「たかが4ピッチ、されど・・・」
谷川岳一の倉沢衝立岩 ダイレクトカンテ
2001年7月28日(土)
メンバー:石川、神谷(記)
<2ピッチ目のハングを越える>
朝起きるとガスが出ている。壁は見えない。暗いうちに出発しようとしたが、少し様子を見る。徐々に明るくなってきた。完全にはガスは晴れないが、これ以上天気が悪くなる兆候もない。クライマーも続々と一の倉に入る。我々も出発することにした。 雪渓上を進んで、テールリッジに取付く。中央稜取付きのちょっと下からトラバース。朝露に濡れていたので、大事をとってここからロープを付けていく。 1ピッチ目【神谷リード】 先行パーティにだいぶ待たされた。なんだか苦労しているようだ。ともかく2ピッチ目のビレイ点が空くまでは下で待っていたほうが良いと思い、ひたすらじっと待ち続ける。リードは、人工登攀に余り慣れていない感じだ。一つ一つの動作にもたついている。他人のことをとやかく言えるほど、我々が上手なわけではないが、それにしても全然進まない。1ヶ所どうにも遠いところがあるようだ。何度もトライしては、同じ所に戻ってきている。我々は大丈夫なのか、あそこまで手間取っているのを見るとちょっと不安になってくる。と、リードが途中でピッチを切って、交代するようだ。後ろで我々が待っているのを気にしてくれたのだろうか。ともかくこれで我々も先に進める。 「草付フェースを右上し」とトポにあったので、右上気味に進んだのだが、凹角にぶち当たり行き詰まる。私のフリーレベルではまるで進めなさそうだったので、早速アブミを出す。2手3手と進むが、どんどん難しくなる。これはどうにもおかしい。「ルートが違うんじゃないか」という考えが頭をよぎる。どう見てもIV-級で進めるルートではない。もっと下から右にトラバースするのではないかと思い、一旦戻ることにする。アブミのクライムダウンは緊張した。凹角に入る手前で草付を右にトラバースするバンドがあった。こっちだこっち。さっきのは、直上するミヤマルートだったのだろう。やけに難しいと思った・・・。 バンド状の部分をさらに右に進むと凹角部に出た。ここを直上。脆い岩があって、ちょっと嫌らしい。そこから左へ。ここは、ロープの流れが悪くて、非常に苦労した。<1ピッチ目最後のトラバース> 2ピッチ目【石川リード】 フレーク状のフェースをA0で進んで、ハング下へ。シュリンゲがたくさんぶら下がっているハングを人工で越える。そこから凹角を左上<ハングを越える>。 今にもリングが切れそうなボルトがいくつもある。ハーケンも、掛けるところがほとんど削れているようなものもある。こんなもの衝撃がかかったら間違いなく切れるだろう。そうでなくてもあと何人保つことか。しかし、それに体重を預けなくては先には進めない。「お願いお願いお願い。切れるな切れるな切れるな。」とじっとピンを見つめ続けてなるべく早く先に進む。恐ろしいところだ。 20mほどで先行パーティが苦労していたところに着いた。リードの石川さんはチョンボ棒を出していた。フォローなんだし、多少ピンが遠くてもフリーで行ってみよう、と思っていたが、そんなのはできなかった。あんな場所でフリーですか?フォローとは言え怖いものは怖い。きっかり10秒考えて、おもむろにチョンボ棒を出す。ああ、また安易なほうに走ってしまった。少々の罪悪感。しかし、チョンボ棒を出してもやっぱり遠い。途中が抜けているのかもしれない。 さらに20m。古いピンが多い。残置シュリンゲもたくさんある。 3ピッチ目【神谷リード】 垂壁をアブミのかけかえ。フリー化の際のハンガーボルトがたくさんある。なんとなく安心できるので、ハンガーボルトがあるたびに、支点を取ってしまう。切れそうなハーケンも1ヶ所あるが、ピンの間隔はそれほど遠くない。ハング下まで来たら、右上。カンテに乗越す最後のトラバースが遠い。フィフィに身体を預けて、身体を思い切り右に傾けて、手をぐっと伸ばさないと次に届かない<遠いトラバース>。チョンボ棒を出すほどではないが。カンテに上がったところでビレイ。 4ピッチ目【石川リード】 先行パーティは、ここから左上して、壁を乗越すところで苦労していた。しかしルート図を見ると、このビレイ点からは、右に行くように描かれている。カンテ状の部分を右に越すと、フェースに出る<ここからカンテを右に越える>。フリーと人工のミックスで、トラバース気味に残置ボルトを追っていく。ルートファインディングがあまりはっきりしない場所だが、ブッシュに出たところで終了。すぐその先が北稜の下降路だ。 踏み跡に出たところから、歩いて少し下ると懸垂支点がある。そこから踏み跡沿いにルンゼ状の部分を真っすぐ下へ。「左へ行かなくてはいけない」という気持ちがあったので、左へ左へと進もうとして、はまってしまう。よくわからないブッシュ帯に迷い込んだ。ここは一旦踏み跡に沿って、右に出て、一旦ピッチを切る。ここに懸垂支点があるので、そこから左に進む。30mほど降りたところにまた懸垂支点。ここから空中懸垂で、コップスラブの下部に出る。 そこからは略奪点を通って、踏み跡、残置テープ沿いに進むと、衝立前沢からテールリッジの取付き下に出る。 ダイレクトカンテは、4ピッチと短いながらも密度の濃い充実した登攀となった。古いピンもあったし、ルートファインディングで迷った部分もあった。手ごたえのある4ピッチだと思った。 ふと、人工登攀ってなんだろうな、と考えた。初登攀にはもちろん意味があるだろう。第二登、第三登にも。しかし、登る人が増えるに連れ、ボルト、ハーケンは打ち足され、残置されていく支点の数は増えていく。遠くて難しい部分にはシュリンゲが残置される。そうなると、現在では初登時の岩の状態とは、全く違ったものになっているのだろう。だったらグレードなんかはあまり意味はないのだろうか。今付けられているグレードは、残置シュリンゲは使わないことを前提にしているのだろうか。今回は何も考えずにどんどん使わせてもらった。しかし、それだと本当にダイレクトカンテを登ったことにはならないのか。3ピッチ目のハンガーボルトはどうなのか。フリー化の際に打たれたものならば、人工で登る人は、使ってはならないのか。よく分からない。 それに、ボルトが古くて怖いというのは、登攀が難しいというのと、ちょっと違うと思う。怖いボルトにビクビクしながら乗って、「ああ切れなくてよかった。」と喜ぶのは、登攀の喜びではないだろう。「難しい人工登攀」というのはなんだろうか。ピンが遠いって言うことか。でも、それは単にボルトを打った人の感覚の問題のような気もする。初登者ががんばって、なるべく少ない(支点)本数で登ったとしても、今ではどれが初登のボルトなのかは分からないので、その理想は失われてしまっている。 それを考えると、やはりナチュラルプロテクション、アメリカンエイドなどに行くんだろうなあ、と思う。本来の(アルパイン)クライミングは、そっちの方向にあるような感じがする。 もしも、切れそうなボルトがあったり、チョンボ棒を使うような場所なら、積極的にハーケン等を打ったほうがいいのだろうか(もちろん、後で回収するとして)。そういうときは、グレードはどうなるのだろうか。よく分からない。 |
7月28日(土) くもり
3:00 起床
5:20 一の倉出合出発
6:30−6:45 中央稜取付き
7:35−8:10 ダイレクトカンテ取付き(待機)
〜9:20 1P目
〜11:05 2P目
〜12:35 3P目
〜13:35 4P目(終了点)
14:10 終了点発
16:50 一の倉出合着
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