「雪多く」
2000年春合宿報告(北アルプス岳沢BC)


2000年5月3日(水)〜6日(土)
メンバー:大西、中村、湯山、石川、神谷(記) (中村、湯山、石川は5日下山)


 雪が多い春だった。20年前よりも多いという話もあった。天気が崩れれば、冬山のような悪条件。天気がよければ、雪がグズグズに溶けて不安定。どちらにしても条件がよくない今年の連休の北アルプスであった。

5月3日(金) くもり <上高地〜岳沢BC>

23:00立川集合
3:30 沢渡駐車場
4:30 起床
5:15 タクシー乗車
5:45 タクシー下車
6:20 上高地バスターミナル出発(5℃)
7:20-7:40 R1
8:00-8:15 R2
9:15-9:35 R3
10:05 岳沢BC着
12:30-13:30 雪上講習会(雪稜でのビレイ等)
15:00-16:00 夕食(α化米、ハンバーグ、ふりかけ)
17:30 消灯

5月4日(木) くもり時々雪 <岳沢〜前穂直下(大西、中村、湯山)/岳沢〜天狗沢往復(石川、神谷)>

 朝2時起床。今日は、石川・神谷が天狗沢から馬蹄形縦走。大西・中村・湯山で奥明神沢から前穂往復の予定。馬蹄形縦走は、天狗沢-(2時間)-天狗のコル-(4時間半)-奥穂-(3時間)-前穂-(2時間)-岳沢で、(うまく行って)合計11時間半の行動になるだろうと試算した。しかし、不確定要素を思うと、稜線上でのビバークも十分考えられ、覚悟を決めて出発した。
 3時40分、太陽も月もなく、少し小雪の舞い散る漆黒の中、ヘッドランプの明かりを頼りに石川・神谷がテントを出る。前穂往復組は、もう少ししてから出発するそうだ。下界での情報では、現在寒気が流入していて大気が不安定と言っていた。気温は0度を少し下回るくらい。寒いとは感じないが、稜線上に上がったときの気象条件が気になる。
 とにかく陽が出る前に天狗沢を抜けてしまいたい。何よりここは雪崩が怖い。今回核心となるのは、ジャンダルムから奥穂にかけての部分だろう。ザイル操作等に手間取らなければよいが。奥穂に着いたとしても先は長い。もし、奥穂到着が昼過ぎになったとしたら、その後の行動は厳しくなる。何はともあれ、天狗沢はただ高度を稼ぐだけ、さっさと登ってしまおう。
 と、思っていた。天狗沢は沢を登って行けば、何も考えずに天狗のコルに着くものだと思っていた。そこが油断だったのか。
 二人ともこのルートは初めてだった。前日岳沢から天狗沢を見て、だいたいのコースを把握していたつもりだった。しかし、暗闇の中、ヘッドランプの明かりだけの状態、しかもガスで視界が非常に悪い。だったらちゃんとと地図とコンパスを見て慎重に進むべきだった。そこがミスだったのか。
 我々が天狗沢に入ったときには先行パーティ(4人)のヘッドランプが先を行くのが見えた。少し彼らは右に寄りすぎているのではないかと思っていたのだが、トレースのない雪は非常に歩きにくく、自然と前の踏み跡をたどって進むことにしてしまった。そこが安直だったのか。
 とにかく、気付いたときには尾根上にいた。沢を登ってたはずなのに。途中から懸垂気味の下りや細いナイフリッジが続き、ザイルを出さずにはいられなかった。おかしいとは思ったが、視界はほぼ20mくらい。ザイル(50m)を半分まで出すと、相手の姿はうっすらとしか分からない状態では、周りの状況は全く判断できない。ただ足元に白い雪があり、先行パーティのトレースが続いているだけだ。
 そして8ピッチほどザイルを伸ばした時だった。時刻は午前7時30分頃、標高は2790m付近。眼前に切れ落ちたアイスの急下降が現れた。はっきり言って怖かった。傾斜70度、距離30mくらいを下る斜面の足元は、雪が溶け、それが凍り白く輝いている。足を滑らせたときのことは考えたくなかった。先行パーティはそこを超えたであろう。アイゼンの跡が氷に刻まれていた。しかし我々には・・・。
 既に出発から4時間が経っていた。予定では2時間でコルに着いていたはずだ。にもかかわらず、いまだ天狗のコルは見えない。それどころか現在地すらあやふやである。技術的レベルを考えてもこの辺りが潮時だろう。残念ではあるがこれ以上は我々には限界である。二人で相談し、引き返すことを決断した。大西さんにトランシーバーで連絡し、下降に入った。
 下りはきつかった。本当にこんなところを登ったのだろうか、と思えるほどの急斜面を下る。ザイルを伸ばし、石川さんトップで少しづつ下る。そのうち、ガスも晴れてきて、周りが見えるようになってきた。そうすると滑落したときに落ちてゆく先まで見えてきて、余計に怖い。慎重に降りてゆく。
 登りではザイルが不要だったところも、下りではザイルを出した。計11ピッチ。その先、懸垂下降を5ピッチ。長い下りを終え、ようやく降りて来た頃には何とか状況がつかめていた。どうやら天狗沢の北側、畳岩尾根に迷い込んでいたようだ。「しまった。」と思ったときには既に遅い。
 「これもまた良い経験」と考え、失意のうちにテントに戻る。
 前穂往復組は、奥明神沢をのぼったが、雪の状態、体力的・技術的な問題により、頂上直下までいったが、頂上には立てずこちらも引き返してきたそうだ。
 女性3人は都合により、明日下山となる。彼女たちは結局どこにも登ることができず、残念な結果になった。穂高はやはり大きい山である。そんなに甘くはない。




2:00 起床
2:00-3:40 朝食(カレーうどん)、出発準備
3:40 BC発(0℃)
4:30-4:40 R1(2480m、-4℃)ヘッドランプ脱
5:20-5:35 R2(2670m)
〜8ピッチ
7:45-8:00 R3(2780m、-3℃)
〜11ピッチ+懸垂下降5ピッチ
13:15 天狗沢との合流点(懸垂下降終了)
14:00 BC着
16:00-17:30 夕食(α化米(五目)、うなぎ、ゆで卵、野菜スープ)
18:00 消灯

5月5日(金) 快晴 <岳沢〜上高地(中村、湯山、石川)/奥穂南稜〜前穂〜岳沢(大西、神谷)>

 今日は、大西さんと神谷で奥穂南稜を目指す。
 昨日と同じく朝2時起床。気象条件は昨日と反対。満天の星空。無風。絶好のアタック日和
 朝食のラーメンをかき込んで、3時35分出発。気温0度、歩いていると暑いくらいだ。
 歩き出し、南稜基部より少し西側に寄りすぎて進んでしまい、一旦戻る。尾根の最末端から登り出すと、ナイフリッジ状の雪稜がある。距離は短いのでノーザイルで軽く超える。その後、岩と雪のミックスの急斜面でザイルを1ピッチ。斜面が緩くなり、一度ザイルはしまうが、再び60度くらいの雪の斜面が続くので3ピッチ分伸ばす。先行パーティはなく、トレースもない。我々がトップで登って雪面に踏み跡をつけてゆく。天気は快晴、とても気持ちがよい、爽快なクライミングが続く。しかし太陽が顔を出し、徐々に気温が上がってゆくと、雪の状態は悪くなってくる。かなりの急斜面(70度くらい?)にぶつかり、そこを登ろうとするが、雪がスカスカで足がかからない。直上はどうしても無理なので、トラバースしながらラッセルをする。腰下のラッセルとは言え、蹴っても手応え(足応え?)がないため、無駄にエネルギーを使ってしまう。休み休み進んで、何とかそこを突破する。
 尾根上には岩が増えてきた。真っ直ぐ尾根上を行くのは厄介なので、西側のルンゼに逃げる。しかし、ルンゼは雪が多く、雪のかぶさった岩がまたいやらしい。バイルがなかなか掛からず、足元も安定しない。この辺りがトリコニーだろうか、一番の核心と感じた。ビレイを取りながら振り返ると、霞沢岳、乗鞍岳がよく見える。雲一つない快晴。来てよかったと思う。清冽な空気の中、心が洗われていくようだ。山はやっぱり素晴らしい。
 テラスまで来ると、その先は岩稜。顕著なチムニーを超え、岩のぼりを2ピッチ分。雪のナイフリッジを2ピッチ進むと、安定した雪のコブに出る。ここからは尾根が太くなるのでザイルをしまう。ここまで下から合計12ピッチであった。
 尾根が太くなるとは言うが、滑ったら下まで落ちてしまうのには変わりない。気が抜けない登攀は続く。雪の状態もますます悪くなり、ダンゴは出来やすいし、足がズボッとはまってしまう所もある。
 11時30分。ようやく南稜ノ頭に到着。長かった。奥穂の往復は諦め、そのまま前穂を目指し、吊尾根へ。吊尾根の縦走がまた怖い。雪がもうグズグズで、足を置いた傍から崩れていく。ザイルは当然つけていないので、踏み外したら命はない。しかも、南稜で力を使い果たしていたので、体も心もフラフラ気味。何とか精神を集中して歩くが、ヒヤッとしたことも2度や3度ではない。バイルが使えないような斜下トラバースだと、どうしても片足だけで体重を支える状態になってしまう。軸足に体重をかけた途端、バランスを崩して落ちそうになり・・・。ああ怖い。
 ゆっくりゆっくりと進んだが、意外とスムーズに前穂に到着。奥明神沢を下り、丁度12時間の行動を終えて、岳沢ヒュッテに帰還。この時のビールはからだの心から震えが来るほどうまかった・・・。
 雪の状態は悪かったけれど、素晴らしく充実した登攀が出来た一日だった。奥穂南稜は行動時間が長くなるけれど、登攀はバラエティに富んでいるし、レベルも適度である。ただ、人気コースであるが故に、早めに出発しないと、順番待ちにはまってしまい、途中ビバークを余儀なくされるだろう。
 また、奥穂南稜の本来のコースは、我々が登った尾根の東側の沢を行くものであるらしい。チムニー前のテラスで合流するのが正しいということを後で聞いた。




2:00 起床
2:00-3:35 朝食(ラーメン、餅、乾燥わけぎ)、出発準備
3:35 BC発
4:05-4:15 R1(南稜基部2380m、0℃)
〜12ピッチ
10:05-10:20 R2(終了点コブ2850m)
11:30 南稜ノ頭
12:10-12:20 R3(3075m)
14:05-14:20 R4(前穂高岳ピーク、3090m)
〜奥明神沢
15:35 岳沢ヒュッテ着
17:30-19:00 夕食(α化米、カレー)
20:30 消灯

5月6日(土) くもり <岳沢〜上高地>

5:15 起床
5:15-7:25 朝食(α化米、鶏雑炊)、出発準備
7:25 BC出発
8:35 上高地バスターミナル着


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