「道迷い」
中央線沿線 高柄山

2001年5月20日(日)
メンバー:神谷(記)


これは、単なるハイキングで、コンパスを持たなかったばっかりに道を大きく間違えた、どうしようもない記録です。
勘違いに次ぐ勘違い、推論の上に重ねた推論。
遭難とはこうして起こるものかと、少し分かりました。
自分では全く間違えたと思っていなくても、いつのまにか危険の中に入り込んでいく。
それは誰にも起こりうることなのかもしれません。
今回は、その他の条件に恵まれ、何事もなく下山できましたが、一歩間違えたら・・・という可能性もなかったわけではありません。
自戒と教訓をこめて、ここに記録を残します。


なお、以下の記録を読むに当って、エアリアマップ「高尾・陣馬」を手元に用意しておくと分かりやすいかと思います。(逆に、地図がないと、意味不明の記録に思えるかもしれません。)


 もともとは、上野原駅〜高柄山〜倉岳山〜九鬼山〜猿橋という計画で、コースタイム15時間35分のところを一気に駆け抜けようと思っていた。このコースなら、途中で疲れたとしてもどこからでも下山できるし、バスの時間を気にする必要もない。トレーニングにはよさそうだと思っていた。気合を入れて始発電車に乗り、5:37上野原駅を出発。高柄山までは順調だった。3時間半のコースタイムを1時間半で来た。これなら行けそうだと思った、のだが。

 高柄山ピークで少し休んでから、何も考えずに新しい指導標の示す方向へ下る。地図は一本道で書いてあるので、何も考えずに進んでしまった。指導標の文字ももよく見ていなかったが、何せ一本道だと思っているので、指導標通りに進めば、迷いようがないだろうと考えていた。
 しばらくはその指導標が続いていた。「高柄山←→○○○○山」。行く先は見慣れない地名だが、全く疑っていなかったので、目指す倉岳山の途中にある地名だろうと思っていた。

 道は途中で尾根を外れて右に折れた。まっすぐにも行けそうだったが指導標の矢印は右に曲がる方向にしかついていない。素直に右に下る。そのまま下りると民家が見えてきて、「これは変だ」と気づく。その時点で地図を見直した。確かに「千足峠」で北(進行方向右)に折れる道がある。ここで間違えたか、と思い分岐まで戻る。しかし分岐にはやっぱり右へ曲がる指導標しかついていない。「分かりにくいよなあ」と思いながらもまっすぐ進む。
 だんだん道が悪くなってくる。踏みあとも怪しい、指導標も「千足峠」の分岐以降は全くない。「エアリアマップ」の左上に「実線の登山コースでも、夏前後には一部ヤブが深くなる場所もありますのでご注意ください。」と書いてあるので、そんなものかもしれない、と思っていた。人があまり入らないのだろうと思った。
 ヤブのうるさい道をさらに進むと尾根が二つに分かれた。コンパスがないので尾根の方角は分からない。とりあえず右へ進むが、一気に下るような道だ。地図を見ると「大地峠」に分岐がある。そうかここが峠なんだ、と思う。登り返して左への踏み跡へ。しばらくは踏み跡が続くが、だんだんヤブが濃くなってきて、全く身動きが取れなくなってしまった。無理に行けばいけなくもないが、かなり厳しいヤブだ。進行不能と判断して、「大地峠」まで戻る。

 仕方ないから、このまま右に折れて四方津に帰ろうと思った。進めないのではどうしようもない。
 右への道も分かりにくいが、急に開けた場所に出た。尾根が続いて見える。ヤブは濃いけど、これはルートに復帰したんだ、とちょっとした期待感を持つ。さっきのは「大地峠」ではなかったのかもしれない。今進んでいるのが、縦走路っぽい。
 「矢平山」と思えるちょっとしたコブを通過。まっすぐ進むと崖のような急坂。地図を見ると、ルートは矢平山から南西方向に下っている。「矢平山」まで登り返す。確かに南西(進行方向左)への尾根を発見。
 これはやはり「矢平山」に違いないと思い、下り始める。
 薄いけれど踏み跡はある。地図を見ると、次の「丸ツヅク山」で北西(進行方向右)へ折れるようだ。コンパスがないので、尾根の方向でしか判断できない。「右、右」と意識しながら下りていくと、やっぱり右へ下りる道がある。
 疑いもせずに右へ。しばらく下りると林道のようなものが前方に見えた。

 地図を見る。
 「寺下峠」の南の林道に「林道延長中」とある。そうか、林道が峠まで延長されたのか、と納得。林道へ下りるところは崖になっていたが、無理やりに下りる。
 林道の反対側には倉岳山への入り口があると思っていたが、何もない。
 しかも林道の様子を見ると、そんなに新しくできたものとは思えない。
 「おかしいな」と思う。
 再度地図を確認。
 「丸ツヅク山」から南へ下りる尾根に点線が描かれている。そしてその点線は林道にぶつかっている。そうか、ここを間違えたのか、と判断。だとすれば、このまま林道を右に行けば「大曲橋」を経由して「寺下峠」に出られる、と思った。
 まだ10:30。時間には余裕があるし、大丈夫。九鬼山までは難しいかもしれないが、倉岳山には行けるだろうと考えた。

 しばらく林道を歩く。と、集落に出た。
 え?集落・・・?
 消防署がある。
 「秋山消防署 金山分団」
 ???
 金山?
 もう一度地図を確認。
 高柄山の真南に「金山」という地名を見つけた。
 でも、今いる(と思い込んでいる)「寺下峠」とは離れすぎている。
 この時点でも何が起こっているのか分かっていなかった。
 集落を歩いていると「高柄山」への指導標と登山道がある。

 これは間違いない。
 まさに「金山」にいるんだ。
 地図をよくよく見直す。
 今まで歩いてきた感覚と、現在地をあわせて考えると、高塚山から東に下りる尾根、これを来たとしか思えない。
 愕然として身体の力が抜けてしまう。
 「自分は一体何をしていたのだろうか…?」
 キツネにつままれたような感覚とはこのことか。

 悄然としつつも、ここから中央線に帰るためには高柄山を再び越えるしかない。とぼとぼと歩き出す。見慣れた指導標が続く。
 そう、「高柄山←→○○○○山」は、「高柄山←→秋山村金山」だったのだ。
 指導標に沿って進んでいくと、「千足峠」と勘違いした分岐に着いた。
 ここで、ここで気づくべきだったのに…。ここをまっすぐ進んでしまったばっかりにヤブに突入してしまった。
 どうも、金山への道は新しく作ったもので、私が持っているエアリアマップには表記されていないようだ。(後日追記:実際には登山道自体は古くからあるが、指導標を最近整備したものらしい。しかし、このコースを使う登山者は少なく、登山道は荒れ気味で、秋山村役場も通行を推奨していないため、エアリアマップに表記されていない、というのが本当のところのようだ。)

 高柄山到着11:50。ハイキング客であふれるピーク。まさか、彼らは、私が今道迷いでヤブをこいでいたとは思うまい。まさに4時間半の彷徨だった。
 本物の千足峠への道は迷いようがないほどはっきりついていた。
 ほとんど力尽き、やる気も失せていたので、大地峠から四方津へ下る。
 (千足峠からの下山道は通行禁止になっていた)

 結局コンパス。
 あと、指導標はよく確認すること。
 おかしいと思ったら、分かる場所まで戻る。
 基本中の基本でした。
 しかし、自分では尾根を間違っているという意識が全くなかったので、戻ろうとは思えなかった。地図を見ても、それっぽい地形が出てくるので完全に騙された。本当に「金山」に着くまで、予定通り進んでいることを疑ってなかった。
 怖いことだ、と思う。
 もしも雪山だったら、もしも途中で滑落でもしていたら、もしも疲れて動けなくなったら…。
 どうなっていたか分からない。
 良い経験をした、と思う。

どんな山でもコンパスと地図は持っていかないと、と猛反省。


※山と溪谷2003年8月号にこの件に関する記事が掲載されました。
そちらもあわせてごらんいただくと、より分かりやすいかと思います。

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