山屋のための万博案内

2005年愛知万博(愛・地球博)のテーマは「自然の叡智」。自然と人間の共生を謳っている。
とは言え、万博自体が、根本的に森を削って会場を作るわけで、開催前から問題は山積。
メイン会場の予定だった「海上の森」は希少生物のすみかであるということで、計画は大幅に変更。結局、元「青少年公園」をメインとし、瀬戸会場はごく小さなものとなった。
それですべての問題が解決したわけではないのだが、今回の万博は「環境万博」として、新しい試みを多く行っている。
建物を再利用できるようなもので作ったり、燃料電池バスを使ったり。展示物も地球環境問題や希少生物の保護をテーマにしたものが多い。

山に登る者としても、無関係ではいられない部分を感じ、万博に足を運んでみた。(本当は、単に実家に近い、というだけの理由なのだが)

一般的な万博レポートは、ネット上にいくらでもあるので、ここでは「万博で見つけた山」をテーマにした万博案内をしてみる。
(ただし、すべてのパビリオン、イベント、プログラムに参加したわけではないので、ここで紹介したもの以外にも「山」があるかもしれません)

以下、山に関する度合いでレベルを分けている。
が「山の度合い」を表す。
 ★★★が最高。山そのもの。
 ★★は山がメインではないが、それなりに展示がある。
 だと写真のパネルがあるだけとか、映像に一瞬山が映る程度。(かなり無理やりな部分もある)
もちろん、あくまでも個人的な基準である。


「森の自然学校」(長久手・森林体感ゾーン)★★★
今回の万博の一つの目玉でもあるのが、インタープリターによる自然学校。インタープリターとは、言ってみれば「森の案内人」のこと。普段森を歩いていても気付かないような部分に、目を向けさせてくれる人。
インタープリターによる自然学校は、長久手会場と瀬戸会場の両方にある。まずは長久手の方から。

プログラムの参加には、インターネットで事前予約も可能だが、たいてい満席なので、あまり気にしない方がいい。現地で当日予約もできるし、その場でキャンセル待ちも可能。私は、キャンセル待ちに名前を書いたら、10分くらいで次のプログラムに参加することができた。
観覧予約システム

プログラムの内容は季節や天候によってさまざまだが、約50分間。
私が参加したのは、「オリジナル家紋づくり」というプログラム。
インタープリター同伴でないと入場できないルートに入り、自然をモチーフにした自分だけの家紋を作ろう、というもの。用意された紙にオリジナル家紋を書き、○○紋という名前を付け、その家紋の意味も考える。
家紋づくりの現場に行くまでにも、道々歩きながら、インタープリターが植物などの解説をしてくれる。本物の家紋にも植物をモチーフにしたものは多く、道すがら生えている植物が実際の家紋の題材になっているものもある、というお話など。
20分くらいかけて現場に行き、5分説明、10分で家紋作成。その後、発表会をして、解散という流れ。作った家紋は、記念に持ち帰ることができる。
家紋を作るという過程を通じて、自然をよく観察しよう、というのが主眼だと思う。手元に記念品(オリジナル家紋)が残るし、内容としてはまあまあかな、という印象。

そのほかのプログラムは、「そっくりさんをさがせ」「幻の川をたずねて」など。

「里の自然学校」(瀬戸)★★★
瀬戸会場には、「里山遊歩ゾーン」があるのだが、すべてインタープリター同伴でないと入れない。長久手会場の「森林体感ゾーン」のように、個人で歩き回れるような場所はない。
参加は当日予約制。長久手に比べて、一回の定員が少ないので、参加したいなら、なるべく早めにビジターセンターに行き、予約を入れた方がいい。

プログラムはショートプログラム(40分程度)からロングプログラム(75分程度)までいろいろある。各定員は少ないが多様なものが用意されている。

私が参加したのは、「森の風道 けものみち」という75分のプログラム。
これは、何かを作ったりするわけではなく、森(里山)をゆっくり歩きながら、周りに見える自然に目を向けてみよう、というもの。
森に入ってみて分かったが、瀬戸会場の里山遊歩ゾーンは長久手ほど整備されているわけではなく、一応石段などはあるが、柵や手すりがないため、歩こうと思えば、どこへでも行けてしまう。自然を荒らさないようにインタープリター同伴限定、というのも納得できる。

森の中を歩きながら、リスの食べたあとの松ぼっくりを見つけたり、樹液のにおいをかいだり、ちょうど花が咲いていたリョウブという樹の名前の由来の説明があったり、ムササビの食べた葉っぱの特徴を教えてもらったり、とインタープリターの方は、いろいろなお話を聞かせてくれた。
ちょっと歩いては立ち止まり、ほんのわずかな変化に目を向けさせてくれる。普段山を歩いていても、見過ごしてしまうようなことに、実は重要な意味があることを気付かせてくれた。
インタープリターが一方的に解説するだけではなく、参加者の方からも「これ何ですか」といろいろ聞きながら歩いていたので、75分なんてあっという間に過ぎてしまった。

ちなみに、このあたりは「海上の森」ではなく、森としてはつながっているが、海上の森の隅の隅、にあたるらしい。途中に木で出来た塔があり、それに登ると、遙かに広がる「本当の」海上の森が見渡せた。あの広大な森を見れば、そこをつぶして万博会場にするなんて、無茶苦茶だ、とあらためて思う。
(そのあたりの話は、瀬戸愛知県館に行くと「森の劇場」などで少し説明がある)
平安時代の古窯、見晴台、ヤマザクラの広場などを通って、一回りして戻ってきた。

そのほかのプログラムは、「水のメロディー」「森の雨道 水模様 山の小径コース」など。

インタープリターによる解説

木で出来た塔

広大に広がる海上の森

「北の森」(長久手・森林体感ゾーン)★★★
「絵ものがたりの散歩道と気づきの森」という名前が付いている。
入り口にはゲートがあって、入る前にインタープリターによる諸注意を聞き、「森のパスポート」をもらう。禁煙であるとか、食事は禁止、ハチやヘビに注意とか、そういう話。オーバーユースを防ぐために一日1000人限定らしいが、よほどのことがないかぎり入場制限にはならないと思う。

森の中は、各自適当に歩く。
「絵ものがたりの散歩道」「気づきの森」は途中で分岐する。Y字路になっており「気づきの森」は行き止まりで、同じ道を戻ってくることになる。

「気づきの森」のアート作品
「絵ものがたりの散歩道」には、私が行ったときは城戸真亜子さんの「あめのひ」という作品が、一枚ずつ、ぽつりぽつりと道沿いに飾られていた。(内容は一ヶ月交代)
それ以外にも、「下を向いてみて。キノコがあるよ」などと書いてあるボードが置いてあったり、仕掛けがたくさん。
こういうものは、急いで回るのではなく、時間的にも精神的にも余裕のあるときに、ゆっくりのんびり歩くのがいいと思う。

途中で分岐して、「気づきの森」へ行く。
ここには、自然のものを利用したアート作品がさりげなく飾られている。一つ一つ見ているだけで楽しい。終点には、水飲み場とベンチがあって休める。
出口で「森のパスポート」を返却すると、「あめのひ」の冊子をもらえた。

「南の森」(長久手・森林体感ゾーン)★★★
こちらは「森あそびセレクトツアー」
北の森と同じく、入り口で説明を受ける。ツアーと言っても各自自由に歩くだけ。
各所に「宝さがしゲーム」「森の住人を探せ」などの仕掛けが待っている。

森の住人

たとえば、「宝さがしゲーム」は、直径1mくらいの白いロープで囲まれた範囲のなかにいる小さなモリゾーを見つける、とかそんな感じ。
北の森と同じように、ゆっくりいろいろ探しながら、考えながら、自然からのメッセージに耳を傾けつつ歩くのがいいだろう。
個人的には、「空の部屋」が気に入った。円柱形の建物で、天井はない。内部は、ひと一人入れるくらいの狭さ。入ってみると真っ白で何もなく、目がくらみそう。しかし、うえを見上げると、丸い空が広がっているのだ。
白、円、空間、狭さ、すべての要素が一つになって、不思議な感覚を醸し出している。心が安らぎ、空(くう)になる感じ。英語でSkyRoomと訳されていたが、「空」は「そら」「くう」「から」といろいろな意味を掛けているのだと思う。

「森林体感ゾーン」は、万博の喧噪よりも、セミの声の方がうるさいくらいの場所。企業パビリオンが5時間待ちとかいうときにでも、こっちはほとんど人がいない。森の中だけに木陰があって涼しくも感じる。
私としては、この愛知万博のメインは、こっちの森にあると思う。わざわざ万博に来て、森を歩かなくてもいいじゃないか、とも言えるが、さまざまな仕掛けがあることで、ゆっくり森を歩き、今まで見えなかったさまざまなことに気付かせてくれるところに意義を感じた。

森の自然学校 里の自然学校


「ネパール館」(グローバル・コモン1)★★
山そのものは、壁に貼ってあるヒマラヤの写真くらい。しかし、建物の中に入れば、そこはまさにネパールのタメル地区のような状態。雰囲気とかにおいとかが、もうネパールそのもの。個人的な思い入れのある人にとっては、山を充分味わえるパビリオンとなっている。レストランのメニューには、ナンつきカレーやモモ、エベレストビール、チャイなどがそろっている。ただダルバートがなかったのが残念。
用はないし、見るべきものも特にないのに、なぜか万博に行くたびに必ず一度は寄っていたのが、このネパール館だった。

ネパール館外観

レストランメニュー

モモ

中に立てられた寺院

ランタンヒマラヤ

「長久手日本館」(日本ゾーン)★★
山を見られるのは、「地球の部屋」。これは、360度全天球型映像システムで、頭上から足元まですべて映像となっているシアター。映像の内容は3種類あるが、私が見たのは、「森(バージョン2)」
山脈をすり抜けながら飛び回るシーンがある。ちょっと上映時間が短すぎる気がするが、あの迫力は素晴らしい。足元が動くわけではないのに、手すりにつかまっていないと転んでしまいそうな気分になる。他のバージョンで山が出てくるかは分からない。

「グローバル・ハウス」(センターゾーン)★★
オレンジホールブルーホールに分かれていて、どちらに入れるかは整理券次第。当日配布される整理券は、時間もホールも指定されている。両方見るには2回並ばなくてはならない。
私が見たのは、ブルーホール「レーザードリームシアター」。幅50m高さ10mという巨大画面でしかも映像が繊細。“21世紀初頭の人類全体の身体および生活測定”がテーマだが、山の映像も一部あり。画面が大きいし、美しいので、見応えは充分。
オレンジホールは見ていないが、「スーパーハイビジョンシアター」には、富士山の映像があるらしい。

「スイス館」(グローバル・コモン4)★★
テーマがずばり「山」で、建物外壁にも「山」とでっかく書いてあるので、かなり期待して入った。が、メインとなる展示室はあまり山と関係ない。2階に上がると、山の張りぼてがあって記念撮影ができる。山っぽいのはそこだけだった。

スイス館外観(「山」が目立つ)

これが「山」らしい

「パキスタン館」(グローバル・コモン1)★★
外壁に(たぶん)K2の写真。内部も正面に山脈がかたどられ、その内側がレストランになっている。またパキスタンのイメージスライド映像がテレビ画面で流れていて、その中に山の写真もいくつか出てくる。

パキスタン館外観

山の中がレストラン

「ニュージーランド館」(グローバル・コモン6)★★
シアターで、ニュージーランドの山の映像が結構多く流れる。観光案内的な内容だが、雪の山(どこだろう?)を登っているシーンもある。

シアターの山の映像


「ブータン館」(グローバル・コモン1)
未踏峰では世界で最も高いガンケルプンズム(7541m)など、山の写真パネルが4枚くらい。

ブータン館外観

山の写真

「中央アジア共同館(キルギス)」(グローバル・コモン1)
山の写真があって、「アルピニストの皆様、お待ちしています」とのこと。

ポベダ峰?

「ギリシア館」(グローバル・コモン3)
オリンポス山の映像がちょっとだけ。

「オーストラリア館」(グローバル・コモン6)
「データの森」の映像のなかに山も一部登場。

「長久手愛知館」(日本ゾーン)
「地球タイヘン大講演会」の中で、地球温暖化によってヨーロッパアルプスの氷河がとける、という話でアルプスの映像が少し。また、各国の子どもたちが映るシーンで、(たぶん)ネパールの子どもとバックにヒマラヤの映像。

「地球市民村」(遊びと参加ゾーン)
「アースドリーミングシアター」のなかで山の映像がちょっとだけ。


<オマケ>
山と関係ないパビリオンの私的ベスト4

サツキとメイの家
(遠くから眺めただけ)


「瀬戸日本館」(瀬戸会場)
群読 叙事詩劇「一粒の種」の迫力に圧倒される。日本語のもつ美しさ、リズムと相まって、心に突き刺さる。このためだけに瀬戸会場に足を運ぶ価値はある(もちろん「里の自然教室」も良いけど)。何度でも見たい。素晴らしい。

「三菱未来館@earth もしも月がなかったら」(企業パビリオンゾーンA)
企業パビリオンでは一番良かった。トヨタグループ館日立グループ館三井・東芝館ももちろんそれなりに楽しめたが、技術的にすごいと思えても、心に残るものがあまりなかった。これは「もしも月がなかったら」というテーマの勝利だと思う。IFXシアターの迫力も素晴らしく、月の存在の重要性がよく分かる。

「国際赤十字・赤新月館」(グローバル・コモン2)
いつ行っても1時間待ちは当たり前で、何があるのか、と思っていたが、入って納得。Mr.Childrenの「タガタメ」に合わせて流れる約7分間の映像は、並ぶだけの価値があるものだった。内容はあまりにも重く、心にのしかかる。この映像を見た感想が壁に貼ってあるが、それがまた良かった。

「韓国館」(グローバル・コモン1)
最後の「ツリーロボ」の3Dアニメーションがよい。宮崎アニメを合わせたような内容だが、それなりに感動的。3Dであるということよりも、ストーリーそのものが良くできている。ただ、13分と時間が短くて説明不足なのが残念。90分位の映画になる内容だと思う。
韓国パビリオンサイトでプレビューも見られる





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