステムが良く分からない。一応さっきレクチャーを受けたのだが…。インクノットで徐々に伸ばして…とやってみたが、どっちにしろ中間支点がないわけだし、途中で面倒になってやめてしまった。ロープの末端は取付で固定されているし、50+50ｍで100ｍ以上は落ちないだろうという状態。 １ピッチ目の途中で時計を救出。ちゃんと動いている！ありがとう！（何にともなく思わず感謝。） １ピッチ目の終了点でカメラを救出。うーん。こっちはふたを開けても電源が入らない。撮影は不可能か。ショック！ ともかく早く帰ろう。 が、帰りのルンゼで、目の前の一抱えもある大岩を乗越そうとした瞬間に岩が動き出した。そっと止めようとしたが、その動きに誘発されたように回りの岩が動き出した。最初につかんだ大岩は止まったものの、周りの岩がゴトゴトと降ってきた。ヘルメットをかぶった頭に何度も衝撃が走る。下手に動くとどうなるか分からないので、身動きが取れない。２-３回、人頭大の岩がヘルメットを直撃したようだ。岩の動きが収まってからヘルメットを見ると、大きな凹みが見えた。岩を抑えようとしていた右手に痛みがあった。どうやらひねってしまったようだ。親指に力が入らない。痺れたような感覚。とりあえずテーピングで固定する。 骨に異状があるわけではなさそうだ。とにかく車に戻って、水で冷やし続けた。 しかし、翌日の大滝登攀は難しそうなので、二人で行ってもらうことする。 なお、カメラは少しいじった程度ではどうにもなりそうにないため、駐車場で使い切りカメラを購入。以降の撮影は、そのカメラで行った。 １０月７日 大台ヶ原 東ノ川 シオカラ谷遡行（沢登り） 木下、山田の二人は、西ノ滝登攀へ。私はシオカラ谷遡行へ。 朝からちょっと雲が多い。嫌な感じがする。 西の滝直下までは同じ道のり。三人で進む。 一晩経って、右手の調子は大分良い。手を握ると痛みがあるが、昨日ほどではない。これなら、明日は登攀も可能ではないか。 さて、西の滝は見るほどにすごい滝だ。轟々と流れる飛沫は遠くから眺めているだけでも圧倒される。これを登ろうと思うのは、よっぽどの物好きな人なのだろう。もちろん水流通しを登るのではなく、横の壁をフラットソールで登るのだが。そんなところにルートがあるというのがなんとも・・・。＜西ノ滝２ピッチ目＞＜フルスクリーンバージョン。真ん中に登攀者がいます。＞ 二人は見る間に準備を整えて、登攀にかかった。こっちは時間に余裕があるので、しばらく登る様子を見守る。取付は、滝よりもだいぶ右の方。ほとんどトラバースするように２ピッチ伸ばして、ようやく水流の近くまで届いた。いよいよ本番だな、というところだったが、あんまりゆっくりしている場合ではないので、こっちも遡行を始める。 ロープもいらないような沢ということだったので、単独でも大丈夫だろうと思った。確かに岩登りの部分は易しめで、初心者がいない限りロープは必要ないだろうと感じた。問題なのはルートファインディング。目が二つしかないから（当たり前だが）、どうしても視野が狭められる。基本的には一本道だが、高巻きする場所を探したり、右岸を行くか左岸を行くかで結構迷う。最初の３段１８ｍの滝を高巻こうとして、関係ないルンゼに入り込んでしまい、慌てて戻る。行けそうな所を選んで進んでいくと、いつのまにか行き詰まることが多い。もう一人いれば、そんなこともないのだろうが。 ９時半頃から雨が降ってきた。大台ヶ原の雨はすさまじいと聞く。沢の中にいたらひとたまりもなさそうだ。しかも、土地鑑がない場所の沢だ。なるべく急いで遡行を終わらせることにした。雨は、降ったり止んだりを繰り返していた。西ノ滝の二人が心配だ。 気温がそれほど低くないのは幸いだ。水に入ってもそれほど寒くはない。 いくつかの滝を高巻いて、小さな滝は直登して、東ノ滝は様子を見に直下まで行ったが、ロープなしでは難しそうだったので、一旦戻って巻き道を行った。 その先のナメは、素晴らしかった。とてもきれいで心がほっとした。＜心安らぐナメ＞ そして、観光客がいっぱいの吊橋に到着。遡行終了。 シオカラ谷は、快適な沢だった。難しいところもないし、それでいて、手ごたえもある。東の滝は、ロープがなかったので高巻いたが、登ろうと思えば、十分可能であるように見えた。直登する場所は、ハーケンがあったり、フィックスロープがあったりして、登る人が多いことを感じさせた。しかし、赤ペンキで矢印がずっと続いている場所は、かなり興ざめ。どこを歩いてもいいってのが沢の醍醐味じゃないのか。天邪鬼なので、あえて矢印とは別のところから登ってみたりして。 １１時半に車に戻る。雨はしとしとと降り続いていた。この雨の中外には出たくないな、と思ったが、せっかくなのでしばらく休んでから日出ヶ岳へ。４０分で行けるんなら、雨の中行ってみてもいいか、と思った。百名山だし。 雨なのに、観光客は多い。サンダルとかハイヒールとかもいる。バスから降りて４０分なら、そんな気分なのだろう。 日出ヶ岳山頂は当然真白。木道も多く、整備された登山道が続く。段々雨が激しくなってきた。車に帰り着いたときは大雨。西ノ滝は大丈夫だろうか。この雨では、途中から下降に入ったかもしれない。気にはなるが、こちらは待つことしかできない。 心配していると、１６時過ぎになってかえってきた。無事登攀終了したとのこと。ほっと一息。 翌日の天気も期待できそうになく。いまからこれだけ降っていたのでは、岩が濡れていて登攀どころじゃなさそうなので、大台ヶ原からは撤退。 車を走らせると、下界は晴れていた。明日は名古屋から帰ることを考えて、御在所の岩場（ゲレンデ）に行くことに決定。 その日は、御在所のふもとの駐車場でテントを張って休む。 １０月８日 御在所 藤内壁（ゲレンデ） 登山口から50分。御在所はでっかい花崗岩の岩場だった。岩がカッチリしているので、とても快適。「日本登山体系」を参考に登りだす。まずは一の壁の「正面左トラバースルート」をトラバースではなくて直登して登る。ハング越えがいやらしいが、グイグイいけるのでとても気持ちが良い。４０ｍほどで終了点。 続いて、中尾根バットレスの「カリフォルニア・ドリーミング」。せっかく来たので、名前のあるルートを一本登っておこうと取り付いてみたのだが・・・。 これが曲者の「どスラブ」。VI級（25ｍ）、IV+級（20ｍ）、VI+級（10ｍ）と登山体系にあるものの、このグレーディングはどうかな、と疑問視してしまうようなルートだった。 １ピッチ目からシビア。スタンスなんかまるでないところを「花崗岩の結晶の粒」に足をかけて、思い切って飛びつくように次のホールドを掴む・・・。と口で言うのは易しいが、実際にはそんなもんじゃなく、全然登れない。「飛びつく」なんて無理です。どうにもならんので、A0。そんな場所が２ヶ所ある。＜１ピッチ目の核心スラブ＞ ２ピッチ目はもっとシビア。木下リードで進むが、出だしのかぶりでアブミを取り出して、A1になる。A1で順調に進むかと思ったが、途中で断念して戻ってきた。支点が遠すぎてても足も出ないとのこと。リードを山田に交代。何とかフリーで突破。続いて、私が登るが・・・。確かに、出だしのハングも嫌らしい。その先のスラブもA0になってしまう。しかし、しかし核心はさらにその先だった。10ｍくらいノーピンのスラブ。途中で落ちたらどこまで降られるものやら想像もできない。こんなのリードする気はなれない！フォローだって、めちゃめちゃ怖い。結晶の粒に乗りながらのノーピンスラブは、足の親指が攣りそうになる。A0もかけられないので、足が滑ってはテンション＆テンション。 「まだ見ぬカリフォルニアが見えた。」とはリードした山田の言葉だが、至言だと思った。ほとんど「あっちの世界」に行っちゃいそうな気分になるピッチだった。しかし、これがIV+級とはとても思えない。＜ランナウト・・・＞ ３ピッチ目。トポによると、ここはいままでよりさらに難しいVI+級のグレードが与えられている。前２ピッチで神経を使い果たしてしまったので、私が「A1で」リードする。ピンの間隔は近いので、A1なら楽らくだ。 もう何本か登る計画だったが、「カリフォルニア・ドリーミング」に心身ともに疲れ果て、これにて終了とした。 しかし、恐るべきルートだった。あの２ピッチ目のランナウトの凄まじさは、声も出ないほどだ。グレーディングが間違っているか、支点の間隔が間違っているか。なんかおかしいだろうと思う。 そこはともかく、御在所の岩場は、面白そうだ。こういう岩場は東京にはない。興味深いルートもいくつもありそうで、近場に住んでいたら通いたくなる岩場だと思った。 |
